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Aston MArtin DB12 

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今年5月、カンヌ国際映画祭のエデンロックでワールドプレミア、 その6時間後には日本のThe House of Aston Martin Aoyamaでもお披露目されたアストンマーティンDB12。 「セカンドセンチュリープラン」の下で発表された初のモデルであった先代のDB11から7年、記念すべき110周年を迎えた今年、75年にわたるDBの伝統のDNAを受け継いだスーパーツアラーとして誕生した。 6月にモナコで行われた国際試乗会から、西川淳氏が詳解する。 

text: Jun Nishikawa 
photo: Aston Martin, Max Earey 

今年、110周年を迎えた英国の老舗ブランド、アストンマーティン。記念の限定車“ヴァラー”を出すなどロードカー分野での華々しさが際立っている。なかでも彼らが力を入れているのが、原点回帰のモデル、DBシリーズである。なぜならこのシリーズこそ、彼らにとってブランドの基軸とすべきモデルであるからだ。 

英国ラグジュアリィブランドの魅力は、その長き歴史に裏打ちされた存在感=名前の響きから連想される高級感にこそある。とはいえロールスロイスにせよベントレーにせよ、そしてアストンマーティンにしても、その長い歴史を振り返ってみれば山あり谷ありで決して順風満帆ではなかった。むしろ苦境であった時代の方が長かったように思う。

アストンマーティン最初の苦難は創業者であるライオネル・マーティン 時代、つまりは創業後わずか十年あまりのタイミングで訪れている。経営 破綻からの創業者追放はよくある話。続くベルトリ時代にル・マン参戦を果たすなどレーシングヒストリーに箔が付くものの、この時代においてもまたレーシングカー開発費用は莫大で次第に業績は悪化。戦後、今からちょうど75 年前、ついに三番目のオーナーの手に渡った。

その人物の名こそデイビット・ブラウン、略してD.B.。トラクタービジネ スで、と書くとイタリアの会社を思い出すが、彼もまたそうだった。デイビットには目論見があった。アストンマーティンが計画していた新型車にもっとパワフルなエンジンを積めば新たなブランドバリューを作る ことができる、と。そこで彼は同じく市場に出ていた別の自動車会社、ラゴンダも手に入れる。なぜならそこにはかのW.O. ベントレーが在籍していたからだ。W.O.もまた自分の会社から追い出されていた。当時(いや、今も?)、才能と経営は両立しがたかったのだ。

画してW.O. 設計による高性能な6気筒エンジンを積んだモデルが誕 生する。オーナーのイニシャルに因んでそれはDBと名付けられた。それ現在へと至るブランドの高性能グランドツーリングカー(GT)イメージを確立するモデルの誕生だった。こののち、レースとロードカーの両方の分野において、アストンマーティンの名声は高まっていく。

その後、デイビットもまた 会 社を離れ、一 時はD Bと名 乗 るモ デ ルが消ていたが、フォード傘下となって復活(DB7)。さらにいくつもの苦難があって今、DB シリーズがブランドの基軸となっている。そんな DBシリーズの核心というべきFRのクーペモデ ルDB11 が 、ブランド110周年およびDBシリーズが75 周年という節目にDB12へとモデルチェンジを果たしたというわけである。

コンセプトは「スーパーツアラー」。高性能ツアラーとしての魅力はそのままに、よりスポーツカーとしての性能に磨きをかけた。注目すべきポイントはパワートレーンとシャシー&サスペンションの改良である。 

DB12 ビッグマイナーチェンジで進化した

 スタイリングはDB11 の進化版だ。とういう意味ではビッグマイナーチェンジで、DB4とDB(5もしくはDB5とDB6)の関係性の現代版だと思っていい。ただしメーカーによると8 割以上のパーツが新設計だ。

見た目に大きく違うのはフロントマスク。ヘッドライトからグリル、バンパーデザインまで一新された。そのマスクは DB11よりアグレッシブで複雑だ。張り出したリアフェンダーやフローティング状のルーフラインなど、DB11の特徴は引き継がれている。リアから眺めた印象は DB11とほとんど同じ。 

 見た目の変化という点では外装より内装の方が注目に値する。コクピット周りのデザインがフルモデルチェンジ級に変わったからだ。初めて見たときにはあまりの変身ぶりに「これがアストンマーティンなの?」、と戸惑ってしまったほど。

英国の老舗の本気というべきか。T 字型のダッシュボードは骨太かつシンプルで、優雅にさえ見える。レザーの質感で豪華さを演出しやすいデザインとした。デジタルメーターパネルは小さい長方形でモニターだらけのドイツ車と比べると慎み深い。最初はちょっと物足りなく見えるが乗っているうちに視界の多くを占めるこの部分のデザインは抑え気味の方が何かと心地よいと知った。

センター周りも激しく変わったエリアの一つ。ボタン式シフターがレバー式となり、大きめのモニターやスイッチ類とともにブリッジ型センターコンソール上に機能的に配置されている。 

 アストンマーティンのシリーズモデルについて語るとき、パワートレーン についてはライバルたちに比べて控えめな論調を取らざるを得なかった。 

オリジナル設計のV12は官能的だがパワフルとは言えなかったしAMGのV8パワートレーンを得た後もクォリティは高いがどこか熱量に欠いていた 。ところがDBX707からアストンもAMGもどうやら本気を出したようだ 。ウエットサンプのM177型 V8ツインターボは最高出力680ps・最大トルク800Nmを発揮。この高スペックによって環境性能への適合性の低い自社製 V12 搭載を見送ることもできたのだろう。 これに新たなギア比とキャリブレーションを得た ZF 製 8速ATを組み 合わせた。ESC連動型のE-Dif(f エレクトロニック・リア・デファレンシャル) もまたDB モデルとして初めて装備する。そのほかインテリジェント・アダ プティブダンパーや電動パワーステアリング、エレクトロニック・スタビリ ティ・プログラム(マルチモード ESP)の採用など、パワートレーンを含めて走りの中身もまた一新された。前後のトレッドも広げられており、見た目にも構え(スタンス)がより攻撃的になったのも印象的だ。 

先代よりも更に進化した走り

ファーストインプレッションは、“これはフルモデルチェンジ級の走り”だった。ひとことで言えばまさ に“ スーパーツアラー”という表現がしっくりくる。 動き始めた瞬間から、ステアフィー ル、アクセルの反応、微速域におけるアシの動き方、エンジンの滑らかな フィールなどなど、DB11とはまるで違う。青山通りを転がしただけでそう確信する。DB12の方が優れている、と 。

モナコを見下ろす豪奢なホテルを出発し南仏のカントリーロードを3時間ほどに渡ってホワイトのDB12をドライブしてみたが、まずは全領域に渡っての扱いやすさに嘆息した。これまでのアストンマーィンとは趣を異にする素直さだ。これまでのどこか“手こずる”印象はまるで消え失せた。そういう意味では独特なテイスト、フレーバーが失われたと思う人もいるだろう。電動パワーステアリングのフィールなどはその際たるもの。けれども思い通りにドライブできるというあたりは新型の美点の一つだ。

  ドライブモードには従来と同じ GT、スポーツ、スポーツ+に加えて新た にウェットとインディビジュアルが加わった。要するに最新メルセデスと 同じアプリケーションを手に入れたというわけだ。後者ではドライブトレーン、シャシー、ESP、トラクションコントロールをそれぞれ好みに選んでセットできる。未知のカントリーロードで舗装の具合もよくわからなかったから、まずは シャシーのみをGTモードに 、他をス ポーツに合わせて攻めてみた 。

 DB11のV8版では、たとえばメルセデスAMG E63のイメージによく似 て、パワフルだけども弾けるようなフィールに乏しいパワートレーンという 印象が強かった。12 気筒のように回せば官能的になるわけでもなく、力は 確かにあってサウンドも勇ましいけれど切れ味が悪かったのだ。ところが DB12 ではパワースペックの向上以上に、エンジンの速さを感じる。同じ型式のエンジンであるにも関わらず、だ。おそらくパワートレーン系そのもののブラッシュアップに加えて、電動パワステやシャシー制御、ボディ骨格の引き締めなどによって車体全体の反応が飛躍的に鮮やかになったことに起因するのだと思う。

  試しにシャシーをスポーツ+に入れてみれば、ノーズの曲がりが恐ろしく鋭くなった。アクセルコントロールのタイミングを遅らせても十分に曲 がっていく。アストンマーティンでコーナリングが速い!と思ったことなど、今回が初めてのことだ。

  スポーツ性能は著しく向上した。まさにスーパーツアラーだ。それでも このエレガントなスタイルを想像し、目の前に広がるモダンなコクピットを眺めると、スポーツ+モードなど無粋というもので、なんならウェットにまで落としてゆったりと風を切るクルーズ走行に徹したいと思ってしまう。そう、イタリアンGTとはそこが違う。ドライバーをいたずらに焚き付けず、 むしろ積極的に心の余裕をもたせゆったり走らせようとするクルマからの 導きにもまた、ブリティッシュ高級ブランドの真骨頂はあるのだと思う。P.B. 

Aston Martin DB12
全長 4,725 m
全幅 2,145 mm(ミラー含む) 全高 1,295 mm
ホイールベース 2,805 mm 乾燥重量 1,685 kg
エンジン型式 V 型 8 気筒ツインターボ 総排気量 3,982 cc
最高出力 680 PS(500 kW)/ 6,000 rpm 最大トルク 800 Nm / 2,750 – 6,000 rpm 
トランスミッション 8 速 AT
駆動方式 後輪駆動
タイヤ F: 275/35/ZR21 R: 325/30/ZR21
0-100 km/h 加速 3.6 s
最高速度 325 km/h
車両本体価格 29,900,000 円 問い合わせ先 アストンマーティンジャパン TEL: 03-5797-7281 https://www.astonmartin.com/en/welcome