SEA RAY Sundancer 370 Outboard
text:Atsushi Nomura photo:Makoto Yamada
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アメリカの老舗クルーザーブランド「SEA RAY(シーレイ)」の定番中の定番モデル「Sundancer(サンダンサー)」が大きく生まれ変わっている。
独特のスポーツスポイラーのシルエットは継承しつつ、一体型ハードトップ、アウトボード搭載など、
より現代的に、より美しく、そしてより使いやすくリニューアルされている。
今回紹介するのはMERCURY Verado 600馬力船外機を2基搭載の「SEA RAY Sundancer 370 Outboard」。
和歌山マリーナシティの沖合い、和歌浦湾にてシートライアルを行った。
7.6リッターV12、600馬力のモンスターVeradoを2基搭載した新生 「Sundancer 370」
トップスピード53ノット、しかも抜群の安定感を誇るアメリカンラグジュアリークルーザー
SEA RAY(シーレイ)」は1959年創業の北米を代表するクルーザーブランドである。テネシー州ノックスビルのヘッドクォーターを中心に、フロリダやメキシコにも生産拠点を持ち、多彩なモデルを生産している。現在は19フィートから40フィートにラインナップを展開。ブランドを代表するSundancer(サンダンサー)をはじめ、Sun Sport、SLX、SDX、SPXの5シリーズが揃っている。かつてのSEA RAYのパワートレインはインボードあるいはスターンドライブが主流であったが、アウトボードの高馬力化に伴い、現在のSEA RAYはほとんどのサイズでアウトボードモデルが用意されている。今回紹介するのは、600馬力という世界トップクラスの量産型アウトボードエンジンを2基掛けした「SEA RAY Sundancer 370 Outboard(シーレイ・サンダンサー370アウトボード)」である。
Sundancerと言えば、SEA RAYを代表するシリーズであり、独特の前傾したスポーツスポイラー(レーダーアーチ)など非常に特徴的なシルエットで世界的な人気を誇っている。ここ数年来のSundancerは、スポーツスポイラーがハードトップと一体化している形態が多く、最新鋭のSundancer 370もこのスタイルが採用されている。伝統のSundancerのスタイルを継承しつつ、新しい時代に対応した新生Sundancerと言えるだろう。
パワートレインは前述のように600馬力、ツインのMERCURY Verado 600 Whiteを搭載している。V型12気筒、7,600ccというモンスターである。このエンジンの特徴は、ステアリングを切ったときに本体を左右に振るのではなく、まるでポッドドライブのようにロアケースのみを稼働させる点だ。そのため、振り向けばラダーがどちらを向いているかが分かるというアウトボードならではの特徴は無くなった。もっとも本体全体を動かすとなるとトランサムおよびモーターウェルの耐久力や、設置位置のスパンなど、より余裕を持たせた造りが必要となるため、ロアケースのみを稼働させるというアイデアはうなずける。ちなみにVerado 600自体は6基掛けまで可能であり、実際に北米ではそういったボートも市販され始めている。今回のSundancer 370の場合、スタンダードはトリプルVerado 300 Blackであり、オプションで同じトリプルのWhite仕様、ツインVerado 600 Black仕様およびWhite仕様というエンジンバリエーションがある。真横からの姿を見るとVerado 600 WhiteはSundancer 370のために作られたのではないかと思えるくらい美しくマッチしている。
スピード感覚が狂う航行性能
今回は和歌山マリーナシティの沖合いでSundancer 370のシートライアルを行った。当日は多少風はあったものの小さな波が立つ程度でまずまずのコンディション。さっそく桟橋を離れゆっくりと港外へと向かう。MERCURYのJoystick Pilotingシステムを使いデッドスローで進む。MERCURYが採用しているジョイスティックはかなり太めで握りが安定するため、揺れるボートの操船にはとても扱いやすい。また、エンジンパワーは合わせて1,200馬力に達するが、デッドスロー時は想像以上に静かだ。
沖合いに出て徐々にスロットルを上げていく。まったくハンプを感じないうちに、グンッと驚くような反応があって一気に加速する。ただし暴力的な加速ではなくパワーからすれば非常に優しい。ほんのわずかな時間で30ノットに達しているが、スピード感がおかしい。とてもそんなに出ているようには思えない。20ノット前後だろうと思いメーターを二度見してしまう。さらにシフトを押し込んでいく。同じような感覚のまま40ノットを超える。さらに押し込む。50ノット到達。この日はマックス6,200rpmで52~53ノットをマーク。シートライアルの際は、オートトリムタブDRSを使っていたが、マニュアルで攻めればもっと伸びそうだ。
しかもSundancer 370は、50ノットを超えてもなお驚くほど安定感のある走りを見せる。コクピットはハードトップと大型ウインドスクリーンに守られており、クローズ状態であればほとんど風が顔に当たることはない。トップスピードでも、とても50ノットオーバーとは思えない快適さだ。
その後、一旦、30ノットまでスピードを落とす。50ノットに比べると30ノットはまるで止まっているかのような錯覚に陥り、スピード感覚が狂う。30ノット前後でスラロームを行うが、極端な傾きがなくアウトボードっぽくない走り。しかも非常に安定しており、37フィート艇としては旋回性能も抜群に良い。40ノット近くまで出して同じようなマニューバを行うがやはり素晴らしい安定感だ。高速走行のまま自身で作り出した引き波に突っ込んでみたが、ほとんど衝撃が感じられない。さらにスプレーは上がるが帰航後もフォアデッキはほぼドライだ。艇体剛性もさることながら、ハルデザインが優れている証左だろう。ソフトな波当たりと、旋回時も緩やかなヒール、これならボートが初めてのゲストにも安心だ。Sundancer 370は、全体に小回りが利きながらも、37フィートというサイズはしっかりと感じられる。非常に扱いやすいのが印象的だった。
エクステリアは従来からの美しいSundancerのラインを踏襲しつつ、ハードトップと一体化したスポーツスポイラーが個性的だ。コクピット両舷のサイドスクリーンは、標準は上部が空いたオープンウインドシールド仕様だが、今回の艇はハードトップまでサイドスクリーンが閉じたクーペエンクローズ仕様。これにより走行中もコクピットに風が吹き込むことはない。ハードトップの中央は開閉可能なサンルーフになっており、独特のデザインが施されている。このデザインパターンはソファやシートなどのステッチにも統一して採用されておりなかなか凝った造りだ。ハードトップ後端にはオプションの電動延長サンシェードを搭載。コクピット全体が日陰になり、真夏にはとても快適だろう。
桟橋からトランサムのプラットフォーム経由でアクセス。アウトボードは大型スイミングプラットフォームの後部に取り付けられており、エンジンの前の部分までデッキになっており、普通に歩けるだけのスペースが確保されている。右舷側にゲートがありコクピットへ。コクピット後部のシートの背もたれもバックトゥバックになっているため、単なるシートとしてだけでなくサンベッドにも可変だ。コクピットは左右に二つのL字ソファが並び、中央にはテーブルもセット可能。左舷前部にはL字カウンターのアッパーギャレーがあり、冷蔵庫やバーベキューグリル、シンクなどが揃っている。それらの前にドライバーズシートとパッセンジャーズシートが並ぶ。そして右舷側がヘルムステーションだ。
快適なキャビン空間
ヘルムステーションにはタッチパネルのディスプレイが2面、ステアリングの脇にはスイッチ類が整然と並ぶ。右側にシフトレバー、ジョイスティック、トリムタブのコントローラーが配置されている。大型サイドスクリーンのおかげで、左旋回時にもドライバーズシートから左舷側の視界が損なわれることはなく、とても見やすい。実際に旋回走行をしていて強く感心させられた点だ。
フォアデッキへは左舷のパッセンジャーズシート前のウィンドウドアを通ってアクセスできる。フォアデッキには大型ソファがU字に並び、上部にはサンシェードもセットできる。コクピット、スイミングプラットフォーム、フォアデッキなどのデッキ面は、EVAマットのSeaDekを全面に張りめぐらせてある。素足で乗り込んでも、熱くなりすぎず、ソフトな感触を体感できる。
ヘルムステーション左のコンパニオンウェイを降りるとロアフロアへ続いている。最初に目に映るのは、シンクが配置された左舷側のカウンター。そしてその前方にL字の大型ソファ。大型ソファの奥はV字バースとなっており、手前のソファの座面を持ち上げることでダブルサイズのベッドとなる。右舷側のスペースは大型の個室ヘッドで、その奥には独立したシャワールームも擁している。ロアフロアは全体的にヘッドクリアランスがしっかりと取られており、広く感じられる。コンパニオンウェイの裏側、ちょうどミジップ付近にはU字ソファを配置したキャビンがあり、ここもバースとして使用可能だ。コクピットおよびロアフロアのインテリアマテリアルは全般に落ち着いたベージュ系の色合いに統一されている。
長年SEA RAYのインポーターを務める「アインスAリゾート」は、国内では数少ない自社でボート展示場やストックヤードを有する輸入元である。基本的に在庫艇を持つという方針で経営されており、常時、多数のストックボートを保有しているため、ユーザーが “欲しい” と思った時に即納できる態勢が整っている。COVID-19以降の世界的なボート供給不足下にあっても、SEA RAY本社との密接なパイプがあるため、Sundancer 370をはじめ多様な人気モデルが続々輸入されている点が同社の強みである。ストック艇も日本国内での用途に適したオプションが設定されており、魅力的なモデルが揃っている。
今回紹介したSundancer 370 Outboardは、ツインのMERCURY Verado 600 White搭載、50ノットを超えながらも非常に安定した走行を見せる。ハイポテンシャルなスピード性能と、快適な居住性を兼ね備えた素晴らしいエクスプレスクルーザーだ。 P.B.
【スペック】
SEA RAY Sundancer 370 Outboard
全長 12.12 m
全幅 3.66 m
喫水 1.02 m
重量 9.52 ton
エンジン 2× MERCURY V12 Verado 600
最高出力 2× 600 HP
燃料タンク 946 L
清水タンク 174 L
問い合わせ先 アインスAリゾート TEL: 072-224-4040
https://www.eins-a.jp