
TARGA32 AFT DOOR COMFORT CUSTOM

工芸品の趣のウッディなキャビンに、ボスニア湾生まれの強靭なシーワージネスまさしく四季を問わず海を愉しむことができるトラディショナルな海の4×4
text:Kenji Yamazaki
photo:Makoto Yamada
special thanks: WINCKLER
https://yacht-w.com
晩秋の清廉な色彩をまとう三浦半島の先端に位置するシティマリーナヴェラシス。ビジターバースに舫われた「TARGA32 AFT Door Comfort Custom(タルガ32アフトドアコンフォートカスタム)」、ホワイトハルにブルーのルーフエッジ、リバースウィンドウのキャビン、その佇まいは柔らかな陽光を浴びて、きりりとしつつ穏やかな趣を漂わせている。伸びやかなハル、スクエアなキャビン、トラディショナルな北欧フィンランドボートのスタイルを見せている。

全長10.78m、全幅3.37m。今まで本誌で紹介してきたTARGA32はコンパクトなフライブリッジのヘルムを持つ仕様だが、これはフライブリッジレス仕様。アフトデッキの左舷キャビンウォールにセカンドヘルムを装備するカスタムバージョンだ。こだわりのアフトデッキとサイドデッキのブルワークのセーフティレールトップは豪華なチーク。分厚い無垢のチークを3層にも貼りこむこだわり、さらにワイドカスタムまで施されている。
チーク張りのスイミングプラットフォームから、ダブルトランサムドアを開けアフトデッキへ乗り込んでみる。早速目に入るのがキャビンウォール左舷のヘルムステーション。ステアリングホイールの目先にはGARMINのマルチファンクションディスプレイ、エンジンモニター、オートフラップZIP WAKEモニター、オーディオコントローラー、バウスラスター、ジョイスティック、エンジンコントローラーとフル装備のヘルムステーションが設営されている。その右手にシンクとシャワーノズルがセットされる。チークテーブルを持つアフトデッキ、アフトデッキオーニングも奢られている。

フォアデッキはフォアキャビンを広く確保したCFCコンフォートフォアキャビン仕様。バウパルピットはそれに合わせて高くなりセーフティに。フォアデッキのバウにはチークが貼られている。パイロットハウスの両舷にはスライド式サイドドアがあり、シングルハンドでの離着岸時は至極利便性が良い。このドアのウッドトリムにウッドグリップのボートフックが組んである。ニヤリとする。
キャビンドアを開けキャビン内に入る。中央にはウッディな趣に満たされたキャビンが広がる。なんとキャビンルーフまでもがチーク張りなのだ。何と言ってもTARGAの魅力はインテリアにある。フィンランド伝統の木工技術が生かされ、重厚で上品なサロンが展開する。左舷にコノ字のソファ、そのサロンソファはベージュのアルカンタラ素材、白いステッチがおしゃれな趣を見せる。通路サイドがカットされた電動上下可動式のチークテーブルがある。


右舷前方にヘルムステーション、GRAMMER製ダンパー付きベージュのキャプテンシート。その下は冷蔵庫。右舷にはチーク張りのストレージが用意されている。ヘルムのステアリングホイールの先にはGARMINのマルチファンクションディスプレイ、左にZIPWAKEモニター、GARMINのオートパイロットモニター、バウスラスター。右サイドにジョイスティック、エンジンコントローラーが整然と並んでいる。キャプテンシート頭上のオーバーヘッドパネルには、VOLVOPENTA D4エンジンのアナログ表示のメーター、回転計、油圧計、油温計、バッテリー電圧計、ドライブトリム計、ラダーアングル計が並んでいる。サーチライトグリップがクラシカルな趣を見せている。左舷サイドの頭上にはアンチローリングジャイロSEAKEEPER2のディスプレイ、FUSIONオーディオコントローラーが並ぶ。3分割のフロントスクリーンはそれぞれにワイパーが装備され、両サイドウィンドウとともに、それぞれにスクリーンロールがありサングラスいらずだ。


ギャレーはコンソール左のチャートテーブルを開けるとシンクと2口バーナーが現れる。その下に電子レンジが用意されている。冷蔵庫はキャプテンシートの下に引き出し式で用意されている。TARGAの機能的なレイアウトは変わらない。
ロアのアフトキャビン入口にはカスタムでドアを設営、ロアデッキのプライバシーを確保した。そのレイアウトは標準のままダブルベッドとシングルベッドが設えられる。その後方にはヘッド&シャワーが用意されている。真冬にありがたいキャビンヒーターは軽油を焚く強烈なEBERSPACHERD4を装備。エアコンはWEB ASTOBLUE COOLS20バウキャビンはCFCのゆったりとしたスペースにキングサイズベッドとクローゼットが用意されている。随所に顧客の希望やライフスタイルに合わせたカスタマイズ、Botonia Marineの豊富な経験と建造技術が成せる業だ。

「TARGA(タルガ)」は1976年に、北欧フィンランドのBotonia Marin造船所のボートブランドとして誕生した。バルト海の北東部、フィンランド西岸のアーキペラゴ、多島海、ボスニア湾の中央部に位置するMalaxとNykar lebyにマニファクチャリングファクトリーを持つ。北欧伝統のスタイルでもあるパイロットハウスにウォークアラウンドのデッキレイアウト、品の良い北欧の調度、合理的な使い勝手の良い室内レイアウト、そしてフィンボートの特徴とも言えるハイパフォーマンスを見せる走行性能で、フィンボートの代表といえる存在だ。

このTARGA32、トップスピードは搭載エンジンによるが、オフィシャルには34ノット~49ノットと表記される。常用のクルージング速度は22~34ノットと。横揺れ防止ジャイロはSEA KEEPER2を搭載。トリムタブはZIP WAKE450自動トリム。GARMINオートパイロット採用。搭載エンジンVOLVOPENTAD4-320/DPI×2基640hp、DPSダイナミックポジショニング保持機能、衛星定点保持機能を持つ。D6-400/DPI×1基400hpから、D6-440/DPI×2基880hpまで、10種類のエンジン選択が可能だ。
晩秋の穏やかな空気のシティマリーナヴェラシス。晴れ、気温14°C、北東風6m/s。ビジターバースに舫われた
TARGA32、スイミングプラットフォームから乗り込みメインヘルムの右舷サイドドアを開け、ジョイスティックで離岸する。実に機敏に応答するジョイスティックドッキングで真横に移動し、イージー離岸。もやいとフェンダー収納作業のためにダイナミックポジショニングシステムDPSを起動して定点維持を数分。ありがたい機能、慌てることもない。搭載エンジンはVOLVOPENTAD4-320/DPI×2基640hp。ドライブは船内外機スターンドライブ。さあシートライアルへ。


アイドリング700rpm-5.08ノット、燃料消費3.8L/h。マリーナを出てエンジンコントローラーたるスロットルを押し上げる。駆動が確実にプロペラを介して伝わる。心強い加速体感が心地良い。波高30cm、一見平穏な海象。1,000rpm-6.87ノット、7.8L/h。浦賀から久里浜沖の東京湾口へ向かう。1,200rpm-7.87ノット、11.0L/h。1,500rpm-9.10ノット、21.0L/h。プレーニングし、スーッと浮遊するかのように痛快な加速が続く。1,800rpm-11.7ノット、37.0L/h。2,000rpm-15.1ノット、42.0L/h。2,300rpm-21.0ノット51.0L/h。2,500rpm-24.0ノット、55.0L/h。オートフラップZIPWAKEはAUTOモード。

回頭からS字コーナリングを試みる。ステアリングの切り込みとともに自分の位置を軸にバウから軽度のインサイドバンクを伴ってまるでアイスダンスをするように回り込む。スターンドライブのクイックなレスポンス、リニアな反応、痛快極まりない。高剛性のハル、優れた凌波性能、青い海原を乗り走る喜びに満ちている。ウッドの暖かさに囲まれたヘルム、前傾したリバースウィンドウを通し海面を見続け走る。2,800rpm-27.7ノット、67.0L/h。3,000rpm-30.5ノット、78.0L/h。
3,400rpm-34.4ノット、100L/h。3,500rpm-37.2ノット、127.0L/h。トップスピード40.0ノット。素晴らしい実力。西日が差し込む、スクリーンロールをおろせばサングラスいらずを実感。

バルト海北部ボスニア湾、季節風や寒冷前線、島を襲う冬から春先の南岸低気圧、日本の海況と近似する海象を持つ。タフな環境で生まれたTARGA、優れた対候性を持ち、離着岸作業の合理性、高速移動スピードを保証する。まさしく四季を問わず海を愉しむことができるキャビンの設えを持ち、工芸品の趣のウッディなサロンはトラディショナルなセーリングボートのインテリアに通底する。唯一の違いはハイパフォーマンス。オーナーのボーティングスタイルに合わせるカスタム対応、自分好みに仕上げ、エンドレスサマーを実践してみたくなる。瀬戸内海で、アイランドホッピング、トウキョウセブンアイランズホッピング、TARGA32はボートライフの無限の広がりを証明してくれる。P.B.
TARGA 32 AFT Door Comfort Custom
全長 10.78m
全幅 3.37m
喫水 1.10m
重量 6.30ton
エンジン 2×VOLVO PENTA D4-320
最高出力 2×320HP
燃料タンク 800L
清水タンク 150L
問い合わせ先 ウインクレル
TEL: 045-681-0104
https://yacht-w.com



