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いよいよ、フェラーリ12気筒の新しい時代が幕を開けた。2024年5月3日、米国マイアミでワールドプレミアされたフェラーリの新たなフラッグシップ「12Cilindr(iドーディチチリンドリ)」。812スーパーファストの後継として開発された、自然吸気V12エンジンをフロントミッドシップに搭載したスーパースポーツ。
365GTB/4デイトナのシャークノーズを彷彿とさせるフロントマスク、そのコンセプトは50~60年代のフェラーリのグランツーリスモにインスパイアされたという。ルクセンブルクで開催された国際試乗会から、西川淳氏が伝える。

text: Jun Nishikawa
photo: FERRARI

いよいよ、フェラーリ12気筒の新しい時代が幕を開けた。2024年5月3日、米国マイアミでワールドプレミアされたフェラーリの新たなフラッグシップ「12Cilindr(iドーディチチリンドリ)」。812スーパーファストの後継として開発された、自然吸気V12エンジンをフロントミッドシップに搭載したスーパースポーツ。
365GTB/4デイトナのシャークノーズを彷彿とさせるフロントマスク、そのコンセプトは50~60年代のフェラーリのグランツーリスモにインスパイアされたという。ルクセンブルクで開催された国際試乗会から、西川淳氏が伝える。

空前絶後の人気を誇るマイアミGPにおいてそのクルマが発表されたのは2024年5月のことだった。

戦後に産声を上げたフェラーリの黎明期におけるビジネスを支えたのは実は北米市場であった。グランプリレースやル・マン、ミッレミリアといった人気のモータースポーツシーンにおいていきなり活躍し始めた新興ブランドによる半レースカー・半ロードカーの価値をいち早く認めたのが北米市場だったのだ。そしてそれはもちろん、V12エンジンをフロントに積んだリアドライブの2シーターモデルだった。その状況は今も変わらない。マラネッロにとって北米市場とは育ての親であり、ある意味、生みの親であるイタリア市場よりも重要なマーケットかもしれない。

新型車とは812シリーズの後継となるフラッグシップのFRスポーツカーである。その名も12Cilindri。イタリア語での発音が日本市場でも推奨されており、「ドーディチ・チリンドリ」と呼ぶ。車名をあえて日本語で表せば、“フェラーリ12気筒”である。ちなみにイタリア人の間でも名前が少し長かったようで、単に“ドーディチ”と呼ばれることが多い。日本では圧倒的に“チリンドリ”だ。チリトリみたいで嫌だけれども、まだしも言いやすい。エンジンの型式名はF140HD。そう、これはエンツォ・フェラーリから続く自然吸気V12の系譜に連なっている。812コンペティツィオーネに積まれていたF140HB、およびデイトナSP3用のF140HCをベースに開発された新設計ユニットだ。

スペック的にはHBとよく似ている。総排気量6.5リットル、最高出力830cv/9,250rpm、最大許容回転数9,500rpmといったスペックは812コンペのそれと全く同じだが、最大トルクは678Nm/7,250rpmと逆に数値を下げた。これはユーロ6をはじめとする排ガスや音のレギュレーション対応のため、排気系をメインに再設計したからだ。

とはいえ実際には、新たに8速となったDCTのギア比や変速プログラム、革新的なトルク制御システム“アスピレーテッド・トルク・シェイピング”(ATS)などにより、ドライバーの感じる速さは(812に比べて若干の重量増もあるにもかかわらず)一層素早く官能的であるらしい。

そのほかシャシー面をチェックすれば、剛性アップや軽量化といった基本的な取り組みはもちろん、ホイールベースはなんと20mmも短くなり、各種電子制御技術(ヴァーチャルショートホイールベースやサイドスリップコントロール8.0など)のブラッシュアップ、リアを左右独立でコントロールする4WS、V12モデル用としては初となるブレーキbyワイヤの採用(ABSエヴォと6w-CDSセンサー)など、パフォーマンスの進化は多岐に及んでいる。

12気筒エンジン継続以上に驚かされたのはデザインだ。アンベールされた瞬間、脳裏をよぎったのは365GTB4デイトナ、それも初期型のプレキシノーズモデルだ。チーフデザイナーのフラビオ・マンゾーニはデイトナオマージュであることを否定したが、そう見えるのだから仕方ない。

中でもフロントノーズはデイトナデザインのモダナイズ版だといっても過言ではない。中央のブラックアウトされた部分はプレキシグラスモデルとよく似ている。サイドに回り込んだライト周りのデザインだってそっくりだ。さらにデイタイムライトを内蔵するライト下のフラップなどは、その昔の分割されたバンパーの現代的な再解釈だと言えなくもない。

フロントフェンダーからリアエンドへと至る水平のダブルキャラクターライン、それがリアフェンダーで切り取られたあたり、そしてルーフからリアエンドへ向かっての柔らかなラインなどもデイトナのフォルムやディテールを彷彿とさせる。ちなみにフロントフードはプロサングエと同様のコファンゴスタイルとし、前ヒンジ開きだ。

ホイールベースが20mm短くなって、グラマラスなリアフェンダーと尖ったロングノーズが極端に強調されている。真横から見れば、ちょっとアンバランスに見えるくらいユニーク。小さなキャビンはかなり後方にあって、まるでリアフェンダーの上に乗っかっているかのよう。ノーズが極端に長く見えるのは、V12エンジンが完全にフロントアクスルより後ろに収められているからだ。8速DCTはリアアクスルにあって、トランスアクスル方式とした。真のフロントミドスタイルである。

さらに際立って個性的に見える場所はリアセクションだろう。斜め後ろ、やや上方から見るとデザインチームが“デルタウィングシェイプ”と称したユニークな形がよくわかる。まるで前方へと突き進む大胆な矢印。ゴージャスでデイトナライクなフロントとは対象的にウルトラモダンな雰囲気だ。

ルーフからリアエンドにかけてブラック~ボディ色~ブラックと大胆に3分割された。ルーフは通常ガラス製だが、黒いカーボンファイバーパネルも選択できる。これらとサイドウィンドウが一つの黒いエリアを、さらにもう一つ、リアウィンドウとリッド、そして新たな空力アイテムである左右のエアロフラップによっても黒いエリアが作られた。二箇所の黒いエリアの間をグラマラスなリアフェンダーからピラー、そしてルーフの一部へと続くボディ同色エリアがブーメランのように区切っている。ちなみにこのモチーフはインテリアのセンターコンソールにも使われていた。

ユニークなエクステリアデザインは、エアロダイナミクス性能を可能な限り高めた結果でもある。ちなみに左右のリアフラップはダウンフォースが積極的に必要とされる速度域(40~300km/h)において加速度に応じて自動にて作動する。

インテリアもまたエクステリアに負けずユニークでモダンだ。ローマ、プロサングエとこのところ立て続けにコクーンスタイルのデュアルコクピットを採用してきたが、ついにそのコンセプトが極まった。ほぼシンメトリーなコクーンが並べられ、デルタウィング形状のフローティング風ブリッジがその間を繋ぐ。

12チリンドリおよび同時に発表された12チリンドリ・スパイダーは、フェラーリ最新のエレガンスとパフォーマンスを両立するモデルだ。ローマやプロサングエといったGTモデルと、296やSF90といったスポーツモデルのちょうど中間に位置する。モダンフェラーリの全てを体現するという意味においても、そしてもちろんアメリカへと正規輸出の始まった1950年代から続くヘリテージに照らし合わせて見ても、12気筒2シーターモデルこそは今なおフェラーリの核心的存在であり、それゆえこのストレートなネーミングになったのだろう。

果たしてその実力のほどはいかに。早くもルクセンブルクで国際試乗会が開催された。

走り出していきなり驚いた。街中の速度域でプロサングエよりも乗り心地が良かったからだ。市街地走行において、マラネッロ史上最もコンフォートなクルマだろう。

空いたカントリーロードでもその印象は継続する。快適なクルーザーである。やはりマラネッロの開発陣はマジメだった。そのエクステリアイメージに合わせるかのように、マラネッロ史上最高、どころか英国のラグジュアリィブランドにも迫る快適な乗り心地が与えられた。なるほど見栄え質感でも匹敵すると思えたから、乗り味がそうなったのも当然か。

では、F140HDエンジンのフィールはどうだったか。

ウルトラ・シルキーであった。9,000回転まで澱みなく回る。サウンドはもちろん勇ましいけれどもラウドというほどではない。キャビン内に響くエンジン音はBGM並みに聴きやすく、それでいてクルマ好きを鼓舞してやまない。

驚いたのは9,000回転まで回ってなお、キャビンは一切のバイブレーションと無縁だったこと。エンジンとミッションの存在感が、振動の上では見事に抑え込まれている。

ドライブモードによるとはいえ変速ショックも見事に抑えられていた。しかも変速そのものも相当に速い。もちろんレースモードではダイレクトな変速フィールも演出される。いずれにしても、スタイルやライドフィールに恐ろしくマッチしたパワートレーンだと言っていい。

かくも超優等生な仕上がりの12チリンドリだが、加速中に見せる切れ目のない力強さという点では従来モデル(812スーパーファスト)を凌いでいる。812コンペティツィオーネと比べると、加速フィールという点では劣るかもしれない。絶対的な速さはほとんど変わらないはず。

今回久しぶりに公式サプライヤーとなったグッドイヤーのプルービングコースで能力の一部を解放した(ちなみにミシュランも履く)。クローズドコースでも優等生であることは変わらない。非常に扱いやすく思えたからだ。各種電子制御の進化や後輪操舵はもちろん、20mmものショートホイールベース化が効いている。タイトヴェントの続く、決して楽しいとは言えないテストコースをひらひらと自在にこなし、時にリアの滑り出しを心地よく感じさせつつ、余裕のスポーツドライブを続けることができた。ちなみにコースのストレート部分で280km/hまで出してみたが、エアロダイナミクスの優秀さを証明するかのように、その安定感もまた驚くほど高かった。P.B.

FERRARI 12Cilindri
全長 4,733 mm
全幅 2,176 mm
全高 1,292 mm
ホイールベース 2,700 mm 車両重量 1,560 kg
エンジン型式 65 ° V 型 12 気筒 ドライサンプ
総排気量 6,496 cc
ボア×ストローク 94 mm × 78 mm 最高出力 830 CV / 9,250 rpm 最大トルク 678 Nm / 7,250 rpm
トランスミッション 8速 DCT 駆動方式 後輪駆動
タイヤ F: 275/35 R21 R: 315/35 R21 0-100 km/h加速 2.9 s
最高速度 > 340 km/h 
本体価格 56,740,000 円
https://www.ferrari.com/ja-JP
https://youtu.be/DdflxSmUD00?si=AAr0BZYj-s43mdvW
https://youtu.be/-JBXESNtZqw?si=oox4byLcMVeywpL6