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The Dorchester, Dorchester Collection

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ロビーをはじめ1階全体にゴールドやフォグピンクを巧みにあしらい、彩はよりエレガントに“イングリッシュガーデンの散策”のようにと、調度品やアートにも花が舞い英国らしい

text:Kyoko Sekine
photo:The Dorchester

旅をする人々の目的は様々でも、旅に欠かせないのが滞在ホテルの選択である。もし選んだホテルで快適な滞在ができれば旅の価値は確実に上がる。そんな機会には、眠るだけではないホテルの魅力を体感するように、1泊でも予定を伸ばし、ホテルから外に出ないで過ごすことをお勧めしよう。今回、筆者の旅は、大改装を終えた最高級ホテル「ザ・ドーチェスター」を目指し、一路ロンドンへと向かった。ここからが“ホテル目的の旅”の始まりである。

世界最高峰のラグジュアリーホテルや斬新なデザインホテル、ロンドン名物B&Bなど、ジャンルを問わず宿泊施設がひしめく国際都市、ロンドン。この街でひときわ存在感を示す最高級クラスのひとつが「ザ・ドーチェスター」である。緑豊かなハイド・パークがまるでホテル所有の庭のように隣り合い、ロンドン屈指のエレガントな地区、メイフェアの中心に建つロンドンのランドマークである。その歴史は1792年まで遡り、当時、ドーチェスター伯爵の邸宅だった場所に1931年にホテル「ザ・ドーチェスター」が創業。現在も尚、ホテルの名声は絶えることなく、ゲストには英国王室関係者、世界のセレブリティや著名人など錚々たる顧客を迎え入れ、ガラパーティーのメッカとも称されるラグジュアリーホテルである。歴代のジェームス・ボンド6名全員が、さらに14人のボンドガールもゲストに名を連ねるというストーリーも隠されている。

著者がホテルを訪れたのは2023年末のクリスマス寸前のこと。著名な建築デザイナーにより大改装が行われ、それを完了したホテル内は、誇り高き英国伝統の“しきたり”に敬意を払いながらもロンドンらしい斬新さが加わり、“未来に向かう進化を厭わない”と発信しているかのようだ。1階のエントランス・ロビーに始まるゴージャスな輝きは、趣を変えながら奥のダイニングエリア「ザ・プロムナード」へと続き、さらに最奥のアーティストバー「ザ・バー」まで続いている。この「ザ・プロムナード」こそホテルの要の場であり、ここに王室関係者や国内外の著名人、賓客、私たち一般も集い、プロのもてなしに包まれ世界各国の言葉が飛び交っている。格式ある高級感と共に華やぐ斬新なインテリアデザインを融合させたのは、レジェンドと呼ばれ、東京・銀座のロオジエも手がけた仏人デザイナーのピエール・イヴ・ロション氏である。

すっかり雰囲気を変え、新しくなったメインダイニング「ザ・プロムナード」は、前述の通り、ホテルのコンセプチュアルな重要な場所であり、宿泊ゲストが集うばかりか、食事に訪れる外来の顧客、アフタヌーンティーを楽しむ若い女性たち、さらにホテル愛好家など様々な人々が席を埋めている。それと言うのも、「ザ・プロムナード」はオールデイダイニングとして朝食からディナーまで楽しめる、一日中ホテルの雰囲気を体感できる絢爛たるサロンでもあるからだ。高級家具や調度品、選び抜かれたアートに彩られ、英国らしい花々や植栽に包まれる非日常の高級感の中に、とりわけ目立つのが故エリザベス女王のフェイスアートだ。郵便切手を模して造られた女王の大きな顔の作品、マザー・オブ・パールのボタンを使用して描いた作品が目を惹く、コンテンポラリーなアートギャラリーを彷彿とさせる。

また、ロンドンでもトップクラスの人気を誇るのが「ザ・ドーチェスター」のアフタヌーンティーだ。その人気は高く座席の予約も難しい。日本からの旅にここでのアフタヌーンティーを望むなら、ホテル予約時に、同時に予約をしておくといい。1階奥のバーも磨きがかかり「アーティスト・パー」としてオープンし、オリジナルのカクテルも人気が健在である。

ホテル内のダイニングもエキサイティングだ。ロンドン版ミシュラン3つ星を獲得したアラン・デュカスのフレンチ「AlinDucasseatTheDorchester」、独特なインテリアデザインに彩られた人気の広東料理「ChinaTangatTheDorchester」、さらにトピックスは、創業以来の歴史を誇る英国料理の老舗「ドーチェスター・グリル」が2022年、エセックス出身の若干26歳のシェフ、トム・ブートンを抜擢し「TheGrllatTheDorchester」として開菜、ダイナミックに方向転換を果たした。彼のシグネチャー料理は、中に詰め物をした丸鶏ローストチキン、チキンウィング、チキンのショートクラストパイの3種盛り「オール・ザ・チキン」。注目の若手鬼才、トム・プートンが魅せるエキサイティングなグリル料理に目が離せない。

全238室揃う深い眠りを誘う新しい客室は、まず1Fと2Fの改装から始まり、2023年6月、他の施設より一足先にリノベーションを終えている。ここも1階の「ザ・プロムナード」と同様、テーマは“イングリッシュガーデン”。植栽や花々をもとに、同じデザイナーのピエール・イヴ・ロションが手掛けた。優しく淡い色遣いに、緑や花の描かれたベッドボードやファブリックが使われ、いかにも英国伝統ならではのフェミニンな様相である。特にスイートルームの寝室に使われたベッドボードは、英国ブランドのdeGourney(ドゥグルネイ)の製品と知り、シルク素材に描かれた手書きの上品な花柄に、ハンドメイドの美しさが加わり改めて見とれていた。さらに一般客室にも英国らしい絵柄のテキスタイルが使われ、インテリアには庭園を想わせるガーデンカラーが選ばれている。細部にまで伝統と未来を目指すデザインの融合が生かされている。

客室のカテゴリーも選択肢にあるが、滞在する客室の窓からの景色もポイントになろう。たとえばシグネチャースイートやペントハウスに滞在するなら、住まうように寛げる広く贅沢な客室(73ml、165mt)に滞在ができ、ロンドン市街を見渡せるいテラスで景をを満喫することになる。

忘れてならないのは、ロンドン屈指の人気を誇る「ヴェスパー・バー」である。改装を終え名称も変わった店内は、どこか運熱を感じさせる。そして今どきの才能豊かなバーテンダーチームが、オリジナルカクテルやマーティーニなどと共にウィットに富んだ会話でもてなしてくれる。

「ザ・プロムナード」のフェミニンな印象とは異なり、「ヴェスパー・バー」ではスェーデン人のデザイナー、マーティン・ブルドニツキによるマニッシュな空間が楽しめ、英国で発展した大人の“バー・カルチャー”の粋が楽しめるだろう。後で知ったことだが、“ヴェスパー”とは、「007カジノ・ロワイヤル」でジェームス・ボンドの愛した最愛の女性の名に因んでいるというのだ。ホテル内には、探れば探るほど、英国ならではストーリーが隠されていそうな気がしている。

ロンドンの「ザ・ドーチェスター」は、世界に10の名門ホテルと8つのレジデンスを展開する「TheDorchesterCollection」のフラッグシップ。そのコレクションから、2028年には日本にも同ブランドのホテルが誕生予定だ。「TokyoTorch(トウキョウトーチ)」の53階から58階に開業予定であり、実現するのは楽しみでしかない。東京駅日本橋口前で日本一の高さを誇るタワーとしても期待が大きく、名門ブランドの新しいホテルがドアを開く日を心待ちにしている。

■ The Dorchester, Dorchester Collection
53 Park Lane, Mayfair, London, United Kingdom
https://www.dorchestercollection.com/london/the-dorchester
TEL: +44(0)20 7629 8888

45ParkLane,DorchesterCollection

ハイド・パークに寄り添い、パーソナルな邸宅に住まうように滞在

老舗ホテル「ザ・ドーチェスター」の真向かいに建ち、モダンな趣の「45ParkLane,DorchesterCollection(45パークレーン、ドーチェスター・コレクション)」は、2011年創業の小規模ラグジュアリーホテルである。部屋数は46室、それぞれの客室からはハイド・パークが望め、自宅の庭園のように思える恵まれたロケーションにある。インテリアはアールデコ調に彩られスタイリッシュだ。まるでアートギャラリーのようだが、滞在の楽しみはこれらアートだけに収まらず、館内では美食家を満足させる上質なダイニングシーンが毎日繰り広げられている。中でもちょうど訪れた時のブレイクニュースは、これまでのダイニングシーンをさらに高める店舗がホテル内に開業したことだった。それは2023年7月1日、カウンター9席と4席の個室を加えたわずか13席の鮨店、「鮨かねさか」がロンドン初進出を果たしたという嬉しい話題だった。

“食”で人気のホテルのダイニングシーンについてもう少し語らせてほしい。新たな「鮨かねさか」の金坂真次シェフは、特上の鮨を握る店内に、組子細工や、鮨店の要となる木曽檜の一枚板カウンター、海外でも名の知られる現代陶芸家辻村史郎の“壺”などを日本から持ち込み、シンプルに、しかし洗練された高級感を演出するインテリアとして設えたというのだ。2018年から日本でミシュラン2つ星を維持する「鮨かねさか」は、アジア太平洋地域以外での開業となるとここロンドンが初という。そして「45ParkLane」での開業後、わずか7ヶ月にしてミシュラン1つ星を獲得。この鮨店が毎日満席で予約も難しいと知れば、日本人としても誇らしい限りである

一方、ステーキで知られる「CUTat45ParkLane」では、日本の和牛からUSDAプライムビーフ(米国農務省USDA格付の最高ランク)、牧草飼育のヘレフォードビーフ(イングランド北西部のヘレフォードシャー原産)まで、ロンドンで入手可能な各国産の最上級和牛を提供する名店だ。驚きの美味しさで評判の“季節のサラダ”も評価が高い。“たかがサラダ”とは言わせないとばかり、“されどサラダ”以上の逸品が提供されている。

さらに滞在客のみならず、地元ロンドンっ子をも魅了してやまないのが2階に位置するヴィヴィッドな隠れ家「BAR45」だ。ロンドン随一と言われるカクテル自慢のバーである。同時に海の幸から和牛、春巻きまで、多彩なフィンガーフードや肴料理の充実もバーが愛されている理由かもしれない。また1930年頃を想わせる“アールデコカクテル”に使われる美しいグラスが日本製の「木村硝子店のグラス」と知った。ユネスコ無形文化遺産となった和食に限らず、芸術、工芸品など一流のmadeinJapanが、こうして世界に認められ輝きを放っている。

ロンドン屈指のエレガントな地区、メイフェアで存在感を放つ「45ParkLane」の建物は、1960年頃には富裕層の集まる“プレイボーイ・クラブ”として、ファッションの最先端を突っ走る若者のたまり場だった。そんな社交場だったバウハウス建築が、2011年にリノベーションされホテル「45ParkLane」となったのだ。最上階には最高級シグネチャースイートのひとつ「ペントハウステラススイート」(170m²)があり、ロンドン市内を見渡せるパノラマが魅力だ。この特別な客室には専用エレベーターが設えてあり、部屋の周囲のラップアラウンド・テラスからはこれぞロンドンとばかり、旅の情緒が掻き立てられる。

実は滞在中に何よりも印象的だったのは、全客室数が46室というスモールラグジュアリーホテルのプライベート感にあった。スタッフとの距離感は近すぎず、遠すぎず、リラッスした滞在が叶えられた。都会の雑踏や賑わいから離れ、リゾートホテルのように寛げる、忘れがたいロンドンのホテルである。P.B.