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BMW M4 Coupe Competition – Huge Performance

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2020年6月、拡大されたキドニーグリルが話題をさらったBMW 4シリーズクーペ。
同年9月にプレミアされたM4クーペのマスクはさらに精悍さを増し、ハイパフォーマンスモデルのコンペティションが追加。
さらに現在は、四輪駆動のxDriveまでラインナップされた。
しかしながらMモデルの頂点はやはり後輪駆動、昨今めっきり少なくなった純FRスポーツの象徴でもある。
大柄になり快適性も増したBMWきってのハイパフォーマンス・スポーツ・クーペ、島下泰久氏が詳解する。

text: Yasuhisa Shimashita
photo: BMW  www.bmw.co.jp

BMW M4 Coupe Competition

 元々はツーリングカーレース用マシンのベース車両として生まれ、歴代モデルがいずれも高い人気を誇ってきたBMW M3は、先代からはセダンのM3、クーペ&カブリオレのM4へと分かれて今に至っている。BMWの基幹車種である3シリーズ、そこから派生した4シリーズをベースとするだけに、それこそポルシェ911カレラにだってひと泡吹かすことのできる高い性能を持ちながら、見た目は決して派手ではないというのがこれまでの伝統だったのだが、新しいM3、M4は大きくその殻を破ってみせた。

 そんな説明などなくても、初めて見た人はきっとこのデザインに目が釘付けとなっているに違いない。何より強いインパクトを放っているのが、そのフロントマスク。伝統のキドニーグリルは縦方向に大型化され、顔つきを凄味のあるものへと変えている。

 最初にベースとなる4シリーズ クーペに使われたこのキドニーグリルは、より多くの空気を取り入れるためのデザインだとBMWは言うのだが、まあそれはあとから付け加えた理屈だろう。実際には、最近のBMWのモデル全般がそうであるように、長く培ってきた伝統的な要素から離れて、もっと自由にデザインしたくなったに違いない。

 それが良いのか、良くないのかは分からない。きっと歴史が決めることになるはずだ。但し間違いなく言えるのは、このデザインだけでも大きな話題となっていることであり、おそらくはそれで狙いは十分果たせているのだろう。 

 デザインテイストが大きく変わっただけでなく、新型M4クーペはサイズも一気に拡大されている。全長は4,805mmで、先代より120mmも長い。より上級のM8クーペと、たった65mmしか変わらないのだ。3シリーズ、4シリーズもどんどんサイズアップしているだけに仕方の無い流れではあるし、実際にそのおかげでリアシートにも十分なスペースが確保されていたりするのだが、キュッと引き締まったコンパクトなスポーツクーペというつもりで接すると、イメージとのギャップを感じるところかもしれない。

 こういう書き方をしていたら「ああ、つまりコイツはM4クーペ、気に入っていないんだな」と思われたことだろう。そう、第一印象は正直言って、全然肯定的にはなれなかった。ところがこの新型M4クーペ、実際にステアリングを握ってみて本当に驚いた。掛け値なしに、素晴らしく完成されたスポーツカーに仕上がっていたからである。

510PS、650Nm

 試乗したのは正しくはM4クーペ コンペティション。ベースモデルの最高出力480PS、最大トルク550Nmに対して、それぞれ510PS、650Nmにまでチューンナップが図られた上に、先進の運転支援装備などを満載したモデルだ。尚、ラインナップには更にサーキット走行などを意図して軽量化を行なったM4クーペ コンペティション トラックパッケージも設定されている。

 走り出して、まず感心させられたのがパワートレインだ。先代に続いて新型もターボ過給された直列6気筒3.0ℓユニットを搭載するが、パワーを稼ぎたいがばかりに繊細なレスポンスなどBMWエンジンらしい個性、特質が薄まった感のあった先代に対して、新型のそれはアクセル操作に対して正確に、まさに欲しい分だけのトルクを返し、回転上昇に合わせて表情を変えていくという、まさに直列6気筒の旨味がしっかり味わえるエンジンに変身している。しかも、それでいて図太いほどの力感、高回転域でのパンチなど過給ユニットならではの美点もしっかり備わっているのだから嬉しくなってしまった。

 トランスミッションは先代の7速デュアルクラッチトランスミッションから、8速のトルクコンバーター式ATへと改められた。これも正確には8速Mステップトロニック Mドライブロジック付きという。

 これも一般道を走らせている限りは、終始スムーズな反応のおかげで快適な走りを楽しめる。8段もギアがあるので、高速道路の100km/h巡航時のエンジン回転数は、ほんの1,600rpm程度に過ぎないから、そのつもりが無い時には穏やかにクルージングとしゃれ込める。それでいてステアリングシフトパドルを弾けば瞬時にギアが切り替わり、いつでも臨戦態勢に入ることができるのだから、刺激の面でもこれ以上、言うことは何もない。

 このパワートレインにも唸らされたが、実はそれ以上に感心、感動したのがそのフットワークである。見た目には4シリーズ クーペと大差ないそのボディは、実は下から覗くとエンジンコンパートメントのフロア下へ強化ブレースが装着され、フロントアクスルサブフレームへはシアパネルを追加、更にリアの軽量スチール製サブフレームはブッシュを介さずボディへと直接マウントされるといった手が加えられて、徹底的な剛性アップが図られている。

 その恩恵だろう。ステアリングフィールは饒舌で、切り込んでいった際の追従性もうっとりするほど素晴らしく、わずかに舵角を与えた瞬間、間髪入れずにクルマ全体がスーッと旋回態勢に入っていく。この瞬間だけで「なんて良いクルマなんだ!」と声に出してしまったほどだ。

 電子制御LSDのアクティブMディファレンシャルも、そんなダイレクト感と安定感を高い次元で両立させているポイント。そのリニアな反応はクルマとのこの上ない一体感に繋がっていて、街中ですら快感が途切れることがない。ましてワインディングロードに足を踏み込めば、まさにクルマと一体になれるかのような極上のドライビング体験に、ボディの大きさなど忘れてしまう。

 クルマ全体を貫く剛性感は乗り心地の良さにも繋がっていて、サスペンション自体は決してソフトではないのに、快適性にはまったく不満を覚えることはない。それどころか、プリセットされたドライビングモードを、ステアリングホイール左右に用意された赤いボタンで即座に呼び出すことのできるMモードスイッチで、デフォルトの「ロード」から「スポーツ」に切り替えた方が、むしろ車体の無駄な上下動が減って、一層心地よく感じられるほどなのだ。軽量化されたサスペンションアーム、電子制御式のアダプティブMサスペンションも、この上質な走りの立役者なのだろう。

会心の出来栄え

 歴代M3、M4が人気を得ていくのに従って、その市場を奪おうとするいくつものライバルたちが参入して競争はエスカレートし、その中でM3、M4は “らしさ” を失ってきてしまっている。正直、これまではそんな危惧を抱いていたのだが、新型M4クーペの走りはすべての不安を吹き飛ばす会心の出来栄えだったと断言できる。

 しかも新型M4クーペは、最高出力480PSのベースモデルであれば6速MTも選択できるし、また左ハンドルも設定されているのだ。今やプレミアムブランドでも、こうした選択の自由度が狭まってきているだけに、これは嬉しい。

 運転が何より好きならば、やはり選ぶべきはMTだろう。そんな結論にしようかとも思ったのだが、スペックをじっくり読み込んでいくと、実はこのM4クーペ コンペティションならば最新の運転支援装備であるドライビング・アシスト・プロフェッショナルが備わっており、ストップ&ゴー機能付きのアダプティブ・クルーズ・コントロール、車線中央維持アシスト、そして高速道路渋滞時ハンズ・オフ・アシストまで付いてくるのだった。そう、60km/h以下での渋滞走行時に、ステアリングから手を離すことを容認してくれるのだ。

 朝からサーキットに行ってスポーツ走行を、あるいはマリーナまで飛ばして海に出て楽しんだあとの帰りの渋滞も、これなら臆する必要は無くなる。きっともっと積極的に出掛けたくなるに違いない。そう考えればトータルではコンペティションのATという選択肢が、もっともクルマを、そしてそれがあるライフスタイルをエンジョイさせてくれるではないかという気もしてくる。

 そんなことを夢想していたら、なんと続けてソフトトップオープン4シーターのM4カブリオレや、ハイパフォーマンスを一層安心して楽しめるフルタイム4WDモデルまで登場して、そのラインナップが一気に拡大された。しかも4ドアが良ければM3だってあるのだ。いやはや、この選択は非常に悩ましい。

 とはいえ、悩ましく思えるのはそもそもこのクルマ自体が高い実力を有し、欲しいと思わせる魅力を備えているからに他ならない。どれを選ぶかはじっくり悩んでいただくとして、とにかく注目すべきハイパフォーマンスカーが1台増えたことは確かである。

 おそらく実際に乗ってその走りを気に入ったら、このルックスだってアリだと思うようになる。実はまさに、私自身がそうであるように……。


BMW M4 Coupe Competition
全長 4,805 mm
全幅 1,885 mm
全高 1,395 mm
ホイールベース 2,855 mm
車両重量 1,730 kg
エンジン型式 直列6気筒DOHCツインターボ
総排気量 2,992 cc
ボア×ストローク 84.0 mm × 90.0 mm
最高出力 510 PS(375 kW)/ 6,250 rpm
最大トルク 650 Nm / 2,750-5,500 rpm
トランスミッション 8速 Mステップトロニック(Drivelogic付)
駆動方式 後輪駆動
タイヤ F: 275/35R19 R: 285/30R20
0-100 km/h加速 3.9 s
最高速度 290 km/h(Mドライバーズパッケージ)
車両本体価格 13,480,000 円
問い合わせ先 BMWカスタマー・インタラクション・センター  TEL: 0120-269-437
www.bmw.co.jp

PerfectBOAT 2021年11月号掲載
https://www.fujisan.co.jp/product/1281681872/b/2169292/