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Ferrari SF90 XX Stradale / Spider

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2023年6月29日、フィオラノのテストトラックでフェラーリの最新限定モデルSF90 XX ストラダーレとスパイダーが発表された。
2019年にデビューしたフェラーリ初のPHEV、SF90をベースに、“XX” の名を冠する初めてのロードカーとして生まれたSF90 XX。
サーキット専用のエクストリームカーではなく、公道を走れる究極のロードカー。
システムトータル1,030馬力のモンスター、その “XX” の意味を、西川淳氏が詳報する。

text: Jun Nishikawa
photo: FERRARI JAPAN

レーシングカーさながらのロードカー

 今年のモントレーカーウィークも盛大だった。新型コロナ禍を乗り越えて事実上のフル開催となった今年。イベントの数は10や20ではきかない。ウィーク、どころか10日間近くにわたって開催されるのだから確かに向こうの自動車熱は素晴らしい。
 サーキットあり、ギャザリングあり、ツーリングあり、そしてオークションあり。スーパーカーから醜いクルマ特集まで、ありとあらゆるイベントが開催されるわけだけれど、このスーパーウィークの要はペブルビーチ・ゴルフコースの18番ホールで催されるコンクール・デレガンスだ。戦前から90年代くらいまでの名車に加えて最新のコンセプトカーなども集うクルマのビューティコンテスト。デューセンバークやデライエといった戦前の大型ラグジュアリィモデルが主役と思われがちなのだけれど、どっこい、イベントを盛り上げているのはやはりフェラーリやポルシェといった当代の一流人気スポーツカーブランドだったりする。
 なかでもフェラーリはコンテストのなかにもスペシャルクラスを2つも設けられている他、ブランド独自で「カーサ・フェラーリ」という展示を練習ホールで行った。メインテーマは “コンペティション”。新型モデルであるSF90 XX ストラダーレ&スパイダーの北米プレミアに合わせた企画である。

 フォーミュラマシン以外のマラネッロ製レーシングカーと、レーサーインスパイアモデルがずらりと並んだ。世界で最も高価なクルマの一つ、250GTOもあれば、最新の812コンペティツィオーネもいる。マラネッロの歴史は、たとえロードカーであっても振り返ればレース色が強い。否、1960年代以前はレースカーとGTカーの区分けが曖昧だった。F1用のエンジンを積んだ夢のようなGTもあったのだ。50年代のフェラーリオーナーたちは週末ともなると愛馬を自走でサーキットまで転がし、レースに出場してまた自宅のガレージまで戻ったものだ。

 フェラーリの歴史はサーキットとともにある。マラネッロのロードカーシリーズに加わった新しいコンセプトの限定車シリーズもまたサーキット色の強いモデルである。前述したSF90 XX ストラダーレおよびスパイダーは、XXの名を冠する初めてのロードカーで、XXの二文字こそ、サーキットに近しい存在であることを示すマラネッロのキーワードだった。
 マラネッロにおいてXXとはXXプログラムのことを指している。この20年間にわたって超VIPカスタマーを対象にマラネッロはトラック専用マシンを販売、それをXXプログラムと名付けた。XXプログラムはジェントルマンドライバーによるサーキット走行を通じて数々のドライビングデータを収集し、次なる開発へと活用するという興味深い取り組みだ。フェラーリのカスタマーにとっては、言ってみればマラネッロのテストドライバーのように処遇されるわけだから、これ以上の喜びはないだろう。

“xx”史上初のロードカー

否、サーキットにおいてピュアなドライビングファンを跳ね馬で堪能できるだけでも最高の経験というものだ。しかもそのマシンはというと、エンツォフェラーリやラ フェラーリ、599といった12気筒マシンをベースにトラック専用モデルとして開発したこだわりの限定品(30台前後)ばかり。正に至福というもので、F1クリエンティやチャレンジシリーズと並んでXXプログラムに参加するオーナーはティフォージ=跳ね馬ファンの頂点というべき存在になった。
 そんなXXマシンの世界をロードカーとして再現してみようじゃないか。それが今回の新たな限定車シリーズにおけるコンセプトであり、目新しい点だ。

 今までの限定車とどう違うのか。たとえばピュアなロードカーであるV12 FR 2シーターモデルやV8ミドモデルをベースにした高性能版は、トラック志向が強いとはいえあくまでもロードカーだ。俗に “スペチアーレ” と呼ばれる頂点シリーズもまたロードカーの最高峰でしかない。XXマシンは過去にエンツォやラをベースに製作されたことからも分かるように、スーパースポーツをベースとしたトラック専用の仕立てであった。レーシングカーではないけれど、ジェントルマンドライバーが思う存分そのパフォーマンスを引き出し、サーキットで楽しめるように設計されている。そのコンセプトを、電動パワートレーンを採用し次世代の高性能を表現する最高峰スーパーカー(1,000ps)のSF90シリーズに適応し、あまつさえより多くの人に楽しんでもらえるように限定ロードカーとして販売する、というわけだ。


 限定台数はクーペ799台(欧州価格77万ユーロ)、スパイダー599台(同84万ユーロ)で、すでに完売。ちなみにあくまでもロードカーなのでXXプログラムには参加できない。これは筆者の勝手な要望だけれど、XXライトのようなSF90 XXシリーズ専用のプログラムを作ってほしいと思う。限定とはいえこれだけ数も多いと、何かしら “ 面白い趣向” が必要な気もするのだが……。コレクターには関係のない話だが。
 発表の舞台となったのはフィオラノテストトラックの脇に立つASGT、コルセ・クリエンティの本拠地だ。ここは常時、顧客のF1マシンやXXマシンが保管され、整備されている場所で、F1を除くマラネッロ製レーシングカーの開発拠点でもあり、100周年のル・マン24時間で優勝した499Pもこの場所で磨かれた。当然ながらSF90 XXシリーズにとってもそこは生まれ故郷であると言っていい。

 実際のスタイリングを間近で見れば、SF90とはまるで異なる攻撃的なオーラを放っていた。写真で見ても明らかな通り、リアに巨大な固定式リアウィングを備えているからだ。実を言うとマラネッロ製ロードカーがこれほど大きなウィングを装備するのは95年デビューのスペチアーレ、F50以来のこと。以降いかなるロードカーも大袈裟なウィングに頼ることなく、それでいて必要十二分な空力性能を実現してきた。言い換えれば今回は、それだけでは補いきれないほどの性能、特にダウンフォースを必要としたというわけだ。フロントの特徴的なSダクトや、ベースモデルの面影などまるでないロングテール仕様のリア、巨大なディフューザーなど、エアロダイナミクスは徹底的に練り込まれ、250km/h時に最大530kgものダウンフォースを得るという。

徹底敵に磨き込まれた性能

 ベースとなったSF90シリーズはすでに1,000psを誇るスーパースポーツである。しかもプラグインハイブリッド(PHEV)でそれなりに重量がある。そんなマシンの実力の全てをジェントルマンドライバーが引き出せるよう空力やシャシー制御、ブレーキを徹底的に磨き込んだ、というのがこの新型車の価値だ。スペックだけを見れば+30ps(エンジンで+17ps、モーターで+13ps)、軽量化もマイナス10kgに止まるが、そもそもSF90自体が “もうそれ以上いらない” というほどにパワーを引き上げられ、ダイエットしていたということを改めて思い知らされた。

 パワートレーンのシステム構成そのものはノーマル仕様と何ら変わらない。けれども細部に至るまで手が加えられており、たとえば8DCTギアボックスの制御ロジックや吸気プレナムチューブ及びレゾネーターの配置などはV8サウンドをより楽しめるよう再設計されている。エグゾーストサウンドもまた楽しみの一つであるらしい。
 そのほか搭載された興味深いテクノロジーは枚挙に暇がない。F1由来のパワーブーストはその効果だけでフィオラノラップタイムを0.25秒も縮めるという。ABS EVOコントローラーは制動性能を別次元にまで引き上げたと言われる。
 というわけで、そこまで言われると気になるのがSF90 XX ストラダーレのフィオラノサーキットラップタイムだ(フィオラノはフェラーリの自社テストコース)。テストドライバーのラファエル・デ・シモーネによると「とてつもなく速い」らしいが、残念ながらタイム計測は今年の後半、メディア向けテストドライブ中に予定されている。

 おそらく、このクルマの真髄や価値は今までのモデル以上に “乗ってみなきゃわからない”。そもそも1,000psのSF90ベースというだけでスペックでの想像を超越しているのだ。XXプログラムで走ることなど夢のまた夢。自動車ライターとしてはならばせめてSF90 XXのテストドライブでフィオラノサーキットを駆ける日がやってくることを願うほかない。 P.B.

Ferrari SF90 XX Stradale
全長 4,850 mm
全幅 2,014 mm
全高 1,225 mm
ホイールベース 2,650 mm
乾燥重量 1,560 kg
エンジン型式 V型8気筒 ツインターボ
総排気量 3,990 cc
エンジン最高出力 586 kW (797 cv) / 7,900 rpm
エンジン最大トルク 804 Nm / 6 250 rpm
電気モーター最高出力 171 kW (233 cv)
バッテリー容量 7.9 kWh
EV航続距離 25 km
トランスミッション 8速 F1 DCT
駆動方式 E4WD
タイヤ F: 255/35 ZR F20 R: 315/30 ZR F20
0-100 km/h加速 2.3 s
最高速度 320 km/h
https://www.ferrari.com/ja-JP