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FERRARI SF90 Stradale – Silent & Fastest

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2019年の発表以来、日本上陸が強く待ち望まれていたフェラーリSF90ストラダーレが、
ようやくメディア試乗を許された。
COVIDの影響からクローズドコースでの一斉トライアルは不可となったが、限られたモータージャーナリストだけがそのシートを得た。
西川淳氏がレポートする。

text: Jun Nishikawa
photo: FERRARI JAPAN

FERRARI SF90 Stradale

 SF。最近のフェラーリを見ればほとんど100%の確率でこの文字をボディサイドに見つけることができるだろう。
 フロントフェンダーの後ろに逆三角形の盾型エンブレム(シールド)をほとんどのオーナーが装着しているからだ。これは本来、フェラーリのレーシングチームが使うエンブレムで、ロードカー用の四角いバッヂとは、そもそもの意味合いが異なっている。

 シールドには跳ね馬が描かれているのだけれど、その下に記されたSFの二文字が重要だ。これはスクーデリア・フェラーリの略で、スクーデリアとは馬の厩舎の意。転じてレーシングチームを指す。本来はロードカーに使われるエンブレムではなかった。ところが80年代に特別なロードカー、GTO(288)がシールドを装備して登場すると、一気に人気アイテムと化す。正式にオプション採用されたF355以降は必須アイテムとなり、今ではほとんどスタンダード仕様のようになって、嫌ならレスオプションをオーダーしなければいけないという事態にまでなった。筆者に言わせれば、エンツォが生きていたなら特別なモデル(288GTO以降のスペチアーレモデルなど)以外には絶対に使わせなかったと思うのだが。

 フェラーリにとってはとても重い意味を持つSFの二文字。それゆえSF90ストラダーレというネーミングにはマラネッロの気合が相当強くこめられていると言っていい。数字の90はスクーデリア・フェラーリ設立90周年を記念したものである。もちろん、特別なモデルでもあった。

 SF90ストラダーレのデビューは2019年(ちなみに同年にスパイダーもデビューしている)。遡ること90年の1929年にレーシングドライバーであり、モデナでアルファロメオ販売ディーラーも経営していたエンツォ・フェラーリがレーシングチームを立ち上げた。スクーデリアフェラーリの誕生だ。もっともそれは現代でたとえるならばフェラーリの正規ディーラーが顧客のワンメイクレース参戦を支援するような内容のものだった。戦後にエンツォがオリジナルスポーツカーの製作に乗り出し、F1選手権をその名を広めるための場所として活用し始めると、その成功によって名声は世界へと轟く。SFのエンブレムは今ではF1界になくてはならない存在になった。

 要するにフェラーリというブランドの根底にはF1を筆頭とするモータースポーツ活動がある。そのイメージを大いに利用してロードカーの販売戦略が長年にわたって構築されてきた。それゆえSF90ストラダーレという名前を持つロードカーがいかに重要なモデルであるかは容易に想像できよう。しかもそれは、いち早く電動コンポーネンツを採り入れたF1マシンに倣って、フェラーリのシリーズモデルとしては初めてプラグインハイブリッドシステム(PHEV)を採り入れている。跳ね馬のハイブリッドモデルとしては限定生産のラ フェラーリに続く第二弾でもあった。

 それにしてもこのSF90ストラダーレほど、事前に読んでおくべき資料やリリースの多いモデルはなかった。日本での初試乗を前にしてマラネッロ開発陣とオンラインミーティングまで行われた。ハイブリッドシステムを筆頭に、エンジンとトランスミッション、マルチマテリアル(主にアルミとカーボン)の軽量ボディ&シャシー、内外装のデザインとエアロダイナミクス、エネルギー管理を含んだビークルダイナミクス、そしてマンマシンインターフェースなど、全てにわたって従来の跳ね馬ロードカーからは大幅な進化を果たしていたからだ。いみじくもマラネッロ幹部がこのクルマのことを「トップ・オブ・レンジ」と表現したように、SF90ストラダーレは単なるV8ミドシップモデルのハイブリッド進化版ではないだろう。ひょっとすると伝統のV12 FR2シーターに代わるフラッグシップモデルになる可能性すらあった。

PHEVの跳ね馬

 ごく簡単に車両概要を説明しておこう。リアミドに4リットル大幅改良版V8ツインターボエンジンを積み、新開発8DCT(このモデルが初出だった)との間に電気モーターを1つ、フロントアクスルにも2つのモーターを備えて、キャビンとエンジンとの間の床下にバッテリーを積んだPHEVの跳ね馬、である。e4WDであり、ミドシップモデルの四駆化は初めて。V8エンジン単体の最高出力は780ps。これに3つの電気モーターを加えたシステム総合出力は1,000psで、跳ね馬ロードカーとしては史上最高のスペックを誇る。0→100km/h加速2.5秒、0→200km/h加速6.7秒という性能スペックも跳ね馬ロードカーの最高値で、フィオラノサーキット(フェラーリ本社に併設された専用コース)のラップタイムにおいてもラ フェラーリを上回るロードカー最速の1分19秒を記録した。そう聞かされたなら、フェラーリマニアの財布も緩んで当然というものだろう。

 筆者も実車をマラネッロで初めて見たとき、その華麗なるスタイリングもさることながら、エンジン搭載位置の低さに目を見張り、もうそれだけで “乗ってみたい!” と思ったものだった。ミッションの重心が下がり、エンジン上部やターボチャージャーまわりも大幅な設計変更を受けたため、驚異の低重心が実現したのだという。

 そろそろ試乗リポートに移ろう。果たしてSF90ストラダーレはどんなマシンだったのか。販売比率で実に半分以上を占めるというアセット・フィオラーノ仕様に試乗した。専用のカーボンリアスポイラーやルーバー付きレキサンスクリーン、足回りを備えたサーキット走行もこなす仕様である。

 ハンドル中央下に配されたスターターボタンを押すと、電子音が鳴った。時代を感じる。その勢いでまずは電動ドライブから確かめようじゃないか。フロント2個のモーターのみでFF走行するわけだ(そう、ホンダNSXと同じ)。電動走行レンジはおよそ25kmで、最高速は160km/hというから、街中にある早朝のガレージを出発して高速道路に乗るまでくらいは静かなEVとして使えそうだ。都会のスーパーカーオーナーであれば、そのメリットを理解してもらえるはず。

 電動走行のパフォーマンスは街中の流れも完璧にリードできるもので不満は全くない。ハンドルの跳ね馬マークを見つめながら無音のドライブ(正確にはエンジン音のしないドライブ)を楽しむ時代が来るなど、小さい頃からこのブランドに憧れてきた筆者としてもまたとても感慨深い。音のしないフェラーリなんて、と思われる方もいらっしゃるだろう。けれども空気を縫うようにして走る感覚を楽しめる、つまり空力の凄さを実感できる分、これはこれで面白い。滑らかに走る喜びだ。それに爆音を聞かせて走る(甚だ迷惑だ)時代はそろそろ終わろうとしている。

 ハイブリッドモードでは効率最優先でフル電動も可能となるし、内燃機関も働く。全てのモーターで回生エネルギーを回収する。この時点ではまだまだおとなしいハイブリッドスーパーカーだが、日本の公道上では十分なパフォーマンスを発揮する。全く新しい乗り物感に満ちており、何ならこのライドフィールをずっと楽しんでもいいと思ったほど。

 もっとも従来のフェラーリらしさの延長線上にある刺激的な性能を感じるためにはパフォーマンスモードを選ぶ必要がある。V8エンジンが常に働き、充電レベルを最大に保ちながら、前後モーターで回生する。エンジン単体で780ps、800Nmを誇っているから、電動化によるシステム重量増などほとんど感じさせない。これまた十二分なパフォーマンスだった。

 そしてこのクルマの真骨頂はなんと言ってもクォリファイモードである。このモードを使って初めて、電気モーターとエンジンとの総合性能、つまりは1,000馬力を楽しむことができる。あいにく公道上での解放は許されていなかったが、一瞬だけ試してみたところ、異次元の速さであった。味わったことのないシームレスで爆発的な加速、、、もっともこのモード、通常のサーキットで使ったなら10ラップくらいしかもたない。ここぞ、という時に使うドライブマネージメントもまたサーキットエリアの産物というべきか。
 SFを名乗るにふさわしいパフォーマンスをもった跳ね馬であった。


FERRARI SF90 Stradale
全長 4,710 mm
全幅 1,972 mm
全高 1,186 mm
ホイールベース 2,650 mm
車両重量 1,570 kg
エンジン型式 V型8気筒 ツインターボ
総排気量 3,990 cc
エンジン最高出力 780 cv (574 kW) / 7,500 rpm
エンジン最大トルク 800 Nm / 6,000 rpm
エレクトリックモーター最高出力 220 cv(162 kW)
システム最高出力 1,000 cv(735kW)
トランスミッション 8速 F1 gearbox
駆動方式 E4WD
タイヤ F: 255/35ZR20 R: 315/30ZR20
0-100 km/h加速 2.5 s
最高速度 340 km/h
車両本体価格 53,400,000 円~
 アセット フィオラノ パッケージ 6,314,000 円
www.ferrari.com