1. HOME
  2. BOAT&YACHT
  3. MULDER Healey 1800
BOAT&YACHT

MULDER Healey 1800

BOAT&YACHT

このどこかノスタルジックでスポーティなフォルムのクルーザー、気になって仕方ない。
それもそのはず、英国のクラシックスポーツカーにインスパイアされたボート、時もシーンも1960年代にデジャヴした気分に襲われる。
まさにAustin Healey 3000 MK2トリビュートのこれ、
その誕生自体が英国のスポーツカーの歴史のワンダーランドに迷い込むようだ。

text: Kenji Yamazaki photo: MULDER SHIPYARD, HEALEY MARINE

オランダ老舗ビルダーMULDER SHIPYARDのFavorite 1700をベースにフルカスタム
英国スポーツカーHealey家の孫がオーダーした、Austin Healey 3000 MK2へのオマージュ

 戦後、英国のスポーツカーを作った者ではDonald Healey(ドナルド・ヒーレー)の右に出るものはいない。戦前はラリードライバーとして華々しい活躍。1931年にはモンテカルロラリーに優勝、エンジニアであり、デザイナーでもあり、戦後は英国を代表する2シーターオープンスポーツカーを生み出した。ジャガーのウイリアム・ライオンズ、アストンマーチンのライオネル・マーチンに比して劣ることのない存在だ。1956年、アメリカユタ州ソルトレークボンネビルでAustin Healey 100Sixレコードブレーカーは、323.2㎞/hの記録をたたき出した。ドライバーは製造者でもあるDonald Healeyその人。満60歳にして誉れ高い「200マイルクラブ」のメンバーになった。その熱量の高さが領導するスポーツカー創りが生み出したクルマ達。Healey 100ヒーレーハンドレッドから3000に至る “ビッグヒーレー” と、小型スポーツカー、フロッグアイ “かに目” の “ヒーレースプライト”、二つのモデルの流れがあるが、やはりサーキットやラリーワールドに大活躍した、1960年代の英国スポーツカーの代表格といえばビッグヒーレー3000シリーズ。ワイヤースポークホイールのロープロファイルなロングノーズショートデッキフォルム、それがドナルド・ヒーレーとその息子ジョフレイ・ヒーレーが生み出したブリティッシュスタイルのシンボルAustin Healey 3000と言える。

 長い年月と40ヶ所もの設計変更によって生まれた特別な船

2016年、生粋のヨットマンであるDavid HealeyはオランダのシップヤードMULDER YACHTSにDonald HealeyのDNAを継ぐボートの建造を相談する。奥方と地中海でおだやかな時を過ごすためにパワーボート建造の思いを現実化するに至る。1938年に始まるMULDER YACHTSのボート建造、安定感のあるトラディショナルなフォルムのボートに高評価が与えられている。近年では36mのスーパーヨットの建造も経験し、2018年にはワールドスーパーヨットアワードを受賞している。MULDER YACHTSの既存のFavoriteシリーズからFavorite 1700をベースにフルカスタムでの建造を計画する。ハル設計から検討が始まる。希望は2mの波のなかで20ノットの走行が可能なこと。MulderはオランダのNaval ArchitectのGuido de GrootとスーパーヨットのデザインスタジオVripackと彼らのパテントになるSlide Hullの経験をしてもらうために、北海のAmethystに招待しその実力を確認してもらった。その結果、VripackのディープVハル、Slide Hullを採用した「MULDER Healey 1800」計画は2017年1月にスタートした。David Healeyがコーンウォールから地中海のジブラルタルまで10ノット1,200マイルを夫婦で自走するための耐候性を備えた60フィートへのこだわり。ハルはアルミニウム製、19か月、40の設計変更、1,000時間のテストを済ませ、3年後に英国に持ち帰ったのだ。 

 改めて見てみる。そのスタイル、スマートなクーペフォルムはどこかクラシカルな趣きを漂わせ、艶やかなたたずまいを見せている。「Austin Healey 3000 MK2」と「MULDER Healey 1800」。アイスブルーとホワイトのツートーンのカラー配色。フロントウィンドウ、リアサイドフォルム、カーブしたトランサム、クロムのフェンダーバッチオマージュのハルウィンドウ、ステンレスのウィンドウシェイプ、フライブリッジのスポーツスクリーンなどすべてがHealey 3000からのインスパイア。Donald Healeyの思いの発露か、見る者に素直に入り込んでくる共有感が素晴らしい。


 スイミングプラットフォームの前にはテンダー用のシートイガレージがあり、アフトコクピットはソファ&テーブルのゆったりとしたたたずまいを見せる。サロンに入る。チークフロアにファニチャーのウッドトリム、ファブリックのL字ソファ、チークテーブル、対面してリビングソファ、ウッドパネルのストレージ。全体にウッディな佇まいが漂う。もちろん採光豊かで明るいサロンだが、どことなくセーリングヨットのキャビンに入ったような趣がある。前方2面のフロントスクリーン、右舷に3脚のヘルムシートのヘルムステーションがある。ブルーレザーのトリムのコンソール。2面のマルチディスプレイの下には右舷に前後スラスターのトグルレバー。センター寄りにステアリングホイール。レザー仕様のキャプテンシート右手のアームレストにはジョイスティックレバーがセットされ、左のアームレストにスロットルレバーがある。不思議な取り回し……、その答えはヘルムシートの仕掛けにあった。広々とした電動サンルーフを開け、ヘルムシートを油圧リフトで上昇するという仕掛け。そのままリフトアップされるとルーフ上の低いフロントスクリーンの背後にヘルムシートが位置する。まるでスポーツカーのいやAustin Healey 3000のドライビングスタイルになる。並ぶ2脚のナビシートもリフトアップする。このなんともユニークな仕掛け “The levitating helm seats(浮遊するヘルムシート)”、もちろんDavidの発案だ。

ヘルムの中央からコンパニオンウェイを降り、ロアデッキに。そこはギャレーとサロンが広がる。レイアウトによってオフィスエリアにもなる。チーク、マホガニー、オークの奢られたインテリアのクラシックエレガントな2つのキャビン、バウにVIPキャビン、ミジップにオーナーズキャビンが用意される。それぞれ北海の厳しい冬のためにロアデッキは床暖房であるフロアヒーティングが用意されている。嬉しい設えだ。
 Vripack Naval ArchitectsによるディープVのハル設計、パワーユニットはツインVOLVO PENTA D8/600hp。シャフトドライブ。全長18.40m、全幅5.10m、巡行速度20ノット、トップスピード24ノット。

冒険者のための船

デビッドは新たにDonald Healey同様「HEALEY MARINE」をコーンウォールに設立。「MULDER Healey 1800」をプロトタイプとし、「HEALEY HP65」を自社ブランドとして発表した。スーパーヨット60mクラスも建造する1988年創業の地元コーンウォールの造船所「PENDENNIS SHIPYARD」での建造。いわばマリン版 “HealeyマークⅡ” の登場となる。「このボートは冒険のために作られた。万人向けではありません。マリーナで係留中にGin&Tonicを飲みたい場合は他のフネを買ってください。冒険は私たちのDNAにあります」。3年のプロトタイプのテスト、1,000時間、10,000マイルのアドベンチャークルージングを重ねエボリューションモデルとして建造したモデルが「HEALEY PENDENNIS HP65」としてのデビューとなった。デザインはGuido de Groot。諸元は全長19.8m、全幅4.9m、クルージング速度22ノット、レンジ500nm、トップスピード25ノット。ビルダーPENDENNIS。アルミニウムハル。ハル設計Vripack。搭載エンジン2×VOLVO PENTA D8/600HP。HEALEYとPENDENNISのパートナーシップの元、受注後12か月の建造時間と年間2艇の納艇プランで稼働を始めている。
 

ハイスピードドライビングではない快適なクルージング、ロングレンジクルージングを視野に、英国西海岸コーンウォールからジブラルタルへ。Explorer(冒険者たち)のダイナミズムを実践するDavid Healey を通してDonald Healeyの果てしない夢が、また世界に広がる。P.B.

MULDER Healey 1800
全長 18.40 m
全幅 5.10 m
喫水 1.25 m
重量 30 ton
エンジン 2× VOLVO PENTA D8
最高出力 2× 600 HP
燃料タンク 4,500 L
清水タンク 900 L

問い合わせ先 MULDER SHIPYARD

https://www.youtube.com/watch?v=ejna0Shxof8