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SIRENA 88 – Home Sea Home

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スペイン語で人魚の意味を持つ “Sirena”。
人魚は、美しい女性の上半身と魚の身体を持つ架空の存在でありながら、世界中の誰もが憧れ、ファンタジーなイメージを思い描く。
「SIRENA YACHTS(シレーナ)」のフラッグシップ「SIRENA 88」は、
その名の通り美しいスタイリングを持ち、人魚のように大海原を自由にクルージングする。
多くのメガヨットが並ぶカンヌヨッティングフェスティバルの中にあってもひときわ目を引くカッティングエッジなデザイン。
「SIRENA 88」はターキッシュ・シップヤードの枠を超え、伝統のヨーロピアンビルダーにも影響を与えている。
トルコ発のモーターヨットが、強豪ひしめくヨーロッパビルダーを凌駕し、世界を席巻する。

text: Yoshinari Furuya photo: Jeff Brown
special thanks: SIRENA YACHTS www.sirenayachts.com

OEM建造でイノベーションを果たした、
ターキッシュ「SIRENA」のフラッグシップ

 Sirena Marineの新しいモーターヨットブランド「SIRENA YACHTS(シレーナ)」が発表されたのは2016年。SIRENA 64 とSIRENA 56の2モデル。造船設計やエクステリアデザインは、Germán Frers率いるFrers Naval Architecture & Engineering。インテリアデザインは数々のスーパーヨットを手がけてきたSpadolini Design Studio。SIRENA 64は2017年1月のデュッセルドルフボートショーでワールドプレミア。SIRENA 56は、同年2月のマイアミボートショーでSIRENA 64と同時に出展され、ワールドプレミアを果たしている。

 そして、COVID-19が広がる前の2019年カンヌヨッティングフェスティバルにて、今回紹介する「SIRENA 88」がワールドプレミアを果たし、シートライアルの機会を得ることができた。SIRENA YACHTSの3モデル目となるフラッグシップも、ナーバルアーキテクトとエクステリアデザインはFrers Naval Architecture & Engineering。インテリアデザインにアムステルダムのCor D. Roverが加わり、シンプルでモダンなラグジュアリーモーターヨットを完成させたのだ。

SIRENA YACHTSを建造するSirena Marine Shipyard

 SIRENA YACHTSが2016年生まれの歴史の浅いニュービルダーという印象は、誤った認識だ。SIRENA YACHTSを建造するSirena Marine Shipyardは、自動車、自動車用スペアパーツ、エネルギーソリューションなどの国際的な企業を傘下に収めるトルコのコングロマリットKıraça Groupが2006年に設立したシップヤード。2008年には、Azimut-Benetti Groupとパートナーシップを結び、東京ドーム3個分以上の広さを誇る155,000平方メートルの広大な敷地に最新の設備を整え、Azimut Yachtsの建造を続けている。

そこで得られた建造ノウハウと技術をもとに、2010年にはトルコで最初のセーリングボートブランドAZUREEを立ち上げると、AZUREE 33は、ジェノバボートショーでボートオブザイヤーを受賞。現在は33C、41、46の3モデルをラインナップし、100隻以上の建造実績を誇る人気のセーリングボートブランドに成長した。さらに2012年には、「陶酔感=強烈な幸福感と興奮」という意味を持つラグジュアリーなセーリングヨットブランドEUPHORIA YACHTSを発表。ファーストモデルとなるEUPHORIA 54は、イスタンブールで開催されたCNRユーラシアボートショーでワールドプレミアを行い、2014年カンヌヨットフェスティバルにも出展。German FrersのデザインとDesign Unlimitedのインテリアは、ラグジュアリーで高性能、豪華さと快適さを合わせ持つセーリングヨットとして注目を集め、デュッセルドルフボートショーで発表されたEuropean Yacht of the Yearにノミネート。ターキッシュ・ヨットの品質が世界に認められた証だ。現在はシーワージネスとリュクスなインテリアを持つ54、68、84の3モデルがラインナップされ、高い評価を得ている。

 そして、セーリングヨットAZUREEやEUPHORIAに、モーターヨットSIRENA 56、SIRENA 64を加えた400隻以上の建造実績に裏打ちされた造船技術と最新の設計により、珠玉のモーターヨット「SIRENA 88」が生み出されたのだ。

SIRENA 88

 「SIRENA 88」は、垂直に切り立つバウステムと、手を伸ばしても遥かに届かない高いバウデッキに、多くのサイドウィンドウやキャビンウィンドウを描く直線が交差する幾何学的なデザインがアバンギャルドで印象的。そのデザインに加え、行き交う人々を惹きつけているのが、見せつけるように開放されたトランサム。トランサムは、ラウンジソファにもなるデイベッドやソファ、チェアやカフェテーブルが並ぶビーチクラブ。トランサムステップからフラットに繋がるラグジュアリーなシーサイドテラスは、使い方自由。アンカーリングをして、水際で寛ぐだけでも贅沢。また、水中まで降りるステップと親水デッキを出せば、海水浴やマリンスポーツを楽しむマリンベースとなる。もちろん、マリントイを収納するガレージとして使えるが、ガレージだけにしておくのは勿体ない特別な場所だ。

 トランサムから6段のステップを上がるか、岸壁からハイドロで伸びるギャングウェイを渡り、アフトデッキに。イーブスとサンシェードで守られたアフトデッキは、見晴らしの良いテラスダイニング。メインキャビンの左右に続く非対称のサイドデッキに向かう。ポートサイドの先はミジップで行き止まり。同じフロアにあるギャレーに直接アクセスできるドアに繋がり、バウデッキには、行くことはできない。ギャレーよりバウ側は、フライブリッジのサイドドアからアクセスするアッパーサイドデッキを通り、バウデッキへ降りることができる。その反対、スターボードサイドは、サイドデッキ前方で階段を上がり、デイヘッドとマスターステートキャビンのルーフ上部に当たるアッパーサイドデッキへ上がり、キャビンの中を通らずにバウデッキにアクセスすることができる。オーナーやゲストを気にすることなく、離着岸のクルーワークを行うことができる。

採光のよい明るいサロン

 アフトデッキから、3枚ドアが大きく開閉する自動ドアを開けキャビンに入る。左右壁面がガラスで覆われた採光のよい明るいサロンが迎えてくれる。左右には大型のソファ。スターボードサイドをキャビネットにするバージョンも選ぶことができる。その前方には、8人がゆったりと座ることができるメインダイニング。ダイニングの左右は、フロアから天井までカバーする大型のウィンドウ。スターボードサイドは全面開放することができる。

 ダイニングの前方には装飾が施されたリュクスな壁。そのポートサイドのドアを開けると、サイドデッキから直接アクセスすることができるクローズドギャレー。レストランの厨房のように隔離されたギャレーは、本格的な料理がサーブできる広さと装備が用意されている。カウンタースタイルのオープンキッチンも選ぶことができる。

 スターボードサイドの廊下をバウへ向かう。右側にはデイヘッド。左側には、ライズドパイロットハウスへ上がる階段とロアーデッキに下がる階段。さらに前方に進むと、サイドデッキ分メインサロンよりも広いフルビームを贅沢に使ったマスターステートキャビンだ。船体の中心線に合わせたキャビンセンターには、キングサイズのアイランドベッド。スターボードサイドには、海を眼下に見下ろすワークデスク。ポートサイドは、壁が開閉し、バルコニーに変形する、客船やメガヨットで人気のフォールドアウトバルコニー。ベッド正面の前方には、天井部までガラスで覆われたサニタリールームのような明るさを持つバスルーム。センターはパウダールーム。左右には、独立したトイレと広く明るいシャワールーム。パウダールームのミラーを下げると、ガラス越しに、バウデッキのプールを見ることができる仕掛けも面白い。そのすぐ右側の階段を上がり、ガラス張りのスライドドアを開けると直接バウデッキに出ることができる。バウデッキも「SIRENA 88」の魅力溢れるエリアの一つ。高目のブルワークでプライバシーが守られたバウデッキの中央には、美しいブルーが輝くモザイクタイルと強化ガラスで囲まれたプール。左右には、フィックスのサンタンベッド。プールでクールダウンしながら、日光浴を楽しみ、濡れたままキャビン内のバスルームに直接入ることができるアクセスはよく考えられたものだ。

 ロアーデッキには、ゲスト用のキャビンが4つ。最前部のバウキャビンはダブルのアイランドベッド。その後方、左右にツインのゲストキャビン。ミッドシップには、フルビームを使い、窓際にソファも備わるVIPキャビン。ゲスト用とはいえ、全室それぞれに、独立したトイレとシャワールームが備わり、プライバシーが守られている。

 VIPキャビンと同じロアーデッキの最後部にあるのは先ほど紹介したビーチクラブ。その前方には、エンジンルーム。さらに前方、VIPキャビンと壁で隔てられた場所にはクルーキャビン。クルーキャビンの中央には、ミニキッチンとダイネッティと独立したトイレ&シャワールーム。その左右にはキャプテン用のシングルキャビンと2段ベッドのツインキャビン。クルーキャビンからは、エンジンルームに直接アクセスすることができる。エンジンルームを通り、トランサムのビーチクラブにも行き来することができるアクセスも機能的。エンジンルームへは上部デッキからラダーで降りることもでき、計3方向のアクセスが可能。メンテナンス性や運航スタッフへの配慮もメガヨットクラスだ。

 メインダイニングの前方から階段で上がった中二階に位置するライズドパイロットハウス。ヘルムシートの前には、視認性の良い大型ディスプレイとコントローラー。チャートワークもできる広いテーブルや、クルージングガイドなど書籍を収納するスペースが確保され、ロングレンジのクルージングも快適に運航することができるだろう。また、ライズドパイロットハウス後方の階段を上がり、スライドハッチを開けると、フライブリッジのヘルムステーションに最短で移動することができる。視界の悪い時や航行する船が多い水路では、フライブリッジのヘルムシートに移動し、全周を目視しながら操船することができる。

 フライブリッジには、ゲストをもてなすためのラグジュアリーなオープン空間が用意されている。最前部のヘルムステーション後方、フライブリッジの中心には、L字のカウンターバー。BBQグリルやアイスメーカー、シンクが搭載されている。その向かい、ポートサイドには8人がゆったりと座ることができるラウンジエリア。フライブリッジを太陽から守るハードトップには電動で開閉するサンルーフも備わる。ラウンジソファの後方にはジャグジーバスが搭載され、日の当たる後方には、サンタンベッド。ラグジュアリーな洋上パーティーを演出してくれる。

 このフライブリッジには、アフトデッキからフライブリッジ後方に上がるアクセス以外に、バウデッキからポートサイドのサイドデッキを通り、上がることもできる。そしてライズドパイロットハウスからのアクセスと3ルートあり、ゲストが運航スタッフと交錯することもない。
 そして、「SIRENA 88」の特徴の中でも最も注目されているのは、そのボトムデザインと走り。Frers Naval Architecture & Engineering が設計し、水槽テストを重ねたトンネルハルは、スピードとロングレンジという2つの課題を同時にかなえたモーターヨットとして、世界から注目されていた。

厳しい条件でのシートライアル

 2019年9月のカンヌヨッティングフェスティバル、燃料は11,000リットル、水2,400リットルと満載、乗船者は約20人という厳しい条件でシートライアルが行われた。
 エンジンは1,550HPのMAN V12を2基搭載。デッドスローの600rpmで6.7ノット。1,000rpmでは9.3ノットで消費燃料は時間あたり50リットル。1,250rpmでは11.5ノット、1,500rpmでは12.4ノット、1,750rpmでは14.4ノット、2,000rpmでは17.9ノット、2,250rpmでは22.4ノット。そして、トップスピードは、2,300rpmで22.6ノット。ビルダーのテストデータでは、トップスピードは25ノットと発表されている。88フッターのモーターヨットとしては20ノット以上のトップスピードや15ノット以上のクルージングスピードがあることは悪天候を回避するという意味でも魅力的なものであることは間違いない。そして、9ノットのロースピードではあるが、標準の11,000リットルタンクでおよそ2,100マイルのレンジを可能とした低燃費性は驚異的だ。さらに、オプションの16,500リットルタンクを搭載すれば、およそ3,100マイル走ることができる計算となる。

 「SIRENA 88」、その魅力はアバンギャルドなデザインだけではない。ゲストやクルーのアクセスまで考慮し、緻密に計算されたメガヨットクラスの空間利用や、機能的なエクステリア、美しくモダンなデザイン、さらにGerman Frersによるレースヨットのノウハウと経験が生かされたボトムデザインが、排水量100トンのモーターヨットに20ノットを超えるスピードをもたらした。そして、効率の良いボトムデザインは2,100マイルというトップクラスの航続距離をかなえた。
 地中海クルーズを楽しむ美しき人魚「SIRENA 88」、時には時を忘れるパーティーの場として、時には静謐なパッセージメーカーとして、世界の海を自由に移動する洋上の別荘となるだろう。


SIRENA 88
全長 26.81 m
全幅 7.1 m
喫水 1.84 m
重量 84 ton
エンジン 2× MAN V12
最高出力 2× 1,550 HP
燃料タンク 11,000 L (op 16,500 L)
清水タンク 2,400 L
トップスピード 25 kt
クルージングスピード 16 kt
問い合わせ先 湘南サニーサイドマリーナ  TEL: 046-856-7810
www.sunnyside.co.jp

PerfectBOAT 2021年10月号掲載
https://www.fujisan.co.jp/product/1281681872/b/2158718/