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PORSCHE 911 S/T

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ポルシェ911の誕生60周年を記念する特別モデル911 S/T。
レースに端を発する幻の名「ST」が与えられた、3ペダルの、“ドライビングプレジャーを追求したピュアスポーツカー”。

text: Jun Nishikawa photo: PORSCHE

992型のGT3ツーリングをベースに軽量クラッチやCFRPパーツで入念に軽量化を施し、
525psを絞り出す911 GT3 RS譲りの4.0Lフラット6自然吸気エンジンを搭載。リアアクスルステアリングシステムも外された。
911誕生の1963年にちなみ世界1,963台限定、破格の値付けも話題のその特別モデルを、西川淳氏が南イタリアで試した。

text: Jun Nishikawa photo: PORSCHE

 2023年はポルシェ911イヤーだった。ブランドの生誕75周年にあたり911がデビュー60周年をむかえたからだ(もっというと911RS登場の50周年でもあったが)。
 911シリーズの還暦を記念し、その生まれ年に因んで1,963台の限定シリーズとして企画されたのが992型をベースとした911S/Tである。

 その昔、ナローの時代にSTという幻の911が存在した。ルックスこそせいぜいワイドフェンダーで幅広のタイヤを履く程度だったが、軽量化とパワーアップが施されていた。レース用のベースマシンである。けれどもSTはあくまでも社内でのニックネームであり、あくまでも911Sとして出荷されていたため幻と言われている。このSTの後を継いだモデルがご存知、ナナサンカレラことカレラRSだった。
 現代に蘇ったSTだが、S(スポーツ)でありT(ツーリング)でもあるという意味を込めて/を入れた。もっともフォードにもSTを名乗るスポーツモデルがあって、商標登録上の問題もあった。だからS/T。

軽量化と高剛性によってもたらされた軽快な走り

コンセプトは “峠道で最高に楽しい992” だ。サーキットでのラップタイムはさておき、操る楽しさのみを追求した911である。そのためにポルシェは手段を選ばなかった。911 GT3 RSと同じ525psの4リッター自然吸気のフラット6を積んだのだ。これに軽量クラッチとシングルマスフライホイールを組み合わせたクロスレシオの専用6MTを組み合わせている。

足回りに関してはダンパーやスプリングといったハードそのものはGT3と変わらないが、制御ロジックそのものを変えてきた。STコンセプトに従って、サーキットでのスタビリティよりもオンロードでのグリップ性を重視するように制御をかえた。さらには走行フィールのピュアさを追求するべくリアアクスルシステムまで省いている。
 デザインはどうか。フロントフェンダーがGT3 RS風に見える以外、見た目にGT3ツーリングパッケージのようだ。ナローの911STもまたリアスポイラーなどのエアロデバイスを持たなかった。
 最大のポイントは軽量化だろう。ボンネット、ルーフ、フロントフェンダー、ドアなどをカーボンファイバー強化樹脂(CFRP)製としたほか、ロールケージ(オプション)やリアスタビ、シアパネルなどもCFRPだ。ホイールはセンターロックのマグ。PCCBやスポーツエグゾーストの採用、さらには断熱材の削減など、とにかく軽くすることに徹した。
 その結果、現代に蘇った “ST” の車重はGT3ツーリングパッケージに比べて40kg軽い1,380kgに収まっている。もちろん992世代で最軽量の911である。

車両本体価格はなんと4,000万円オーバーだ。3,300万円のGT3 RSから巨大なウィングを取り除く費用が700万円かと思うと、ちょっと理解し難い。ことにGT3 RSの脅威の空力モンスターぶりを知った後では尚更だ。

 人馬一体な操作感

シフトストロークがGT3に比べて10mmも短い。クロスレシオとあいまってギアチェンジが楽しくて仕方なかった。なるほどすでにもう公道で最も楽しい911である。ゆっくり地内でも楽しいのだから、これなら毎日の通勤路も退屈しない。
 日本で言うところの林道レベルのワインディングロードに入った。ギアチェンジが楽しいクルマだと言うのに、2速(~120km/hくらい)もしくは3速(~165km/hくらい)の固定で走りきる。5,000回転あたりからラウドなサウンドに。決して下品ではない。心に響くメカニカルなノイズと野太いエグゾーストサウンドに気分は昂った。
 6、7,000回転あたりをキープしつつ、時おり8,000回転まで回してもエンジンに余裕がある。精一杯回っているという感じがしないから、常時その回転域にあって苦にならない。それでいて1,000回転ちょいでも何とか耐えて進む。だから急なワインディングロードを3速キープでも走ることができたのだ。
 感心したのがオートブリッピングだった。最近の “自動回転合わせ” はよくできている。それはカレラTで既に知っていた。けれどもS/Tではそのさらに上をいって上出来だ。根っからの3ペダル派には余計なお世話でしかなかった装備も、これほど上手にキメられてしまうともう手放せなくなってしまう。最後までお世話になった。

狭い道を気にすることなく速度を上げていけたのは、911の車幅、特にフロントがナローな部類に入ることに加えて、車体との一体感が凄まじく高いからだ。速度がどんどん上がっていく。一心不乱のドライブとは正にこのことで、同乗者がいることさえ完全に忘れてしまっていた。前輪はあくまで自由に動き、後輪からは常に確かなトラクションを感じる。後輪の蹴り出しはとにかく強力無比。それでいてパワーもフィールも一級というべき制動性能が足元に控えているとなれば、お隣を忘れるどころか我を忘れるのも仕方ない。

いつの間にこんなに運転が上手くなったのだろう、と自惚れの自問をする。RRの高性能な3ペダルマシンでこれほど自信を持って攻め込めたのは、兎にも角にもよくできたアシの制御のおかげだった。路面から四輪がまるで離れようとしないから、ステアリング操作だけに集中して攻め続けていける。ヘアピンでは後輪操舵を外し忘れたのかと思うほどフロントが鋭く内を向き、リアが面白いように追従する。それでいて和製4WDマシンのようにクルマに乗せられている気分にならない。3ペダルゆえ常に “自分で操っている” と思い込んでいる。それが上手くなった気分の正体というものだろう。まったくもって罪作りな911であった。

それでいて街中では快適で、高速道路では胸のすくGT性能をみせた。911の本分であるオールマイティさという点においても、これに勝るモデルはないと思う。至高の911である。
 日本市場への導入台数は少なく、新車で手に入れることができた人はごくわずかだと言われている。幸運にも購入できたオーナーには是非とも、その走りを峠道で堪能してもらいたい。ガレーヂに飾っておくことがこれほどもったいない911は他にないのだから。P.B

PORSCHE 911 S/T

全長 4,573 mm
全幅 1,852 mm
全高 1,279 mm
ホイールベース 2,457 mm
車両重量 (DIN) 1,380 kg
エンジン型式 水平対向6気筒
総排気量 3,996 cc
ボア×ストローク 102.0 mm × 81.5 mm
最高出力 525 PS (386 kW) / 8,500 rpm
最大トルク 465 Nm / 6,300 rpm
トランスミッション 6段 MT
駆動方式 後輪駆動
タイヤ F: 255/35ZR20 R: 315/30ZR21
0-100 km/h加速 3.7 s
最高速度 300 km/h
車両本体価格 41,180,000 円
問い合わせ先 ポルシェ コンタクト  TEL: 0120-846-911

https://www.porsche.com/japan/jp