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BERTRAM 61 Convertible – BERTRAM ReBorn

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2018年、北米のフィッシャーマンの間にニュースが駆け巡った。
アメリカンボートの歴史を作り、数々の伝説を生み出してきた「BERTRAM YACHTS(バートラム)」が61フッターのニューモデルを発表。
名艇BERTRAM54のフィロソフィを受け継ぐ、懐かしさを感じさせるデザインに、
最新のマテリアルと建造技術をまとい、伝統のコンバーチブルが復活を遂げた。

text: Yoshinari Furuya  photo:Makoto Yamada
special thanks: SEABREEZE BOAT SERVICE   www.seabreeze.co.jp
YASUDA SHIPYARD  www.yasuda-shipyard.com

1980年代の名艇を現代のテクノロジーで解釈したNew「BERTRAM 61C」

 マイアミからバハマの首都ナッソーまで185マイル。この2都市を結ぶ過酷なオーシャンレースにC. レイモンド・ハント設計の木造30フッターで出場したリチャード・“ディック” バートラム。1960年のレースでは、後続を2時間以上離し優勝。コースレコードを樹立した。それが伝説のプロトタイプ「Moppie(モッピー)」。このMoppieをベースにグラスファイバーで建造された31フッターからBERTRAM YACHTSの伝説が始まった。

 レイハント設計のMoppieの特徴は、トランサムデッドライズ24度のディープVデザイン。ボトムには、揚力を生み、スプレーを落とし、着水の衝撃を和らげる縦方向のストレーキを配置。圧倒的なシーワージネスを手に入れたディープVハルの革命的デザインが、オフショアボートの常識を塗り替えた。そして、バートラムは、1960年に、Moppieをベースにグラスファイバー製のBERTRAM 31を建造。オフショアフィッシングの安全性を高めたグラスファイバーの量産モデルは、スポーツフィッシャーを広め、ビルフィッシュを手の届くターゲットに変えた。

 BERTRAM YACHTSが建造するグラスファイバー製のBERTRAM 31は、1961年ニューヨークで開催されたボートショーでワールドプレミアを果たすと多くのオーダーを受ける。31での成功を収めると、25フッター、さらに38フッターとラインナップと生産を増やし、工場をマイアミに移転。10年後の1971年には1,000隻目を進水する驚異的なペースで、伝説的な成功を収めたのだ。

 リチャード・バートラムはすぐに経営から離れたが、Whittaker CorporationやFerretti Groupと資本を移し、28、46、54など数々の名艇を世に送り出してきた。そして2015年、CCN(Cerri Cantieri Navali)やBAGLIETTO Shipyardsなどのスーパーヨットビルダーをグループ内に持つ、イタリアGavio Groupの一員となる。Gavio Groupは物流やエネルギー、造船などを含むグループ全体で30億ユーロ以上の売上高を誇るイタリアを代表するコングロマリット。潤沢な資金と、メガヨット造船で培ったノウハウを投入し、伝統のバートラムを復活させるプロジェクトが始まった。その記念すべき第一号艇はプロトタイプのBERTRAM 35。レイハントを象徴するオリジナルのBERTRAM 31 “Moppie” をベースにしたブランニューデザイン。最新のテクノロジーとクラシカルデザインの融合。その建造を任せられたのは、炭素繊維やインフュージョンなど高度な技術でワンオフのカスタムボートを建造してきたメイン州のLyman-Morse。その高い技術力により新時代のBERTRAM 35がついに完成した。

 BERTRAM 35 は、2016年春にワールドプレミアを果たすと数多くの受注を受ける。時を同じくして新生BERTRAMは、その故郷であるフロリダに工場を移し、本格始動を始める。新工場は、モーターヨットビルダーLAZZARA YACHTSが所有していたタンパ(フロリダ)のシップヤード。120,000スクエアフィートの広大なヤードはウォーターフロントにあり、ボート建造の知識と経験を持つ人材に恵まれたことが、タンパに移った最大の理由だったという。

 BERTRAM 35の建造やセールスは順調に進み、2018年には、ついにフライブリッジを持つ本格的なコンバーチブルBERTRAM 61が発表された。デザインは、BERTRAM 35と同じサラソタのMichael Peters Yacht Designのもの。それは、1981年にデビューし、近代BERTRAMの黄金期の名艇として知られるBERTRAM 54を現代の解釈でクラシカルにデザインした最新のスポーツフィッシャー。ビッグゲームに適した広大なコクピットと、家族向けの豪華なインテリアを備えた信頼できるオフショアボートというBERTRAM 54のコンセプトを踏襲したデザイン。BERTRAMの血統は蘇り、その復活の狼煙があげられたのだ。

オリジナルBERTRAM 54の伝統を受け継ぐ

 横浜ベイサイドマリーナのポンツーンに係留された「BERTRAM 61 Convertible」。フルツナタワーが聳え立つ迫力の姿は、最新モードを身に纏いながら、スクエアなトランサムや角ばったリアコーナーが、どこかクラシカル。アフトデッキのブルワークから300mm高くなり、高目のバウデッキへ繋がるステップドシアーラインが、80年代のオリジナルBERTRAM 54の伝統を受け継ぐレトロな美学を与えている。また、サイドウィンドウに沿って垂れ下がるイーブスのサイドデザインやメザニンシートとスクエアな大型リアウィンドウのバランスは、2009年に発表されたZucconデザインの第3世代54フッターBERTRAM 540を思い出させる。

 だが、最新のBERTRAMはクラシカルだけではない。ハルサイドのウィンドウが大きくデザインされ、キャビンを明るくするとともに、BERTRAM 61のキャラクターを創り出している。そして、サイドビューのデザインに大きな影響を与えるエアインテークはハルにはない。サイドデッキの上部側面にあり、大量のフレッシュエアーがDELTA-Tシステムを介してエンジンルームに送り込まれる。エアインテークの位置により、シンプルでモダンなデザインが生み出されている。

 全周にチークが張られ、グリップする幅広のブルワークトップに足をかけ乗船する。クラス最大級、およそ17.5平方メートルの広大なコクピット。中央に据えられたPOMPANETTEのファイティングチェアがコンパクトに見えるほどの広さを誇る。コクピットは全面チークに覆われ、グリップも肌触りもよく機能的。また、幅広のチークトップは、ベイトやタックルを仮置きする作業台にもなるので、ボトムフィッシングでも使いやすい。ブルワークの内側にもコーミングパッドの代わりにカーブを描くチークが優しい肌触りで体を支えてくれる。

 BERTRAM 61は、ビルフィッシュトーナメントを転戦するバトルシップとして、機能性やフィッシャビリティにも一切の妥協はない。トランサムのウィンドウ付きのライブウェルもその一つ。楕円形の113リットルの強制循環イケスは、ライブベイトを生かしておくことができる。ファイティングチェアの左右床下には、大型魚を保管できるフィッシュボックス。ポートサイドのフィッシュボックスには製氷機が備わり、常にキューブアイスをボックス内に送り込むことができる。メザニンシートにはデッドベイト用の冷凍庫やドリンク用の冷蔵庫。足元のフロアには収納用のボックス。メザニンシートの右側、フライブリッジに上がるラダー下のコンパートメントは、魚を調理することができる電気グリル。下にはタックルボックスが備わる。そして、メザニンシート横の壁には魚探やチャートプロッタを確認できるディスプレイ。デッキハンドも情報を共有することができる。

充実したアコモデーション

 フライブリッジも機能的で、長距離長時間を過ごすための快適性も併せ持つ。レイアウトは、センターコンソールタイプ。キャプテンは中央後方のポジションで前方と後方コクピットの状況を把握することができる。コンソールの前部には、前を向き足を延ばすことができるロングタイプの2人掛けソファ。センターコクピットの左右にはベンチシート。脱着式のバックレストをつければ、前を向き足を延ばすことができるシェーズロングになる。キャプテンとナビゲーター以外に4人が前を向いて座ることができるので、波の中長時間の移動も快適に過ごすことができる。また、左右ベンチシートのバックレストを反対に入れ替えれば、後ろ向きの座席に変わる。トーナメント中、ルアーの動きや魚影を長時間監視する後方ワッチを快適にするバックレストは、嬉しい装備だ。 

コクピットに降りエンジンルームへ。エントリーはメザニンシートの一部を跳ね上げるもの。左右に1,900馬力のCATERPILLAR C32 ACERTが2基並ぶ。中央の通路の天井高は1,960mmとキャビン並みに高く、メンテナンスもしやすい。ジェネレーターは、ONANの21.5kw×2基。お互いバックアップとなりAC電源を確保し、エンジントラブルのリスクも少ない。十分な広さを持つエンジンルームとDELTA-Tのベンチレーションシステムにより、一定の室温に保たれ、塩分も除かれたフレッシュで低温な吸気により、エンジン本来の能力を引き出すことができる。

 BERTRAM 61の魅力は、フィッシャビリティだけではない。ラグジュアリーなコンバーチブルとして、家族や仲間と快適に過ごすためのインテリアや充実したアコモデーションもBERTRAM 61の新たな特徴だ。

 ボタンひとつで開閉する自動ドアからサロンに入る。まず目に飛び込んでくるのはのは、開放感と明るさ。フロントウィンドシールドの採用で、360度全周が見渡せ、光に溢れている。サロンに入り、すぐ手前のポートサイドには5人掛けのL字ソファ。その向かい、スターボードサイドのキャビネットには、ポップアップの55インチサイズのTVとアイスメーカー。その前方には1,170mmと高めのC字のカウンターギャレー。SILESTONEのカウンタートップに、760mmのリュクスなハイスツールが2脚。ハイスツールはチークの座面が彫り込まれたエルゴノミックデザイン。

 サロン前方は250mm上がるステップフロア。カウンター内には、MIELEのオーブンレンジに、KENYONの4口コンロ、SUB-ZEROのスライド式冷凍庫と冷蔵庫がそれぞれ2つ。ポートサイドには、360度パノラマを望むことができるU字のダイネッティ。そこからバウ方向に6段下がると左側の扉がマスターステートルーム入口。扉から入ると専用のトイレとシャワーブース。さらにスターン方向に3段下がったミッドシップがフルビームを使ったマスターベッドルームだ。マスターステートルームの前方の扉を開けるとランドリー。長期の遠征で活躍する乾燥機も備わる。スターボードサイドはツインのゲストルーム。その前方には、デイヘッド。そして、バウキャビンはシングルとセミシングルのツインベッド。VIPルームとしてダブルベッドをチョイスすることもできる。

BERTRAMらしいソフトライド

 フライブリッジに上がり、センターコンソールの前でステアリングホイールを握る。東京湾独特のチョッピーな風波と本船の引き波の中で加速する。1,000rpmで10.7ノット、1,250rpmで15.5ノット。ノーズが上がるようなハンプはなく、プレーニングに入る感覚もなく加速する。1,500rpmで22.5ノット、1,750rpmで27.7ノット。ケブラーで積層強化し、インフュージョンで形成されたハルは剛性が高く軋み音も皆無。スピード感を感じない安定の走りで30ノットを超え、なお加速する。2,000rpmで33,8ノット。トップスピードは2,350rpmで41.2ノットを軽々と叩き出した。35ノット前後のスピードで左右に急旋回を試みる。61フッターのコンバーチブルとは思えない軽快で素直なマニューバを描く。高剛性の船体とトランサムデッドライズ18度のディープV船型がBERTRAMらしいソフトライドを蘇らせた。
*
 BERTRAM 61、それは懐古趣味なヴィンテージのリメイク版ではない。現在考えられる建造技術とマテリアルで建造された最新の高速バトルシップ。レイアウトやインテリアデザインも快適さを追求したモダンでリュクスな最新のエルゴノミックデザイン。だが、BERTRAM全盛時代、1980年代のBERTRAM 54をリスペクトするデザインは、どこか懐かしく、黄金期のBERTRAMを思い出させてくれる不思議な感覚。過去のBERTRAMを知るファンも、BERTRAMを全く知らないニューカマーも虜にする「BERTRAM 61 Convertible」。BERTRAMが復活を遂げ、再びコンバーチブルのベンチマークとしてスポーツフィッシャーマンをリードする。


BERTRAM 61 Convertible
全長 18.59 m
全幅 5.48 m
喫水 1.52 m
重量 39.91 ton(full load)
エンジン 2× CATERPILLAR C32 ACERT
最高出力 2× 1,900 HP
燃料タンク 6,435 L
清水タンク 1,060 L
問い合わせ先 安田造船所  TEL: 03-3790-2230
www.yasuda-shipyard.com

PerfectBOAT 2021年9月号掲載
https://www.fujisan.co.jp/product/1281681872/b/2146809/