1. HOME
  2. TRAVEL
  3. イギリスがもっとも美しく輝くカントリー・サイドへの旅
TRAVEL

イギリスがもっとも美しく輝くカントリー・サイドへの旅

TRAVEL

穏やかに波打つ深緑の丘陵、美しい蜂蜜色の石造りの家並みコッツウォルズの静かな佇まいは、まさに「地上の楽園」にふさわしい景観だ

photo & text: Hidehiko Kuwata

ロンドンの北西約150kmに位置するコッツウォルズ地方は、南北に約85km、東西は広いところで約40kmという規模で、長く斜めに伸びる丘陵地隊だ。古くはローマ人が牧羊で開いた地方で、コッツとは羊、ウォルズとは丘を意味している。イギリスに産業革命の波が押し寄せた時代に、コッツウォルズではその原動力となった石炭が産出されなかったため、工場なども建設されることなく、数百年間変わらない美しい景観と石造りの家並みが残されたのだ。

ロンドンから車で2時間ほどのコッツウォルズまでのドライブコースには、心安らぐ景観が続く。モーターウェイ(高速道路)M40号線を走ると約1時間で、大学の街、オックスフォードに到着する。ここからA40号線に入り西方に30分ほど進むと、美しい蜂蜜色の石壁の家並みが目につくようになり、まもなくコッツウォルズの入り口の街、バーフォードに到着する。

この地方の家屋のほとんどは、ライムストーンと呼ばれる石灰岩で造られていて、その心和む色合いが独特の風情を醸し出している。バーフォードからさらに西方に10kmほど走ると、19世紀の工芸家、詩人、哲学者のウィリアム・モリスが「英国で一番美しい村」と称えたバイブリーに到着する。彼はコッツウォルズ各地をめぐり、この地域の緑に包まれた景観や建造物、庭園の美しさを『地上の楽園(The Earthly Paradise)』と言う長編叙事詩で紹介し、イギリス人にコッツウォルズの素晴らしさを知らしめた。

このような素晴らしいコッツウォルズの景観の中で、この地を訪れる誰もが足を運ぶのが、バイブリーの村の南側にある、14世紀の石造りのコテージが並ぶ「アーリントン・ロウ」だ。長さ約50mの小道に美しくも古色蒼然とした民家が、この長閑な風景に溶け込むかのように並んでいる。かつては羊貯蔵庫として建てられ、その後は毛織物の職工のための住居兼仕事場として改築された。現在でも住民が住んでおり、ナショナルトラストの文化遺産となっている。

村の北側には創業350年を超える美しいホテル「ザ・スワン」がある。ツタが絡まる石造りの建物と美しい庭園を擁する隠れ家のようなホテルで、バイブリーを流れる穏やかなコルン川のほとりに位置している。この川を挟んでザ・スワンの反対側に建つのが、1945年創業の「バイブリー・トラウト・ファーム」だ。鱒の養殖場で釣り堀散策が楽しめ、カフェや土産店も併設されている。

バイブリーから道の両側に深い緑が広がるA429号線を小一時間ほど走ると、アッパー・スローターの村に到着する。村の中心には小川が流れ、その両岸には石造りの家屋が並んでいる。この村には17世紀に建造された領主の館を改造したホテル「ローズ・オブ・ザ・マナー」がある。イギリスの田舎にはこういった古い館を改装して宿泊施設として利用する『マナーハウス』と呼ばれるホテルが多く点在している。8エーカーの芝生と壮大な庭園の中にあるローズ・オブ・ザ・マナーの歴史は、1649年までさかのぼる。

もともとは小さな石造りの家屋だったが、長い年月をかけて増築や改築が行われ、17世紀の中頃にスローター・ファミリーが購入している。その後は時代ごとに様々な親族が引き継ぎ、19世紀にここを所有していたウィッツ・ファミリーがアッパー・スローターの領主となった。世界大戦中、この土地は陸軍に占領され、フロントポーチは軍の車両によって損傷しその痕跡が今も残されている。そして1972年にマナーハウスはホテルに改装され、コッツウォルズ地方でも有数のラグジュアリーな宿泊施設として人気を誇っている。

コッツウォルズをA429号線からA3400号線を北西方向に進んで、文豪シェイクスピア生誕の地、ストラトフォード・アポン・エイボンに向かう。この街の中心であるヘンリー通りの西端には、シェイクスピアの生家が現在も残っているのである。ヘンリー通りは歩行者天国になっていて、通りの両側には洒落たレストランやカフェが軒を連ね、終日多くの観光客で賑わっている。こういった普段の賑わいの中に、シェイクスピアの生家が建っているのだ。

ここはシェイクスピアが青年期まで暮らした家で、用いられているチューダー朝の建築法から、15世紀末から16世紀初頭に建築されたものとされている。小さな入り口から内部に入ると、1階の床には石が敷き詰められ、壁に埋め込まれた暖炉、急勾配の階段など、シェイクスピアが暮らした16世紀当時のままに残されている。各部屋に置かれている様々な家具や道具類は、時代考証の上で設らえられたアンティークだが、およそ400年前の暮らしぶりをリアルに感じ取ることができる。

ストラトフォード・アポン・エイボンの魅力の一つが、白壁に木骨組が美しい「ハーフティンバー」と呼ばれる、チューダー朝の建築様式の家並みだ。よく見ると木骨には多様な彫刻が施され、一見同じように見えても、その文様は微妙に異なっており、各家が自らの趣向を凝らしているのがわかる。街の目抜き通りであるチャペル通りにある、1637年に建設された「シェイクスピア・ホテル」はそんなチューダー朝様式を代表する建物だ。74室のスイートルームを擁するこの歴史的なホテルに滞在して、シェイクスピアが生きた時代に想いを馳せてみるのも楽しいだろう。P.B.