McLaren GT – Grand Touring Japan
「グランドツーリング」の言葉をそのまま車名に冠したマクラーレンGT。
ホイールベース2,675mm、たっぷりとした体躯は極上のグランドツアラーの証であり、570ℓを誇るラゲッジスペースが高い実用性を担保する。そしてマクラーレンのピュアなスポーティネスは、このGTでも見事に発揮されている。
新緑の鮮やかさを残す初夏の飛騨路、せせらぎ街道。郡上から富山までマクラーレンGTで日本の細部を駆け抜ける旅。
そんな贅沢な旅に、島下泰久氏が挑んだ。
text: Yasuhisa Shimashita
photo: McLaren Automotive
「改めてマクラーレンGTで長距離を走ってみませんか?」
マクラーレンからのそんなお誘いには、おそらく遠くないうちに訪れるであろう最新モデル、アルトゥーラの試乗の機会に先立って、変化する現行ラインナップのそれぞれの位置づけを再確認しておいてほしいという意味が込められていたに違いない。もちろん、答は「よろこんで」。難しいことは抜きにして、マクラーレンGTでのロングドライブと聞いて、断る理由なんてあるわけがない。
行きたい所もいくつもあるだけに悩みに悩んだ道のりは、今回の出発地としたマクラーレン名古屋の方のアドバイスで、郡上八幡まで高速道路で行き、そこから一般道で富山まで北上していくルートに決めた。ここは “せせらぎ街道” と名付けられた名うてのワインディングロードなのだ。
マクラーレンGTと言えば、ミッドシップレイアウトを採用しながらも車体のフロントに150ℓ、リアに420ℓという広大なラゲッジスペースを有し、インテリアにはリラックスできるスペースが確保されているといった、まさにGTとしての性能がこれまで大きくクローズアップされてきた。実際、快適性重視とされたパワートレインやシャシーも相まって、その評価は高いわけだが、今回の試乗ではそれに加えて、ピュアスポーツカーとしてのパフォーマンスをじっくり味わってみたいと考え、敢えてワインディングロードを選んだのである。
楽しい旅になりそうだ
マクラーレンGTのステアリングを握るのは久しぶり。しかも時間はたっぷりあるということで、まずはじっくりクルマと対話しながら進んでいく。改めて感心させられたのが低いスカットルのおかげで前方がよく見え、斜め後方の視界も想像以上に良いということ。それも含めてクルマが身体にぴたっとフィットする感覚が心地よく、街中をゆっくり走らせている時点で安心感が芽生え、そして昂揚感が盛り上がってくるのを感じた。これは楽しい旅になりそうだ。
名古屋高速に乗って、そのまま東海北陸道まで高速道路で北上していく。CFRP製の「モノセルⅡ-T」を使った車体は剛性感が凄まじく高く、このガッチリとした土台を得たサスペンションがきわめてスムーズに動いて路面の凹凸を滑らかにいなしていくから、乗り心地は快適そのもの。改めて、そのグランドツアラーとしての性能に感心させられる。
その好印象には長いホイールベース、そして重心の低さも貢献しているに違いない。まさに路面に張り付くように安定し、頭が揺すられることも少ないのだ。最近はSUVをはじめとする背の高いクルマの方が世の主流になっているわけだが、やはりこういうクルマには絶対的なアドバンテージがある。強いて言えば、路面の継ぎ目を通過する際のキックバックはやや大きめと感じたが、それも敢えて指摘するならば、という話だ。
V型8気筒4.0ℓツインターボエンジン
V型8気筒4.0ℓツインターボエンジンと7速SSGのマッチングも、やはり素晴らしいの一言である。100km/h巡航時にはギアは7速で、エンジン回転数は1,700~1,800rpm辺り。ここから加速しようと右足に軽く力を入れると、まずは1段ギアが落ち、もう少しだけ踏み込むと更に1段、素早くシフトダウンが行なわれる。
もちろんエンジン回転数が高まれば、それだけパワーとトルクが上乗せされていくから、より鋭い加速感が得られる。まるで右足で操るマニュアルギアボックスかのような、意のままになる感覚に思わず嬉しくなってしまった。
郡上八幡ICで一般道に降りて市内を行く。いくつか撮影をこなした後に、いよいよワインディングロードへと足を踏み入れていく。
国道472号線から国道257号線に入り、更に県道73号線までずっと川沿いをなぞって行く道が、今回目指した「せせらぎ街道」だ。訪れたのは初めてだが、深緑の中を適度に速度の乗るコーナーの連続をクリアしていくこの道は、なるほどドライビングに没頭するには絶好の舞台と感じた。信号停止も少なく、ずっとリズムをキープして行けるのも良い。
フットワークは決して鈍重になど感じさせない。
全体に舗装の状態が良くはないのが難点だが、シャシーをCOMFORTにセットすると、サスペンションがしなやかな設定に変化する。こうするとますます際立つのが、そのロードホールディングの良さ。2,675mmという長いホイールベースにも関わらず、そのフットワークは決して鈍重になど感じさせない。むしろ確かなスタビリティ、そして重心の低さが相まって、安心してペースを維持できる。
饒舌なステアリングの手応えもクルマへの信頼感を高めている。マクラーレンが各車に電動式ではなく、電動油圧式のパワーステアリングを敢えて使っているのは、まさにステアリングフィールにこだわっての選択。高速道路で感じたキックバックも、それとのトレードオフだと考えたら十分に納得できてしまった。
気分が乗ってきたのでパワートレインをSPORTモードに切り替えると、アクセル操作に対する反応が更に鋭さを増した。欲しい瞬間に即座にもたらされるトルク、完璧なタイミングのシフトダウンには惚れ惚れするほど。ブーストの立ち上がりもシャープで、クルマとの一体感が更に一段高まるのを感じる。これはもう快感と表現するしかない。
夢中で走っていたら、高山市までは気分的にはあっという間だった。ここからは気持ちをクールダウン。Bowers & Wilkinsのオーディオのスイッチを入れて、寛ぎながら更に北を目指す。途中、渋滞にも遭遇したが難なくクリアして日が暮れる前には富山に。この日の宿、リバーリトリート雅樂倶にチェックインしてこの日のドライブを終えた。
ピュアスポーツカー McLaren GT
実際にはあくまで一般道でのドライブだけに、アクセルを全開に出来るような場面はほとんど無く、持てるパフォーマンスの半分も引き出せたわけではない。しかしながら、このまさに打てば響く走りの感覚と、それを支える盤石の安心感が、走りに思い切り没頭させてくれたのだ。これがピュアスポーツカーじゃなくて何だと言うのか。まさに、そんな印象を得たのである。
これまでマクラーレンGTについては、まさにそのGTとしての資質の部分に多くのスポットライトが当たっていたように思う。しかしながら実際には、紛うかたなきマクラーレンとしての圧倒的な基本性能の高さが土台にあって、その上で優れたグランドツアラーとして仕立てられているのだと、改めて見直すことになったというのが今回の結論だ。
先日、スポーツシリーズの販売が終了したことで、今後はこのGTがラインナップに於ける入口の領域までカバーすることになった。それもあって今回は、このクルマのピュアスポーツカーの部分を再確認しようと考えたわけだが、GTは見事に期待に応えてくれた。何しろ、ここまで一気に走り通した後、できればもっと走りたいと感じていたほどなのだ。それはもちろんマクラーレンGTが、長距離で快適なのはもちろん、垂涎の走りの歓びを味わわせてくれたからである。 P.B.
McLaren GT
全長 4,685 mm
全幅 1,925 mm
全高 1,215 mm
ホイールベース 2,675 mm
車両重量 1,466 kg
エンジン型式 V型8気筒 ツインターボ
総排気量 3,994 cc
最高出力 620 PS(456 kW)/ 7,500 rpm
最大トルク 630 Nm / 5,500–6,500 rpm
トランスミッション 7速 SSG
タイヤ F: 255/35/R20 R: 295/30/R21
0-100 km/h加速 3.2 s
最高速度 326 km/h
車両本体価格 26,950,000 円(税込)
問い合わせ先
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