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BOAT&YACHT

ONE DREAM JACK62″God”

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低く抑えられたスタイリッシュなプロファイルに、カロライナボートを思わせる大きなフレアオーナーの夢が詰め込まれた究極のフィッシングボート「JACK62″God”」

text: Atsushi Nomura
photo: Makoto Yamada
special thanks: CREATION
https://creation-marine.co.jp

堺に本拠地を置く「クリエイション」がプロデュースするカスタムボートシリーズ「JACK(ジャック)」。そのコンセプトは“Onemold,Oneboat”。JACKのブランド名でシリーズ化されていながら、一艇ずつがまったく異なるオリジナルボートとなっているのが特徴だ。FRPを抜くためのモールドから唯一の存在であり、一艇一艇カスタムで造り上げられている。自分にとって使いやすいサイズ、使い勝手に合わせた艤装、好みのエクステリアやインテリア、そしてさまざまなファブリックのチョイスなど、自分の思いをボートに表現する手段、すなわちボートオーナーにとっての“究極の選択”とも言えるのがオリジナルのカスタムボートだ。

だがフルオーダーのカスタムボートは、実際には自分の好みやこだわりを把握していないとオーダーすることすら難しい。オーナーにもある程度のボート遍歴や経験が必要とされる。そういったカスタムボートをより身近な存在にしてくれたのが、このJACKシリーズである。日本でプロデュースし、台湾の造船所で建造するため、欧米の造船所でカスタムボートを造るよりも比較的日本からのコントロールが行き届いている点も特徴の一つだ。実際の建造は、FRP製交通船や客船などの実績に富む、台南のドラゴンヨットが担当している。同社はローコストで簡易型を造るのが得意であり、JACKのコンセプト“Onemold,Oneboat”にはぴったりのビルダーである。そしてデザイナーには日本を代表するボートデザイナーとして知られる薄雅弘氏。クリエイションによるオーナーとの間のしっかりしたヒアリングとアドバイスに始まるコミュニケーションの取りやすい環境が、カスタムボートの敷居の高さを取り払い、オーナーの夢の詰まったカスタムボートをより手軽な存在にしてくれているのだ。

今回紹介する「JACK62″God”」は、62フィートのウォークアラウンドタイプの大型フィッシングボートである。JACK62という型番は、以前にも存在している。薄デザイン、ドラゴンヨット建造と、同じ組み合わせだったが、前述のようにワンオフ艇であるため、型番は同じながらまったく異なるボートとなっている。スペックだけ見ても、今回のモデルが全長18.92m×全幅5.35mに対して、以前のモデルは全長18.80m×全幅4.56mとかなり異なっていることが窺える。実際にニューモデルはまったく新規にデザイン、開発されたハルということで、約90cmもワイドなビームになっている。特に最大幅となっているのがバウフレアであり、真上から見るとまるで、巨大な杓文字のような特徴的な形状をしている。米国ノースカロライナのボートによく見られる形状の船型だ。

シートライアル当日の和歌山湾は、台風13号が沖縄へ接近中。台風の直接の影響ではなかったものの、西に開いた和歌山湾は、かなりの強風が吹きつけるコンディションだった。しかし驚いたのは、一瞬上がった飛沫を横風で拾った程度で、大きく拡がったバウフレアの効果は絶大。走行中は、ほとんどのスプレーを叩き落としてくれており、ほぼデッキはドライだった。

まずはそのシートライアルの模様から紹介しよう。ホームポートである和歌山マリーナシティヨット倶楽部の桟橋を離れ、沖へ進む。パワートレインは、ツインのVOLVOPENTAD-13(1,000馬力)。スロットルレバーを徐々に押し込み加速させていく。1,900~2,000rpm前後で25ノットのクルージングスピードに到達する。パイロットハウス内のサロン前部にあるドライバーズシートでは、波の具合から強い風は感じられるが、派手な飛沫も上がらない上、非常に安定感のある走りを見せてくれるので、スピード感はさほど感じられない。

クルージングスピードのまま急なターンを行うがほとんどヒールせずに安定した姿勢で旋回を続ける。ZIPWAKEのオートトリムタブを一旦オフ、マニュアルにする。再び旋回を繰り返すがやはり姿勢は安定している。急旋回時も緩やかなヒールを見せる程度だ。続いて、トリムタブをマニュアルにしたまま、最高回転数の2,300rpmまで回してみる。ある程度バウアップさせ、トップスピードは追い風時で32ノットを少し超えた。向かい風でも31ノット台後半をマーク。波当たりもソフトであり、全般にゲストにも優しい走りだ。オーナーによると、スポーツフィッシャーに乗っていた時代は40ノット近いスピードを出すボートも所有していたそうだが、実際にそういったスピードで走ることは稀。通常は25ノットのクルージングスピードで走るし、最高30ノットも出ればOKというのがオーナーの経験値から出された答えだった。

JACK62のレイアウトには、中央に巨大なパイロットハウスを設けたいわゆるウォークアラウンドデッキを採用。アフトコクピットは全長方向へ長くスペースが取られており、中央にファイティングチェアを配置。とにかくデッキが広いのでチェアも移動の邪魔にならない。デッキにはストレージ類も揃い、トランサムにはライブベイトウェルも装備されている。パイロットハウスに面して左舷側には後ろ向きのシングルシート、業務用レベルのベイト用冷凍庫、右舷側にはシンクや収納型のセカンドステーションが備わっている。オーナーによると離着岸は基本サロンのステーションで行い、セカンドステーションはあくまでも複数人での釣り用という。さらに右舷後部にはサードステーションも格納されている。こちらはキャプテンひとりでの手前船頭用という。またアフトコクピットの随所にロッドラックやホルダーが備わっており、釣りへのこだわりを感じさせる。幅広なサイドデッキは歩行にまったく問題なく、フォアデッキはアフトコクピットのデッキレベルから5段上がった高さ。デッキやブルワークトップは全面プラスティック製チークで、乾きやすく、滑りにくくなっている。

アフトドアからサロンへ入る。まるでエクスプレスクルーザーのような外観を最初に見た時の印象では、もう少しヘッドクリアランスが低いかと思っていたが、さすがは62フィート。室内は高さも十分にあってかなり広々としている。サロンは両舷にソファが並び、中央にテーブルを配置。1段上がったサロンの右舷最前部にヘルムステーションとドライバーズシート、左舷側は独立したパッセジャーシートだ。ヘルムステーションには、3つの大型タッチパネルと魚探、VOLVOPENTAの計器類が並ぶ。ステアリングのすぐ脇にZIPWAKEのオートトリムタブのコントローラー、右側にSIDEPOWER製の油圧式バウ&スターンスラスターのコントローラー、さらにはZFSmartCommandsystemのジョイスティックが並んでいる。一般的に、エクスプレスクルーザーのような外観の場合、右舷ドライバーズシートから左舷後方の視界があまり良くないケースが多いが、JACK62はヒールをあまりしないこともあり、かなり視界が確保されている。実際、スラロームしてみた際にも、ドライバーズシートからの視界に不安は感じられなかった。

続いてドライバーズシート脇のアクセスステップを下りてロアフロアへ。すぐ左舷にはL字カウンターのロアギャレーが設けられている。ギャレーの前側には個室ヘッド、さらにその前に2段ベッドのゲストキャビンが配置されている。フォアキャビンには段差を使ってV字に2段のベッドを配置している。右舷側には独立したシャワールームがあり、その手前はランドリールームとなっている。ギャレーのちょうど向かい側にマスターキャビンを配置。ダブルベッドと大型のハンギングロッカーが備わっている。インテリアは全体にユーカリウッド仕様で独特の波形模様がとても美しい。このあたりにもオーナーのこだわりが感じられる。

JACK62″God”のオーナーは、30年以上に及ぶボーティング経験を持っている。関西エリアをベースに数々のボートを乗り継ぎ、かつてはスポーツフィッシャーを駆ってカジキ釣りに夢中になっていた時期もあるそうだ。ただいわゆるトーナメントフィッシャーとしてビルフィッシュを追い求めてきたわけではなく、やはり“美味しい魚”が釣りたいとなり、もう少し一般的なフィッシングボートに乗り換えた。現在も国産のフィッシングボートを別に所有しているが、JACK62の魅力については、「ボートフィッシングが楽しめること、顧客接待などのためにサロン空間が充実していること」を挙げている。

写真を見ていただければ分かる通り、随所に釣り用の艤装が施され、釣りのための3ステーション装備。まさにワンオフ艇ならではのこだわりが詰まっている。ボート遊びの一つの究極、JACKにはその夢が溢れているのだ。P.B.

JACK 62 “God”
全長 18.92 m
全幅 5.35 m
喫水 0.89 m
エンジン 2× VOLVO PENTA D13
最高出力 2× 1,000 HP
燃料タンク 5,000 L
清水タンク 500 L 問い合わせ先 クリエイション 
TEL: 072-223-5884
https://creation-marine.co.jp
https://creation-marine.co.jp/jack/