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PACIFIC COAST HIGHWAYカリフォルニア1号線を南へ!魅力あるビーチタウンをめぐる旅(中編)

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先月号で紹介したカリフォルニア最古のビーチタウン「キャピトラ」から1号線を南下すると、雄大な太平洋の海岸線とはしばしのお別れとなり、緩やかな勾配の続く山道に入る。標高の高い場所まで登ると、向こうに光輝く太平洋が望め、下り坂に入ると30分ほどで、観光客で賑わうモンタレーの街に入る。ここからカーメルまでをつなぐ風光明媚な海沿いのドライブコースは素晴らしく、途中、ゴルフコースで有名なペブルビーチを走る「17マイルドライブ」では、アシカや海鳥が遊ぶ遠浅の美しい海岸の眺望が車窓から楽しめる。今月はカリフォルニア1号線のハイライトのひとつでもあるビッグ・サーから大人気のピスモ・ビーチを紹介しよう。

text & photo:Hidehiko Kuwata

イーストウッドが市長を務めたカーメル・バイ・ザ・シーからヘンリー・ミラーが愛したビッグ・サーへ。そしてボヘミアンな街、ピスモビーチへ

1986年から2年間、俳優のクリント・イーストウッドはカーメルの市長を務めた。20世紀初頭より、この街には多くの芸術家が暮らすようになり、住人の半数近くが芸術家だった時代もある。市政にも大きな影響力を持ち、イーストウッド以外にも複数の著名人が市長を務めている。

海岸からまっすぐ伸びる目ぬき通り、オーシャン・アベニューを中心に、東西南北2ブロックほどが街の中心で、すべてが徒歩で楽しめる。信号もネオンもファストフードもないダウンタウンには、洒落たレストランやバーが並び、どこまでも上品で落ち着いた佇まいである。長い歴史をもつ家族経営のレストランが多く、通りを行き交う人は少ないが、夕暮れ時にはどのレストランも満席である。

山側のカーメル・バレーには素晴らしいワイナリーが点在しており、それぞれにテイスティング・ルームを街中(13カ所)に設けているので、ここでは歩いてワイン・テイスティングが楽しめるのだ。「カーメル・ワインウォーク」という名称で、観光局にはマップも用意されている。レストランでワインを味わうのもいいが、穏やかな街並みを散歩しながら、地元産のワインを飲み比べるのも楽しい旅の時間である。


カーメルから1号線を南下すると、まもなく街らしい街はなくなり、視界には切り立った崖と太平洋の絶景が広がる。ビッグ・サーの中心までは小一時間のドライブで、風光明媚な1号線のルートでも最高の景観が満喫できる区間である。とくに中間点に架かるビックスビー橋のビューポイントから眺める、ビッグ・サーの幻想的な海岸線と荒々しい急勾配の崖のコントラストは圧倒的だ。

ビッグ・サーに入ると周辺の景色は深い緑の森に変わり、15分ほど走ると道路の両側に数軒のレストランやロッジが建つ中心地に到着する。この地域の大半はサンタルチア山脈に含まれており、山の斜面が直接太平洋に流れ込んでいる。そのために開発が難しく、山側の深い森林地帯も含めて、未だ手付かずの大自然が遺されてきたのだ。

世俗から距離を置いたビッグ・サーの隠れ家のような空間に惹かれて、古くから多くの芸術家が移り住んできた。その代表格が作家のヘンリー・ミラーで、1号線が開通するとまもなく居を構え、その後18年間を過ごした。そして、美しい大自然の中での自らの暮らしぶり、ここに生きる人々との穏やかな交流などをユーモラスに描き、独自の楽園論、『ビッグ・サーとヒエロニムス・ボスのオレンジ』を発表した。

当時親友だった画家のエミル・ホワイトはミラーの死後、所有していた敷地に「ヘンリー・ミラー・メモリアル・ライブラリー」を設立し、現在ではビッグ・サーの主要な観光スポットとなっている。

ここから1号線を挟んで西側の小高い丘の上に建つレストラン&バー「ネペンタ」に向かう。ここのテラスから眺めるパノラマはまさに絶景だ。エリザベス・テイラー主演の映画『いそしぎ』のロケ地としても有名で、ビッグ・サーでもっとも賑わう場所となっている。

ビッグサーの森を抜けると1号線は穏やかな海岸線に出る。さらに南に向かって走ると、かつて米国の新聞王として君臨したハースト家が所有していたハーストキャッスルのあるサンシメオン、オールドタウンが今も残るカンブリア、入江に巨大なドーム型の岩がそびえるモロベイと、魅力溢れるビーチタウンが続く。

カリフォルニア州のほぼ中間点にあるサンルイスオビスポの街に入り、1号線が101号線という大きなハイウェイに合流すると、10分ほどでカラフルな装いのピズモビーチに到着する。にぎわいの中心であるポメロイ・アベニューには、町の名物であるクラムチャウダーの店や古き良き時代を彷彿させるバーなどが並び、その先には真っ白な砂浜とターコイズブルーの太平洋が広がる。

ピスモとはハマグリの名前で、かつては付近の海岸に大量に生息していたため、この街の長く広いビーチにその名が付けられた。ピスモビーチは、1950年代には「世界のクラムの首都」と呼ばれていた。現在でも毎年10月にクラムフェスティバルが開催され、クラムチャウダーのコンテストやクラムをテーマにしたパレードが行われる。プライス通りの南端には、巨大なコンクリート製のハマグリの像があり、訪れる人を出迎えてくれる。

まるで映画のセットのような町並みを進んで海辺に出ると、左手に巨大な桟橋が現れる。この360メートルの長さの木造の桟橋は、1928年に建造されたもので、町のアイコン的存在である。桟橋の先端まで歩き、海風に吹かれながら穏やかな海辺の町の全景を眺めると、ここでは人と自然がバランス良く共存していることに気づく。それぞれに大きくもなく小さくもなく。だから旅人である自分も心地よくこの町におさまるのである。

「まるで映画のセットのような町並み…」と書いたが、実際にピスモビーチは多くの映画やTVドラマに登場した。古くは1950年代に大ヒットしたTVドラマ『アイ・ラブ・ルーシー』のエピソードや、’60年代に一斉を風靡し日本でもオンエアされた『ザ・モンキーズ』のTVシリーズ、そして1998年公開のコーエン兄弟の映画『ビッグ・リボウスキ』など、ピスモビーチは数多くの印象的なシーンに登場してきた。

海辺で大空と太平洋が真っ赤に染まる雄大な夕景を楽しんだら、シーフードとワインの時間だ。セントラルコースト・ワインの中心地、パソロブレスから届く素晴らしい赤白ワインの数々。そして地元で採れるクラムをふんだんに使ったチャウダーと新鮮な素材の魚料理など、太平洋の恵みと地元ワインとのペアリングは申し分ない。海辺の小さな町でこれだけレベルの高い美味を満喫できることも、カリフォルニアの旅の大きな魅力である。

ピスモビーチからは、内陸部を走る101号線を南下して、ガヴィオータという小さな町に入ると再び海岸線に出る。椰子の木とスペイン風の建築物が街を彩る美しいサンタバーバラを過ぎると、間もなくセントラルコーストとはお別れだ。ヴェンチュラ・カウンティに入るとサザンカリフォルニアらしいまぶしい陽射しに包まれる。米海軍基地のあるオックスナードから再び1号線に入り、空高い青空の下に真っ白なビーチが延々と続く太平洋沿いを走って、約1時間で桟橋のあるマリブのサーフライダービーチに到着する(以下次号に続く)。P.B.