
Ferrari 12Cilindri Spider

自然吸気V12の到達点:Ferrari 12Cilindri登場
text: Jun Nishikawa
photo: FERRARI
https://www.ferrari.com/ja-JP
このところマラネッロが繰り返し説明することがある。それはローマ、プロサングエ、296シリーズ、そしてSF90シリーズに最新モデルのドーディチ・チリンドリを加えたロードカーラインナップの再構築されたポジショニングに関して、だ。要するにそれぞれのモデルがどんな位置づけにあるか、という解説である。最もグランドツーリングカーよりのモデルがプロサングエで、最もスポーツカー寄りがSF90シリーズだ。

では、V12エンジンをフロントミドに積んだドーディチ・チリンドリはどこか?曰く、ドーディチ・チリンドリはフェラーリブランドのステートメントカーである、と。ロードカーラインナップの要であるばかりか、ブランドのあり方を最もよく体現するモデルとして企画されている、という意味だ。つまりはラインナップのど真ん中。存在の重要さとしてはF1マシンと双璧をなす存在である。
ドーディチ・チリンドリはベルリネッタ(クーペ)、スパイダー共に2024年5月のマイアミGPにて正式にワールドプレミアされた。秋には早くもクーペの国際試乗会がルクセンブルクで開催され、年末からデリバリーも始まった。日本へもそろそろ上陸する。明けて2025年、日本は未だ厳寒という2月に今度はスパイダーのテストドライブをポルトガルで催した。この時期の北イタリアはスパイダー向きの季節とはいえず、そのうえウィンタータイヤ規制がかかっている。それゆえ風光明媚で暖かいポルトガルが選ばれたわけだが、それにしてもアメリカ、ルクセンブルグ、ポルトガルとこれほど“グローバル”にローンチイベントを展開した跳ね馬も近年他にない。グローバルスポーツカー界のセンターをも狙うという意気込みを感じる。

それはともかく、マラネッロ産ロードカーの核心にドーディチ・チリンドリが存在する、というマラネッロの主張には100%の賛同しかない。なんといってもエンツォ・フェラーリは会社設立の一年前、1946年にはすでに新たなV12エンジン(設計はかのジョアッキーノ・コロンボ)の開発を終えており、翌年のフェラーリ社設立から20年ばかりはV12+FRのレーシングカーとロードカーのみを作り続けてきたのだから。
“フェラーリ”という名を持つ駿馬の心臓は12個のシリンダーでできている。そしてレース、スポーツカーもF1も彼らは強い。だからこそ黎明期には北米マーケットで大いに支持され、後に世界的なブランドとなったのだ。ロードカー販売の主力をV8モデルに譲って早半世紀経つが、それでもV12の2シーターFRモデルは跳ね馬ロードカーの核心であり続けるというわけだった。ドーディチ・チリンドリ・スパイダーには、クーペと同様、812コンペティツィオーネ用のF140HB型に改良を加えたF140HD型 V12 DOHCエンジンが完全フロントミドに搭載されており、リアに置いた(=トランスアクスル)8速DCTと組み合わせている。Vバンク角65度に排気量6.5リットル、最高出力830cvという数値こそHB型から受け継いでいるが、最高許容回転数を9,250rpmから9,500rpmまで引き上げた。排気ガス規制に対応すべく最大トルクを678Nmと少し落としたため回転数を上げて出力を確保したというわけだが、同時に低回転域におけるトルク特性も見直されているうえ、アスピレーテッド・トルク・シェイピング(ATS)という秘密兵器を採用したことで、落としたトルク数値などまるで気にならなかったことはすでにクーペの試乗で確認済みである。

ルーフオープンシステムや補強(Bピラーとロールバーの間にアルミニウムの連結材を挿入など)といった変更点以外に、スパイダーを企画するにあたってマラネッロの開発陣が手をつけた部分は、実はシャシーセッティングを含めてさほど多くなかったという。裏を返せば、既にこのプラットフォーム世代となって3モデル目(F12→812→ドーディチ・チリンドリ)であり、クーペとスパイダーのセットも812で経験済みだったから、21年に始まったというドーディチ・チリンドリの開発において、その当初から反映できた知見が大いにあった、ということだろう。
ちなみに重量増を抑えることはスパイダー化にあたっての(というかいつもそうだが)最重要課題で、様々な新装備にもかかわらずクーペからは+60kg、先代に当たる812GTSからは+35kgという数値に収まっている。海岸線に程近いリゾートホテルを起点に国際試乗会が開催された。かの有名なロカ岬も近い。ずらりと並べられたテストカーは全て同じコンフィグレーションで、ヴェルデ・トスカーナという落ち着いたグリーンに、これまたテッラ・アンティカという程よく明るいブラウンのレザーインテリアという取り合わせ。洒落ている。そういえばマラネッロ産ロードカー試乗会でロッソコルサにペイントされた個体を見る機会は極端に少なくなった。だから赤いフェラーリが今やかえって新鮮に思えるほど、だ。ちなみにグリーン系のペイントは最近とても人気らしい。
テストの日は幸運にも朝から快晴で、やや肌寒かったとはいえ、オープンエアモータリングを楽しむには絶好の日和だった。与えられた一台に乗り込んで早速V12エンジンに火を入れ、躊躇うことなくルーフを開ける。
り込んで早速V12エンジンに火を入れ、躊躇うことなくルーフを開ける。ポルトガルの青空をしっかりと仰ぎ見るまでわずかに14秒。ちなみに走行中でも時速45km以下であれば開閉操作は可能だ。ゆっくりと走り出す。乗り心地は上々。クーペを試乗した際にはどこか遠くでおとなし唸っているように聞こえたV12エンジンのサウンドも、ルーフを開けて走ることでいくらかはっきりと耳に届く。
もっともエンジンサウンドをできるだけ心地よく、風を気にすることなく屋根を閉めたままでも“美味しく聞く”オススメの乗り方がある。いわゆるカリフォルニアモードで乗ってもらうのだ。クーペ状態のままリアの垂直ガラスをおろしてドライブする方法で、本来は爽やかな風をコクピットに流すための装備だが、風を感じるということはエグゾーストサウンドだけをダイレクトに聴くこともできるということでもあった。

今回のテストでは、風が冷たかったこともあって、この乗り方が最も都合よかった。もし自分で買うのであればオープンにする機会は滅多になくとも、カリフォルニアモードにできるスパイダーを選ぶことだろう。クーペのユニークなリアスタイル、デルタウィング形状も捨てがたいとは思うが……。
オープンにして走らせても車体剛性にまるで変化はなかった。ポルトガルの舗装は少々荒れ気味ではあったけれど、それでも強いボディに支えられてアシは自分の仕事をしっかりとやり遂げている。無粋な揺れ軋みなどでドライバーを不安にさせることはない。
乗り心地はクーペと同等、もしくは少し良いくらいにも思えたが、よくある“オープンだから肩の力が抜けて良い”と思う類ではなかった。あくまでも足元がしなやかに動く故の“良い”だ。心地よさの一端は、素直によく動く前輪と力感あふれる後輪のおかげで低回転域からクルマとの一体感を存分に味わえたこと、にも拠っている。
空から心地よくふりそそぐV12サウンドを浴びながら、冬のシーサイドラインを優雅にクルーズする。そういえばホテルの部屋の窓をうつ風の勢いが暴風かと思うくらいに強かった。それゆえ路面には海岸から巻き上げられたと思しき大量の砂が所々に積もっており、通り過ぎるたびに車体が滑ってしまったのだが、その際にはドライバーが腰の揺れを感じるや否や、車体も反応してドライバーのステアリング修正を上手に補助し、姿勢を不安なく正す、という見事な連携を低速域でも体感することができた。もちろんFRらしく思う存分に後輪を滑らせても楽しいマシンであることは、クーペをテストコースで試した時に経験済みだ。

カリフォルニアモードでワインディングロードを駆けぬける。相変わらずレースモードでは後輪の動きに多少の違和感もあったけれど、慣れるとそれを武器に(というかクルマを信じて)タイトヴェントでも見事に、驚くほど速く駆け抜けることができた。
V12と8DCTによる加速フィールは相変わらず文句のつけようもない。V12エンジンは九千回転以上まで一気に駆け上がってもなお苦しむことなく、まるで振動なくストレスフリーで回る。そのスムースさには驚嘆するほかない。
さらに制動フィールが素晴らしかった。よく効くのみならず、コントロールすることが快感になっていく。制動が楽しくなれば、加速はさらに愉快。道理である。ブランドの核心をつくのみならず、スポーツカーのど真ん中を突っ走るスパイダーであることもまた間違いないと思う。P.B.
Ferrari 12Cilindri Spider
全長 4,733mm
全幅 2,176mm
全高 1,292mm
ホイールベース 2,700mm
乾燥重量 1,620kg
エンジン型式 V12 – 65°
総排気量 6,496cc
最高出力 830PS(610 kW)/ 9,250 rpm
最大トルク 678Nm / 7,250 rpm
トランスミッション 8速 DCT
駆動方式 後輪駆動
タイヤ F: 275/35/ZR21 R: 315/35/R21
0-100 km/h加速 2.95s
最高速度 > 340 km/h
車両本体価格 62,410,000 円(日本国内価格)
https://www.ferrari.com/ja-JP




