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聖地巡礼

聖地巡礼#15 Jim SmithTournament Boats

聖地巡礼

コールドモールドとエポキシレジンを世界に先駆け試みたレジェンドJamesClaudeSmith最高のパフォーマンスを追求する哲学は、JohnVanceの時代となってさらに進化を重ねる

text: Yoshinari Furuya
photo: Kai Yukawa, Jim Smith Tournament Boats
special thanks: Jim Smith Tournament Boats
http://www.jimsmithboats.com

「JimSmithTournamentBoats」の創業者JamesClaudeSmithは、1906年、ジョージア州の州都アトランタのおよそ80マイル北に位置する、自然に恵まれた田舎町チェリーログで生まれる。Smithは、エレメンタリースクールの6年間だけ学校に通い、材木を切る仕事についた。自分で何か始めたいと思い立ったSmithは、酒類の販売を始める。ビジネスは成功し、40歳代でリタイヤ。複葉飛行機のレースやオートバイレース、レースボートに熱中した。レーシングボートでは、当時、時速20マイルが水上の乗り物で最速だった時代に、22マイルの記録で全米チャンピオンとなる輝かしい戦歴を築いた。

ボートレースでの勝利をきっかけに、ジョンソン船外機の販売店となり、マリンビジネスでも成功を収める。その後、フロリダ州ボカラトンでの2度目のリタイヤ生活を始めたが、スポーツフィッシングに熱中したSmithは、ボートビルディングとチャーターフィッシングに興味を持ち始める。そして、1959年、自らのために35フィートのスポーツフィッシャー「BocaJima35」を建造。パフォーマンスボートで培ったノウハウを生かした革新的なボートは、スミスのボート建造に対する情熱を表現するのに充分なフィッシングボートであった。

「BocaJima35」のハルは、シダーを対角に2層に重ね、エポキシレジンで固めたコールドモールド製法。今では多くの一流カスタムスポーツフィッシャーが採用するコールドモールドとエポキシレジンは、JimSmithが世界に先駆け試みた製造方法だった。軽く、強いコールドモールドの船体は、44ノットのスピードを可能とした。また、Smithは、「BocaJima35」に未来的なデザインを与えた。ハードトップや、クーペとも言われる最近人気のスポーティなオープンキャビンスタイル。そこに、4本のアルミマストで支えたツナタワーのようなアッパーヘルム。エアロダイナミズムを考慮し作られたというバスケットはまさにフライングブリッジ。そのタワーにはラダーはなく、エレベーターが装備されている。ラダーを使うことなく、スキッパーをツナタワーまで運ぶ革新的なアイデアは、バイク事故で足を痛めたSmith自身のために考案された機能。それ以降作られた記録がないところをみると、そのアイデアは、一般には受け入れられなかったようだ(将来、進化したものが出てくるかもしれない?)。常に新しい試みに挑戦したJimSmithらしい発明の一つとして語り継がれている。

趣味的に始められたJames Claude Smithのボートビルディング。「BocaJima35」は自分のために建造したボートだったが、スピードやスタイリングが評判となった。そしてトーナメントを転戦するハードコアなビルフィッシャーの強い要望により、ついにビジネスとしてのボート建造が始まった。

Smithは1960年代半ばにジャクソンビルにショップを構え、エポキシレジンを使ったコールドモールドのスポーツフィッシャーを建造するカスタムビルダーとして知られるようになる。1970年代にポンパノビーチにショップを移し、その後、伝説のスポーツフィッシャー「Monterey Marine」を、パートナーと創業。MontereyMarineは、サウスフロリダを代表するRybovichやMerritt’s、Whiticarとは異なる一つのスタイルを確立した。だが、やがてJimSmithはMontereyから分かれ、独自の「Jim Smith Tournament Boats」を創業。さらに、MontereyMarineから分かれて建造を始めたAmerican Custom YachtsがMonterey Marineを吸収し、MontereyMarineの歴史は幕を閉じた。

現在、Presidentを務めるJohnVanceは、1982年からJimSmithの一員としてボート建造に携わった人物。1989年、子供のいないJimSmithは「JimSmithTournamentBoats」をJohnVanceに譲る。そして、スポーツフィッシャー界のレジェンドは1994年に永眠。「JimSmithTournamentBoats」のフィロソフィは、JohnVanceに受け継がれた。

JohnVance時代となり、「JimSmithTournamentBoats」のボートサイズは大きくなり、スピードはさらに速く、そしてインテリアはよりゴージャスに進化した。また、ハイスピードと低燃費を実現する効率に優れたボトムデザイン、そして今ではほとんどの一流カスタムスポーツフィッシャーが取り入れているコールドモールドや軽量化の手法など、JimSmithのレガシーは、MontereyMarineやAmericanCustomYachtsをはじめ、ノースカロライナのビルダーなど多くのカスタムスポーツフィッシャーに影響を与えている。

「JimSmith」のファクトリーは、4396SECommerceAveStuart。この「聖地巡礼」で何度も登場した、スチュアートのカスタムビルダー集積エリアの中心にある。SECommerceアベニューとSESlaterストリートの交差する角。隣はGarlingtonLandeweer、さらに隣はL&hBoats、SECommerceアベニューを挟んだ向かいにはWillisMarine。Willisの3軒先にはBonadeoBoatworksがある。まさにカスタムビルダーの聖地。その中心の最も大きなファクトリーで、最も大きなサイズのカスタムスポーツフィッシャーを、「JimSmith」は建造している。

最近建造したものでは、「71Convertible」「95EnclosedBridge」「86Convertible」「86EncloseBridge」、そして95EnclosedBridgeのオーナーが続けてオーダーした「105EncloseBridge」。スポーツフィッシャー界を震撼させた圧巻の100フィートオーバーは、もはやスポーツフィッシャーと呼んでいいものかどうかと首を傾げたくなるサイズと装備。大きさ、広さ、豪華なインテリアは、スポーツフィッシャーの形をしたメガヨット。JohnVanceが指揮するJimSmithの技術力が証明された。

現在、ファクトリーでは偶然にも2隻のウォークアラウンド艇が建造中であった。その一つは60フィートのウォークアラウンド。トーナメントボートのトレンドでもあるウォークアラウンドを60フィートというビッグサイズにまとめあげている。ファクトリーを訪れた時には、デッキやエクスプレスのヘルムステーションなどアッパーハウスは設置が終わり、エクステリアやインテリアの造作が進んでいた。「JimSmith」を所有するオーナーがオーダーしたパナマ用のセカンドボートだという。

高速の船体を設計するのはDonaldL.BlountandAssociates。ノーフォークに拠点を置く、ハイパフォーマンスボートの開発と建造のための最先端技術を提供するエンジニアリング企業。モーターヨットやスポーツフィッシャー、コマーシャルボート、ミリタリーボートの設計や、評価、テスト、および建造管理に高度な技術と豊富な経験を持つ。

スタイリングやインテリアのデザインは、FernandodeAlmeidaYachtDesign。世界的なデザインスタジオNautaYachtsで、数々のヨットデザインを手がけたFernando。Wallyをはじめ、カスタムスポーツヨットデザインの経験が生かされた最新デザインは、オフショアフィッシングとクルージングのそれぞれの特徴が組み込まれた美しいスタイリングのウォークアラウンドを生み出した。

パワートレインは、1,250馬力のMTU8V2000にZFのトランスミッション。トップスピードは40ノット。経済速度は1,850rpmで33ノット。同じMTUのV12を搭載すれば、トップスピードは45ノットに達し、40ノットのクルーズスピードで快適に走ることができるという。

隣にはハルの建造が終わり、フリップしたばかりの43フッター。ダグラスファーのストリンガーやバルクヘッド(隔壁)が強固に積層され、一体化している様子がよくわかる。これはJimSmithには珍しいアウトボードのウォークアラウンドモデル。マーキュリーヴェラードの350馬力×4基を搭載予定。この贅沢な船外機艇は、「JimSmith105Convertible」のオーナーがオーダーしたテンダーというから驚きである。

「JimSmith」は現在のショップでは34艇が進水されたという。その中でも最も高いパフォーマンスを誇るのは「JimSmith86Convertible」。ダグラスファーのストリンガーに、Okoumeのマリングレードプライウッド、ボトムにはアフリカンマホガニー。キャビンやフロア、家具はアルミニウムのハニカムやコア材を使い軽量で低重心。最新テクノロジーが使われたこの「86Convertible」は、45ノットのトップスピードを誇り、30ノットで燃費の良いエコドライブできる。この効率の良いハイパフォーマンスな走りが、ハードコアなビルフィッシャーやプロのトーナメントボートに支持される理由なのだ。P.B.

JimSmithTournamentBoats,Inc.
4396SECommerceAvenue,Stuart,FL34997
TEL:+1-772-286-1172
Email: info@jimsmithboats.net
http://www.jimsmithboats.com