AMANDIRA JOURNEY ACROSS THE SEA
バリ、悠久のフローレス海を滑りゆくAMANの6スター帆船「アマンディラ」
text: Kyoko Sekine
photo: AMAN
special thanks: AMAN https://www.aman.com
日本からバリ島に飛んだ私は、「アマンディラ」乗船のために、7年ぶりとなった「アマンキラ」に前泊をした。その翌朝、いよいよアマンディラに乗船する日がやってきた。晴れ渡り青空が広がった当日、スタッフは私を車に乗せ、アマンキラから1時間ほどのセラガン・ハーバー(SeranganHarbour)に向かった。有名なサヌールビーチの南側に位置する素朴な港だ。サヌールはバリ島屈指のビーチリゾート地のひとつ、とりわけ50年も前、インドネシア政府が肝いりで初期のインドネシア観光開発を手掛けたという老舗の観光地なのだ。そしてこの小さなハーバーの沖合にアマンディラが停泊中という。因みに、アマンディラとは、サンスクリット語で“平和なる”の意味を有する“アマン”と、“ディラ”(精悍者・勇敢者)を重ねた造語である。
いざハーバーに到着すると、待ち構えていた関係者に案内され、桟橋に用意された大きなゴムボート“ディンギー”に乗るように促された。多くの船が停泊しているため、この時は沖合のどの船がアマンディラなのかは判断できずにいたが、ただ感動する間もなく手を引かれディンギーに乗り込んだ。ここからの案内はアマンのクルーに担当が変わった。そのひとりが、まだ遠くに見える一隻を指し、「ほら、あそこにいるのがアマンディラ!停泊している“あそこ”まで行きますよ」と言われたが、停泊している船が多く、依然として私には見分けがつかなった。鏡のような静かな湾の沖合には、いつもこれほどに多く大小の船が停泊しているのだろうか。聞けば、バリ島はその時期がハイシーズン。世界中から観光客が多く訪れ、原始の海のクルージングを楽しむため、クルーザーや帆船など小型・中型の観光船舶が数多く待機しているという。
ディンギーはスピードを上げほどなくアマンディラに接近した。なるほど、アマンディラが視界に入ると、“海賊船のよう”と言われる理由にここで初めて納得した。ツインマストに、他にはない墨色一色のシャープな船体、船首と船尾が大きくカーブした独特なデザインの船だ。乗船前に知識として学んだことのひとつに“フィニシ船”があった。「インドネシア諸島では何百年もの間、スパイスや食料、木材などを運ぶためにフィニシ船が伝統的に使われていた」ということ。船首はまるで上顎が剣のように長く鋭く伸び、「吻」を形成しているカジキの頭部のようにも見えるが、大小の差はあれこれがフィニシ船の特徴でもあるのだ。
この日、私を含めたった3名の幸運なゲストが乗船した。最初にハーバーに到着した私が最初にアマンディラに乗りこんだ。ハーバーからアマンディラ乗船までのわずかな時間、今、想えばまるで映画のワンシーンのようでもあった。それは、私を乗せたディンギーがアマンディラに近づくと、アマンディラのクルー全員が船体から身を乗り出すようにして両手を振り、満面の笑顔で叫ぶのが見えた。「welcome、welcome!」と、まるで大歓迎の儀式のように。これまでにも私は大型豪華客船旅も、リバークルーズの小型木造船の旅も経験があるが、こんな形でのファミリアルで温かな歓迎は初めてのこと。ディンギーから船内に乗り移るとき、クルーの手をしっかり握りしめ、最後のステップを上がると、拍手と歓声で温かく迎え入れてくれたクルーたちは、「よく来てくれました!さぁ、他の二人が到着するまでリラックスしましょう。お好きなように過ごしてくだい」と、興奮冷めやらぬ私に飲み物が届いた。アマンのフラッグシップであるこの帆船は、アマンの特徴のすべてを天命として受け継ぎ、クルーも同様のもてなしをする。
ゲスト10名だげの贅沢な空間
アマンディラには一目惚れだった。帆船の全長52m、特徴的なのは、前述の通り、船首と船尾が上向きに反り、そのシルエットは噂通りに黒っぽい海賊船のような趣がある。しかし同時に、素人の私にも肌感覚でわかる木の上質感や、密に入り組んだ丁寧な造り。さらにゲストの定員10名の贅沢な船内では、どこでも寛げるようにソファやベンチ、巨大なクッションや椅子、デイベッドなどアマン流の設えが整っている。この船が誕生したのはアマン同様、他でもないインドネシアだった。スラウェシの船大工が、厳選されたチーク材と、高密度で最上質なカリン材で手造りしたというのだ。アマンが所有するラグジュアリーボートとして一分の隙もない完全なる芸術品だった。インドネシア製船舶の伝統を継承しているカリン材は、現在では、東南アジアやアフリカでもとても希少な高級木材という。
インドネシアの海をクルージングするアマンディラについて、クルージングディレクターが熱く語ってくれた。「インドネシアの海は原始の姿を残す場所が多く、自然の驚異を魅せる。特にラジャアンパットやコモド国立公園付近はクルーズの醍醐味が凄い。それにコモド島にはコモドドラゴンも生息しているのをご存じでしょう。インドネシア群島の数は17,000を超えます。海、森、雲が見えるのも、熱帯性気候でこそ起きる現象もエキサイティング。生物多様性を感じる…」と終わりそうになかった。人は自然の驚異に出会うと人生観さえ変わるものだ。感動的な海の情景、クルーたちの真摯で温かなもてなし、想像を遥かに超える食事の醍醐味。プライベート感溢れる快適なクルーズに惹かれ、アマンジャンキーたちはアマンディラの顧客となってしまうのだろう。
船上で味わう美食の旅
私たちには、この日、遅いランチか、早いディナーかと思う食事が用意された。波のない湾内に船を停泊し、アマンの関係者も揃いフォアデッキのダイニングテーブルに肩触れ合い並んで座った。パノラマビューも楽しめるプライベートなクルージングらしい幸せなひと時だった。
アマンディラでのクルーズの特別感はこうした“美食の旅”にもあるのだ。新鮮な食材をフルに使う郷土料理やアジアンテイストの創作料理、シンプルでダイナミックな美味しいサラダ、世界各国の香り高い料理も含め、様々なバリエーションが毎回テーブルを飾る。2名のプライベートシェフの作るエキゾチックな料理を船上で食す時が何とも待ち遠しい。
また船内にはエアコン付きのダイニングエリアもあり落ち着いた食事タイムが送れる。一方、格別なのはトップデッキでのディナータイムだ。星空だけを眺めながらロマンチックな時が過ぎていく。ここに今回の食事のすべてを書けないのは残念だが、前菜やボリュームのある新鮮サラダ、メインのチキン、ポーク、ビーフのゴージャスな肉料理の盛り合わせ、洒落たデザートの数々まで、アマンのレストラン同様、食材に素直なオリジナル料理が楽しめる。
アマンディラに設えてある客室は、わずか10名のゲストをもてなす5つのキャビンである。マスター・キャビン(キングサイズベッド、リビングスペース、バスルーム、シャワールーム、ツインの洗面台、トイレ)、デラックス・キャビン、そして2段ベッド仕様にもなるシングル・キャビンだ。それぞれのキャビンは充分な備えと広さがあり、常時、14人ほどのクルーがかいがいしくゲストの世話に勤しんでいる。海の男らしく頼もしいクルーはリクエストにも可能な限り応えてくれる。当然だろうが、頻繁に真剣な眼差しで風を読み、マストを調整。休む間もなく動き回るクルーたちの白いポロシャツ姿がとても印象的だった。
普通ならアマンディラでの航海は5日間、1週間、またはそれ以上。未踏の地への冒険のためのクルーズや優雅なヴァカンス、さらにシュノーケリング、カヤック、ダイビングなど専門のPADI認定ダイバーが乗船し海の冒険を楽しむなど、目的の違う旅を楽しんでいる。条件が合えば“コモド・エクスペディション”という、コモド国立公園の大自然の中で、コモド島にだけ生息する太古の生物、コモドドラゴンに出会うエキサイティングな冒険も可能。こうして知る人ぞ知る極上の旅がインドネシアの海で繰り広げられている。P.B.
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