ASTONMARTIN VANTAGE
エレガントさとスポーティさを兼ね備えたサーキット走行も見据えた新型ヴァンテージ
2024年2月12日、英国ゲイドンから世界に発表された新型アストンマーティンヴァンテージ。手作業で組み立てられる4.0リッターV8ツインターボエンジンは大幅な改良を受け、先代より実に155馬力アップとなる665PS/800Nmを実現。もたらされるパフォーマンスは0-100km/h加速3.5秒、最高速度325km/hと、アストンマーティン史上最速の美しき猛獣となった。
アストンマーティンの次世代を築くウルトララグジュアリーなハイパフォーマンススポーツカー、その国際試乗会にモータージャーナリスト大谷達也氏が招かれた。

text:Tatsuya Otani
photo:Andy Morgan, Max Earey
皆さんは“ブリティッシュ・スポーツカー”という言葉にどんなイメージをお持ちだろうか?
どちらかといえば古い世代に属する私がブリティッシュ・スポーツカーと聞いてすぐに思い起こすのは、1960年代に登場したジャガーEタイプやアストンマーティンDB5といったモデル。いずれもメカニズム的な成り立ちはしっかりとしていて高性能なのに、品のいいエレガントな出で立ちで、どちらかといえば控え目に映る。だから、私がまだ血気盛んだった頃はそれほど興味を惹かれなかったけれど、年齢を重ねるにつれてその本質的な価値に気づき、より魅力的に思えるようになってきた。その意味で、イギリスの自動車メーカーは「オトナ向けのスポーツカーを作るのがうまい」ともいえる。アストンマーティンが先ごろリリースした最新スポーツカー「ヴァンテージ」も、そんなブリティッシュ・スポーツカーの魅力がふんだんにつまった1台である。

まずはそのスタイリングをご覧いただきたい。V8エンジンをフロントに積んだノーズ部分が長く、キャビンから後方はこれとは対照的にキュッとコンパクトにまとめたプロポーションは、ロングノーズ・ショートデッキと呼ばれるオーセンティックなもの。ただし、新型はフロントグリルの開口部をやや大きくしたり、ボンネット上やボディサイドなどにシャープなキャラクターを効果的に配することにより、新型はより“シャキッ”としてダイナミックな表情を新たに手に入れている。この辺のオーセンティシティと鮮烈な個性のバランスこそ、ブリティッシュ・スポーツカーの真骨頂といえるものだ。
申し遅れたが、新型は基本プロポーションを先代から受け継いではいるものの、ボディパネルはすべて新設計。その意味において、新型への進化はフルモデルチェンジと呼ぶに相応しい内容だが、にもかかわらず基本プロポーションを先代から踏襲して新型らしさを敢えて強調していない。そんな控え目なところも、ブリティッシュ・スポーツカーらしいところである。

ただし、控え目な印象を与えるのはデザインだけで、メカニズムのほうは長足の進歩を遂げている。たとえば、前述したボディパネルの一新は、全幅を3cm拡大してトレッド(左右輪の間隔)を広げ、シャシーの安定性を高めることが主な目的。さらに、サスペンションの取り付け部を中心にボディの板厚を増したり、フロントにくわえてリアにもストラットタワーバー(サスペンションの頂点に相当する部分を左右で連結させる補強材の一種)を追加するなどしてボディ剛性を向上させ、ハンドリングや乗り心地の改善を目指した。くわえて、従来型より減衰率の可変幅が広いビルシュタイン製DTXダンパーを採用したことも、シャシー関連のポテンシャルを引き上げるうえで見逃せない効果が期待できるものだ。
エンジンも人に改良された。ペースとなる40リッターV8ツインターボ・エンジンそのものは引き続きメルセデスAMG製だが、アストンマーティン社内のエンジン開発部門がその大幅なパワーアップに成功。最高出力は510psから665psへ、最大トルクは685Nmから800Nmへと、いずれも格段に強化された。

そんな新型ヴァンテージの国際試乗会が開催されたのはスペインのセビリア地方。その雄大な大自然を舞台として、一般道とサーキットで徹底的に走り込んできたので、早速ご報告しよう。
まずは一般道での印象を記すと、その乗り心地はスポーツカーらしくやや硬め。ただし、剛性が大幅に強化されたボディが路面から伝わる衝撃をしっかりと受け止めてくれるため、不快な微振動などが残らず、上質な乗り味が楽しめる。しかも、タイヤが路面を捉えている様子を知るうえで必要となるロードインフォメーションは、同じく強固なボディを通じて克明に感じ取ることができる。つまり、当てずっぽうではなく、クルマがいまどんな状態にあるかを正確に把握しながらドライブできるわけで、これが安心感に結び着くのは当然のこと。おかげで、セビリアのワインディングロードを走っていても不安感は一切なし。狙ったラインを正確にトレースできるハンドリングを生かしながら軽快にコーナーを駆け抜けていくことができた。
もう、ここまでの走りだけでも十分に期待以上のものがあったのだけれど、これほど出来がいいと、もう一歩先を試したくなってしまうのが、われわれ自動車評論家の悪いクセといえる。

では、その「一歩先」がなにかといえば、コーナリングでタイヤのグリップ限界まで追い込み、ときにはタイヤを軽くスライドさせながらクルマをコントロールすることにある。
先に申し上げておくが、この種のドライビングには一定のリスクが伴うので、一般の皆さんにはあまりお勧めできない。私自身も、新型ヴァンテージが履くミシュラン・パイロットスポーツS5のグリップ性能があまりに高いため、公道ではグリップ限界に近づくことさえできなかった。だから、これらはいわば余技に属することだし、サーキットでしか体験できない領域といえる。
それでも、新型ヴァンテージの真のポテンシャルを見極めるために、その領域に敢えて踏み込んでみたいと私は思い始めていた。必要最低限の性能を備えているだけではラグジュアリーにならないことは、日ごろ甘美なボートの世界を満喫している読者諸氏であればご存知のとおり。ヴァンテージでのサーキット走行は、そんな「一歩先の非日常」を見極めることが目的だったと捉えていただければいいだろう。

一般道と違って対向車がやってくることもなければ、たとえコースアウトしても広いエスケープゾーンが確保されているサーキットは、クルマの限界特性を確認するうえで格好の“試験場”である。そこで新型ヴァンテージを走らせてみると、一般道ではあれほど遠くにあるように思えたタイヤの限界にあっけなく到達。しかし、そんな領域であっても、ヴァンテージがドライバーのコントロールを一定範囲で受け付ける能力を備えていることがすぐに理解できた。

ただし、実際にタイヤが滑り始めると、トラクション・コントロールが作動してエンジンパワーが絞られてしまう。これは、クルマがスピン・モードに陥るのを防ぐための予防策だが、このままではタイヤを滑らせながらコントロールする、いわゆるドリフト走行は体験できない。しかし、新型ヴァンテージには「アジャスタブル・トラクション・コントロール」といって、ドライバー自身がトラクション・コントロールの利き具合を8段階で調整できる機能を搭載。場合によって“必要以上のエンジンパワー”を敢えて発揮させることで、ドリフト走行が可能になっている。であれば、これを試さないわけにはいかない。私は、トラクション・コントロールが完全に利いているTC1というポジションから、TC2、TC3……と徐々に利きを弱めていき、最終的に、システムが完全にオフになるTC8まで試してみることにした。

すると、トラクションコントロールの利き方が少し制限されるTC3では、トラクションコントロールというセーフティネットを残したまま安全にドリフト走行を体験できるいっぽう、ドライビングの基本を守る限り、TC8ではタイヤのスライドコントロールを楽しめることがわかった。つまり、新型ヴァンテージはこの領域まで想定して作り込まれた、ラグジュアリーなスポーツカーだったのである。そんな圧倒的なパフォーマンスを、どちらかといえば控え目なスタイリングに包み込んだところこそ、ブリティッシュ・スポーツカーの真髄というべきものだろう。P.B.
ASTONMARTIN VANTAGE
全長 4,495mm
全幅 1,980mm
全高 1,275mm
ホイールベース 2,705mm
車両重量 1,605kg
エンジン 型式90度V型8気筒DOHCツインターボ
総排気量 3,982cc
ボア×ストローク 83.0mm×92.0mm
最高出力 665PS(489kW)/6,000rpm最大トルク800Nm/2,000–5,000rpm
トランスミッション 8速AT
駆動方式 後輪駆動
タイヤ F:275/35/ZR21R:325/30/ZR21
0-100km/h 加速 3.5s
最高速度 32km/h
車両本体価格 26,900,000円
問い合わせ先 アストンマーティンジャパン
TEL:03-5797-7281
https://www.astonmartin.com/ja




