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Sense of Italy 〜 From 1870, History of CRANCHI YACHTS

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眼前にアルプスをいただくイタリア北部、美しい湖が点在する湖水地方。このエリアを代表する湖の一つがコモ湖だ。古くから王侯貴族が愛した湖であり、湖畔には瀟洒な邸宅、ヴィラが建ち並ぶ。美しい緑、透き通った湖水、石畳の連なる街並み、「まるで宝石のような…」と形容されるヨーロッパ屈指のリゾート。1870年、「CRANCHI YACHTS(クランキ)」はこの地に誕生した。

text: Atsushi Nomura
photo: CANTIERE NAUTICO CRANCHI
www.cranchi.com

Made in Italyの誇り。イタリアの至宝「クランキ」、150年の歩み

 コモ湖のほぼ中央に位置するBellagio(ベッラージオ)に今から150年以上前に誕生したボートビルダーが、今やイタリアを、そしてヨーロッパを代表するボートビルダーに成長した「CRANCHI YACHTS(クランキ)」である。その始まりは1866年、Giovanni Cranchi(ジョバンニ・クランキ)が、Bellagio郊外、San Giovanni(サン・ジョバンニ)に小さな造船工房を設立したことに始まる。19世紀のコモ湖は、街やヴィラを結ぶ舟運が発達しており、数多くのゴンドラ、商船、漁船などが湖を行き交っていた。そういった船を造るための造船工房としてスタート、1870年には会社として登記し、ここからCRANCHI YACHTSの公式な歴史が始まる。

Giovanni Cranchi II(ジョバンニ・クランキII)

2021 CRANCHI E26 Rider

 大きな画期となったのは創業者Giovanniの孫にあたる同名のGiovanni Cranchi II(ジョバンニ・クランキII)の代だ。1932年、ヤードをコモ湖の南西にあるBrienno(ブリエンノ)に移し、事業を拡大する。プレジャーユースのボートの生産もこの頃からスタートした。しかし第2次世界大戦により、造船所は操業を停止。Giovanni自身も一時的にイタリアを離れることになる。戦後、1952年になって息子のAldo Cranchi(アルド・クランキ)たちと共に操業を再開する。その後、Aldoが中心となり、生産能力を拡大。1960年代、Briennoの造船所では数多くのウッドゥンボートが建造された。

 そして会社の登記からちょうど100年後の1970年、この年は、CRANCHI YACHTSにとって次の大きな変革の年として歴史に刻まれている。まずは、現在もCranchiファミリーの経営パートナーであるTullio Monzino(トゥリオ・モンズィーノ)を迎えたこと。そして現在のCRANCHI YACHTSの本拠地、コモ湖の北にあるPiantedo(ピアンテード)にファクトリーを移転させた年でもある。この移転と同時に、従来の木造船の建造からグラスファイバーボートの建造へと移行したことが、後のさらなるCRANCHI YACHTSの発展を決定づけた。

最初のグラスファイバーボートのプロジェクトは「Pilotina 4.85」。当初、Tullioは、Aldoがこの新しいプロジェクトに注力することに懐疑的だった。しかしAldoは少なくとも年間40艇は売れると彼に約束する。結果、Aldoの見込みは過小評価だった。翌年以降、毎シーズン150艇以上を販売、7年間で実に合計1,000艇以上の販売実績を誇るに至る。この成功からグラスファイバーボート建造への道筋は拡がり、ウッドゥンボート以来の建造技術を応用した同社のボート製造は高い評価を受けることになる。

①1900年、レッコ湖畔のマーケット。レッコはコモ湖の南東の支流の端にある大きな町。土曜日のマーケットに向けた荷物がゴンドラに積まれている。②1928年、創業者ジョバンニの孫にあたるジョバンニ・クランキII。現在のアルド・クランキの父である。③1929年、スイス、グリソン州サンモリッツ湖にて。右端がジョバンニ・クランキII。④1930年代、ベッラージオの対岸にあたるコモ湖西岸のカデナッビア造船所。⑤1920年代後半から1930年代初頭のカデナッビア造船所にて。⑥1920年代後半から1930年代初頭、コモ湖西岸メナッジョのヴィラで英国人クライアントのために建造された最初のエンジン付きボート。⑦1932年、カデナッビア造船所で木造船の建造にあたるジョバンニ・クランキII。⑧1940年頃、ブリエンノ造船所からリボルノの海軍アカデミーへ供給されるディンギー。

 年々工場を拡大していったCRANCHI YACHTSは、1997年にアドリア海に面したSan Giorgio di Nogaro(サン・ジョルジョ・ディ・ノガーロ)にマリンテストセンターをオープン。21世紀に入ってからは世界的なプレジャーボートの大型化のトレンドに乗り、同社のラインナップも年々大きくなる。2006年にCRANCHI YACHTSは株式会社化。2009年にはPiantedoの本社工場から数キロ西に離れたRogolo(ローゴロ)に「Seventy Plant 4」という大型艇工場を新設。この工場は、最大25mのスーパーヨットの建造能力を有している。現在、本社工場と大型艇工場の生産システムは、どちらも高度に自動化されており、湿度・温度のコントロールまで含めて常に最高の状態でボート建造にあたれるようになっている。その他、Friuli-Venezia Giulia(フリウリ・ベネチア・ジュリア)とティレニア海のSardegna(サルデーニャ)にサービスセンターをオープン。現在は世界70以上の国々に販売実績があり、50以上の国々にディーラーネットワークを有するに至る。そして現在も創業4代目にあたる Aldo Cranchiが社を率い、5世代目と6世代目が会社に勤務しているという。いかにもイタリアらしい、誇り高きボートビルダーである。

①1961年、木造ディンギーに取り組むアルド・クランキ。創業4代目にあたる彼は情熱的なエンジニアであり、高齢となった現在もファミリーの長としてクランキを率いる。②1954年のブリエンノ造船所。第二次世界大戦の終結から7年後の1952年、ジョバンニ・クランキIIは息子のアルドと共に造船所を再開した。③1954年、当時の木造船技術で10メートルの「キャビンゴッツォ」を発売。④1972年にデビューした最初のグラスファイバー製ボート「パイロット4.85」。⑤1999年、コモ湖のカルロッタ邸前にたたずむフラッグシップ「メディテラーニ50オープン」。豪華な装備と高速性を備えていた。⑥新設されたピアンテード造船所にて。1979年、ブリエンノの前を航行する「クリッパーキャビン」。

イタリア人工業デザイナーChristian Grande(クリスチャン・グランデ)

 そしてCRANCHI YACHTSの近年の躍進で忘れてはならないのが、イタリア人工業デザイナーChristian Grande(クリスチャン・グランデ)の存在だ。自動車デザイン、ボートデザインで数々の国際的なアワードを受賞してきたChristianは、世界的なボートデザイナーの一人として知られている。2015年にデビューした「E52F Evoluzione」と「E52S Evoluzione」に始まるCRANCHI最新モデルの多くは、ハル設計をAldo Cranchiが担当、デザイン全般はCentro Studi Ricerche Cranchiが担い、そしてアートディレクションをChristian Grandeが行うというコラボレーションによって生み出された。

最も苦い果「CRANCHIとのコラボレーションは非常に価値あるものです。ヨットデザインは論理的で、デザインは常に機能性の次にあります。クランキのチームはいつも私を支え、私の思考や描いた線から、妥協のない絶対的なスタイルを構築することを可能にしてくれるのです」物でさえ糖分を含んでいます。

Christian Grande
Owner, Christian Grande designworks

最新のラインナップ

 Christianのアートディレクションによる最新のラインナップは、最新鋭のデザインを追求することよりも、クラシカルスタイルとモダンスタイルの融合とも言うべき、独特のスタイルが確立されている。それは150周年にあたる2020年にデビューした78フィートの新たなフラッグシップ「CRANCHI 78 Settantotto」であろうと、2018年にデビューした26フィートのラグジュアリーデイテンダー「E26 Classic」や「E26 Rider」であっても変わりがない。

Settantotto 78 

全長:25.15 m  全幅:5.76 m 
デザイン:Centro Studi Ricerche Cranchi アートディレクション:Christian Grande 
エンジン:3× VOLVO PENTA D13 IPS 1350 最高出力:3× 1,000 HP

 そして去る2021年6月14日、満を持して発表されたニューモデルがChristian Grandeがチーフデザイナーとして関わった「CRANCHI A46 Luxury Tender」である。昨年来のCOVID-19の影響により今年も軒並みボートショーがキャンセルされているため、ストリーミング配信によるオンラインでのプレミア発表となった。46フィートのウォークアラウンドデッキに、最近ヨーロッパのトレンドとなっているサンデッキエリアが左右に拡がるエクストラデッキを持ち、ロアにはフルビームのダブルキャビンと、ダイネッティからアレンジ可能なキングサイズベッドを擁する。パワートレインはVOLVO PENTA D6-IPS650(480馬力)を2基掛け、パフォーマンスデータによればトップスピードは34~35ノットをマークするという。

 さらに2021年は、もう一つの大きなプロジェクトが進行中だ。やはりChristian Grandeがデザインに携わったエレガントな「CRANCHI 67 Sessantasette」である。イタリア語で67を意味する〈sessantasette〉を艇名に冠した67フィートの堂々たるフライブリッジモデル。こちらはシーズン後半のプレミアが予告されている。

 今年、151年目の新たな歴史へと踏み出したCRANCHI YACHTS。イタリアンデザイン、イタリアンメイドに拘り、カッティングエッジなボートデザインを最先端の工場設備と工法で実現し、地中海に新たなトレンドを生み出す。世界のボーティングシーンを牽引するCRANCHI YACHTS、これからの動向にも大いに注目したい。

CRANCHI YACHTS 日本総代理店
■リビエラリゾート
 リビエラ逗子マリーナ
 リビエラシーボニアマリーナ
 TEL: 0467-24-1000
 www.riviera.co.jp/marina/sales/

CRANCHI YACHTS YouTubeチェンネルhttps://www.youtube.com/channel/UCUwv9WgZDsLRYHf7Twtw2zA/videos

PerfectBOAT 2021年8月号掲載
https://www.fujisan.co.jp/product/1281681872/b/2133780/