TECNOMAR for LAMBORGHINI 63 – Nautic Lamborghini
かつてスーパーカーの「LAMBORGHINI(ランボルギーニ)」は、創設者フェルッチオ・ランボルギーニ自らが自社の4L-V12エンジンをマリン用にチューニングし、積極的にレーシングボートに提供していた時代があった。またRIVA AquaramaにV12エンジン2基を搭載しパワーボートレースにエントリーした逸話も。その時代を彷彿とさせる海とLAMBORGHINIの蜜月が、いま再び始まる。
text: Kenji Yamazaki
photo: AUTOMOBILI LAMBORGHINI
陸と海のさらなる蜜月を予感させる63フッター “海のLAMBORGHINI”
史上最強のLAMBORGHINI(ランボルギーニ)といわれる限定モデル「シアンFKP37」のトリビュートスーパースポーツボート「TECNOMAR for LAMBORGHINI 63」のハルナンバー#1がついにデリバリーされた。トップスピード60ノットのずば抜けたパフォーマンスは「シアンFKP37」のトップスピード350㎞/h 以上に同化する。
過日逝去した元フォルクスワーゲングループ会長フェルディナント・カール・ピエヒ氏に敬意を表し、その名と生誕年1937年から「シアンFKP37」と名付けられ、2019年9月のフランクフルトショーでデビューした。そのプロフィールはV12エンジンとハイブリッドシステムを組み合わせ蓄電にスーパーキャパシタを採用、システム最高出力819ps、0-100㎞/h2.8秒、トップスピード350㎞/h以上とランボルギーニ史上最強、すでに完売の63台限定モデルだ。ちなみに “SIÁN” シアンはランボルギーニの故郷、サンタアガタ、ボロネーゼの方言で “稲妻” を表す。
衝撃的なデビュー
2020年6月30日、「TECNOMAR for LAMBORGHINI 63」は衝撃的なデビューとなった。The Italian Sea GroupのTECNOMARブランドとのコラボレーションで、Automobili Lamborghini社の設立1963年を記念した限定モデルとして正式に発表された。63フィートは設立年から、建造艇数も「シアンFKP37」同様63艇限定。その完成は2021年初頭と伝えられていた。ビルダーはThe Italian Sea Group-Tecnomar for Lamborghini BU、建造はTecnomar Centro Stile。イタリアン・シー・グループはADMIRAL、NCA REFITとTECNOMARの3つのブランドからなり、1987年創業と新しいが、アバンギャルドで先鋭的なブランドとして確立されているTECNOMARをランボルギーニとのコラボに選んだ。造船所はアドリア海に面したMarina di Carrara。プレジャーボート建造の拠点ラ・スペツィアの南に位置している。
エクステリアはマルチェロ・ガンディーニの「ミウラ」や「カウンタック」へのシンパシーを感じさせるアバンギャルドなフォルムだ。バウやアフトのスタイリングは今までのスポーツボートには無い驚くほど刺激的で華麗な意匠を持つ。バウトップのデザインは「シアンFKP37」にシンクロする。ドッキングライトのY字意匠、鋭角的なバウトップから流れるガンネル。アフトデッキフロア下部のレッドライト、ディフューザーの仕様、「シアンFKP37」やEVコンセプトカー「テルツォ・ミッレニオ」にインスパイアされたデザインを採用している。フロントスクリーンと一体化したフルカーボンのルーフトップも「アヴェンタドール・ロードスター」にインスパイアされている。異型菱形のハルサイドのブラックアウトされた整流ゾーン、エンジンルームへのエアインテーク、アプローチ解釈の妙が垣間見える。アフトデッキのステップがもたらす細やかな意匠、「シアンFKP37」のエンジンフードにシンクロする。スターンライトのレッド、左右の3ラインのディフューザー、その後端はグリーン、ホワイト、レッドのトリコローレに塗装され、強烈にイタリアンを主張する。エクステリアはTecnomar and Automobili Lamborghini Centro Stileの共同作業だ。
2基の24.2L V12 – 2,000hpエンジン
エンジンはVWグループのMANが選ばれ、2基の24.2L V12 – 2,000hpエンジンが搭載される。組み合わされるのは画期的なサーフェスドライブ「Flexy Drive System」+6枚ペラを採用し、クルージング速度40ノット、最高速度60ノットオーバーを実現している。ハルはGRPバキュームインフュージョン、スーパーストラクチャーはカーボン複合のハイブリッド素材。3条の鋭角的なチャインを持ちディープVの先鋭的なステップドハルが刺激する。全長20m、全幅5.4m、カーボンを随所に採用し63フィート艇で重量24トンと軽量化を実現した。
発表当時、ランボルギーニCEOのステファノ・ドメニカリ氏は「アウトモビリ・ランボルギーニとイタリアン・シー・グループがパートナーシップを結び、陸と海の未来を象徴する存在として2社の専門性や特化したエッセンスを刺激し合い、相互に多様性を共有し、新たな価値を創造できました。まさに海のランボルギーニです」とアピール。
イタリアン・シー・グループのジョバンニ・コンスタンチーノCEOは「単にTECNOMARで最速のスーパーボートというだけではない。TECNOMAR for LAMBORGHINI 63という逸品を所有する意義、最高のテクノロジー、クオリティ、最高のパフォーマンス、先端を突き進む、挑戦的なプロジェクトに喜びを感じています」と。
スーパースポーツカーそのもの
真っ先にヘルムに関心が行く。シートベルトを持つフルカーボンシェルの2脚のヘルムシートはまるでシアンFKP37のスポーツシートに近似する。ヘキサゴン形状のカーボンコンソールに組み込まれたエンジン関連マルチモニターがクルマのインストルメントパネルを思わせる。ステアリングはランボルギーニのモノそのもの。エンジンスターターはランボルギーニの赤カバーのスタートスイッチが採用される。ナビシートとの間、前方にはGPSや航海計器ディスプレイが用意される。アヴェンタドールやウラカンのコクピット、いやシアンFKP37のコクピットを彷彿させる。ジョイスティックの手前にドライブのコマンドダイヤルがある。「Docking」「Cruse」「Corsa」の3モード。これは楽しい、まるでスーパースポーツカーそのものだ。
バウからアフトまでウォークアラウンド、メインフロアのシートは対面する4人掛け。開放的なゾーンが広がる。アルカンタラ革素材にカーボンがシックな演出を見せる。ロアフロアは2ステート、ツインベッドルームにバウのVIPステートルームが用意される。ハイテックでエッジの効いた設えが刺激的だ。そのインテリアはランボルギーニの意匠を随所に展開する。ヘキサゴンやY字モチーフが効果的に組み込まれている。素材や色はランボルギーニのカスタマイズプログラム「Ad Personam」同様にビスポークできる。インテリアはTecnomar Centro Stileが担当した。
シートライアルを夢想する
TECNOMARからのプロモーション映像に刺激され、シートライアルを夢想する。ステアリングを握りスロットルを入れていく。4,000hpの駆動力がサーフェスドライブの6枚ペラに伝わる。「Cruise」モードで加速する。1,450rpm-30ノット、「Corsa」モードに切り替える。オートフラップ、ドライブもオートに。更にスロットルを入れていく。1,900rpm-50ノット。軽いステアリングを切りこんでいく。小気味よいインサイドバンクを伴って転舵する。なんともいえない一体感に包まれる。フルスロットル、63ノット-2,350rpm。チンクエテッレ沖アドリア海、地中海の夏が過ぎ去っていく……。
ハルナンバー#1、第一号艇は3月にカスタマーにデリバリーされた。その人物はUFC世界王者のConor McGregor。大富豪のアイルランド人格闘家だ。この「McGregor edition」は3.5ミリオン$のプライスタグが付いた。
近年ラグジュアリーカーブランドがプレジャーボートを仕掛ける例が多い。ラグジュアリーマーケットではライフスタイルのクロスオーバー化が加速しラグジュアリーカーと同ブランドのスーパーボートを所有することがトレンドとなった。かつてのリーヴァ・アクアラマ・ランボルギーニ278やリーヴァ・フェラーリ32、現代ではレクサスLY650、アストンマーティンAM37、メルセデス シルバーアロー460Granturismo、ブガッティNiniette66と、陸と海がシンクロする。この「TECNOMAR for LAMBORGHINI 63」、願わくば日本の海でシートライアルをしてみたい。海のランボルギーニ、これほどスーパーカーとリアルに相似形のスーパースポーツボートは無い。
TECNOMAR for LAMBORGHINI 63
全長 20 m
全幅 5.4 m
エンジン 2× MAN V12
最高出力 2× 2,000 HP
燃料タンク 3,600 L
トップスピード 60 kt
クルージングスピード 40 kt
www.lamborghini.com/en-en
PerfectBOAT 2021年10月号掲載
https://www.fujisan.co.jp/product/1281681872/b/2158718/