FEADSHIP84m”OBSIDILAN”
伝記推進で動く環境に配慮したメガヨット
text:Captain Nigel Beatty
photo: FEADSHIP
英国海軍からチャーターヨットまで様々な船を渡り歩き、これまで30万海里以上にもなる航海経験をもつキャプテン・ナイジェル。世界のトップセレブリティを相手にチャーターやコンサルティングを手がける彼が、独自のネットワークでつながるメガヨットの世界を紹介する。壮大かつ華麗な、メガヨットワールドをご堪能あれ。
〈Obsidian〉は、オランダのFEAD SHIPが創り上げた最新のハイブリッドヨットだ。重量管理され、巡航速度での最大効率とCO2削減を目的に設計された船体に、進歩した電気推進と、基本的に植物油であるバイオディーゼル燃料HVOで発電機を稼働させる機能を備えている。
船体は鋼鉄よりも軽いアルミニウムで、ハル、オーバーハング、サイドレール、後部デッキエリアの取り付け部品の多くはカーボンファイバーでできており、軽量化が図られている。
FEADSHIPは、2030年までに完全にカーボンニュートラルなスーパーヨットの開発に取り組んでおり、〈Obsidian〉はこのスケジュールにおける重要なマイルストーンとなる。〈Obsidian〉は、通常の燃料で航行した場合、同様のサイズの最新ヨットよりも環境への影響が27%少ない。そしてバイオディーゼル燃料HVOで航行した場合、排出量は60%も少なくなるという。
〈Obsidian〉は、ディーゼルと電気のハイブリッド電源用にFEADSHIPのAdvanced Electrical Driveプログラムを使用している。他のハイブリッドFEAD SHIPよりも4.5倍多くの蓄電容量があり、メインエンジン、ドライブシャフト、ラダーがないため、水中での抵抗の増加を防ぐ。
そう、このヨットにはエンジンもドライブシャフトもラダーもない。〈Obsidian〉は推進装置として、オランダVETH Propulsionの電気推進アジマススラスターを備えている。発電機またはバッテリーが電気モーターに電力を供給し、二重反転スラスターに電力を供給して効率を最大化し、振動を最小限に抑える。4基の発電機によって4.5MWhのバッテリーバンクに電力が供給され、驚異的な1,000ボルトのシステムがヨットを完全に電気で駆動する。
これらのスラスターはステアリングと水流に最適な場所に配置され、発電機や排気システム、バッテリーなどは重量配分と乗組員のアクセスを最適化するためにヨットの周囲の別の場所に配置されている。このシステムのおかげで、〈Obsidian〉はバッテリーだけで35マイルを、10ノットの速度で快適に巡航することができる。停泊中も10~15時間、バッテリーだけで静かに過ごすことが可能だ。
〈Obsidian〉は発電機と空調器から回収した廃熱を、カーボンフリーエネルギーとして利用している。「このヨットには数え切れないほど多くのエネルギー節約ポイントが組み込まれています」とプロジェクトマネージャーは言う。FEADSHIPのエンジニアは、熱帯の海水を含むさまざまな熱源から熱を引き出すためのヒートポンプシステムを導入した。これは通常の電気コイルで単に熱を作るよりも5倍も効率的だ。
もちろん、〈Obsidian〉はインテリアも素晴らしい。レイアウトは最適化され、7つのステートルームを備えている。美しいアトリウムと階段は、壁全体が開く下層デッキのダイニングサロンに通じており、海抜わずか75cmのテラスから景色を楽しむことができる
ステートルームを除いて、内部の部屋に90度のコーナーはない。書斎への隠れた階段とメインデッキのラウンジは、予想外のインテリア要素のほんの一部だ。船尾近くには、水面下に大きな窓のある「アクアラウンジ」があり、映画館やオーナーの子供たちの教室としても機能する。船首には床から天井まで二重の曲面ガラス窓を備えた展望ラウンジがあり、非対称の船尾にはガラス張りのプールもある。
ヨットビルダーがより地球に優しくCO2を削減するヨットを作るとき、ヨットの性能や豪華さを犠牲にすることがある。だがFEAD SHIPは、〈Obsidian〉という息を呑むようなヨットを建造した。豪華さの面でも技術的な面でも素晴らしいデザイン。本当に素晴らしい!P.B.
FEADSHIP 84m “Obsidian”
全長 84.20m/276’3”
全幅 13.65m/44’9”
喫水 3.75m/12’4”
重量 2,555GT
推進装置 2×VETH integrated L-drive 1550i
ジェネレーター 4×custom Caterpillar C32 / permanent magnet
トップスピード 17kt
クルージングスピード12kt
レンジ 8,000NM at 12kt
燃料 240,000L
清水 50,000L
アコモデーション Owner+12Guests クルー27
ビルダー FEADSHIP
建造 2023
ナーバルアーキテクト Feadship De Voogt Naval Architects
エクステリア RWD in collaboration with MONK Design
インテリア RWD in collaboration with MONK Design
