Toma Awning

電動開閉式のポリカーボネート製フロントウインドシールド+FRPトップ風を感じながらも荒天時には乗員を守る、スタイリッシュな「トマオーニング」
text: Yoshinari Furuya
photo: Makoto Yamada
special thanks: MARUBISHI SEISAKUJYO
http://www.toma-awning.com
「トマオーニング」の試作がスタートしたのは1999年。当時は、流れるようなストリームラインが主流のヨーロッパのサロンクルーザーですら、美しいボートデザインにはそぐわない無骨なデザインのビミニトップと、全周をほぼ垂直に囲むエンクロージャーが取り付けられていた。
その頃、ボートライセンスを取得し、28フィートの国産クルーザーを購入した「丸菱製作所」代表の戸松精三氏。従業員とクルージングに出かけるたびに、純正オプションとして装備されていたビミニトップの、乗るたびに汗をかきながら展開する煩わしい作業、飛沫をかぶる不快さ、いかにも後付けというデザインに満足できずにいたという。技術者の性分も働き、設計のできるスタッフとともに、ボートデザインに合わせた美しい流線型のオーニングをデザイン。〈マリングレード〉と呼ばれる、クロムやニッケルに加えモリブデンが含有された耐食性の高いステンレスSUS316を使い、美しい弧を描くフレームを精密に加工した。それが丸菱製作所オリジナルのフライブリッジ用ルーフトップ「トマオーニング」の始まりだ。

「トマオーニング」を開発した愛知県春日井市の丸菱製作所は、1953年創業の伝統ある金属加工会社。高速性能と低振動で世界最高峰と言われる高い精度を誇る三菱電機製エレベーターの金属部品を製造する高い技術を持つ製作所である。その設計力と金属加工技術を駆使し開発されたボート用オーニングが「トマオーニング」なのだ。それまで、折りたたみ式でフロントシールドのないビミニトップが主流だったオーニングは、風や飛沫からキャプテンを守るためには、前面や側面を透明なエンクロージャーで囲むしか選択肢がなかった。


戸松氏はそのビミニトップに代わって、スライドで開閉できるポリカーボネート製のフロントウインドシールド「トマウィンドウ」を考案。さらにそれを、エアロダイナミックデザインに加工したステンレスフレームにソフトトップを張ったオーニングに格納するシステムを実現し、世界初となるスライド開閉式の汎用オーニング「トマオーニング」を完成させた。唯一無二の「トマオーニング」はデザインコンシャスなサロンクルーザーを所有するオーナーの注目を集め、やがてイタリアの著名ビルダーがジェノバボートショーに出展するためのデモ艇に採用される。これを機に施工依頼が次々と入り、機能性が評判を呼び、さらに施工実績が増えた。常に改良も行われ、手動スライドだったウインドシールドは電動開閉式に進化。完成度は高められ、国産ビルダーのオプションとして採用されるようになったことも信頼の証だ。
以前からある折りたたみ式のビミニトップは、出航前にクルーやゲストにも協力してもらい広げて固定するものであった。また全周を囲むエンクロージャー仕様では、ビニールハウスと化した高温のエンクロージャーの中に入り、汗をかきながらリアやサイドのビニールをロールアップしていた。また、エンクロージャーは風の抵抗をまともに受け、スピードを減速させるだけでなく、横風の影響を受け、着岸を難しくするのも難点であった。何より、流れるような美しいストリームラインを台無しにしていた。

それに対してストリームラインの船体と調和する「トマオーニング」。フライブリッジに搭載されたスタイリングは美しい。デザインだけではない。フライブリッジに乗り込むと同時に、エンジンをスタートし出航することができる。フロントウィンドシールドにより前方視界を確保したまま、風や飛沫から守ってくれる。このフロントウィンドシールドもボタンひとつで開閉するので、気候が良ければ風を受けて走ることも、すぐにかなえられる。キャプテンやクルー、ゲストを煩わすこともなくスマートだ。
また、エアロダイナミックデザインは風の抵抗も少なく走行性能に悪影響を与えることもほとんど無い。実際、エンクロージャーから「トマオーニング」に変えたボートオーナーからは、「ビミニトップとエンクロージャーを着けていた時は、風の抵抗が大きくトップスピードが2ノットほど下がっていたが、トマオーニングに変えたら、重くなったはずなのにトップスピードはほとんど変わらない」と、予想以上の評判も聞く。また、ポリカーボネートのフロントウィンドシールドの硬度は高く、エンクロージャーのように海水を拭きあげると塩の結晶で傷がつくようなことはない。メンテナンスも特になく、海水を真水で流すだけ。保管場所や素材にもよるが、通常、エンクロージャーならば3年ほどで視界が悪くなり交換が必要となるところ、ポリカーボネート製のフロントウィンドシールドは、カバーなしでも7~8年は交換不要。つまり、コストが抑えられるということだ。

発売当初は、SUS316のパイプフレームにキャンバスが張られたソフトトップに手動で開閉するフロントウィンドシールドという組み合わせ。その後2010年にはフロントウィンドシールドを電動化し、ウィンドウレギュレータの特許を取得。2012年より、ソフトトップに変わりFRPのハードトップを開発。28フィートから31フィートクラスに向けた、1900型と呼ばれる幅1,900mmの汎用モデルの量産体制が確立した。そして2019年末、FRPトップ製造の経験を元に、一から型を作り直し、FRPタイプのハードトップを完成させた。初期のFRPモデルは、角があるスクエアな形状であったが、最新モデルはコーナーに丸みをもたせ、ハードトップが薄くスポーティに見えるようなデザインに変更。フロントコーナーは今まで以上に厚みをもたせ強度を高めた。FRP成形の精度も上がり、工期も短縮。迅速にオーダーに応えられるようになった。この最新の1900型(幅1,900mm)は発表から1年で20台以上を納入。FRPモデルの累計は100台以上となった。そして、要望の多い32フィートから40フィートクラスのために2200型(幅2,200mm)を開発。YAMAHAのサロンクルーザーEXULT36の他に、AZIMUT 40FlyやBENETEAU GT50にも実装し、所有オーナーはもちろん、それを見たボートオーナーからも高い評価を得ているという。そして、現在開発途中の2500型(幅2,500mm)は型の製作に入ったところ。EXULT43をはじめ、デザイン次第では60フィートクラスまでカバーする待望のモデルが登場する予定だ。


「トマオーニング」発売から3年ほど経った頃、マイアミで開催されていたボートビルダーのための見本市IBEXに出展していた「トマオーニング」を偶然見つけ、戸松社長と話したことを思い出す。あれからおよそ18年、FRPの3タイプをラインナップに揃え、再度海外進出を目指すという。世界のマリーナで「トマオーニング」が見られる光景、戸松社長の夢はまだ続いている。P.B.
■丸菱製作所
TEL: 0568-31-8414
http://www.toma-awning.com




