ABU DHABI UAE

伝統と先進性が凝縮するアブダビ
The synchronicity of United Arab Emirates
text: Keizo Kay Yamamoto
photo: Masahiro Ohashi
アブダビ市街をクルマで駆け抜けている。窓の向こうには、商業施設や観光施設などの現代的な意匠の巨大建築物や、悠然と立ち並ぶハイグレードな住居エリアの建物群が流れ去っている。超高層ビル群が、アングルによってさまざまな異なる表情を見せるのも印象的だ。この街は、アラビア半島のアラビア湾(ペルシャ湾)岸に浮かぶいくつかの島で構成されていて、それぞれの島は互いに巨大な橋梁とハイウェイスタイルの道路で繋がっている。橋を渡る時に目に飛び込んでくるアラビア湾の淡いブルーの輝きが美しい。周辺部には、今後、新たな大規模開発プロジェクトが進むだろう、基盤が整えられた広大な空間も広がっている。

アブダビ首長国は現在、UAE(アラブ首長国連邦)全体の土地の80%以上を占め、連邦の首都を預かるが、かつては数百のヤシの葉で作った小屋とわずかな数のサンゴで造られた建物、そして支配者の砦しかない土地だった。現在の都市としてのアブダビが形成され始めたのは、1966年に本格的に石油開発が開始されて以降。今からわずか約50年前である。
つまり車窓から臨む光景のほぼ全ては、わずかこの半世紀余の間に人の手によって設計、建設された複合都市の断片なのだ。都市を「人類最高の発明」と表現した経済学者がいるが、アブダビを訪れれば、自分が、近年「発明」され今も進化を続ける巨大な構築物の真っ只中に立っていることを、直感的に理解できるだろう。自身の肉体が都市の内部に存在し、その一部になっているかのような感覚は斬新で、なんとも心地良い。


クルマを降りて、アブダビ中心部の「シェイク・ザイード・グランド・モスク」を訪れた。全てが規格外の大きさと絢爛さであることに言葉が見つからない。UAE建国の父、故ザイード・ビン・スルタン・アル・ナヒヤンが建設した4万人を収容するUAE最大のモスクである。異教徒にも門戸を閉ざさないことも、この国と街の特徴を表すのだろう。
続いて、2017年に開館した「ルーブル・アブダビ」に向かった。「ルーブル」の名に恥じないどころか、それを凌駕する美術館としてのクオリティとスケールに圧倒される。ここはアブダビの都市としての開発が、いかにオーセンティックな文化と芸術に注力しているかを示す存在かもしれない。さらに、「カスール・アル・ワタン」(大統領官邸、宮殿)に出向くと、その想像を絶する壮大さと唯一無二の建築意匠と展示に、ただ驚愕した。それはUAEとアブダビの歴史、そして現在そのものと言える存在だろう。

市街中心部にあるこれらの訪問地そのものに加え、そこに到着するまでの道路や街並みが、考え抜かれて造られ美しく整備されていることが、とても印象的だ。それらは決して華美過ぎず、都市全体の秀逸なトータルデザインの一部として存在している。また、近未来的な先進性が強調されがちな湾岸諸国の大都市でありながら、その中に立つと、各所でそこに住むリアルな人たちの気配や息づかいも伝わってくる。街全体がまとまりとバランスを保ち、スタイリッシュな雰囲気を醸し、都市としてとても豊かで粋な空間を生み出している印象だ。
究極のリゾートアイランド「ヌライ」
Zaya Nurai Island
先に訪れたルーブル・アブダビのあるサディヤット地区に戻り、ヌライ島までのボート乗り場に向かった。ここにアブダビ屈指のハイエンドリゾート、ヌライ島「ZayaNuraiIsland」のウェルカムセンターがあり、リゾートのチェックインを済ませ、そのまま連絡ボートに乗船できる。ヌライ島までは約15分。本土側の島が橋で接続していることを考えると、「ボートで15分」という距離は、ヌライを「都市の中のリモートアイランド」のような存在にしている。

手続きを終えてボートに乗船すると、目的地ヌライ島までのアラビア湾の水上移動は想像より快適である。それは、太平洋とも大西洋とも、地中海ともカリブの海とも異なる、中東にしかない光と風が作り出す美しさだ。
到着地のヌライ島の桟橋ではスタッフが待ち、そのままバギーで割り当てらえたビラに案内された。面積約1平方キロメートルのこの島は、全体が一つの高級リゾート施設になっている。整備された樹木とビーチに囲まれた島にあるのは、わずか32軒の大型のビラ。そこに世界最高レベルのリゾートホテルとしての施設とサービスが、世界中から訪れるハイエンドの利用者に向けに用意されている。
それぞれのビラにはベッドルームとは別に広々としたリビングルーム、プライベートプールやパティオが備わっている。植栽が美しく管理された島内各所にあるレストラン、スパ、屋外プール、テニスコート、サウナ、ビーチなどの共有施設には、通信アプリなどを経由して呼べるカートやビラに備えられた専用の自転車で出向けるが、自身のビラの内部だけで、ほぼすべてのリゾート機能とサービスをフルに利用できる。


島内ではアルコールも制限なく飲むことができる。またプライバシーが保たれたビラの内部やプライベートプールの周辺は、特に女性たちが宗教的な戒律や慣習などから開放される特別な場所にもなっている。利用者は外見からはいわゆるセレブリティに分類される人たちが多いようだが、その国籍などはわからない。ヌライはあらゆる人にとっての「解放区」であるに違いない。
滞在したビラでのんびりと日中の時間を過ごしながら、プライベートプールとパティオのその先に続くアラビア湾の海原を臨んでいると、その自然環境と空気感、目の前に広がる海と空の色からは、そこがいったいどこの国のどんな土地なのか分からなくなる瞬間が幾度もあった。明らかだったのは、国際基準における最高レベルの美しいアイランドリゾートに、スタイリッシュな時間と空間がある、ということだけだった。それは究極の旅の時間である。

ヌライ島には、個人が所有する巨大なプライベートビラも建ち並び、各オーナーが自身のビラを拠点にして、島内のリゾート施設のラグジュアリーホテル機能をそのまま使えるようになっている。そして条件が合えば、ゲストがこれらのプライベートビラに滞在することも可能だ。その条件とは、ビラのオーナーの意向や空き状況だけでなく、その利用料を指す。これまでに長期利用した人には世界的に知られたハリウッド俳優などがいることからも、このヌライ島のすべてが、世界最高レベル、スーパーハイエンドの施設とサービスであることが想像できるだろう。
ヌライは常識的なものを超越した究極の楽園のような場所だが、それもまた、考え抜かれて設計された都市としてのアブダビの重要な一部であるに違いない。短い滞在を終え、この世界に隠されていた新たな宝石を見つけたような高揚した気分で、ヌライ島からボートで本土に戻った。

この旅ではアブダビの都市としての統合性や計画性に注目したが、そこで感じた連続性や一体感は建築物などの物理的なものだけではないはずだ。それはアブダビ到着以来絶え間なく体験し続けている、ラクジュアリーさとデザイン性、機能性、そして上質なクオリティの統一感だろう。ある土地を訪れて、ここまでの強い印象を持つことは稀だ。それは都市と来訪者である旅人がシンクロしていることに他ならず、究極的な旅体験の一つと言っていいのではないか。デスティネーションとしてのトータルのブランド力と完成度が高く、その進化を止めることのないアブダビは、再訪に値する都市である。P.B.
■ Zaya Nurai Island
https://nuraiisland.com



