PRINCESS Y85
text: Yoshinari Furuya photo: Makoto Yamada
special thanks:PRINCESS YACHTS JAPAN https://www.princessyachts-japan.com
PORT SIDE MARINE https://www.portside-marine.com
オーガニックでエレガント、ヨットデザインに新たな言語を持ち込んだ「PRINCESSY85」外側も内側もエンジニアリングも、すべてが最上級、すべてがPRINCESS、その彫刻的な美に感嘆する
横浜ベイサイドマリーナの桟橋に係留された「PRINCESSY85(プリンセスY85)」。水面から3mを超える白く聳え立つ壁がY85の船体。バウからトランサムに向け上下幅を変化させながら複数のウィンドウを飲み込む有機的な一条のブラックライン。シアーライン、サイドウィンドウ、キャビン、フライブリッジのアウトライン、キャビンルーフのアクセントライン、ハードトップ……、全てのラインがハーモニーを奏でる。躍動的でアートフルなスタイリングがPRINCESSY85の特徴でもある。
トランサムのプラットフォームから乗船する。スイミングプラットフォームは、5.7mの幅で2.1m後方に飛び出すワイドなもの。これはRIBなどのテンダーを乗せるためのプラットフォームとしてデザインされている。このY85は、スイミングプラットフォーム上にチークを使ったテンダーチョックを取り付け、WILLIAMSSportJet395を搭載。SportJet395は全長3.90m、全幅1.77m、最大6人が乗船できるインフレータブルジェットボート。90馬力のBRPRotaxACE903エンジンを搭載し、トップスピードは34ノット。パワートレインにジェット推進を使ったボトムはプロペラなどの突起物がなく、安全にトーイングを楽しむことができる。ラッシング用のベルトを解き、昇降式のスイミングプラットフォームを水中に下ろすだけで、素早く簡単に水面に浮かべることができる手軽さが良い。
アフトデッキへはトランサムの左右から上がる定番のスタイル。そのトランサムボードには、左右に水密ハッチ。ポートサイドのドアは、備品などを格納する大型のストレージ。スターボードサイドのハッチを開けると、クルールームが現れる。ステップを降りたところにはL字のダイネッティ。正面にはシンクとマイクロウェイブ。TVも設置されている。左右のドアは2つのクルーキャビン。それぞれ2段ベッドが設置されているので、4人のクルーが寝泊まりすることができる。もちろん、クルールーム専用の独立したシャワーブースを持つヘッドコンパートメントもある。さらに奥の扉を開けると、エンジンルームに直接エントリーできる。その手前の階段は、上のデッキにつながるので、トランサムのハッチを開けることなく、クルールームやエンジンルームにエントリーもできる。PRINCESSらしい見えないところまで配慮されたデザイン。クルーの生活環境が良ければ、長期のクルージングでも、オーナーやゲストを快適にもてなしてくれることを知っている。
クルールームからエンジンルームへ入る。明るいエンジンルームには、白く塗装された1,900馬力のMANV12が2基並ぶ。その間を通るメンテナンス用の通路は、2m以上の高さ。最前部まで行き、回り込めば、エンジン全周に手が届くメンテナンス性の高いもの。トランサム側には、27kWの発電機が2台。2台搭載することで、利用中のメンテナンスを可能とし、トラブル時のリスクを軽減している。造水器も搭載されているので、給水施設のないクルージングエリアでも長期にクルージングを楽しむことができる。
スイミングプラットフォームからアフトデッキへ向かう。贅沢にチークで覆われたステップを5段上がり、ゲートを開けアフトデッキに立つ。デッキ後方には、向かい合わせに設置されたソファ。トランサムは、開放的なガラスのパラペット。1,700mm×1,080mmに及ぶ大型のセンターテーブルを中心に、左右方向にスライドするソファ。テーブルを高くし、ソファの間隔を狭めれば、食事がしやすいテラスダイニング。ソファの間隔を広げ、センターテーブルを下げれば、ゆったりとしたくつろぎのカフェラウンジに変化する。アフトデッキを覆うイーブスの下には防水仕様の大型ディスプレイProofVisionが仕込まれていて、電動でフリップダウンする。アフトデッキで映画やスポーツ観戦。また、パーティーでは、音楽に合わせた映像を演出に使うのも良いだろう。
バウデッキは、アウトドアラウンジとサンタンベッドが装備された人気のレイアウト。フロントウィンドシールドのすぐ前には4人掛けのソファ。バウデッキの前方にはワイドなサンベッドを配し、リクライニングすることができる。スターンファーストで係留する地中海では、岸壁からは見にくいプライベートな場所。食事や日光浴を楽しむ人気のエリアだ。
光が溢れる開放的なキャビン
リアドアを開放し、2.1mのワイドな開口から室内へ。ギャレーを除いても、およそ28m²の広さを誇るサロンは、白をべースとした明るい色合いをウォールナットのアクセントで落ち着かせた心地良いデザイン。全面に広げられたサイドウィンドウからは海の広がりを感じるとともに、光が溢れる。眩しいほど明るく開放的だ。
サロンのさらに前方は、2段のステップを上ったライズドコクピット。スターボードサイドには、視認性の良い高目のパイロットシート。ウォールナットの壁や床に囲まれた落ち着く空間。フットレストにもウォールナットが使われている。ヘルムシートの奥には、サイドデッキに出ることができる1,710mm×530mmの水密ハッチ。ドッキングの作業にすぐ入ることができ、サイドデッキから素早くヘルムをコントロールすることもできる。
コクピットには、フライブリッジと同じ2台のRAYMARINEと、中央にはBONINGのタッチコントロールディスプレイ。その手前にはSIDEPOWERのバウスラスター&スタンスラスター、BENNETTのトリムタブなど、コントロールスイッチが使いやすい位置に配置されている。また、ポートサイドには、L字ソファ、ワッチを交代しながらヘルムスマンのすぐ側で休むことができる。オーバーナイトが必須なロングクルージングには嬉しいレイアウト。そして、ヘルムシートのすぐ後ろには個室トイレ。コクピットに隣接したトイレは、デイヘッドを兼ねた便利なもの。トローラーやパッセージメーカーと呼ばれるロングレンジのモーターヨットとしても、PRINCESSY85は高いレベルで条件を満たしている。
サロンの後方部分はラウンジエリア。ポートサイドには、幅3.2mのロー&ワイドなU字ソファと高さ220mmのデザインコンシャスなローテーブル。スターボードサイドには、幅2mのベンチソファ。ベンチソファ後方スペースには昇降式の大型TVが格納されている。
その前方は、カウンターギャレーとダイニング。ダイニングエリアには、直径1,500mmの円卓に7脚のダイニングチェア。このテーブルは2,000mmまでストレッチし、楕円形のダイニングテーブルとして広く使うこともできる。ダイングテーブルはフロアに固定された安全性の高いもの、そしてスライドもできる仕様。普段は通路を広く確保し、ディナーの時にはウィンドウから離し、ゆったりと食事を楽しむことができる。不意な波にもテーブルは固定されているので安全だ。そして、このダイニングエリアのサイドウィンドウは高さ1,450mm、幅2,860mmの特別なもの。ワイドなウィンドウからパノラミックな風景を楽しむことができる。ダイニングのすぐ横には、温冷庫の収まるキャビネット。温冷庫の横のドロワーにはMarioGioniのクリスタルグラスが美しく並ぶ。ハードリカーを飲みながらカードゲーム。映画で見たシーンをふと思い出す。
ダイニングエリアの対面、ポートサイドには、2脚のカウンターチェアが配置されている。カウンターチェアを囲むように配置されたキャビネットにはテーブルウェア。フォークやスプーンは、英国大使館でも採用されているロンドンのDavidMellor。カップやお皿は、フランスのLegleのもの。美しく輝くフランス伝統の磁器Limogesが器ごとの専用スペースに美しく収められている。
ラウンジ前方に位置するカウンターギャレーは、独立した空間。高さ920mmのカウンターには2脚のカウンターチェア。ファミリーで対話を楽しみながら調理ができるカウンターキッチンは、住宅でも人気のスタイル。パーティーでは、プロを呼び、クッキングパフォーマンスを見せる舞台となる。もちろん、ドリンクやフィンガーフードをサーブするバーカウンターとしても利用しやすい。そして、スイッチ一つでカウンターの一部がせり上がり、壁で覆い隠すことができる驚きの構造。完全に独立したギャレーに早変わりする。煩雑で日常的なギャレーを隠し、非日常の世界を壊さないデザイン。急な訪問客が乗船してきても、瞬時に生活感を隠すことができる。
もちろん、ギャレーも本格的。ダブルのシンクや、Mieleの4口のコンロ、マイクロウェイブ、食洗機がカウンターに収まり、ギャレー奥には、Sub-Zeroの冷蔵庫やフリーザーの他にWolfのオーブンやMieleのワインセラーなどフルスペックの装備。コンパクトな空間に整う理想のギャレーが、ファミリーユースに支持されている。また、ギャレーから直接サイドデッキに出られるドアがあるので、パーティーシーンでは、サロンを通ることなく、バウデッキやアフトデッキを行き来できる。パーティーを邪魔することなくサーブやバッシング。もちろん子供達もラウンジを通ることなく、デッキとキャビンを自由に行き来することができる。
ナイトスペースは、ダイニングの前方の螺旋階段を降りたロアデッキ。右に折れ、バウ方向へ2段上がったスターボード側には、幅800mm、長さ1,900mmのツインベッドが並ぶゲストキャビン。ゲストキャビンにも、独立したシャワーブースを持つヘッドコンパートメントが備わる。ツインのゲストキャビンの向かい、ポートサイドには幅1,500mmのワイドなダブルベッドが備わるもう一つのゲストキャビン。専用ヘッドコンパートメントやクローゼットの他に、バニティテーブルやシューズロッカーが備わるリュクスなゲストキャビンだ。
バウの先端はVIPキャビン。中央には幅1,800mm、長さ2,000mmのキングサイズベッド。子供と川の字で寝ても十分な広さのリュクスなベッド。専用ヘッドコンパートメントはもちろん、ウォークインクローゼットも備わるリュクスなキャビン。マスターステートレベルの贅沢なVIPキャビンとなっている。
そして、船体の中央部分にあたるミッドシップには、フルビームを使ったマスターステートキャビン。左右のビームには壁一面のシービューウィンドウ。海の風景を楽しむとともに、多くの光が入る明るく開放的なキャビンだ。中央には幅1,600mmのクィーンベッド。入ってすぐ右、ポートサイドにはバニティテーブル。天板を上げるとメイク用の鏡が現れる。テーブルの奥には幅860mmのワイドなハンギングロッカー。それ以外にミラーの扉の奥にも大容量のハンギングロッカー。スターボードサイドには1,500mm幅のワイドなソファ。ソファの奥にヘッドコンパートメント。スターボードサイドにはHansgroheのレインシャワーが天井部に取り付けられたシャワーブース。ポートサイドにはトイレ。シャワーとトイレの間には、1,880mmのロングカウンター。2人同時にパーティーの準備をすることができる。
アフトデッキに戻りチークのステップを上がる。開放感溢れるフライブリッジ。フライブリッジの前方は、船体の一部としてデザインされた美しいハードトップに覆われている。サンルーフのシステムは可動式ルーバー。2.7mx3.0mの広範囲を19秒ほどで開閉することができる。太陽の角度に合わせ日差しの入り具合を調整できるだけでなく、日差しを遮ったまま風を流すことができる。メガヨットに採用されている最新のエクステリアだ。
9段のステップを上がり切った目の前にはスタイリッシュな造形のカウンターバー。キャビネットやハードトップなど、エクステリアで使われているオイスターグレーとグラファイトグレーのカラーがコンビで使われたモダンなデザイン。シンクやVitrifrigoの冷蔵庫、アイスメーカーの他に、KenyonのBBQグリルが備わるウェットバーはパーティーにマストなエクステリア。このカウンターをDJブースにする計画もあるという。
カウンターの前方は、3人掛けのL字ソファ。大きく傾斜したバックレストに身をゆだね足を伸ばし寛ぐことができるシェーズロングとしても使うことができるエレガントなデザイン。最前部の中央はコクピットと2脚のボルスターシート。コクピットを囲むように、ポートサイドにも同じ、左右対称に配置されたL字ソファ。コクピットは、シンプルで美しい造形。必要な時にだけ、3連のディスプレイが収まるコンソールをフリップアップするもの。中央はY85のために構築されたBONINGのモニタリングコントロールシステム。左右はナビゲーションやデプス、レーダー、オンボードカメラなどをスイッチングして映し出すRAYMARINEのディスプレイが並ぶ。
ウェットバーの対面、ポートサイドの中間ゾーンは、ラウンジエリア。6人以上座ることができる幅2.57mの大型U字ソファと1,740mm×1,020mmのチークトップテーブルが備わり、家族や多くのゲストで語らうことができる。そして、フライブリッジ後方ゾーンのファシリティは、リュクスなジャグジーバス。最後部には全面ガラスのパラペットに囲まれたインフィニティデッキ。およそ15m²に及ぶゆとりあるデッキには、サンラウンジャーを配置することができる。日光浴を楽しむのも良いし、ジャグジーを覆うオーニングを広げ、強すぎる日差しを遮り、クールダウンのプールとして使うのも気持ちが良いだろう。
海外まで行けるロングレンジな船
フライブリッジのヘルムシートに着座し、シフトレバーを前に倒す。1,900馬力のMANV12は静かに力強く加速する。燃料40%、清水90%、乗員9名の条件下のシートライアル。900rpmで9.5ノット、1,200rpmで11.8ノット、1,500rpmで13.8ノット。少しノーズを上げた姿勢を保ちながら加速する。1,800rpmで17.8ノット、2,100rpmでは23.5ノット。トップスピードは、2,370rpmで28.4ノットを記録した。
ビルダーが発表するデータでは、2,000rpmの場合、23.3ノットで436マイルの航続距離。横浜から土佐清水まで航行できる計算だ。1,800rpm、19.4ノットで468マイル。1,600rpmまで落とせば、18.2ノットで565マイル。東京から小笠原諸島父島まで到達できる計算。1,400rpm、14.6ノットで669マイル。1,200rpm、11.8ノットで883マイル。そして、トローラーのボートスピードと同じレベルの1,000rpm、9.4ノットまで落とせば、1,373マイルの航続距離を得ることができる。これは、東京からグアムまで行ける計算となる。それは、与那国島から小笠原父島、北海道の離島まで、日本沿岸のクルージングはもちろん、海外クルージングも可能になる。また、排水型のトローラーとは異なり、いざとなれば28ノットのトップスピードで危険を回避することができる。航路の横断や潮流の速い水路でも、スピードで渡り切ることができる。スラックタイムに縛られることもなく、航海計画を立てることができる。
サロンクルーザーの概念を覆すPRINCESSY85。サロンの広さや洗練されたインテリア、アコモデーションの充実ぶりは、メガヨットクラス。ロングレンジを可能とする低燃費は、排水型のロングレンジトローラー。低燃費でありながら滑走し、スピードを手に入れたボトムデザインは最新のモーターヨット。全ての個性を兼ね備えたモーターヨット。それがPRINCESSY85が世界のセレブリティに選ばれる理由なのだ。P.B.
PRINCESSY85
全長26.2m
全幅6.7m
喫水1.88m
重量75.97ton
エンジン2×MANV12-1900最高出力2×1,900MHP燃料タンク10,940L清水タンク1,295L
問い合わせ先
日本総輸入元プリンセスヨットジャパン TEL:045-441-7700
https://www.princessyachts-japan.com
日本総販売元ポートサイド TEL:045-770-6141
https://www.portside-marine.com
https://www.youtube.com/watch?v=PlEB9h2Aj7w