SAXDOR 205
2020年に衝撃的なワールドデビューを果たした「SAXDOR 200(サックスドール200)」。
その同じ船体に、コンセプトの違うアッパーデッキを持つ「SAXDOR 205」。
205は、SAXDOR 200の進化版とみられることもあるが、決してモデルチェンジではない。
そして200は、2つの個性あるバージョンの1つとして205とともに今もラインナップに残されている。
SAXDORの歴史の1ページを開いた記念モデルというだけでなく、進化も続けている。
この早くもレジェンドと謳われる200と新しい205。2艇を比較し、SAXDOR 205の魅力を紐解いていく。
text: Yoshinari Furuya photo: Kai Yukawa
special thanks: AD CUSTOM YACHT www.adcustomyacht.com
115馬力で34ノット、優れた直進性と、衝撃的と言えるほどの凌波性をもつ脅威の20フッター
考え尽くされた機能性と居住性、見事な造作、世界を魅了するSakari Mattilaの自信作
「SAXDOR(サックスドール)」が設立された翌年の2020年3月、未来を占うファーストモデルとして「SAXDOR 200」が発表された。SAXDORを設立したのは、フィンランドボートを北欧からグローバルに広げたデザイナー&プロデューサーSakari Mattila氏。1994年のAQUADORを皮切りに、2003年PARAGON、2008年XO BOATSと、3つのボートビルダーを相次いで立ち上げ、2012年にはそれぞれの名前を組み合わせたAXOPARを設立。4ビルダー全てでオリジナルデザインとブランド戦略を担当し、国際的なアワードを受賞するモデルを次々と建造。それぞれを成功に導いた革命児だ。そして2018年にAXOPARを離れ、翌2019年新たに設立したビルダーがSAXDORなのだ。
ファーストネームSakariのS、AXOPARからAX、ボートビルディングのルーツAQUADORからDOR。SAXDORは、3つの名前から組み合わされた造語。Sakari Mattilaの立ち上げるネクストビルダーとして発表前から注目を集めていた。その天才Sakari Mattilaが、自信を持って最初に投入したモデルがSAXDOR 200。20フィートのスモールセンターコンソーラーという彼らしいチャレンジだった。
ファミリーユースに応える実用性
一般的なボートブランド戦略で言えば、最初に発表するモデルは、ブランドを象徴するインパクトのあるデザインで建造されたフラッグシップモデルを投入することが多い。後に、同じデザインコンセプトの比較的購入しやすいサイズにダウンサイジングし、販売網を拡大する。ラインナップを充実させ、ブランドが浸透した後に、さらに大型モデルへと移行するビルダーは記憶にある。だがSakari Mattilaは、スペースの制約があり、イノベーティブなデザインが難しいとされる小型モデルを投入する異端児。それは彼の、SAXDOR 200への自信の表れとも取れる。事実、SAXDOR 200は「Best of Boats Award 2020」、「European Powerboat of the Year 2021」の2大アワードを受賞し、世界にインパクトを与えたことは記憶に新しい。その後さらに、270シリーズ、320シリーズをラインナップに加え、2019年の設立からたった3年で1,000隻を超えるSAXDORを進水。2022年には、ポーランドの造船集積地域の一つとして知られるスヴァウキ経済特区エルクに最新の工場を新設。フィンランドとポーランド合わせて400名を超えるスタッフを雇用し、生産能力を大幅に加速させている。
数々のビルダーを成功に導いたSakari Mattilaが仕掛けるSAXDOR。そのカッティングエッジなルックスとともに、衝撃的なパフォーマンスで評価が高い200と205。そのボトムデザインを担当するのは、1983年設立のJ&J Design。GREENLINEやFJORD、MONTE CARLO YACHTSなど、個性的かつ前衛的なデザインを手掛けるスロベニアのデザインオフィス。これまで350以上のプロジェクトに携わり、ボートデザインに革命を起こし、120以上のアワードを受賞。驚異的な実績を残し、常に新しいトレンドを生み出している。
SAXDOR 205のトランサムステップから乗船する。200との違いは、オープンデッキスタイルに450mmの高さのラグジュアリーなトランサムボードとトランサムゲートが装備されているところ。素材は、クリアの強化ガラス。その上部に、ハンドレールを兼ねたチークのトリム。これは、フィンランドをはじめ北欧のマンションやレジデンスでよく見る、風雪を防ぎ、光を取り入れるモダンデザイン。それを、コンパクトなボートに搭載。デッキを少しでも広く取るため、エンジンに近い場所に設置した。当然、そのままではチルトアップができないので、中央のガラスは取り外せるよう工夫がされている。もちろん、左右はゲートとして開閉することができる。ポートサイドにはシャワーがインサートされ、トランサムには、スイミングラダーも備わり、ファミリーユースに求められる装備と安全性が満たされている。
アフトデッキはワイドな1,800mm幅。トランサムからセンターコクピットの間には、4つの独立したボルスターシートが並ぶ「4セパレートシート」仕様。前方の2つは、ヘルムシートとナビゲーターシート。後方のパッセンジャーシートを合わせた4つのボルスターシートはスライドし、360度回転させることができる。前後座席の間には、3連のカップホルダー。これはバタフライテーブルのベースでもある。左右両側を展開すれば940mm×390mmのワイドなテーブルが現れる。前部2つのシートを回転させ、向かい合わせのダイニングテーブルとして使うのもいいし、トーイングスポーツの時には、後部のシートを後方に向けるのもいい。シートを横に向ければ、フィッシングにも最適だ。
200との違いはバウデッキとセンターコンソール。200は、小さめのセンターコンソールとバウデッキ全体を使ったサンベッドが特徴。サンベッドは、ダンパーのサポートでフロアごと大きく持ち上がる。エンクロージャーで周りを囲み、クッションを敷けば、自動車に搭載するルーフテントのような2人分の宿泊スペースを確保することができる。また、テント内の床下のストレージには、トイレを設置することもできる。
それに対して205の特徴は、バウデッキも含め段差のないワンフロアであるところ。移動や作業がしやすく、アンカーリングやフィッシングに最適。そして、205のセンターコンソールにはベンチソファが付く。ソファごとハッチを持ち上げると、内部には幅900mm、奥行き1170mmのスペース。20フィートのセンターコンソールでは珍しい個室トイレ。便座上のヘッドクリアランスは940mmと十分な高さが確保され、快適に使うことができる。
違いは他にもある、フロントウィンドシールドとサイドウィンドウ。200は上下する小型のウィンドシールド。それに対して205は、高さのある3分割のウィンドウ。左右のウィンドウは、横に広げることができるので、広範囲に風や飛沫から守ることができる。そして205では、200に装備されていた左右ブルワーク上のウィンドウは無くなった。安心感を求める人には200が良いが、開放感や機動性、フィッシャビリティを重視する人には、205の直線的なブルワークがお勧めだ。
20フィートならではのハンドリング
ポートサイドのヘルムシートに体を預け、スロットルを前に倒す。パワートレインは、シングルのMERCURY 115馬力。静かに回転を上げ、トルクフルに加速する。2,000rpmで7.6ノット、3,000rpmで11.8ノット。4,000rpmでは21.8ノット。5,000rpmでは30.8ノット。トップスピードは5,800rpmで34.1ノットを記録。20フッターとは思えない直進性と、波で飛び出さない凌波性は衝撃的でさえある。
クルージングスピードの30ノットで急旋回に入る。不自然なバンクやピッチングもない。ヘルムを中心に回頭し、アンダーステアもオーバーステアも感じることのない素直なハンドリング。J&J Design設計のボトムデザインは、デッドライズ20°の細身でシャープなディープVハルにツインのステップ。ソフトな乗り心地と直進安定性、グリップ力のある乗り味で軽快にマニューバを描く。船体重量はエンジンやオプションがなければ800kg以下。スタンダードの100馬力エンジンを搭載し、燃料を満タンにした状態でもおよそ1,000kg。また、バキュームインフューズドGRPで成形された船体は、軽いだけでなく高剛性。175馬力まで搭載を可能とし、トップスピードは45ノットに到達するという。強力なパフォーマンスと優れた燃費。そして「楽しい」と感じさせるファンライドこそ、SAXDOR 205が世界を魅了する理由なのだ。P.B.
SAXDOR 205
全長 5.94 m (エンジン除く)
全幅 2.29 m
喫水 0.72 m
エンジン MERCURY FourStroke Pro XS 115
最高出力 115 HP
燃料タンク 100 L
問い合わせ先 アドカスタムヨット TEL: 0845-25-1188
https://www.adcustomyacht.com