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ASTONMARTIN VANQUISH

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2024年9月2日、アストンマーティンの新たなフラッグシップVanquish(ヴァンキッシュ)が、ヴェネツィアのアルセナーレ(国立造船所跡)でワールドプレミアされた。伝説のVanquishの名を復活させる唯一無二のヘイローモデル。
クラス最高の835PS/1,000Nmを発揮する新型5.2リッターV12ツインターボエンジン、そしてアストンマーティン量産モデル最速となる345km/hの最高速度。年間1,000台以下が限定生産されるというウルトララグジュアリースポーツカー、そのメディア向け海外試乗会に、モータージャーナリスト大谷達也氏が招かれた。

text:Tatsuya Otani 
photo:Andy Morgan, Max Earey

V12エンジンを搭載したアストンマーチンのフラグシップモデル。

アストンマーティンのラインナップで頂点に君臨するモデル。それがヴァンキッシュである。

このことを証明するのが、アストンマーティンの現行ラインナップで唯一、V12エンジンを搭載している点にある。

しかも、このエンジンはアストンマーティンのパワートレイン部門によって新開発されたもの。生産自体はサードパーティに委託されるがその所在地もイギリス国内なので、久しぶりに誕生した純英国製V12エンジンということができる。

さらに驚くべきは、新開発のV12エンジンはヴァンキッシュだけに搭載され、それ以外のDB12、ヴァンテージ、そしてDBXには引き続きV8エンジンが積まれるという。裏を返せば、年間生産台数の上限が1,000台に設定されているヴァンキッシュだけのために、このV12エンジンは開発され、生産されるのだ。なんともぜいたくな話ではないか。

そのスタイリングもまた、アストンマーティンらしい美しさに溢れている。

ロングノーズ・ショートデッキの伝統的なプロポーションは、大排気量エンジンをフロントに搭載したハイパフォーマンスモデルを象徴するもの。そのフロントマスクには、下にいくにしたがって幅が広がるアストンマーティン伝統のフロントグリルが設けられているものの、個性的なデザイン要素はそれ以外にほとんどなく、無駄のないエレガントなラインでリアエンドへと導かれていく。

ただし、そのリアデザインはなかなか独創的だ。テールゲートやボディーサイドから流れるように続く曲面は、あるところですっぱりと断ち切られているが、その姿は1960年代のイタリアではやった空力ボディーのコーダトロンカに通ずるものがある。

しかも、テールゲートの下側には1枚の大きなプレートを装着。これでリアエンド全体を覆うことにより、後方から見たときにボディーのワイド感が強調されるように工夫されている。

ボディー構造はアストンマーティンが得意とするアルミボンデッド工法を採用。これは、アルミの柱を複数、接着して組み合わせることによりボディーの骨格を形成するもので、ここにアウターパネルを貼り付けることでボディーが完成する。ちなみに、ヴァンキッシュのアウターパネルはすべてカーボンコンポジット製というぜいたくさだ。

いっぽう、アルミボンデッド工法を用いたアストンマーティンのフラッグシップモデルは、アルミ製骨格をカーボンコンポジットなどで補強する構造を長らく採用してきたが、新型ヴァキッシュではカーボンコンポジットを用いず、純粋にアルミのみで構成しているという。これについては、カーボンコンポジットを用いない方がボディー構造の振動減衰特性を改善できることが理由との説明があった。

エンジンは前述したとおり新開発のV12ツインターボで、5.2リッターの排気量から835psと1,000Nmという途方もないパフォーマンスを発揮する。このパワーとトルクはプロペラシャフトで後方に導かれ、リアアクスル上に設けられたZF製8段ATとエレクトリック・リアLSDを介して後輪を駆動する“トランスアクスル方式”を用いる。ギアボックスを敢えてエンジンから切り離して車体後部に搭載するのは前後の重量配分を平準化するのが目的で、事実、ヴァンキッシュは重いV12エンジンをフロントに搭載しながら、51:49というイーブンに近い重量配分を実現している。

なお、0-100km/h加速は3.3秒とスーパースポーツカー並みの速さ。そして最高速度は345km/hで、これはアストンマーティンの量産モデルとして史上最速にあたるという。

国際試乗会の舞台となったのはイタリアのサルディーニャ島。もっとも、サルディーニャは南北に約200km、東西におよそ100kmもある巨大な島で、山間部にはスケールの大きなワインディングロードが幾重にも連なっていて、ハイパフォーマンスカーの試乗にはうってつけのロケーションである。私は喜び勇んでヴァンキッシュのコクピットに飛び乗った。

乗り始めてすぐに感じたのは、その快適性に優れた乗り心地だった。われわれはよく「足回りがしなやか」という表現を用いるが、新型ヴァンキッシュの場合は、もはや「しなやか」を通り越して「ソフト」にさえ感じたほど。この優しい乗り味は、同じアストンマーティンから1年ほど前にデビューしたDB12にも通じるもので、彼らなりの「グランドツアラーの新しい解釈」がそこに込められているように思う。

そう、本来アストンマーティンが得意としているのは「高性能なグランドツアラー」であって、いわゆるピュアスポーツカーとはポジションが明確に異なっている。その違いを陸上競技にたとえるなら、ピュアスポーツカーが短距離走であるのに対し、グランドツアラーは長距離走と表現できる。

すなわち、たとえピュアスポーツカー並みに高いエンジン出力を備えていたとしても、その本来の目的は「長距離を快適に移動すること」にあって、ピュアスポーツカーのように「ワインディングロードやサーキットでひたすら速く走ることを目指した」モデルとは位置づけが明確に異なっているのだ。

そうしたキャラクターの違いは、新開発のV12エンジンからも見て取れる。

前述した835psと1,000Nmというパフォーマンスを誇るV12エンジンは、「余裕ある高速クルージング」のために生み出されたもので、「サーキットでのコンマ1秒を削り取ること」を目的としたピュアスポーツカー用のパワートレインとは出自がまるで異なる。したがって、アストンマーティンが新たに生み出したV12エンジンは、一定速度で走行するクルージング時にはエンジン音がほとんど聞こえてこないほど静粛性が高い。また、ピュアスポーツカーによくある、スロットルペダルにわずかに触れただけでもエンジン回転数が急上昇してドライバーを鼓舞するセッティングではなく、リラックスしてドライブできるようによりマイル
ドな味付けとされている。それは、良質なグランドツアラーを作り上げるために、アストンマーティンが敢えて選択したキャラクターなのだ。

これを突き詰めていけば、エンジンはあくまでも黒子に徹するという考え方もあったはずだが、そこはアストンマーティン。走らせ方次第ではV12エンジンの官能性をしっかりと堪能できるセッティングも用意しているのだから、まさに心憎いばかりだ。

そうした、V12エンジンの「麻薬的な味わい」を引き出すには、ドライビングモードのS+を選択してからスロットルペダルを深々と踏み込むだけでいい。すると、それまでとは異質の「クォーッ!」というエグゾーストサウンドを響かせるとともに、レヴカウンターは急上昇。しかも、完全にバランスがとれているV12ならではの規則正しい鼓動をドライバーに明確に伝えながら、ヴァンキッシュは強烈な勢いで加速していくのである。

S+モードを選ぶと、ハンドリングも見事に豹変する。もっともマイルドなGTモードではあれほど穏やかな乗り心地だったのに、S+モードに切り替えるとボディーの無駄な動きが完全に消え去るとともに、ステアリングの切り始めからノーズが明確に反応するようになり、まさに意のままにコーナーをトレースできるようになるのだ。しかも、そんなときでも過敏な反応を示すことなく、強い一体感と安心感を伝えながらワインディングロードを駆け抜けていくあたりは、いかにもアストンマーティンらしいオトナの味わいといえる。

もっとも、今年初めにデビューした2シーターのヴァンテージは、ヴァンキッシュよりもさらに俊敏性が高いだけでなく、たとえサーキットでドリフト状態に持ち込んだとしてもカウンターステアで軽々と切り抜けられるほどの俊敏性とコントロール性を持ち合わせている。そうした軽やかなハンドリングはヴァンテージに任せ、グランドツアラー色がより強いDB12とヴァンキッシュはエレガントな走りでドライバーを魅了するというモデル構成をアストンマーティンは想定しているのだろう。そのうえで、ヴァンキッシュにはV12エンジンのぜいたくな味わいを盛り込むことで、フラッグシップモデルに相応しいプレステージ性をもたらしたというのが、ヴァンテージ、DB12、ヴァンキッシュの3モデルに対する私なりの解釈である。

しかし、話はこれだけでは終わらない。

現在、アストンマーティンの車両開発を指揮しているのは、ディレクター・オブ・ビークル・パフォーマンスのサイモン・ニュートンである。2000年から2007年までロータスでスポーツカー作りなどを手がけたニュートンは、ベントレーやウィリアムズF1などでエンジニアを務めた腕利き。それは、技術者として優れているというだけでなく、ときには開発車を自ら駆ってサーキットを走り、その感触をもとにサスペンションやパワートレインを煮詰めていくこともできる、いわば“二刀流エンジニア”なのである。

「クルマ作りの基本はすべてロータス時代に学びました」とニュートン。「ロータスではエンジニア自らがサーキットで試作車を操り、開発します。その過程で、エンジニア自身がダンパーを分解して特性を変更し、再び組み上げてからまたサーキットで走らせるということも行ないます。そんな私にとって、ヴァンキッシュはサーキットでも強烈に楽しく、そして走りがいのあるハイパフォーマンスモデルです」

ただ理屈を振りかざすだけでなく、クルマ作りや走りの基本を知り尽くしたエンジニアたちが精魂込めて作り上げている点こそ、現在のアストンマーティンの最大の魅力といって構わない。そして、そうした路線は、ニュートンと同様にかつてロータスで腕を磨き、アストンマーティンでチーフエンジニアの重責を担った後、現在はジャガー・ランドローバーでビークル・エンジニアリング・ディレクターを務めているマット・ベッカーが切り拓いたもの。実は、ニュートンとベッカーはともにロータス時代に「同じ釜のメシを食った仲間」であり、ベッカーの後を引き継ぐ形でニュートンはアストンマーティンに移籍したのである。

ニュートンやベッカーのように、クルマ作りの現場を知り尽くしたエンジニアがイニシアチブを握っているからこそ、現在のアストンマーティンはクルマのコンセプトが明確で、そうした思想がシャシーやパワートレインの隅々まで行き届いているのだ。これこそ、イギリスの伝統的なクルマ作りと呼ぶに相応しいものである。P.B.

ASTON MARTIN Vanquish
全長 4,850 mm
全幅 2,044 mm
全高 1,290 mm 
ホイールベース2,885 mm 
車両重量 1,910kg
エンジン型式 V型12 気筒ツインターボ
総排気量 5,204 cc
最高出力 835PS(614kW)/6,500rpm 
最大トルク 1,000Nm/2,500–5,000rpm
トランスミッション 8速AT
駆動方式 後輪駆動
タイヤ F:275/35/ZR21R:325/30/ZR21
0-100km/h加速 3.3s
最高速度 345km/h
車両本体価格 未発表(英国価格33万ポンド)
問い合わせ先アストンマーティンジャパン  
TEL:03-5797-7281
https://www.astonmartin.com/ja
https://www.instagram.com/reel/C_fgxC7JmL-/?igsh=ZnJkcmh6ZXA4c2l5