
JACK 45 SEDAN
大阪府堺市で、設立から約33年間、日本のボートシーンでは珍しい、個性的なボーティングビジネスを展開してきた「クリエイション」は、1980年代末に法人化されたころから、すでにオリジナルモデルの建造を手掛け始めていたビルダーである。そんな同社が、2013年の初めからスタートしたのが、フルカスタムモデルシリーズの「JACK」とその合理的な建造システムだ。
「JACK45Sedan(ジャック45セダン)」はシリーズ最新作。先行して建造された同シリーズのJACK45Convertibleと設計を共用し、コスト面などにもそのメリットを生かしつつ、オーナーの希望を取り入れたカスタムクルージングセダンを完成している。

text:Yukio Takahashi
photo:Makoto Yamada
special thanks: CREATION https://creation-marine.co.jp
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完成度の高いモデルでありつつも、オーナーの望む個性はしっかりと身につけるそれを実現するのが、JACKというシリーズであり、その建造システムである
「JACK45Sedan(ジャック45セダン)」は、大阪府堺市に本拠を置く「、クリエイション」のオリジナルシリーズである。
クリエイションは、ボートのメンテナンスや補修、新艇、中古艇の販売などに携わるべく、1984年に設立された。その後、1988年にクリエイションという社名を持つ、現在の会社形態になっている。
法人格を持ったばかりの、1980年代末の同社は、ディーラー、ブローカーとして、いわゆる「普通の」さまざまなモデルを扱う一方、独自色の強いモデルも早くから扱っていたのだが、1990年代に入ると、続々と同社自身の企画や各所からの依頼によるオリジナルモクリエイション自身は、自社造船施設を持っていなかったが、国内外の造船所とのリレーションシップを確立することによってオリジナルモデル開発を進めるという手法をとっていた。こういうスタイルのボートビルディングは、米国でも、ヨーロッパでも、比較的普通に行われており、ビルダーと呼ばれるところであっても、自社で施設を抱えず、造船はOEMというところがけっこう存在している。実は日本においてもボートビルディングのOEMはそれほど珍しくないのだが、クリエイションのように、OEM供給元との関係性や建造に関する情報などをユーザーと共有しているようなところはほとんどない。

さて、JACKというシリーズがクリエイションのラインナップに組み入れられたのは2013年。同社のオリジナルシリーズとしては、最新のものの一つだろう。このシリーズ名が同社のウェブサイトに登場したのは同年1月が最初。クリエイションの担当者によると、それから現在まで、約40艇のJACKシリーズが進水しているのだという。
JACKはフルカスタムを前提とするシリーズ。そのため「OnemoldOneboat」を前提としている。つまり、1艇建造するために1つのモールド(型)を造るわけだ。量産効果がほとんど期待できないため、当然、コストはかかるが、カスタム艇というのはそういうものである。
しかし、このシリーズにおいては、建造を担当している台湾の松林造船(英名のブランドは「DragonYacht」)の簡易メス型製造技術が優秀かつ工夫に満ちたもので、一般的なカスタム艇に比べると、そのコストが抑えられているのだという。もっとも、カスタム艇の価格に対する客観評価は難しく、現実的にはオーナーの満足度程度しか基準は無いのだが、それでも2013年から9年間で約40艇、年平均4.4艇程度という進水実績は、JACKというシリーズに対する評価の高さと考えて差し支えない数値であり、その理由の一つがコストであろうことは想像に難くない。

今回のJACK45Sedanは、台湾の松林造船において2021年6月に完成、現地での完成検査と洋上トライアルを経て7月に船便で日本に輸送、到着後、クリエイションにおける最終的な艤装や整備点検を経て竣工、8月にオーナーに引き渡され進水式が行われた。JACKシリーズにおいてはシリーズ最新艇だ。
実は、このJACK45Sedan、本誌2022年4月号に掲載されたJACK45Convertibleの姉妹艇である。一見、外観的な共通部分が見出せない2モデルだが、その基本的な喫水下形状、ハルの内部構造、さらにその内部構造に関わる船内レイアウトなどは同じである。
JACK45Sedanの内外装デザインを担当したのは、当然、JACK45Convertibleと同じ薄雅弘(うすきまさひろ)氏。このところ、JACKシリーズのデザインを手掛けている薄氏は、かつて国産艇大手のヤマハ発動機で多くのボートを手掛けてきた人物。今回のモデルでも、さまざまなモデルで試みられた、いわば薄風味というべきそのデザイン手法が見られる。
最も目立つのはガンネル部分。一般的なFRP艇のガンネル部分は、ハルとデッキという大きなパーツの接合部となる場所でもあるため、通常は、この2つのパーツを接合し、その接合部を隠すようにPVCやステンレスの長尺摩擦材であるラブレール(rubrail)を取り付けるのだが、JACK45は、Convertibleも、Sedanも、ラブレールは存在せず、接合の跡もない。これは、接合後、その部分をパテなどで完全に埋めてしまうという、手間のかかる仕上げをしているからなのだが、この仕上げは、ハルやデッキといったFRPパーツの製造精度が高くないと成り立たない。実は造船所の能力を示す部分でもあるのだ。
そしてもう一つは、ハルの舷側の一部、舷窓周りなどが凹んだ形状になっていること。これはスタイリング上の特徴であるとともに、強度的な面でも平らな舷側より有利な形状で、特に最近の大型舷窓のための開口部を持つハルでは有効な手法なのだが、当然、この形状を実現するにはハルを左右分割型で成型する必要がある。
これらは薄デザインにおけるアイデンティティの一部だが、少々コストのかかる造作でもある。とはいえ、カスタム艇らしい個性の演出というのは、こういったコストに影響する造作に対するエクスキューズになるに違いない。

フライブリッジは船首側中央にヘルムステーション、右舷から船尾端にかけてL形のベンチシートという配置。L形ベンチに対応したテーブルと、ある種のウェットバーというべき大型シンクが備わる。


ヘルムシートの位置は、全長におけるミジップよりも75cmほど船尾側。このクラスの同タイプのモデルでは、デッキハウス内船首側の天井高を確保するために、フライブリッジを船尾側に設けたりすることもあるが、このモデルではそれほどではない。デッキハウスの前後長が必要なだけ確保され、さらに内部居住空間を快適なものにするための位置設定が適切であるということだ。健全なスタイリングワークの結果である。

船内レイアウトは2ステートルーム・ギャレーアップ。メインデッキは、船尾のコクピットソールよりも10センチ程度床を高く設定したデッキハウス内の船尾側がギャレー/サロンエリア、船首側は、さらにそれよりも64cmほど床レベルを高く設定したヘルムステーション。ヘルムステーションにはヘルムとナビの2脚のシートが備わるが、さらにその右舷には3人掛け程度のベンチシートが設けられており、視界に優れたこのスペースをある種のビスタラウンジのように楽しめる造りになっている。
ロアデッキへのコンパニオンウェイは左舷。階段は約87cmの段差を4段で下りるという穏やかなもので、1段あたりの踏面の前後長も余裕がある。安全性が高く、スペースの使い方としては、余裕を感じさせる部分だ。

ロアデッキに設けられた2室のプライベートルームは、船首室がアイランドタイプのダブルバースを中央に備えたゲストルーム、ヘルムステーションの下に位置する部屋が斜め配置のダブルバースが置かれたマスターステートルームだ。ゲストルームの天井高は入り口付近で1.98m、左舷手前には船首室と船内通路の両方にアクセスドアを備えた共用のヘッド/シャワーを設置。一方、マスターステートルームの天井高は約1.90m。船首側には専用のヘッド/シャワーが設けられている。


船型は穏やかなワープトV。船尾からミジップにかけて少しずつデッドライズが増すタイプで、航走時に船首から船尾に流れる水流に対しては、キール付近に比べてチャイン付近の迎角が大きいため、低速で艇体が沈んだ状態では比較的大きな揚力が発生し、低速からの加速時には、明確なハンプ状態を生じにくいとされる船型である。
今回のモデルの搭載パワーユニットはVOLVOPENTAD8-IPS800(×2)。今回のモデルでは、フォアフットからハル長の78%ほどのところまで、キール部分には最深部の深さが25cmほどになる浅いスケグが備わっているが、これは直進性をより確実なものにして、オーナーの望む長距離航走をさらに安楽にするためとのこと。とはいえ、IPSとジョイスティックの組み合わせによるドッキングマニューバにおいては、このスケグが抵抗になるケースもあるため、そのあたりはトレードオフだ。

このモデルのハルについては、VOLVOPENTAの「Pro spect Review(予測、講評レポート)」がなされており、それによると、このモデルに搭載するパワーユニットはD6-IPS650でも十分とされている。しかし、完成した艇体は、更なる強度を求めて、当初の計画よりも(造船所の判断によって)増厚されていたようで、その分だけ排水量も増加。実際に操船した場合、ほとんどの人はD8-IPS800が適正ユニットであると感じるだろう。
速度計測は撮影時よりも平静な海況(とはいえ、それなりの風はあった)で行ったのだが、その際の最高速は31.5kt。他日の計測では33~34ktだったそうである。

今回の艇のパワーユニットはエンジンをミジップ近くに置き、船尾のポッドドライブユニットとの間を軸長1.70mはあろうかという中間軸で結んだジャックシャフト形式。長い中間軸は振動や騒音が問題になることもあるが、このモデルはほとんどそれを感じさせない。前述した艇体増厚が、振動や騒音の抑制を目的にあらかじめ施されたのだとしたら、造船所の卓見というべきかもしれない。重心位置はインボードダイレクトドライブに近く、あらゆる速度域において、ごく自然な航走感が実現されていおり、旋回時の挙動も安心感のあるものになっていた。
カスタム艇の建造というのは、曖昧模糊とした想像の世界にあるものを具体的な形にし、適切なスペックを与え、それを実際に造ることである。何でもできるかもしれないが、そのためにはそれなりのコストはもちろん、膨大な時間がかかるものでもある。クリエイションの「JACK」は、そのあたりを合理化し、カスタム艇建造の敷居を下げることに成功したシステムでもあるのだ。P.B.
JACK45 SEDAN
全長 15.7m
全幅 4.78m
喫水 0.88m(計画値)
エンジン 2×VOLVOPENTAD8-IPS800
最高出力 2×600HP(441kW)(クランク軸)
燃料タンク 2,000L
清水タンク 600L
問い合わせ先クリエイション
TEL:072-223-5884
https://creation-marine.co.jp




