1. HOME
  2. TRAVEL
  3. Italia Wine Country II – イタリアワインの銘醸が並ぶ、ピエモンテ州を訪ねて
TRAVEL

Italia Wine Country II – イタリアワインの銘醸が並ぶ、ピエモンテ州を訪ねて

TRAVEL

ピエモンテ州はアルプス山脈南西麓に広がる州で、イタリアを代表する世界有数のワイン生産地だ。
銘醸ワインが多く造られる地域で、中でもクーネオ県にあるふたつの小さな村、バローロとバルバレスコはその代表格となっている。
18世紀に丘の中腹に建つバローロ城城主夫人がワイン造りに夢中になり、これがバローロワインの興隆のきっかけになったという。
この城は現在でもバローロ村の中心に建っている。
高格付けの「D.O.C.」、「D.O.C.G.」のワイン生産量がイタリアでもっとも多く、多様な品種が栽培されているピエモンテ州のワイナリーを訪ねてみた。

text & photo: Hidehiko Kuwata

ピエモンテ州は、まさにイタリアワインの代名詞

バローロを代表するワイナリー「ボルゴーニョ」の屋上から望むバローロ村の眺め。ワインスペクテーター誌に「あっと驚くような赤ワイン!」と評されたバローロD.O.C.G.『バローロリステ』は、このワイナリーのフラッグシップだ。

バローロ、バルバレスコ、ガッティナーラ、アルネイス、カヴィ……
世界的なワイン生産地を数多く擁するピエモンテ州は、まさにイタリアワインの代名詞

 クーネオ県バローロは人口700人ほどの小さな村で、イタリアではコムーネ(共同体)と呼ばれる規模である。村の中心を走るアルバ通りを上っていくと、左手にワイングラスをイメージしたオブジェが設置された小さな公園があり、その先には印象的な黄色い建物のオステリアが建っている。横にある小さな路地を進むと、奥には「BORGOGNO(ボルゴーニョ)」と記された看板が掲げられたワイナリーの入り口が現れる。ここはピエモンテ州で最も古い歴史を持つワイナリーで、1761年に創業された。村の小さな地下室でワイン造りを始めたボルゴーニョは、その後1861年のイタリア統一祝賀会など、イタリアの歴史に度々登場する有名なワインとなる。


 現在ボルゴーニョは13ヘクタールのブドウ畑を所有しており、そのうちの9ヘクタールはこの地域を代表するネッビオーロ品種だ。化学肥料や除草剤は使用せず、発酵も自然酵母を用いて厳格な温度管理下で行われ、酸化防止剤も最低限の使用にとどめられている。経営のトップを務める若きオーナー、アンドレア・ファリネッティはセラーを案内しながらこう語る。「2009年にこのセラーは大規模な改築を施したけど、基本的な構造は創業者であるチェーザレ・ボルゴーニョが構築したものと同じだ。いろいろ模索したけど、最高のバローロを造るには、大樽での長期熟成が最適な選択だ」。彼の言葉通り、スラヴォニアオークの大樽で4年間、瓶内熟成6ヶ月という丁寧な工程から生まれるD.O.C.G『バローロリステ』は、まさにボルゴーニョのポリシーを貫いたフラッグシップとなっている。

北ピエモンテを代表する深みのあるガッティナーラワイン

 ピエモンテ州北部にあるガッティナーラも、バローロ、バルバレスコに匹敵するワイン生産地である。北部セージア川左岸に位置し、アルプス山脈の裾野の丘陵にブドウ畑が広がっている。標高400mほどにあり、火山性土壌と氷河による堆積土壌に覆われ、火山性土壌は主に斑岩によって形成されるという、テロワールに恵まれた地域だ。ネッビオーロ品種から造られる、北ピエモンテを代表する深みのあるガッティナーラワインを生産しているワイナリー「TRAVAGLINI(トラヴァリーニ)」を訪ねた。

 トラヴァリーニは1920年にクレメンテ・トラヴァリーニによって設立された。現在は孫娘であるチンツィアが3代目オーナーとなり、夫のマッシモがチーフワインメーカーを務めている。まさにファミリービジネスである。ワイナリーの周辺は堆積岩によるミネラルの多い土壌に恵まれ、気候は大陸性で冷涼だが夏場の陽射しは強く、同時にアルプス山系からドライで冷涼な風が吹いてくる。このブドウ栽培に最適なテロワールが大きな後ろ盾となり、トラヴァリーニのガッティナーラを唯一無二のワインにしているのだ。

 マッシモは遠くにアルプス山系を望むトラヴァリーニ所有のブドウ畑を案内してくれた。「ワイン造りにもっとも重要なことは、土壌と天候だ」。彼は毎日自社畑を巡回し、祈るような気持ちで空模様を見上げ、セラーで綿密に熟成を確認する。「もう10代の頃からずっとこの生活だよ。他の仕事は何も知らない。僕にとってワイン造りはまさにライフワークさ」。現在、トラヴァリーニはガッティナーラのD.O.C.G.畑のうち、およそ50%を所有しており、マッシモはこれら全ての土壌のコンディションを把握しているという。
 トラヴァリーニのフラッグシップである『ガッティナーラ・リゼルヴァ』はまさに逸品で、ガッティナーラが属するヴェルチェッリ県の銘醸となっている。独特な形状のボトルデザインは、ボトルにオリが溜まることを前提にした設計になっており、瓶内での長期熟成を想定したものだ。深淵なガーネットの赤にエレガントなチェリーや薔薇の香り、かなり個性的なテイストだが、染み渡るような旨味と上品な喉越しが楽しめる。「まさにガッティナーラの味わいだよ。個性的だけど絶対に気に入ってもらえると思う」。

CASTELLO DI NEIVE(カステッロ・ディ・ネイヴェ)

 ピエモンテ州の州都であるトリノと、地中海に望むジェノヴァの中間点に位置するクーネオ県ネイヴェ。山頂にある小さな集落のような趣のこの町を少し離れた場所から眺めると、一番目立つのが「CASTELLO DI NEIVE(カステッロ・ディ・ネイヴェ)」がワインセラーとして使用している、18世紀に建造された古城である。社長はイタロ・ストゥピノで、アンナ、グリオ、ビエラを含める兄弟たちと所有している。ワイナリーを創業したのは父親のジャコモで、彼は長年この地域で土地の測量技師として働いていたおかげで、周辺の土壌などを熟知しており、ブドウ栽培に適した土地を見つけると、可能な限り購入していった。これが今日のカステッロ・ディ・ネイヴェの礎となったのである。

現在経営を取り仕切るのは、イタロ・ストゥピノ

 自宅の小さなセラーでスタートしたワイン造りは順調に推移し、1964年にすでにワインセラーの設備のあったこの古城を購入したのだ。1970年にジャコモが亡くなった後は、イタロとグリオがビジネスを引き継いだ。2人は専門的な農業技術者を雇い、契約農家に委ねていた畑の管理を、ダイレクトに自分たちの監督下でコントロールするようになる。1978年にはトリノ大学と共同で絶滅しかけていた白ワイン用品種、アルネイスのクローン開発の研究に着手した。アルネイスはデリケートで病気に罹りやすく、非常に栽培が難しい品種だ。「いたずらっ子、へそ曲がり」を意味するアルネイスという名称も、この栽培の難しさからきているという。2004年にはD.O.C.G.にも認定され、現在ではピエモンテを代表する白ワインとなったロエロ・アルネイスは、この共同研究の結果が実を結んだものである。イタロは伝統的な栽培方法を維持しながら、土壌に対して科学的なアプローチを現在でも続けている。

 古城の地下は迷路のようなセラーになっており、伝統的な醸造設備を活用しながら、温度調整や発酵管理においては最先端の制御システムが導入されている。バロック様式のチャペルや祭壇が設けられている古城の1階にあるダイニングが、テイスティングルームとして使用されている。フラッグシップはバルバレスコD.O.C.G.『サントステファノ』だ。彼らの所有する単一畑の名称を冠した樹齢30~40年のネッビオーロ100%の逸品で、エレガントな甘さとスパイシーな味わいのバランスが素晴らしい。

ピノネロの香りが楽しめるスプマンテ『メトドクラシコ』、ランゲアルネイス品種の『モンテベルトット』、イタロ一押しのランゲロッソ『アルバロッサ』など、素晴らしいワインの数々が並ぶ。


 ジェノヴァの北およそ20キロに位置するアレッサンドリア県カヴィは、人口が5,000人にも満たない小さな村だが、イタリア最上位の辛口白ワイン “カヴィ” の産地として、世界的に有名である。この名称が使えるのはカヴィを中心とした11のコムーネのみである。この地域で栽培、醸造、瓶詰めされたワインだけが “カヴィ” を名乗れるのだ。その代表的なワイナリーが「BROGLIA(ブローリア)」だ。カヴィの歴史をさかのぼっていくと「メイラーナ」というブドウ畑が登場してくる。ジェノヴァの公文書保管所に保存されている971年に記述された古文書によると、このメイナーラと呼ばれる畑がカヴィ発祥の地と記されており、現在この畑を所有しているのがブローリアなのだ。

 創業者であるブルーノ・ブローリアは1972年にメイナーラを購入した。すでに1,000年を超える歴史を持つ土壌は改良が施され、早い時期にD.O.C認定を受け、ブローリアは “農作物としてのワイン” から “高級ワイン” へのシフトを試み、この戦略が大きな飛躍のきっかけとなった。そしてカヴィは、イタリアを代表する高級白ワインとしての知名度と評価を獲得したのだ。ブローリアのヴィラのようなオフィスの大きな窓からは、メイナーラのブドウ畑が一望できる。『ラ・メイラーナ』は歴史あるこの畑から生まれた逸品である。フレッシュでフルーティな味わいだが、その奥には豊潤な旨味が詰め込まれている。 P.B.