
PRESTIGEF4.9

イタリアCamiloGarroniによる優雅なデザインに、奇才MichaelPetersの新しいハルArtDeVivre、フレンチリヴィエラの芸術的生活、その新しい魅力を味わう
text: Kenji Yamazaki
photo: Makoto Yamada
special thanks: YAMAHA MOTOR
https://www.yamaha-motor.co.jp
過去30年間に40モデルが開発された「PRESTIGE(プレステージ)」、最新トレンドの第三世代F‐Lineシリーズ、そのシンボル艇がそこにいる。凛とした空気と透明感あふれる陽光が差し込む新西宮ヨットハーバー、そのメインポンツーン。全長15.18m、全幅4.49m。PRESTIGEF4.9は瀟洒なたたずまいを漂わせて舫われている。

どことなく柔らかさを感じさせる白いハルに、墨汁のような黒が際立つ異形ひし形の舷窓の2層のサイドライン、Cピラーの黒いファッションプレートのアートフルなマーキングが誇らしげだ。Vシェイプのハル、せり上がる高いバウデッキ、ダイナミックさの中にひそむウォーターラインがエレガントなエクステリアのフォルムを見せている。MichaelPetersの新設計のハル、誇らしげなたたずまいが漂う。ポンツーンから船体を見上げる。青い空に浮かぶ白い雲に溶け込んでいくハルのホワイトとブラック。潜む白磁の色合いが工芸品を思わせる。
スイミングプラットフォームから乗船する。もちろんプラットフォームはハイドロアシストでウッドラダーを伴いリフトアップ&ダウンが可能。リアボンネットにはゆとりのストレージがある。両舷からアフトコクピットへアクセス。アフトデッキには進行方向に平行し対面するファブリックのソファにチークテーブルがセットされ、リビングソファが新たなトレンドを主張している。左舷のフライブリッジラダーの袂には製氷機が、右舷サイドには離着岸時のジョイスティックとバウスラスタースティックが潜んでいる。


サロンに入る。左舷にこのフネのもっとも特徴的な位置に用意されたギャレーが展開する。「オーシャンビューギャレー」と呼ばれるユニークなギャレーレイアウトだ。アフトコクピット右舷サイドから入るサロン、入ると左舷にシンクとIHコンロがカウンタートップにセットされ、その下にはMieleのレンジ、壁には大型冷蔵庫が2段にレイアウトされて位置する。アフトに向けてのウィンドウは全面が上へ跳ね上げられアフトデッキと一体化が図られている。

サロンは光とスペースを最大限に生かすレイアウト。2分割のフロントウィンドウ、採光豊かなサイドウィンドウ、淡いブラウンのトーンコントロールの落ち着いたサロンが広がる。左舷サイドを中心にぐるりとL字ラウンジシートが取り囲んでいる。テーブルを広げるとダイニングスペースともなる。右舷はヘルムのみが位置している。広々としたサイドウィンドウ、その右舷サイドはスライド式、右舷サイドデッキへのアクセス可能だ。サロンを抜け出しサイドデッキを3ステップ上がると、キャノピートップで日陰の出来たバウデッキ、冷えたシャンパン片手に出ることもたやすい。

サロンのウッドはウォルナット。オプションでサンドオークも用意される。ヘルムシートの下はキャビネットとエアコンシステム。背後のグラスキャビネットはカービングされたアートフルなウォルナットの扉を持つ。フロアもオーク、ウォルナットの選択が可能。その上にファブリックの絨毯を敷いてもよい。サロンのルーフやロアデッキへのコンパニオンウェイのウォールにはラインライトが柔らかい光を演出している。インテリアはイタリアのCamiloGarroniデザインが手掛ける。海と自然の融合、ArtDeVivre。


メインヘルムステーションを見てみよう。二人掛けのヘルムシートの前には右舷サイドにステアリングホイール、その右、ウィンドウ下サイドデスクにZIPWAKE、ジョイスティック、バウスラスター、両舷エンジンVOLVOPENTAIPS650(D6‐480hp)×2基のコントローラーが並ぶ。正面にはGARMINのタッチセンサー16インチMFDディスプレイ2面がコンソールの両端に並び、センターにはGARMINのオートクルーズが位置している。ジャイロスタビライザーはSEAKEEPERが搭載されモニター管理される。ヘルムシートからの視認性は良好だ。
ヘルム左から3ステートのロアデッキへ。オーナーズスイートはバウにフルビームで用意される。天井高2mのベッドルームを備えた驚くほど広々とした内部空間と自然光が差し込む空間が特徴。エンジンルームから離れた前方に位置し、プライバシーと、防音性を高めたこのスイート、静寂さの確保に徹する。アイランドタイプのベッド、ドレッサー、クローゼット、ゆったりとしたパウダールームは左舷後方に用意され、トリムやウォールの材のリュクスな設えが心地よさを演出する。水の動きを思わせる流れるラインの表現。両舷の舷窓、ルーフトップからの採光、柔らかな光に満ちている。ミジップには共用のパウダールームを持つゲストルームが両舷それぞれに用意される。


フライブリッジに上がってみる。左舷前方にキャプテンシートを持つヘルムステーションがある。ステアリングホイールの前にGARMINの16インチMFDディスプレイ、コントローラー、オートパイロット、ジョイスティック等が並ぶ。メインデッキでは右舷に、フライブリッジでは左舷にヘルムステーションが用意される。ヘルムの右舷にはサンベッド、その背後にKENYONのBBQグリルとシンク、冷蔵庫のキャビネットが用意され、後端のL字ソファがリラクゼーションゾーンをかたち作っている。


PRESTIGEF4.9は、すべてがニュージェネレーションと言う。コーリアン製のカウンタートップ、彫刻された木工品、籐のタッチ、ルーフの曲線的な照明サイン、新しい素材と新しい質感を誇る、一目で独特の優雅さが伝わる。サステナブルマテリアル、リサイクルファブリック、排出ガス浄化システム、VOLVOPENTAIPS、船舶制御、Seanapps、SEAKEEPER、GARMINSurroundView、……快適な航海のために最新の全てがここにある。

ラグジュアリーサロンクルーザーPRESTIGE誕生の興味深い歴史を振り返ってみよう。フランスはセールボートの連綿とした歴史を持つ。PRESTIGEは、セールボートの名門「JEANNEAU」のプレミアムボートブランドとして誕生した。JEANNEAU設立の歴史は興味深い。ファウンダーHenriJeanneauはパワーボートレースのファナティック、自らレーサーでありボート造りを開始。セールボートとエンジンボートは両輪のように、JEANNEAUをビルダーとして成功させた。
詳しく歴史を見てみる。HenriJeanneauは飛行機やクルマに関心深く、その行きつく先はパワーボートレースだった。1957年、フランス西部レ・ゼルビエで開催されたパリ6時間耐久レース用の木製ボートを製作し、自らこのレースに参戦している。翌1958年にはFRPでボートを製作、1963年に「Seabird」をラインオフ、翌年には最初のセールボート「Alize」をローンチ、JEANNEAU発展の礎となる。1972年には最初の大型クルージングボート「America」をローンチさせ、1980年にはフォーミュラー1カテゴリーのカタマランパワーボートレーサーを製作し、レース界に革命を起こす。セールボートではJeanneauAdvancedTechnologiesを生みだし、オフショアレースをリードしていく存在となる。1985年にはカタマランブランドの雄「LAGOON」を誕生させる。1989年GarroniDesignのオープン艇「PRESTIGE41」誕生。パワーボートPRESTIGEブランドの誕生となる。1995年にはフランスの同じセールボートの雄、BENETEAUのGroupBeneteauに加わる。

PRESTIGE発展の中心、フライブリッジモデルは2000年の「PRESTIGE36」から始まる。記念すべきは2010年ヨーロッパ・ボート・オブ・ザ・イヤーを獲得したIPS採用の「PRESTIGE60」、この成功が大型艇部門への本格参入となった。またこの年にIPS採用の「PRESTIGE500」もデビュー、斬新なレイアウトとバランスで450艇販売の大成功を収めている。2014年にはシンボリックな「PRESTIGE750MotorYacht」をデビューさせ成功の証とした。2016年は「680」、「680S」をローンチ、2017年には「560」、「560S」、「630」、「630S」をデビューさせ、2018年はスポーティバージョンS-Lineを充実させている。2022年には新たな試みがなされた。PRESTIGEの現行モデルは、最新モデルのマルチハルM‐Lineが
「M48」、「M7」、「M8」。フライブリッジの最新モデルF‐Lineは「F4.3」、「F4.9」、「F5.7」、「420」、「460」、「520」、「590」、「690」の8艇種。スポーツクーペS-Lineは「420S」、「460S」、「520S」。最新モデルX‐Lineは「X-60」「X-70」の2艇種。
PRESTIGE成功の重要な役割は、イタリアジェノバのGarroniDesign(ガローニデザイン)の存在だ。1971年VittorioGarroniによって設立されたGarroniDesign、今では息子のCamilloGarroniとVittrioGarroniの生みだすハイセンスはクルーズ船からリゾートにクルマまでと幅広い。日本とも縁が深く、クルーズ船の「飛鳥」や「クリスタルハーモニー」、ハウステンボスにも彼らのデザインフィロソフィが生きている。そのGarroniDesignともう38年もの信頼で成長を続けるのがPRESTIGEブランドなのだ。イタリアンモードはフランスのエスプリと融合し進化する。そしてこのF4.9のハルデザインは、パワーボートレーサーやスポーツフィッシャー等で実績のあるMichaelPeters&YachtDesign。フロリダの新たな奇才との協業が生み出す成果の刺激的なシーンに酔いしれたいものだ。

さあ、シートライアルに出航しようか。
気温14°C、北風6m/s。晴れ。新西宮ヨットハーバーは静かな午後を迎えている。フライブリッジでの操船。ポート内は600rpm3.64ノット、燃料消費量1.3L/h。VOLVOPENTAIPS650(D6‐480hp)×2基は1,000rpm5.26ノット、3.8L/hで出航。夢洲の西沖に向かう。コントローラーをワンノッチ押し入れる。静かな加速、1,200rpm6.43ノット、5.7L/h。1,500rpm8.03ノット、10.3L/h。強引なトルクではない軽やかなトルク感のもとに加速していく。深いエアダムスクリーンの効果は素晴らしく、真冬の冷たい風が直接顔に吹き付けることはない。もちろんはぐれ波に突っ込んだ時のスプレーを浴びることもない。

六甲の山並みを右手に見ながら西に向かう。風が上がった。フラットとは言えないチョッピーな波が立っている。1,800rpm9.30ノット、16.2L/h。2,000rpm9.90ノット、21.6L/h。2,300rpm11.0ノット、32.4L/h。2,500rpm12.5ノット、38.4L/h。2,800rpm15.5ノット、51.2L/h。軽やかなステアリングを切り込んでいく。小気味よいインサイドバンクを伴って自分の腰の位置を中心に回頭していく。小回りのないイメージ通りのトレース感、スムーズな挙動が信頼を生み出していく。
3,000rpm17.7ノット、60.3L/h。クルージング速度3,400rpm23.0ノット、80.0L/h。S字走行を試みる。SEAKEEPERジャイロスタビライザーの邪魔はなく切り替えし時の不安定感は皆無、スポーティな挙動に快感が生まれてくる。軽快な走行のままコントローラーをさらに押し込む。神戸空港方向へ、緩やかなピッチングを伴って加速が繋がる。


3,700rpm26.6ノット、94.1L/h。北の追い風、トップスピードは最高回転3,740rpm27.1ノット、95.4L/h。ほぼカタログデータ通りだ。十分な走行性能、ハルファスターなイメージ。さらなる欲も湧いてくる。強靭かつスポーティなハルを持つF4.9、ベストバランスのVOLVOPENTAIPS650×2基、モアパワーはカスタムチョイスに任せようか。さあGARMINの優れたオートパイロットをセットして紀伊水道を南下する航路を選んでみよう。降りたら更に南西へ、南の海へ、光る海のその先へ……。P.B.
PRESTIGE F4.9
全長 15.18m
全幅 4.49m
喫水 1.17m
重量 15.10ton
エンジン 2 × VOLVO PENTA D6-IPS650
最高出力 2×480HP
燃料タンク 1,300L
清水タンク 586L
問い合わせ先 ヤマハ発動機
TEL: 0120-090-819
https://www.yamaha-motor.co.jp/marine/





