XO DFNDR9
ミルスペックのアルミニウムを採用した高剛性&高耐久のハルが45ktオーバーを実現フィンランドの天才SakariMattilaがアルミの優位性を最大限に生かした「XO BOATS」
text: Yoshinari Furuya
photo: Aleksi Mäkinen / Finnboat Floating Show
special thanks: XO BOATS https://xoboats.com
「XOBOATS(エックスオー)」が生まれたのは、スカンジナビア半島に囲まれたバルト海の最奥に位置するフィンランド。フィンランドの緯度は、およそ北緯60度から70度。アイスランドに次ぐ最北の国。南北に細長く国土の3分の1は北極圏内に位置する極寒の地。日本最北の地である宗谷岬の緯度、北緯45度と比較すると、いかに北極に近い場所かわかるだろう。
また、フィンランドを取り囲むボスニア湾やフィンランド湾は川も多く、大量の淡水が流れ込む上、水温が低く蒸発する量も少ない。外洋(北海)へは、デンマークとスウェーデンの国境、エーレ海峡とベルト海峡という狭い海峡だけ。塩分濃度の高い海水の流入も少ないことから、塩分濃度はわずか1~1.6%と淡水に近い汽水の海。したがって、1月にはフィンランドとオーランド諸島間、2月にはボスニア湾およびフィンランド湾が氷結する。この氷は4月中には多くが解けるが、6月ごろまで流氷として残るものもあり、ボートがヒットすることもある。
また、この世界最大級の群島では、島々に別荘を所有する人が多く、島と本土の間を行き来するコミューターとしてボートを使う人も多い。だが、夏を除けば、流氷に遭遇する可能性や、雪が激しく降り、視程が数mしかなくなることもある。「そんな日には出ない」という人もいるが、出航時には好天でも、予報も外れ海況が急変し荒天になる事もある。だから、この過酷な海域に囲まれたアーキペラゴ(多島海)を航行するために、堅牢なミルスペックのアルミハルを採用するXOBOATSが生まれたのだ。
フィンランドでは、島々をめぐるアドベンチャーも人気。それは、国民の誰でも大自然の森ならば自由に入り謳歌することが許される特別な権利「自然享受権」が後押ししている。これは、フィンランド特有の大昔からの慣習から生まれた法律。もちろん、自然環境に危害を与えないことが前提。農園や、人々の家の近いエリア、立ち入り禁止の自然保護エリアなどを除けば、森を歩き、スキーをし、自転車を乗り、トレッキングをすることなども自由。つまり、人の手が入っていない離島に上陸することが自由ということ。188,000もの島を擁するフィンランドには、豊かな大自然が残る、ボートでしか上陸できない島や海岸、クルージングの寄港地やアンカレッジが豊富にある。港もない島では、ビーチや岩ギリギリにボートを着け、バウから上陸する方法をとらなければならない。堅牢なミルスペックのアルミハルが真価を発揮するのだ。
XOBOATSは、現在CEOを務めるErkkiTalvelaと、次々とフィンランドボートブランドの立ち上げを行ってきたSakariMattilaにより2009年に設立されたボートビルダー。1994年設立のAQUADORBOATS、2003年設立のPARAGONYACHTSに続き、3番目にSakariMattilaが手がけたボートブランドがXOBOATSだ。XOBOATS設立後もSakari動を続け、2012年には、3つのボートブランドAQUADOR(a)、XO(xo)、PARAGON(par)の集大成としてAXOPERを設立。世界的なセールスを記録すると、2019年には、Sakar(is)、AXOPER(ax)、AQUADOR(dor)の意味を持つブランド名を冠したSAXDORを設立。世界各地のボートショーで発表し、世界的なアワードを賑わせ続けている。
フィンランドスタイルのデザインや走りが注目される中、他のボートビルダーと異なる個性で差別化を図るXOBOATS。最大の特徴は、ミルスペックのアルミニウムで建造されていること。それは、XOBOATSの最も重要な要素の一つ。アルミニウムの素材と船体設計が、荒天の海で優れた性能を発揮する。アルミニウムは耐久性と堅牢性に優れているため、過酷な状況でこそ優位性を感じることができる素材。また、GRPとは異なり、型の必要がないのも特徴。そのため、設計と開発の面でほぼ無限の可能性があり、さらに、アルミニウムの作業では、GRPの作業よりはるかに簡単に微調整を行う事ができる。
そして、アルミニウムのボートは、素材自体がロングライフ。船体は、厳しい海洋環境下でも圧倒的な耐候性や耐久性により、長期間にわたって使用することができ、GRPとは比較にならない耐久性で価値が持続される。また、ポート建造に使える素材の中で、アルミニウムは入手可能な最もサステナブルな素材の一つ。製造プロセスの初期段階ではエネルギーを必要とするが、その後は、少ないエネルギーで溶かしてリサイクルする事ができる。米国で使用されるアルミニウムのおよそ70%がリサイクルされているというデータもある。また、アルミニウムの特徴である軽量でありながら高剛性の船体が、ポートのパフォーマンスを向上させるだけでなく低燃費にもプラスに働くのは言うまでも無い。XOBOATSを選ぶということ自体がサステナブルなのだ。
XOBOATSでは、3つのシリーズを建造している。一つは、キャビンを持たないオープンスタイルの「Dscv(rディスカバー)」。Dscvrは、9mの1サイズで仕様の違うOpenとT-Topの2モデル。
2つ目は、本誌5月号で紹介した「Expl(rエクスプローラー)」。9mと10m、44ftの3サイズ6モデル。そのうち10は、デッキレイアウトとパワートレインの違いで4モデルを建造。船外機のSportsとSports+、インボードのSportsとS+をラインナップ。特徴は、スカンジナビアスタイルの垂直なフロントウィンドシールドを採用したワイドなキャビン。太陽と寒さからクルーを守る広々としたキャビンは、長距離航行やアドベンチャーに向けたデザイン。より快適により遠くまでクルーズする事を想定している。
そして、今回紹介する「Dfnd(rディフェンダー)」は、9と8、A8の3モデル。特徴は、一般的な順傾斜のフロントウィンドシールドを持つ上部構造に、バウとアフトの広いオープンデッキ。プロユースのオールシーズンボートやスーパーヨットのテンダーなど、ベースボートとしてもアレンジしやすいし、レジャーボートとしてウォータースポーツやフィッシング用のボートとしても扱いやすい。
Dfndr9とDfndr8の試乗が行われたのは、フィンランド南西スオミ県の港湾都市トゥルクの郊外。アーキペラゴの中の静かなマリーナでクールな黒色のDfndr2艇と対面した。バーチカルなバウステムに、黒のパルピットやクリートが精悍な印象を与える。そのシンプルだがスタイリッシュな北欧デザインを設計するのは、NAUTOR’SSWANやAXOPER、PARGONYACHTSなども手がけるデザインスタジオNaviaDesign。ドレッドノートスタイルと呼ばれる戦闘的なスタイリングとアルミハルが生み出すマニューバビリティやシーワージネスが、ニューカマーだけでなく、ベテランボーティーや専門家までも、虜にしている。
スイミングプラットフォームからDfndr9に乗船する。パワートレインは225馬力の船外機2基。エンジンチョイスは、225馬力のツインor400馬力シングル。メーカーを問わず、広く選ぶ事ができる。アフトデッキにはソファが固定されているが、船外機をチルトするために、背もたれを倒す事ができる。ソファの前にはワイドな折り畳みテーブル。キャビン後部のエンクロージャーをロールアップし、ソファを90度回転させ後ろに向けると、テーブルを囲むテラスダイニング。逆に寒い冬や荒れた海では、ソファを前に向けエンクロージャーを閉じることでヒーターを効かせた快適なコミューターとなる。
そして、Dfndr9の独特なデザインはキャビン側面の大部分を占めるスライドドア。全開にすれば、後部座席に直接乗り込めるワイドな開口部が現れる。ドアの後部はキャビンより飛び出し、ソファ左右の風除けのようになる特別なデザイン。それを実現したのは、ルーフの中心を支える2本のポール。ルーフを中心で支えることで、ピラーを細くでき、開口部を大きくすることを可能とした。左右のサイドスライドドアを全開にし、サンルーフを開ければ、オープンボート並みの開放感を味わう事ができる。また、サイドスライドドアを開けたまま、ヘルムやナビゲーターのダンパー付きの快適なシートを外向き90度に回転させれば、操船をしながら快適に釣りを楽しむことができるのだ。
作業性の良いサイドデッキを通り、バウデッキに向かう。デッキ全面に貼られたデッキパッドは滑りにくく、全周に巡らされたグラブレールがクルーの安全を守る。バウデッキも広く、アンカーリングやドッキングの作業、フィッシングにも使いやすい。
Dfndr9のもう一つの特徴は、バウのナイトスペースへのエントリー方法。キャビンからは、コンパニオンハッチ上部を跳ね上げ、スライドドアを開けてステップを降りる。ダブルベッドとトイレ&シャワーが備わる快適なアコモデーションは一般的。特別なのは、このナイトスペースへバウデッキから直接エントリーができるところ。ドッグハウスの前面が広く上に開き、バウデッキと行き来できる。出入りに使うステップは、普段ベッドクッションの下に収まり、使う時だけポップアップするもの。このステップは、サイドテーブルの役目もする便利なデザインだ。
キャビン前方、ポートサイドにヘルムステーション。SIMRADのディスプレイ2台とステアリングホイールの他には、バウスラスターのコントローラーと最低限必要なスイッチ類が並ぶ。サイドスライドドアを開け、サイドデッキに半身を乗り出し操作する。死角のほとんどない状態で、狭い場所や視界の悪い時でも安全にボートをコントロールする事ができる。
XODfndr9は、ミルスペックのアルミニウムを採用したクラス最強のハルに、最新のディープVハル形状を採用。45ノットを超える高速走行時でも安定性が高く、快適に走る凌波性能を兼ね備えている。このボトム形状により、バルト海の荒れた海でもソフトでスムーズな航行や優れたマニューバビリティを発揮。最高のコミューターとして、最強のフィッシングボートとしてキャプテンやクルーの安全を守ってくれる。
フルビームのクローズドキャビンを備える「DFNDR8」
Dfndrシリーズには、Dfndr9の他に、Dfndr8とDfndrA8の2モデルがある。A8は、基本的には、Dfndr9をダウンサイジングしたスタイル。ウォークアラウンドのデッキアレンジにキャビン後部も左右も完全にオープンにしたフルウォークスルーというDfndr9を進化させた独創的なモデル。そして、今回Dfndr9と同時に試乗の機会を得たモデルがDfndr8。このDfndr8は、Dfndr9やA8とは全く異なるデッキレイアウト。Dfndr9のダウンサイジングではない。
Dfndr8の特徴は、サイドデッキを持たないフルビームの完全なクローズドキャビン。前後にドアを備え、バウデッキへはキャビンの中を通るウォークスルーのデッキレイアウト。コンパクトなサイズに広いキャビンを搭載するために考案されたスタイル。フィンランドでは昔から小型艇に使われてきた馴染みあるレイアウトだ。フルビームであるがゆえ、北欧でポピュラーなスライドドアはないが、Dfndr9と大差のないワイドなキャビンスペースを確保している。
アフトデッキ側のリアドアからキャビンに入る。キャビン後部には、中央の通路をはさみ、向かい合わせに座るベンチソファがシンメトリックに並ぶ。ソファの足元には、リフリジェレーターが装備されている。最前部のスターボードサイドには、ヘルム用のボルスターシート。ポートサイドにはナビゲーター用のボルスターシート。ナビゲーターシートの前には、グラブレールやカップホルダーが備わり、この壁面を扉のように開けると中はヘッドコンパートメント。バウキャビンはないが、トイレだけは、ここに収まっている。
ヘルムシートとナビゲーターシートの間、キャビン中央を貫く通路の先には、開閉できるフロントウィンドシールド。フロントウィンドシールドの中央を外側に開け、ウィンドシールド下のスライドドアを開けると、バウデッキに安全に移動する事ができる。バウには一段高い、広くフラットなデッキ。デッキパッドで滑りにくいバウデッキは、キャスティング用のデッキとして最適。クッションを敷けばサンラウンジとしても使う事ができる。
Dfndr8は、50ノットを超えるトップスピードと類まれなマニューバビリティで島から島へ駆け抜ける。アイランドホッピングに使うコミューターとして、ウォータースポーツのためのコンパクトボートとして最適な機動力を誇る。さらに、XOBOATSのアドバンテージである堅牢なミルスペックのアルミハルと、最適化されたディープVハルのボトムが生み出すシーワージネスも併せ持つ。ハイスペックな機動力と性能は、パトロールやレスキューなどプロユースのベースモデルとしてだけでなく、本格的なフィッシングボートのベースボートとしても信頼されている。Dfndr8は、日本沿岸の海にこそ求められるトータルバランスに優れたマルチパーパスボートと言えるだろう。P.B.
XO Dfndr 9
全長 8.8 m
全幅 2.6 m
喫水 0.99 m
重量 2.71 ton
エンジン outboard 400 – 450 HP
燃料タンク 450 L
問い合わせ先 ヤマハ藤田 TEL: 079-322-8800
https://www.seasea.jp
https://youtu.be/nSpKKLcZsLo?feature=shared
https://youtu.be/WdRE–g7KZA?si=QtnjJ_9L5kJRGOlJ
XO Dfndr 8
全長 8.03 m
全幅 2.53 m
喫水 0.93 m
重量 1.98 ton
エンジン outboard 300 – 450 HP
燃料タンク 385 L 問い合わせ先 ヤマハ藤田 TEL: 079-322-8800
https://www.seasea.jp
https://youtu.be/6C_UI-K0xAo?si=KUbmozpRdZuq7HTQ
https://youtu.be/9VZt_ccx39E?si=UQV1wu9WbNSkQ-6m