1. HOME
  2. CAR
  3. BMW ALPINA B8 Gran Coupé – Elegance of Speed
CAR

BMW ALPINA B8 Gran Coupé – Elegance of Speed

CAR

今年3月24日にドイツ本国からオンラインでワールドプレミアされたBMWアルピナB8グランクーペが、9月29日、日本デビューを果たした。
4.4リッターV8ツインターボエンジンは、BMW M850iの530ps/750Nmから、621ps/800Nmへと大幅に高められ、“巡航” 最高速度は324km/hを誇る。
上質なレザーのインテリアに、“アルピナマジック” と称される芸術的な乗り味を秘めたエレガントな4ドアグランドツアラー。
その記念すべきファーストドライブが、自動車ライター 西川淳 氏に託された。

text: Jun Nishikawa
photo: NICOLE Automobiles

BMW ALPINA 6シリーズ

 筆者のアルピナ原体験は大学生時代にまで遡る。小学生高学年の頃にスーパーカーブームを体験した者の例に漏れず、18歳になるとすぐに免許を取って中古車に乗り始めていた。京都の大学に受かったが、とにかくクルマに乗っていたい一心で、奈良の実家からしばらく通っていたものだ。あれは東山通りと七条通が交差するあたりだったと思う。東大路を南行きで右折待ちしていると、真っ白な6シリーズが七条通から左折してきた。 

 「うわ!6や。え?ひょっとして、アルピナ?」

 白いボディに薄く金色のラインが走っていたのだ。

 傾きかける逆光の輪の中を駆け抜けた白い6シリーズのアルピナ。今となってはそれがB7なのかB9なのかもわからないし、ひょっとしたらモドキだったかもしれないけれども、6シリーズが筆者の目に迫真をもって「世界一美しいクーペ」として映った、それは最初の出来事だった。

 以来、筆者にとって6シリーズのアルピナは特別な存在となった。クーペ好きはその前からだったけれども、より一層、2ドアクーペにこだわるようになった。これまで80台くらい乗り継いできたけれどもプライベートカーで4ドアを選んだ回数は片手ほど。三十三間堂近くの交差点で見たあの光景が、筆者のクーペ好きを堅牢にしたと言っていい。

 縁あって6シリーズを二回所有した。一度目は633CSiだったけれども、二度目はなんと至宝のB7Sターボクーペだった。世界30台限定で、本稿の主役B8ジャパンプレミアでも展示された個体と同型、最も貴重なアルピナの一台だ。コレクションされていた個体を手に入れ、苦労して全開できるまでに作りあげ、ポルシェターボに負けない速さを手に入れたのちに手放した。

 アルピナにとってもB7シリーズは記念すべきモデルだと言っていい。創業と同時に始めたモータースポーツで名声を得て、メーカーからも信頼されるポジションを手に入れたアルピナが、なんとそのレース活動一切から手を引いたのが77年のこと。翌年の78年以降、その高性能ブランドという好イメージを活用したコンプリートカー製作を始め、その第一弾として発表されたのがセダンとクーペ、つまり当時の5シリーズ(E12)と6シリーズ(E24)をベースとしたB7シリーズだったのだ(E21ベースのNAモデルB6もあり)。さらにその翌年79年には、熱心なエンスージアストによって日本へも初めてB7ターボ(E21)が上陸している。そのエンスージアストこそがニコ・ローレケ氏であり、このB7ターボの並外れたパフォーマンスを体験した氏が82年に始めたビジネスが、日本市場におけるアルピナの歴史というべきニコル・オートモビルズであった。

BMW ALPINA B8 Gran Coupé

 前置きが随分と長くなってしまったが、そんなB7ターボクーペの現代版というべきモデルが、先頃上陸を果たしたBMWアルピナB8グランクーペ・アルラットである。

 ベースとなったのはG16 / 8シリーズグランクーペだ。8シリーズ(G14)ベースのいわゆる4ドアクーペだが、8シリーズクーペのイメージを継承しつつも独自のリアアクスルサイズを採用するなど、単なるロングホイールベース版でなかったことがBMWの本気を窺わせたものだった。

 アルピナの定法に則ってB8は高性能かつ上質なグラントゥーリスモへと仕立てあげられた。もとよりGTレース参戦をも目指して開発されておりスポーツカーとしての性能も一級品である。そこに “アルピナらしさ” で鍛えたのだから、その出来栄えのハイレベルさを容易に想像できることだろう。

 まずはパワートレーン周りだ。4.4リッターV8ツインターボ、否、アルピナの流儀に則って言えばビ・ターボエンジンは、BMW製N63ユニットをベースとしながらもその最高出力はB7用を大きく上回る621psにまで高められている。これはBMW M社謹製のS63ユニットベースM8用(620ps)をも上回っており、さらに上級仕様のM8コンペティション用(625ps)に迫るものだ。

 特筆すべきは最大トルク値だ。そのスペックは800Nmで、しかも2,000回転から発揮される。これにアルピナ・スウィッチ・トロニック付きの専用セット8速スポーツオートマチックとリアLSD付き4WDシステムを組み合わせることによって、0→100km/h加速はわずかに3.4秒、最高速324km/hと、スーパーカー級のパフォーマンスを誇る。ちなみにこの数値、本家M8よりも劣っているように見えるが、そこはアルピナの慎ましさというもので、おそらく加速数値は遠慮スペックであり、最高速に至っては到達地点ではなくアルピナ性能を巡航で維持できる数値だと解釈した方がいい。

 アルピナのもう一つの魅力といえば、やはり足回りのチューニングだ。特に今回注目したいのはフロントアクスルで、ハイドロマウント付きアクスルストラットに独自セットのアイバッハ社製スプリングを組み込んだ。各種ベアリングの高剛性化も図られている。そして足元には21インチのアルピナ鍛造アロイホイールにピレリによる専用の21インチタイヤがおごられた。フロントホイールの間からはブルーペイントされた強力なブレンボ製4ピストンキャリパーが顔を覗かせる。

 モデルの説明はこれくらいにしておこう。日本で発表されてまもないB8を早速借り出すことになり、新車のナラシを兼ねて都内から京都までのドライブを楽しんだので、その報告で本リポートを締めくくりたい。

伝説のB7シリーズの “次” を担うモデル

 これまで現世代のガソリン・アルピナにはB3からB5、B7とじっくり試してきたが、これら3モデルを乗り終えての感想は、あらゆる点を考慮して総合的に選ぶとしたならば、B3を超えるモデルはないというのが筆者の結論だった。それほどB3のパフォーマンスはベースモデルに比べて引き上げられており、現代のアルピナを知る上でこれ以上のモデルはないと断じてよかった。

 B8に乗った今も、その考えを変えるつもりはない。けれどもB3とはまるで違うハイエンドセグメントにおけるアルピナの存在感について、B7以上の衝撃を受けたことは間違いない。端的に言って、B5やB7よりも個人的に “惹かれる” モデルだったからだ。

 前述したように、B8用のパワートレーンはB5やB7と似通っている。少しハイスペックだが、ベースは同じだと思っていい。けれども、そのドライブフィールは最もまとまりがあり、バランスよく、時に正確無比なスポーツカーとなり、時に至極のグラントゥーリズモになるという点で、5や7に優っていた。これはベースとなった8シリーズというモデルの成り立ちに負うところも大きいけれども、それを十分に解析した上で新たな魅力を加えたアルピナの凄まじい技術力もあってこそというべきだろう。否、技力だけじゃない。BMW社との濃密な関係も大いに寄与しているに違いない。

 加速フィールの凄まじさでいえば、ややバランスを崩していたB5の方が優っていた。けれども実際にはB8の方が速い。素晴らしいエグゾーストサウンドを奏でて走るが、ドライバーの手に余るという印象は希薄だ。けれどもその速度はあっという間に危険領域に達している。この安定感はB7にもないものだ。

 ハンドリングにしてもそうである。フロントアクスルの動きは決してドライバーを脅かすほどシャープではない。けれどもその動きは精緻かつ正確で、かなりのハイスピード領域においても腕から安心して身を任せることができる。8シリーズにはそもそも前輪と両腕が一体となったような良好なハンドリングフィールが宿っているのだが、B8ではそこに上半身まで組み込まれたかのような錯覚を覚えるほどの、もう一つ上の一体感を覚えた。高速道路をクルージングしている時も、そしてワインディングロードを攻め込んでいる時でも、だ。

 さらに乗り心地の良さも特筆しておく。実を言うと筆者はミシュランタイヤを履くB7の乗り心地が好きだった。古き良き欧州車のライドフィールを残した、少しノスタルジーさえ感じさせる、けれども路面を確実に捉えて離さないという感覚が常に両腕と腰にあったのだ。B8では、それをより現代的に解釈されていると思う。少し弱めに衝撃を伝えたかと思うと、そこから自然な弾みをもって塊あるショックを感じさせ、クルマの動きに連動してそれを弱めていく。この一連の動きが驚くほど滑らかで、しかも感覚的には “速い” のだ。だから自信を持ってステアリングワークを続けることができる。そして乗り心地は、どの領域でもすこぶるつき。

 嗚呼、このライドフィールを知ってしまった身体をどうしてくれようか。なるほど伝説のB7シリーズの “次” を担うモデルとして、これ以上の存在はないだろう。 P.B.


BMW ALPINA B8 Gran Coupé Allrad
全長 5,090 mm
全幅 1,930 mm
全高 1,430 mm
ホイールベース 3,025 mm
車両重量 2,140 kg
エンジン型式 V型8気筒ツインターボ
総排気量 4,394 cc
ボア×ストローク 89.0 mm × 88.3 mm
最高出力 621 PS (457 kW) / 5,500 – 6,500 rpm
最大トルク 800 Nm / 2,000 – 5,000 rpm
トランスミッション 8速スポーツAT/SWT
駆動方式 全輪駆動
タイヤ F: 245/35 ZR21 R: 285/30 ZR21
0-100 km/h加速 3.4 s
巡航最高速度 324 km/h
車両本体価格 25,570,000 円 (税込)
問い合わせ先 アルピナコール  TEL: 0120-866-250
https://alpina.co.jp