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聖地巡礼#14 WILLIS Marine[ウィリス マリン]

BOAT&YACHT, 聖地巡礼

IslandBoatworksで名を馳せたエンジニアMarkWillisが新たに興した「WILLIS」CNCと先端素材を駆使し、わずか13艇の実績でレジェンドとなったスチュアートの雄

text: Yoshinari Furuya
photo: Kai Yukawa,WILLIS Marine
special thanks: WILLIS Marine
http://www.willismarineinc.com

1990年、スチュアートで創業。26年の間に13艇しか進水していない「WILLISMarine(ウィリス・マリン)」。MarkWillis率いる比較的新しいカスタムビルダーの作品は、建造途中の2艇を入れたとしてもたった15艇しか存在しない。建造中の一艇、ハルナンバー#14「WILLIS77」は来シーズンの進水予定。ハルナンバー#15「WILLIS70」については、建造が始められたばかり。70フィートクラスの建造期間はおよそ3年かかるので、進水は2年以上先になる。しかし、進水された艇数にもかかわらず、「WILLISMarine」はカスタムボートビルダーの間ではよく知られる有名なボートビルダーなのだ。

「WILLISMarine」を創業したのは、デザイナーとしても活躍するCEO、MarkWillis。Markは子供の頃、ボストンの南、車でおよそ1時間のところに広がる、ロードアイランド州ナラガンセット湾でソルトウォーターフィッシングを始める。フィッシングにのめり込んだ少年は19歳までにチャーターキャプテンの資格を取得。ペンシルベニア州の大学では、フィッシングとは全く違う工学の学位を取得したが、卒業後は、フロリダ州スチュアートの北に位置するフォートピアスでプロのフィッシャーマンになる。冬は、フォートピアス沖で毎日チャーターボートに乗り、夏の間はノースカロライナのケープハッテラス沖で週7日間カジキを追う。そんなハードワークを毎年のように繰り返し、北から南まで、生活の全てをビルフィッシュに捧げてきた。また、そのボート上では常にフィッシングボートの改良を考えていたという。

そして、1982年、自身のための30フッターを建造する機会を得た。それが、ボート建造の始まり。そして生まれたのが、カスタムボートビルダー「IslandBoatworks」だった。ビルフィッシュの豊富な経験と、研究熱心なMarkWillisの建造するスポーツフィッシャーは高い評価を得るのに時間を要しなかった。だが、1988年、IslandBoatworksの名声ごと全てを売却。1990年には、一年を通して暖かく、天候に恵まれているスチュアートに拠点を移し、「WILLISMarine」を創業させた。

「WILLISMarine」は、SlaterStと交差する4361SECommerceAve,Stuart,FLにファクトリーを構える。この聞き慣れたストリート名、CommerceAveとSlaterSt。2016年8月号で紹介した
BonadeoBoatworksのアドレスは4431SECommerceAve。「WILLISMarine」の3軒隣。そして、目の前のSlaterStと交差するT字路を挟んだ4396SECommerceAveは、JimSmithTournamentBoats。そこからSlaterSt沿いに進めば、隣は
GarlingtonLandeweerMarine。さらに隣はL&hBoats。100m圏内に5つのカスタムビルダーが集積するメッカ、まさに聖地である。

スチュアートは、MarkWillisにとっては馴染みの場所。チャーターボートキャプテンを務めていたフォートピアスにも近く、顔見りのフィッシャーマンやビルダーも多い。今回我々が「WILLISMarine」を知り、訪問できたのも、スチュアートのカスタムボートビルダーからの薦めと、紹介によるものであった。

また、「WILLIS」が他のカスタムボートビルダーと関わりが深いのには、他にも理由がある。それは、「WILLIS」が最新のCNC(ComputerizedNumericalControl)マシンを所有しているからだ。CAD/CAMを使い、ジグやパーツ、エクステリアを製作することができるCNCマシンは、コンピュータでデザインしたデータ通りにフォームや金属、木などのあらゆる素材を思い通りにカットし、成形することができる工作機械。特にジグについては、コールドモールド製法のボート建造には欠かすことのできないもの。ストリンガーやハルを形成するウッドを張るための土台となる雄型であり、ビルダーの技術の根幹をなす大切なものだ。

「WILLISMarine」は、大手ビルダーとは異なり、自社のボートのためだけにCNCマシンを活用するわけではない。「MarkcamInc」という別会社を持ち、CNCマシンを持たない小規模なカスタムボートビルダーからの依頼を受けてジグを製作している。ジグだけでなく、ヘルムポッドやテーブルなど、3Dや複雑にデザインされたエクステリアもデザイン通りに加工する。スチュアートには、この「Markcam」のCNCマシンを頼るカスタムボートビルダーも多いという。

MarkWillis本人がファクトリーを案内してくれた。まずは、「WILLIS」のデザインルーム。全体のデザインやアイデアはMarkWillis。ボトムデザインについては、高速ボートの経験豊富なナーバルアーキテクトとのコラボレーションで行われることが多いという。また、インテリアデザインや3Dデザインは、インハウスのデザイナー2人が担当。社内にデザイナーがいることで、カスタマーの要望をMarkWillisと共に即座にデザインし、3Dでプレゼンテーションすることができる。

これまでの「WILLIS67」や「WILLIS37」のボトムは、BertramやGarlingtonLandeweerYachts、BaylissBoatworksなど多くのボートデザインを手がけたRobertUllbergとの共同デザイン。一流ナーバルアーキテクトとのコラボレーションにより、一流の走り
とスピードを実現する。そして、プロペラやブラケット、ラダーなどのランニングギアは、ミシガン大学の博士と共同で開発したもの。唯一撮影を禁じられたランニングギアは、よく見ると非対称に曲がっている。計算された形状のブラケットやラダーが抵抗を軽減し、効率の良いデザインはスピードを数ノットプラスさせる。このシステムの導入だけで、100,000ドルを超える投資だという。目標スピードの47ノットを達成するために、あらゆる努力、あらゆる技術が惜しみなく導入されている。

ファクトリー入口には2つのWILLISスポーツフィッシャーの模型が飾られている。全長2mほどの模型は外観のスタイリングを確認するために製作されたプレゼンテーション・モデル。一つはハルナンバー#14「WILLIS77」。模型のトランサムには船名「UNOMAS」。実艇はファクトリーで、キャビンが載せられ、内装に取り掛かっている。もう一つは、建造がスタートしたばかりのハルナンバー#15「WILLIS70」。このモックにも船名「UNOMAS」の文字。そう、このほぼ同じスタイリングのコンバーチブルモデルは、同じオーナーがオーダーした、サイズ違いのカスタムスポーツフィッシャーなのだ。このオーナーは他にも、「Bayliss60(hull#2)」「Bayliss68(hull#11)」というカスタムスポーツフィッシャー2艇を所有。さらにメガヨットやエクスプレス、センターコンソーラーなど、同じ「UNOMAS」の船名で、何艇ものボート・ヨットを所有する。「UNOMAS」は、全米各地のトーナメントで度々名前が登場する有名なチーム。カスタムスポーツフィッシャーの建造と実際のフィッシングにおいて豊富な経験を持つ「UNOMAS」が、2艇もオーダーをする「WILLISMarine」は、それだけ認められたビルダーという証明でもある。

隣のファクトリーで、この「WILLIS77」の全体を見ることができた。塗装されていない状態だが、ロングノーズで低重心の美しいスタイリングは、3Dのデザイン画よりも、モックよりも美しく、圧倒な迫力で迫る。ハルのマテリアルはもちろんウッド。強度の高いエポキシをレジンに使ったコールドモールド。ボトムは12mm厚のプライウッド。それぞれ方向を変えて3レイヤーに積層。ハルのサイドは7mm厚のプライウッドを、ボトムと同じように3レイヤーに積層。インナーキールは、曲げ強さ、剛性、圧縮強さを持ち、節がなく狂いの少ないダグラスファー。その他4本のロンジやエンジンマウント、バテンにもダグラスファーが使われている。また、ロンジやバテンの空間にはフォームが充填され、ハル全体の剛性が高められている。それらキールやロンジ、フォームすべてを、2方向に織り込んだファイバーグラスで覆い、エポキシレジンをバキュームで圧入する。軽量なまま、強度と耐腐食性能を持たせている。

キャビンやフライブリッジはさらに超軽量に造られている。芯材はCoreCell、両側はカーボンを2プライ。角度を45度ずらし積層し、最後にファイバーグラスを重ね、エポキシレジンでバキュームする。超軽量でありながら、捻れの少ない高強度の構造体となる。

計算された燃料配置

エンジンはMTU16V2,600馬力を2基搭載。そのエンジンルームにもMarkWillisは徹底的に拘る。燃料経路は全てステンレスパイプを使う。ほとんどのビルダーが使う燃料ホースよりも流れがよく、劣化に強い。燃料タンクは6つ。バウのタンクは予備としてポンプで送るが、サイドにある4つのタンクからは、センターのボトムにある1つのタンクに集められる。重い燃料は、常にミッドシップの低い位置に集まるので、重心は低いままセンターからずれることがない。走行姿勢に影響を与えず、最適なミッドシップバランスが保たれる。これもシーワージネスやマニューバビリティに影響を与える重要なファクター。実際に、荒れた海や長時間の操船をしてきた経験を持つキャプテンMarkWillisならではのこだわりだ。

70フィートクラスの「WILLIS」の建造工期はおよそ3年。建造時間は85,000時間に及ぶ。デザイン、システム、ウッドワーク……全てが最高レベルで建造される「WILLISMarine」。現在考えられる最高のスポーツフィッシャーが、ここにある。P.B.

WILLIS Marine, Inc
4361 SE Commerce Avenue, Stuart, FL 34997
TEL: +1-772-283-7189
MarkWillis@WillisMarineInc.com
http://www.willismarineinc.com