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SASGA Menorquín 34 HT – To My Hidden Caves

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クラシックで穏やかなたたずまい。
舫われている桟橋がどこであろうと、あたかもその場所が地中海の小さな漁村や、
あるいは風光明媚な海岸のマリーナに置かれているような錯覚を起こさせ、なんともメルヘンチックな気分を醸し出している。
スペインは地中海バレアレス諸島、メノルカ島生まれの「SASGA Menorquín 34(サスガ メノルキン34)」。
そのレトロモダンな雰囲気に興味は尽きない。

text: Kenji Yamazaki photo: Makoto Yamada
special thanks: OKAZAKI YACHTS http://okazaki.yachts.co.jp

地中海スペイン領 バレアレス諸島 メノルカ島生まれ

 あまりにも透明度が高く、水面にあるフネがまるで中空に浮かんでいるような錯覚をもたらす海を持つ島、そんなリゾート島として隠れた人気を持つメノルカ島。南西15マイルにはバレアレス諸島の中心マヨルカ島がある。マヨルカ島、イビザ島に隠れて、メノルカ島はエピキュリアンたちが愛する歴史が織り成す文化と自然が生きる鮮やかな島なのだ。その島で生まれた10mに満たない垂直ステムとシングルマストの伝統的な小型漁船Llautsからインスパイアを受けて誕生したのが「Menorquín(メノルキン)」だ。

 世界でも決してメジャーではない、いわばまるで隠れたビンテージワインを探すように、個性的で斬新なボートをその卓越した審美眼で日本に紹介してくれる「オカザキヨット」の仕掛けだ。その仕掛けにはまってみたい。

 プレジャーボートとしての誕生は新しい。1978年、Juan Sastre Bernetが ”Conquistador(探検家)” という名の8mのセーリングヨットを建造し、造船所ASTILLEROS MENORCAを設立したことに始まる。1997年、息子のJosé Luis Sastre Gardésが全てをマネージメントし、「MENORQUÍN YACHTS」ブランドを誕生させた。12mのMenorquin 42が好評を得ると国際的なマーケットへ進出。直立ステムの半滑走型トローラーのクラシックなラインとバキュームインフュージョン高剛性ハルの、伝統とモダンが融合したレトロな趣が話題を集めていく。

 2001年、16m~18mの新たなステージにブランドを広げファミリー企業からの飛躍がはじまる。2010年にはSastre Gardésの頭文字を組み合わせた「SASGA YACHTS(サスガ)」へと改称し、新たにグローバル企業としての展開が始まる。2012年、セカンドステージとしてワールドオーシャン対応のフライブリッジモデルとハードトップモデルのMenorquín 54をローンチ。そして2016年、最初の「Menorquín 34 HT」が朗報をもたらした。「Best Boat of Croatia 2016」に選ばれたのだ。

 2017年にはフラッグシップのMenorquín 68をデビューさせマーケットの拡大を図っていく。ドイツ、クロアチア、英国、フランス、デンマーク、アメリカそして日本へと。2019年はMenorquín 42 FBが「MBY Motor Boat Awards 2019」を獲得。現在は6艇種をカタログモデルとしている。ハードトップシリーズとしてMenorquín 34HT、42HT、54HT、フライブリッジシリーズとしてMenorquín 42FB、54FB、68FBが用意される。

 デザイナーはBarracuda Yacht DesignのオーナーでマネージングディレクターのInigo Toledo。アメリカズカップスペインチーム艇のデザインや各種レース艇、メガヨットデザインなどでスペインを代表するナーバルアーキテクトだ。全てのMenorquínを彼が手掛けている。「伝統を生かしながら斬新かつ確実な最新テクノロジーを採用し、海への情熱を実現させていく」と。

 SASGA Menorquínの総監督、ジェネラルマネージャーを務めるJosé Luis Sastre Gardésは、「更なる進化を絶えず求めていきます。未来へ痕跡を残せるフネを作ることです。新たな試みも始めています。期待してください。奇をてらうことなどなく、カスタマーコンシャスな心地よいフネを作ります。この先も楽しみにしてください」と語る。

直立ステム、ふくよかなハル、緩やかに弦を描き反り上がるシアーライン

 横浜ベイサイドマリーナのバースに舫われている、ほのぼのとしたカタチのフネがいる。直立ステム、ウッドハルを思わせるふくよかなハル形状。バウトップから緩やかに弦を描き反り上がるシアーライン。アフトコクピットの始まりでは更に切り込まれ、ガンネルは楕円を描いてコクピットを形作る。そのガンネルにはトップにチークが張りこめられ、アフトデッキのパルピットグリップもチークだ。スターボードにガンネルドアが用意されアフトコクピットからバウ迄ウォークアラウンドデッキが展開する。たっぷりとしたバウボンネット、クラシカルな2枚のフロントウィンドウ、バランスの取れた2枚のサイドウィンドウ、クラシックなフォルム。庇を持ち両サイドはもちろんアフトコクピットエンドまで広がり伸び切るルーフ。ルーフトップのウッドステイと、彼らが「鼻」と呼ぶ舟首に位置するシンボリックなチーク材のビットがレトロなキャラクターを主張している。

 キャビン入口のドアは縦長ガラスの入ったクラシカルな4枚のアフリカンチーク製ドア、コクピットルーフの内側にもチークが張られている。サロンに入る。ルーミーな室内はホワイトと淡いベージュの色調が広がり穏やかな空間が演出されている。ポートサイドに2バーナーとシンクに冷蔵庫を持つギャレーが展開し、スターボードにはコの字ソファとテーブル、ギャレー前方にはヘルムステーションが用意される。

 ヘルムシートに座る。ウッドステアリングと無垢のホワイトオークのコンソールボックスが柔らかな光を浴びて心地よい趣を漂わせてくる。頭上には左右にサンルーフを兼ねるハッチがある。ヘルムのサイドウィンドウはスライド式のオープンウィンドウ。コンソールのブラックパネル正面にRAYMARINEのGPSモニター、その両サイドにVOLVO PENTA D4-270×2基のアナログメーターが並ぶ。ステアリングポストのポートサイドデスクにエンジンコントローラー、その右にオートパイロット、ZIP WAKEのオートフラップ、ウィンドウサイドにバウスラスタースティックが位置している。整然としたコンソールレイアウトがエンジンを掛けて動かしたい衝動を湧き立てる。

 ロアデッキを見る。コンパニオンウェイを降りるとバウにキングサイズベッドのステートルーム、抗菌効果のあるシダー材のワードローブを備え、ポートサイドにパウダールーム、スターボードに回るとミジップに2ベッドのステートルームが用意される。Vドライブ採用でスペースユーティリティを生かしたゆとりのステートルームが確保できている。インテリアの設えはウッディな趣。フローリングはチーク、ファニチャーはホワイトオークと、明るく温もりを感じさせ穏やかな空間が演出されている。4kwのジェネレーターを搭載し、サロンエリアとロアデッキへのエアコンディショニングのためにエアコンユニットは2基用意される。間違いなく快適なマリタイムを約束してくれる。

愛らしさと雄々しさが同居した誰にも似ていない独特のフネ「Menorquín」に惚れる

 小春日和の横浜ベイサイドマリーナ沖。晴天、気温17℃、北東風3m/s。うねり0.5m。搭載燃料50%、清水100%、人員2名。
 静かにD4 -270エンジン2基が息吹いている。マリーナ内デッドスロー600rpm-4.9ノット。マリーナを出航する。ヘディングは観音崎。煌めく海がある。全長10.53m、全幅3.80m、ヘルムシートからの視界は極めて良好。フロントウィンドウのセンターピラーもクラシカルな趣の範囲。

 1,000rpm-6.3ノット、1,250rpm-7.5ノット、1,500rpm-9.0ノット、1,800rpm-10.5ノット、2,000rpm-12.5ノット、2,300rpm-15.0ノット。2,600rpm-19.0ノット、2,800rpm-21.3ノット。半滑走型船型というものの、なにひとつもどかしさを感じないままスムーズに速度が上がり、気が付くとビルダーが表示するクルージング速度12ノット~19ノットを超えている。このエンジンの最高回転域は3,500rpm。まだまだ余裕の回転域にあるのに。

 2,800rpmでステアリングを切りこみ回頭を試みる。軽いヒールを伴いながら素直にトレースを始める。S字走行を試みる。切り返し時も常に安定方向へのマニューバを示す。船底にはキールを持ち、ローリングを抑える効果を感じさせてくる。ZIP WAKEのオートフラップはオフ。オン状態では更に安定方向へ姿勢を保つが大きな挙動変化は感じない。

 自分の起こした波に突っ込んでみる。何事もなく、いなしていく。荒れた海象での凌波性能も心強いものがあるに違いない。バキュームインフュージョンの高剛性ハルは、そのストラクチャーやバルクヘッドにスプルース材を複合採用し、剛性と軽量化を高次元で実現させている。船体バランスを左右する液体の搭載位置、燃料タンクはエンジンルームの両舷に分けられ計650L。350L清水タンクはアフトキャビンのスターン側ベッド下に、バウ側ベッド下にはダークウォータータンクが搭載される。 あらためてヘディング観音崎でスロットルを入れていく。3,000rpm-23.0ノット、3,200rpm-25.5ノット。なんとカタログデータを越えている。3,400rpm-26.6ノット。燃費計測はできなかったのでビルダーからのデータを参考にしていただこう。 VOLVO PENTAインボードD4-270×2。270hpエンジン2基のVドライブ。1,000rpm-4.8ノット-燃費1.9L/h。1,500rpm-7.0ノット-6.3L/h、2,000rpm-9.8ノット-14.3L/h、2,500rpm-13.3ノット-25.0L/h、2,800rpm-15.8ノット-32.3L/h、3,000rpm-17.7ノット-37.4L/h、3,200rpm-19.8ノット-42.7L/h、3,400rpm-22.0ノット-48.1L/h、3,500rpm-23.2ノット-50.8L/h、3,578rpm-24.2ノット-52.9L/h。
 実に高速性能も優れたファストトローラーであることに驚きと地中海のあの海を走るかのようなデジャブに襲われ、得も言われぬ楽しみを感じた。

 横浜の海が煌めいている。中空に浮かぶメノルカ島の海のような透明な海を探しにクルージングを開始しようか。いやいや現実的になる。さあ観音崎をかわして三崎から東京湾を抜けだし、美味しい海の幸を求めて下田に向かおうか。ぬくぬくしたキャビンにいるとすっかり気分は夏になる。GPSを離れスターボードのチャートテーブルで海図を開こう。コンパスで航海ルートを描くのもお似合いだ。

SASGA Menorquín 34 HT
全長 10.53 m
全幅 3.80 m
喫水 1.10 m
重量 9.00 ton
エンジン 2× VOLVO PENTA D4-270
最高出力 2× 270 HP
燃料タンク 650 L
清水タンク 350 L
問い合わせ先 オカザキヨット
TEL: 西宮 0798-32-0202、横浜 045-770-0502
http://okazaki.yachts.co.jp
https://okazaki.yachts.co.jp/new-boat/maker/sasga-yachts

PerfectBOAT 2021年2月号掲載
https://www.fujisan.co.jp/product/1281681872/b/2065001/