
ABSOLTE52FLY

質実剛健の走り、アフトデッキを開放し空間の創造性を高めた「コックピットテラス」水線長の98%を使う設計、バウのマスタースイートが、ABSOLUTEのイノベーションを体現する
text:Yoshinari Furuya
photo:ABSOLUTE YACHTS
special thanks:TECNOMARE INTERNATIONALhttps://www.tecnomare-yachts.co.jp
2022年に投入された最新作、「ABSOLUTE52Fly(アブソルート52フライ)」。2013年に発表された初代52Flyを刷新したセカンドジェネレーション。取り扱いやすいミドルサイズにクラスを超える広々とした居住空間、イージードライブを可能とするVOLVOPENTAのIPSドライブと最新のナビゲーションテクノロジーがドライビングをアシスト。ファミリーに適したインテリアやエクステリアと、海上での快適さを向上させる新機能など、継承されたコンセプトに最新のデザインが加えられた。ニューモデル52Flyは、2021年に先行してセカンドジェネレーションにモデルチェンジを果たした60Flyや、続いて2022年にアンベールされた56Flyで好評を博したデザインコンセプトを踏襲。新世代のフライブリッジ3モデルが、「ABSOLUTEYACHT(Sアブソルート)」のデザインの方向性を決定づける.

このセカンドジェネレーションで取り入れられた最大のイノベーションは、メガヨットライクな洗練されたエクステリアとバウキャビンに移されたマスターステートルーム。長期間の航海を快適なバカンスに変え、優雅さと実用性を兼ね備えたデザインは、海上でのライフスタイルを根底から変える大きな変革を遂げた。セカンドジェネレーションのABSOLUTEFlyモデルは、ボートを何艇も乗りついできたベテランボートユーザーから、ファミリーで始めるニューカマーまで、全てのカスタマーを虜にしている。

ニューABSOLUTE52Flyを象徴するデザインの一つとして挙げられているのが、トランサムからアフトデッキ周りのエクステリアデザイン。これまで常識とされたトランサムに一体化したソファを外すことで、自由なデッキ空間と新鮮な感動をもたらした。
油圧で昇降し、テンダーのインフレータブルボートを搭載することができるスイミングプラットフォームは、50フィートクラスではもはやデフォルト。だが、スイミングプラットフォームとアフトデッキの境、アフトのオープンデッキを囲うバルコニーフェンスのスタイルは、50フィートクラスのサロンクルーザーとしては革新的。デッキフロアからバルコニーフェンスの途中までは、水密のガレージドアの一部を兼ねたグラスエンクロージャーのスタイル。アフトデッキは、一般的なFRP一体型のエクステリアではなく、ガラス製のパラペットに囲まれる。ビーチハウスのシーサイドに突き出したバルコニーの様な解放的なデザインの「コクピットテラス」が、見る者の心を奪う。

そして、両サイドのブルワークも特徴的。安全性や剛性を保つデザインされたアウトラインは残しつつ、大きく空けられたオープンガンネル。それはFRPでできたバルコニーフェンスともいえる造作。その足元の一部は、落下防止のスモークガラスが取り付けられたパルピット。デザインだけでなく安全性も十分考慮されている。また、それらのモダンなリアビューとともにデザインされたトランサムボードにも注目。スモークガラスで全面を覆われた印象的なトランサム。その一部はアフトキャビンに入る水密ドアだ。このドアを開けると、シングルベッドのクルールームが現れる。勿論、メンテナンスのためにエンジンルームに直接エントリーできるハッチも用意されている。この空間は、クルールーム以外に、シンプルにマリントイを収納するガレージとしても使うことができる。だが、それだけではつまらない。ベッドは、昼寝用のデイベッドに。トイレやシャワーは、海水浴時のデイヘッドやスイミングシャワーとしても使える動線。さらに、ビーチクラブとしてカスタマイズするのも面白い。使い方は、カスタマー次第だ。

バルコニーのような明るく解放的なアフトデッキには、ソファとカフェテーブルが並べられている。一つひとつ独立したモジュール家具は、フロアに固定されていない。このクラスでは珍しい自由なエクステリア。メンバーや使い方に合わせ、6つのソファとカフェテーブルを自由に配置することができる。お気に入りのガーデンファニチャーに変え、オリジナルのアフトデッキに変えることも簡単。このカスタマイズできる自由さがメガヨット的。そして、キャビンドアに接するスターボードサイドには、コントロールボックス。IPSのジョイスティックコントロールやスラスターのコントロールレバーが備えられている。主に後進時の着岸に使うコントローラー。死角が少なくトランサムに最短。地中海スタイルのスターンファーストをイージーに行うことができる。
サイドデッキからステップで上がると高目に設計されたバウデッキ。バウの先端近くまでワイドなフロア。フロントウィンドシールドのすぐ前には、進行方向に向いたワイドなベンチソファ。向かい側には後方を向いたベンチソファ。ソファの間には、チークトップの折りたたみテーブルをセットすることができる。ソファの前方には、サンパッド。背もたれを倒し、広々としたサンベッドにレイアウトを変えることができる。


フライブリッジも個性的なレイアウト。ポートサイド前方に、コクピット。ヘルムとナビゲーターのためのボルスターシートが2脚並び、ステップ越しにトランサムを視認することができる。スターボードサイドには、L字ソファとチークトップテーブル。その前方には、座席としても利用できるサンパッド。これらは、一般的なフライブリッジのレイアウト。ABSOLUTEの個性的なレイアウトは、フライブリッジ後部。ソファの後方には、後部デッキと仕切るように配置されたウェットバー。ハッチを開けるとシンクの他にBBQグリルやリフリジェレーターが現れる。ウェットバーで仕切られた後部デッキはゾーニングされたフリースペース。シングルソファ2脚を向かい合わせに置いてもいいし、サンタンベッドを置くのもいい。読書でもしながら日光浴を楽しむプライベート空間になる。そして、ほとんどの52Flyがオーダーするというハードトップ。円を描くLEDライトがナイトタイムを演出。ソーラーパネルを搭載するオプションも用意されている。

キャビン後方のリアドアは、およそ3分の2を占める3ピース。スターボードサイドにスライドさせ、全開にする。ポートサイドにカウンター部分のリアウィンドウが残るが、カウンター上部のウィンドウを電動で下げると、フルオープンに。アフトデッキのカウンターとキャビン内のギャレーが繋がりオープンキッチンが完成する。このオープンキッチンは、メインキャビンのポートサイド最後尾に位置するアフトギャレー。メインサロンにも、アフトデッキにも隣接し、サーブしやすい人気のレイアウト。アフトデッキから水着のまま出入りすることもできる。
フルスペックのギャレーには、ワイドなカウンターにシンクや4バーナーのIHコンロ。カウンターの下には大型オーブンレンジ。カウンター内だけでなく、吊り戸棚にも、十分な収納スペースが用意されている。スターボードサイドには、フルハイトの大容量リフリジェレーター。フリーザーが独立した2ドアのフロントローディングが長期のクルージングを豊かにする。また、リフリジェレーターのサイドにパントリーが設けられているのも嬉しい。そして、ドレッサーにはクラス最大級の容量を誇るテーブルウェア専用ロッカー。お皿やカップ、グラスのサイズに合わせ、移動しないように区画されている。


ギャレーより前方は、1段上がったサロンエリア。ポートサイドのU字ソファと、対面のベンチソファには7人がくつろぐことができる。センターのテーブルは上下し、ダイニングテーブルにもコーヒーテーブルにも変化。スターボードサイドのベンチソファの後ろから、電動でポップアップするTVが現れる。そして、サロンエリアの左右にあるサイドウィンドウも電動で上下し、心地よいシーブリーズを感じることができる。また、サロンの天井に目をやるとフライブリッジと統一された円を描く間接照明。昼間は全面ガラスの彩光で明るく、夜はスタイリッシュなライティングでリュクスな空間を演出する。
サロンエリアの最前部、スターボードサイドにはロアヘルムステーション。ヘルムとナビゲータのボルスターシートが体をホールドする。ヘルムシートの右にサイドスライドドア。体を乗り出し、前方やスターボードサイドのクリアランスを直接確認できる。また、サイドデッキへの移動やサイドデッキからの操船も可能な理想的なレイアウトだ。

コクピットには、ヘルムからの視線に合わせて配置された2台のタッチスクリーン。GARMINとVOLVOPENTA、ABSOLUTEが開発した最新のグラスコクピット。高度なマルチファンクションディスプレイには、正確な位置情報や航海データ、経路計画、気象情報を表示。エンジンデータやタンク残量などを常にモニタリング。船内各所の照明やオーディオなども集中コントロール。キャプテンに必要なあらゆる情報が一元的に提供される。また、ディスプレイ以外には最小限のスイッチ類が並ぶミニマルなコクピット。シンプルなグラスコクピットがコクピットのデザインを美しく変える。
アコモデーションもABSOLUTE的。メインサロンのフロア下、船体中央には、フルビームを使ったリュクスな空間が広がるVIPキャビン。ABSOLUTEの特徴でもあるクラス最大のシービューウィンドウで、左右のウィンドウから光が届けられ、アンカーリング時には水面を望むことができ、海に包まれる。

VIPキャビンよりバウ側、ポートサイドには、トイレと独立したシャワーブース。スターボードサイドには、ツインベッドのゲストキャビン。電動でスライドし、ダブルベッドとして利用することもできる。細部にまでこだわるところが、ABSOLUTEがカスタマーに愛される理由だ。
そして、最前部に位置するバウキャビンこそ、ニュージェネレーションのABSOLUTEにインストールされたクラスを超えたデザインコンセプトの一つ。それは、一般的なミッドシップの位置をマスターキャビンとせず、VIPに明け渡し、バウキャビンをマスターステートルームとしたこと。メガヨットのデザインとしては以前から取り入れられているレイアウトだが、量産される60フィート以下のサロンクルーザーでは、記憶にない。


バウのマスターステートルームが、メガヨットにも採用されている理由はいくつかある。その一つは、静寂さだ。エンジンルームから距離があり、いくつかのキャビンで隔たれたバウキャビン。オーバーナイトの就寝時でも発電機の音が伝わりにくい場所。発電機を停止した状態でも、エンジンルームから聞こえるエアコンの海水ポンプやコンプレッサー、清水の加圧ポンプなど、自動でON/OFFを繰り返す機械音は気になるものだ。さらに、ベッドルームがミッドシップの場合、メインサロンやギャレーの音や歩く振動も、天井から響いてくる。バウキャビンの場合は、バウデッキに人がいない限り静かに過ごすことができるのだ。そして、サイドウィンドウからのアイポイントも高く、広く水平線を望むことができる。
これまで、60フィートクラス以下のサロンクルーザーが、マスターステートルームをバウキャビンにしなかった理由がある。それは、バウステムに向かい、左右の壁は狭くなり、フロアが徐々に上がり、空間が絞られる構造上の理由が大きい。ダブルのベッドを中央に配したデザインにする選択肢しかなかった。だが、その常識にABSOLUTEが一石を投じた。

52Flyは、外観からもわかるように、バウデッキを高目にし、バウステムを直立させ、バウステムの近くまでワイドなビームを維持し、水面から上にボリュームを持たせたデザイン。アンカーロッカーを除いた台形のバウキャビン空間の最前部に、専用トイレとシャワーブースを配置。ベッドは、クイーンサイズのアイランドベッドを、トランサム方向の壁をヘッドボードとして配置した。バウキャビンでありながら、スクエアに近いマスターステートルーム。しかも、このバウキャビンは水面を眼下に見下ろす少し高いアイポイントも特徴。スクエアで広大なシービューウィンドウから、水面や水平線を広く望むことができる。剛性が保たれたワイドな空間、広大なウィンドウ、スペースを取らないスライドドアなど、クラスを超えた自由な設計は、次ページで詳解するABSOLUTE独自の「ISS工法」が可能にしたもの。ABSOLUTEだからこそ実現できたデザインなのだ。

ABSOLUTE全モデルに採用されている推進装置は、VOLVOPENTAのIPSドライブ。ABSOLUTEは創業時からVOLVOPENTAと共同開発を続け、IPSとのマッチングは完璧。この52Flyは600馬力のIPS800を搭載し、トップスピードは28ノットと記録されている。イージードライブと快適なクルージングを叶えてくれるだろう。
ABSOLUTE52Flyのデザインは、オリジナリティーにあふれた革新的なもの。だが、決して気をてらうものではない。船上での時間、生活を豊かで快適なものにするために考えられたアイデア溢れる数々のデザイン。シンプルで洗練されたインテリアと実用的で独創的なエクステリアが融合し、美しさと機能性を両立する。海を愛する人々にとっての理想を追求したモーターヨット。それがABSOLUTE52Flyなのかもしれない。P.B.
ABSOLUTE 52 Fly
全長16.76 m
全幅4.67 m
喫水1.4 m
重量28.6 ton
エンジン2×VOLVO PENTAD8-IPS800
最高出力2×600HP
燃料タンク1,800L
清水タンク65L
問い合わせ先 テクノマーレインターナショナル TEL: 048-878-6806
https://www.tecnomare-yachts.co.jp
https://youtu.be/_0Gefy11HdQ?si=cHBHay0a4SC17hwC






