
CRANCHI E52F EVOLUZIONE
ChristianGrandeが生み出す彫刻的なスタイリングに、イタリアメイドならではのインテリアイタリアのデザインと伝統の職人技、最先端の造船技術が融合したイタリアンクルーザー

text: Yoshinari Furuya
photo:Makoto Yamada
special thanks: RIVIERA ZUSHI MARINA
https://www.riviera.co.jp/zushi/
イタリア北部、美しい湖が点在する湖水地方。中でも湖畔の豪華なヴィラや自然の美しさで知られ、映画にも度々登場するコモ湖。ミラノからわずか40分の距離にありながら、聳える山々に囲まれ、鏡のような湖面に映し出されたアルプスの壮大な自然美に出会える。かつて王侯貴族が夏を過ごす避暑地として栄え、現在ではハリウッドスターたちが別荘を構えるヨーロッパを代表する高級リソート。この地から、「CRANCHI YACHTS(クランキ)」が歩んだ150年の歴史が始まったのだ。
CRANCHIYACHTSは、イタリアを代表する老舗造船所の一つ。創業者Giovanni Cranchiは1866年にコモ湖畔で最初の工房を開設。CRANCHI YACHTSとしては、1870年に木製ボートの建造に特化した企業として登録されたのが始まりだ。二世代にわたって事業を継承し、1932年、Briennoで木造船の量産を始め拡大。1970年、4代目Aldo Cranchiは経営パートナーとしてTullio Monzinoを迎え、その年には、Piantedoに造船所を移転。グラスファイバーボートの建造を開始する。
その後、新しいボートのデザインや造船所の近代化を推し進めるAldo Cranchiの努力と情熱により、CRANCHI YACHTSは急成長を遂げる。1997年には、スロベニアの国境に近いFriuli-Venezia Giuliaに全レンジの水上試験を行うマリンテストセンターを開設。2009年、世界で最も自動化されたレジャーヨットの造船所「Seventy Plant4」を稼働させる。この施設では、最大78フィートのヨットの量産を可能とした。そして2022年、サルデーニャ島北東部のオルビアにリフィッティングとメンテナンスを専門とするCRANCHI YACHTS Sardiniaを開設。最新のファシリティでCRANCHIのカスタマーをサポートする。

「CRANCHI E52 F Evoluzione(クランキE52Fエヴォルツィオーネ)」のデザインは、Aldo Cranchiと、Christian Grandeにより生み出されたもの。その個性は、伝統的な技能と最新の設備から生まれる先端技術。ナーバルアーキテクトのChristian Grandeは、ヨット、自動車、インテリアデザイン、建築など多岐にわたる分野で活躍するイタリアの著名なデザイナー。彼のデザインスタジオは1992年にパルマで設立され、以来、数々の賞を受賞。Christian Grandeは、デザインの世界で30年以上の経験を持ち、特にモーターヨットのデザインで高い評価を受けている。ChristianGrandeのデザインするCRANCHIは、機能性と美しさを兼ね備え、ユーザーの心を掴む芸術的なヨットデザイン。CRANCHIの世界的な成功を支えている。
CRANCHI YACHTSのインポーターは、クルージングライフをサポートする「リビエラリゾート」。そのリビエラリゾートが運営する「リビエラ逗子マリーナ」をベースにシートライアルが行われた。桟橋には、メタリックに輝くCRANCHI E52F Evoluzione。Grigio Cosmoと呼ばれるハルカラーの光と影の濃淡がアーバンイタリアンのスタイリングを引き立てている。

固定桟橋の先端に係留されたCRANCHI E52F Evo。潮が低いためポートサイドのブルワークから乗船する。サイドデッキをスターンに向かい2段下がるとアフトデッキ。アフトデッキやトランサムは非対称のデザイン。スイミングプラットフォームへ降りるゲートやステップは、スターボードサイドだけ。アフトデッキの最後部にはトランサムと一体のソファ。「くの字」に折れ、ポートサイドのブルワークまで延びている。トータル2,600mm幅のソファには、4人がゆったり座ることができる。ソファの前には、ヴァーニッシュ仕上げの輝くチークトップテーブル。1,200mm×690mmのテーブルは2つに折ることができる。移動がしやすくなるだけではなく、ハンドレールとカップホルダーが現れる仕様。航行時には折りたたんで使いたい。
アフトデッキからスイミングプラットフォームへ降りる。幅4,160mm、前後長1,600mmのプラットフォームは油圧で上下する昇降式。テンダーボートを横向きに搭載することができる。非対称のトランサムボード。ポートサイドにはクルールームに出入りするための水密ハッチ。クルールームは、トイレとシャワーが備わるシングルベッドルーム。トランサムボード中央にデザインされたリアウィンドウがクルールームに光を取り入れる。ここは、マリントイのストレージとして使うのも良いだろう。トランサムの上部は、アフトデッキのサンベッド。その最後部、サンパッドごとハッチを跳ね上げると、シンクやBBQグリルが備えられたウェットバーが現れる。スイミングプラットフォームがアウトドアギャレーに早変わり。このトランサムのBBQグリルは、デッキを汚さない人気のエクステリアだ。


スターボードサイドのサイドデッキをバウに向かう。ロアステーションの横には水密のドア。サイドデッキから素早くコクピットにアクセスできる重要なエクステリア。バウデッキは、開放感に溢れるバウラウンジ。フロントウィンドシールドのすぐ前には幅1,740mmのワイドなベンチソファ。左右のアームレストにはそれぞれ2つのカップホルダーとドリンククーラー。通路を挟んだバウ側には、サンベッド。前後2,050mm、幅1,960mmのキングサイズベッドは、リクライニングもできる。キャノピーで日差しを遮れば、デイベッドとして至極のシエスタを過ごすことができる。

サロンは、780mm幅のワイドなリアドアからエントリー。入ってすぐ左側には、カウンターで囲まれたアフトギャレー。リアガラスを上に跳ね上げると、アフトデッキと隔てる900mm幅のカウンターが現れる。アフトデッキやサロンのどちらにも直接サーブできるオープンキッチン仕様は、家族や友人と会話を楽しみながら調理ができる人気のデザインだ。カウンターギャレーには、Fosterの4口コンロとシンク、下にはSAMSUNGのコンベクションオーブンレンジ。コンロの上にはFABERの換気扇。吊り戸棚の中には、SCHOTTZWIESELのシャンパングラスとタンブラー。下のドロワーにはBAUSCHERのマグカップやエスプレッソカップ、2種類の皿が動いて割れないように専用スペースに収められている。また、スターボードサイドのキャビネットの中にはIsothermの冷凍冷蔵庫が2台納められ、長期のボートステイにも対応することができる。


サロンの中心は2段の階段を上がったソファラウンジ。ステップフロアは、座ったまま海面を見下ろせる眺望。ポートサイドには、2,350mm幅のU字ソファ。3分割のセンターテーブルを折りたたむと、革が巻かれた面と、革を巻いたハンドグリップが現れる。U字ソファの対面、スターボードサイドには1,600mm幅のベンチソファ。ベンチソファの背面には電動で上下し普段は収納されているTV。ポートサイドのコンソールボックス内にはDENONのAVレシーバー。両サイドのウィンドウの上部に配置されたBOSEのスピーカーシステムをコントロール。U字ソファに座り、映画や迫力ある動画を臨場感溢れる音響で楽しむことができる。サロンのフロアは木目調のフロア材。水や汚れ、スクラッチに強く変色しないマテリアルが使われ、メンテナンスフリーだ。

サロンの最前部は、ヘルム用のボルスターシートが搭載されたコクピット。そのすぐ横には幅510mm×高さ1,150mmのサイドハッチドア。ヘルムシートから即座にサイドデッキに出られ、サイドデッキからヘルムをコントロールすることもできる、ショートハンドやロングクルージングに適したレイアウト。このヘルムシートは、メガヨットクラスにも採用されているイタリアブランドBesenzoniの電動パイロットシート。ステアリングホイールの角度を決め、パイロットシートの左下にある操作パネルでステアリングホイールとの距離や高さに合わせて前後上下を調整し、好みのポジションにセットする。最適な硬さでホールド性も良く、長時間の航行でも疲労を最小に抑えてくれる。また、アームレストにIPSのジョイスティックも設置され、深く腰掛けたまま手元で操作することができる。このパイロットシートのメリットは他にもある。ジョイスティックと一体のアームレストを跳ね上げられ、座面のおよそ3分の2をフリップアップすることができるところ。ステアリングとヘルムシートの間を広くすることができ、コクピットからサイドデッキへの移動も楽に行える。そして、コンソールパネルには、12インチのGARMIN、HUMPHREEのオートパイロット、SLEIPNERのバウスラスターやFUSIONのオーディオコントローラーなど、航海機器が使いやすく配置されている。

フロントウィンドシールドの手前、ステップを降りるとロアデッキ。スターボードサイドは、ダブルのゲストルーム。バウキャビンは、中央にダブルベッドを配したVIPキャビン。フィックスのサイドウィンドウの他に、開閉できる丸窓が備わり客船のようでもある。サイドウィンドウの他にトップライトからも光が入る明るいキャビン。ヘッドコンパートメントやハンギングロッカーが備わるバウキャビンは、マスターステートルームとして使うのも良いだろう。
ロアデッキの後方にはフルビームを使ったマスターステートルーム。52フッターのインボード艇では、ここまで広いマスターステートルームを確保することは難しい。それを可能にしたのはVOLVO PENTAのIPS。高効率なPODドライブは、低排気量、低出力のエンジンで必要な推進力を得ることができ、さらに、エンジンとドライブのセットを低く水平に設置することで、エンジンルームをコンパクトにまとめることができる。

ドアを開けたすぐ右側のドアはマスターステートルーム専用のヘッドコンパートメント。その対面には、幅640mm、奥行640mm、高さ820mmのストレージ。スーツケースを2台収納することができるユーザビリティの高いアイデア。そこから2段下がったフロアは、1,900mm以上の天井高。中央にあるダブルベッド上のクリアランスは1,000mmだが、閉塞感はない。両サイドには、1,000mm×420mmのワイドなサイドウィンドウと開閉できる丸窓。海を愛でることができる広く明るいキャビンとなっている。左右、サイドウィンドウの下には大きな容量のドロワー。スターボードサイドには、1,000mm幅のハンギングロッカー。ワーキングテーブルを兼ねたバニティテーブルも揃う。クラスを超えたアコモデーションもCRANCHIの魅力の一つだ。

アフトデッキからステップを上がり、フライブリッジへ。全面を覆う3,700mm×3,200mmのワイドなメッシュオーニングが日差しを和らげる。オーニングの下にはLEDのダウンライトが付いているトレンドのスタイル。ナイトタイムやパーティーでもオーニングを展開するようになった。スターボードサイドの最前部には、ヘルムステーション。座席は980mm幅のベンチシート。ポートサイドからヘルムステーションの前面にサンパッドが回り込み、ヘルムステーションをバックレストにしたシェーズロングとしても使えるデザイン。リラックスしてクルージングの爽快感を味わうことができる特別な場所だ。
ポートサイドには2,600mm幅のU字ソファ。最前部はバックレストが後方に倒れ、前方を向いたベンチシートになる。U字ソファには、1,400mm×840mmのチークテーブル。輝くヴァーニッシュ仕上げのテーブルは、左右からたたむことができ、カップホルダーとハンドレール仕様になる。U字ソファの横、フライブリッジの最後部には、ウェットバー。トップにはシンクとカッティングボード、下にはIsothermの冷凍冷蔵庫が備わり、パーティーに華を添える。

360度アラウンドビューのフライブリッジで操船する。乗船者は2名。南の風3~5m/s。波の高さは0.5m~1m。GARMINのディスプレイに表示されるエンジンデータや回転数を確認しながら加速する。1,200回転で8.2ノット、1,500回転で10.1ノット、1,800回転で12.4ノット、2,100回転で16.3ノット、2,400回転で22.6ノット、2,700回転で26.7ノット、トップスピードは3,000回転で31.8ノットを記録。
向かい風、向かい波でトップスピードを試す。波を切り、ピッチングも無く、ソフトライド。船体のきしみ音もほとんど感じられない。船体の剛性感は高く、ねじれる感覚も感じられない。飛沫は中央付近で立ち上がり、アフトデッキへのミストの巻き込みもない。

クルージングスピードの23~25ノットで旋回をする。IPS艇にまれにある、大きく傾き急激に旋回するような挙動は見せない。ステアリングをリミットまで素早く回した際でも、マイルドな動きで、最適なバンク角を保ち、安定し、大きな旋回半径で綺麗に一定の弧を描く。左右交互に、クイックにステアリングを切り返しても、横波の影響をほとんど受けることなく、極端なバンクや揺れ戻しなど不快なローリングも皆無。均等なマニューバを描き、綺麗な航跡を残す。シャフト船を操るような感覚に近く、安心感のあるフィーリング。見事なセッティングだ。
CRANCHIE52FEvoluzioneは、イタリアのデザインと伝統の職人技、最先端の造船技術が融合したイタリアンクルーザー。その美しさと性能は、海を愛するすべての人々にとって、最高のパートナーになるだろう。P.B.
CRANCHI E52F Evoluzione
全長 15.82m
全幅 4.67m
喫水 1.25m
重量 20.1ton
エンジン 2× VOLVO PENTA D8-IPS800
最高出力 2×600HP
燃料タンク 1,570L
清水タンク 540L
問い合わせ先 リビエラリゾート リビエラ逗子マリーナ
TEL: 0467-23-2440
https://www.riviera.co.jp/marina/sales/





