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生まれ故郷Portoで愉しむ、ポルトガルの赤い宝石「ポートワイン」

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270年にわたりポルトガル人の手で経営される唯一のポートワイン「Ferreira」と“黒マント男”のトレードマークで知られるイギリス王室御用達の「Sandeman」

photo & text: Masahiro Ohashi

リスボンに次ぐポルトガル第二の都市ポルト(Porto)はポートワインの積出港として栄えた古都。ドウロ川沿いの丘に広がる煉瓦色の屋根と白壁の建物が建ち並ぶ旧市街地は、1996年にポルト歴史地区としてユネスコの世界遺産に登録されている。旧市街には14世紀に建てられたバロック建築で有名なサン・フランシスコ教会や、ポルトガル伝統のタイル、アズレージョを2万枚使用した壁が美しいサン・ベント駅舎などがある。また、丘の上からはオレンジ色の屋根が美しいポルトの街並みを一望できる。街には歴史的なカフェやレストランが点在していて、レトロな看板や建物を見て歩くだけでも楽しめる。なかでも、世界一美しい書店とも称される「レロ・イ・イルマオン(レロ書店)」は必見だ。アールデコ様式の螺旋階段やノスタルジックな雰囲気の店内は観光名所になっていて、開店前から行列ができるほどだ。ハリーポッターの作者J.K.ローリング女史がポルトに住んでいた時によく訪れていたことで、作品中に登場する「フローリッシュ・アンド・ブロッツ書店」はこの書店に似ているらしく、ハリーポッターの世界観を彷彿とさせる美しい書店を見ようと、連日多くの観光客が訪れる。

ドウロ川に架かるドン・ルイス1世橋は、ポルトを象徴する建造物。この橋はエッフェル塔の設計で名高いギュスターヴ・エッフェルの弟子であるテオフィロ・セイリグが設計し、1886年に完成した。橋は2層構造になっていて、上層はメトロと歩行者用、下層は自動車と歩行者用で、旧市街から橋を渡ると、向かい側のワイナリーが立ち並ぶヴィラ・ノヴァ・デ・ガイア地区へたどり着く。川沿いにはレストランやポートワインのワインセラーが軒を連ねているので、お気に入りのワイナリーを見つけたら見学や試飲をして、ほろ酔い気分でドウロ川沿いを散策するのが正しいポルトでの過ごし方だ。

目移りしてしまうほどたくさんのワイナリーがあるなかで、まずは老舗の「Ferreira(フェレイラ)」のワインセラーを訪ねてみた。白壁とオレンジ色の屋根瓦はポルトガル伝統の建物で、その佇まいに惹かれる。ポートワインの生産者兼商人のフェレイラダレグア家によって1751年に設立された「Ferreira」は、これまで常にポルトガル人によって経営されてきた唯一のポートワイン会社で、現在は「マテウスロゼ」の生みの親であるポルトガルの家族経営企業ソグラペ社が所有していて、270年以上にも渡り世代から世代へ受け継がれてきたことになる。ガイド付きツアーに参加してワインを熟成させる大きな木樽が貯蔵されている倉庫とヴィンテージミュージアムや庭園を訪れた後には、お待ちかねのテイスティングの時間がやってくる。グラスにはホワイト、ルビー、トゥニーの3つのワインが注がれる。それぞれ熟成の異なるワインの色と香りを愛でながらポートワインの奥深さを心ゆくまで堪能する。

次に訪れたワインセラーは1790年創業の「Sandeman(サンデマン)」。黒い帽子とマントを纏った“ザ・ドン”と呼ばれるイメージキャラクターで有名なポートワインとシェリーのメーカーで、創業者のスコットランド人ジョージ・サンデマンはワイン界で初めてブランドロゴの商標登録を行なった商才の持ち主。1909年には英国王室御用達となり、今では世界的に有名なポートワインとしての地位を確立している。ここでもセラー内の見学とテイスティングのツアーに参加してみることにした。

ツアーの時刻になると“ザ・ドン”のコスチュームに身を包んだスタッフが現れる。当時の写真や実際に使われていたラベルなど貴重な資料が保管されているライブラリーを説明を受けながら見学してから、ずらりと木樽が並ぶセラーを案内される。黒いマントを纏うスタッフに誘われ薄暗くひんやりとしたセラーを歩いていると、中世の時代にタイムスリップしたかのような不思議な感覚になってくる。それは、数百年もの長い間ワインを熟成させてきた木の樽が発する香りによるものかもしれない。最高品質のワイン製造と共に、世界に先駆けてブランディングを行い、広告展開に長けたSandemanのセラーは、伝統と洗練さが同居する素敵な空間だった。Sandemanの世界観を堪能してセラーを後にするとすでに日は傾き、ポルトの街は茜色に染まっていた。

ポルトのヴィラ・ノヴァ・デ・ガイア地区では、FerreiraやSandeman以外にもいくつかのセラーでテイスティングや見学を楽しんだ。そこで、せっかくだから日帰りのボートクルーズを利用してドウロ川上流のポートワインの生産地を訪れることにした。朝、ポルトを出発した観光船はのんびりとドウロ川上流を目指す。現在では緩やかな流れの川だが、かつては岩が多く急流で危険だった為、ダムが作られて数か所の水位調整用のドックが設けられた。途中、ヨーロッパ最大35mの段差を繋ぐドックをはじめ、いくつかのドックを通過していくと両岸の斜面に葡萄の段々畑が続く素晴らしい景観が現れる。この地域はレコンキスタ(国土回復運動)でイスラム教徒の支配から独立したポルトガル発祥の地でもあり、川沿いには豪華絢爛な領主の邸宅や荘園、さらに教会が点在している。ドウロ川上流は『アルト・ドウロ・ワイン生産地域』として、ユネスコ世界文化遺産に指定されていて、人の手によって少しずつ開墾された畑を支える石壁と傾斜のきつい渓谷沿いに作られた葡萄畑の景観に圧倒される。当時は、ワイン樽を何個も括り付けた底の浅いラベーロ船がワインを下流のポルトまで運んでいたのだ。今でこそ交通網の発達により陸路で簡単に運ぶことができるが、かつての輸送手段は船に限られていた。ワイン樽の運搬で活躍し、時代と共にその役割を終えたラベーロ船は、ヴィラ・ノヴァ・デ・ガイア地区のドウロ川に留め置かれ、ノスタルジックなポルトの景観に華を添えている。

ドウロ川上流の葡萄畑やセラーの樽など長い年月をかけて守り続けられてきたポートワインの歴史に触れたことで、食後に嗜むポートワインの時間がより楽しみになった。芳醇な香りと熟成されたルビー色のワインをグラスに注ぐたびに、ゆるやかに時の流れるポルトの街並みを思い出すことだろう。P.B

■ Ferreira
https://portoferreira.com

■ Sandeman
https://www.sandeman.com