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聖地巡礼

聖地巡礼#11 American Custom Yachts(アメリカン・カスタム・ヨット)

聖地巡礼

工芸品レベルの仕上がりをみせるストリンガーとプライウッド、ケブラーを巻いたコールドモールド90フィート、MAX50ノットのウッドゥンボートを叶えるデザインと技術力

text: Yoshinari Furuya
photo: Kai Yukawa,American Custom Yachts
special thanks: American Custom Yachts
http://www.americancustomyachts.com

マイアミのダウンタウンから北へ 100 マイル。フロリダズ・ターンパイクを使いスチュアートのダウンタウンに向かうルート。その途中、フロリダ半島最大の湖オキー・チョビからスチュアートを通り大西洋に流れるセント・ルシー川に掛かる橋から右手に見えるのが「AmericanCustomYachts」のボートヤード。多くのメガヨットやスポーツフィッシャーのタワーが聳え立ち、アメリカの国旗をデザインに取り入れた大きなサインボードが目に飛び込んでくる。

「AmericanCustomYachts」は、カスタムスポーツフィッシャーを建造するファクトリー。そして、メリットやライボヴィッチがそうであったように、水際にボートヤードを持つメンテナンスヤードでもある。「AmericanCustomYachts」は、専門分野を持つ会社の集合体を作り、スペシャルリストの集団を構築した。その技術力により、木工、金属パーツ、電気、タワーなどすべてのメンテナンスをこの一カ所だけで完了することができるワンストップ・マリンサービスを実現している。

広さは、対岸の敷地も合わせると78エーカーになる。東京ドーム 6 個分以上の広い敷地に、スタッフは 140 人を数える。 340隻以上を受け入れることができる保管スペースは、135 フィートまで係留することができるスリップを持ち、150トンと75トン、35トンのトラベリフトなど、充実したファシリティを持つ。

今回「AmericanCustomYachts」を案内してくれたのは、なんと社長のDominicLaCombe本人。「AmericanCustomYachts」創業者の一人。そして、DominicLaCombeの生い立ちすべてが、「AmericanCustomYachts」のヒストリーそのものだ。

Dominic は、幼少の頃から物作りが好きで、9 歳の時にはお爺さんのボートを修理し直したという。卒業するとチャーターボートキャプテンとなり、ニュージャージーからメキシコまでトーナメントを転戦。1984 年、物作りの好きな Dominic はカスタムボートのレジェンドMontereyMarineでカスタムボート建造に携わる。大好きなスポーツフィッシャーと物作り、ボート建造は趣味を仕事にできた喜びにあふれ、毎日がとても楽しかったという。そして彼がMontereyMarine在籍中に、現在「AmericanMarineYachts」がある場所にMontereyMarineは移転する。

1991年、DominicはMoutereyMarineを退社。1992年6月、パートナーと共に「AmericanCustomYachts」を設立し、現在とは別の場所、水際ではない内陸部の小さなショップでカスタムボート建造を始めた。そして1996年には、MontereyMarineを買収。「AmericanCustomYachts」を現在のヤードに移転し、カスタムボートビルドと共にメンテナンスヤードとして再スタートを切った。

研究を重ね軽量化と強靭化を図った聖地巡礼 American Custom Yachts

「AmericanCustomYachts」のカスタムボートは、とにかく速い。トーナメントのスタートフィッシングでも、長距離航海でも速い。そのスピードを得るために、設計を工夫し、素材を研究。効率の良いハルデザインを突き詰め、燃費も良い。効率の良いデザインは環境にも優しい。この「より軽く、より強い」ライトウェイトテクノロジーが「AmericanCustomYachts」の特徴。1990 年台ですでに 50 マイル(約 43 ノット)を達成し、アメリカ全土に「速い AmericanCustomYachts 」を印象付けた。エンジン馬力が大きくなった現在では 40 ノット超も当たり前になってきたが、90 年代当時、エンジン出力が小さな時代には、設計や素材を工夫し、とにかく速く走らせるため、軽く強くするためのあらゆることにチャレンジしたのだ。

ライトウェイトテクノロジーは「AmericanCustomYachts」のすべてに取り入れられた。ダグラスファーのストリンガーにマホガニーのプライウッドを使い、コールドモールドの内側にケブラーを 1 枚巻いて、軽く強い船体を実現。ケブラーは強く、高価な特殊工具を使わないと加工できない理由から、他のビルダーでは使われることはないが、「AmericanCustomYachts」では惜しみなく取り入れられた。外側に使う FRP は、バキュームでレジンを流し込み、内側のケブラーはハンドレイアップ。意外にも、カーボンについては否定的。必要性を感じないので、今は使っていないという。

ハウスやフライブリッジはコア材とファイバーグラス。ハウスは、ジグ(木製雄型)を使い建造。軽くて強いボートを作る。

ボトムデザインの特徴はとにかく効率の良いデザイン。スクープの出っ張りを無くし、フラットなボトムに。そのために、オリジナルのスクープは、水を上げるための穴が斜めに切ってある。また、ウッドゥンボートでは珍しく、ストライプが入っている。このリフト・ストレーキにより、ボートを浮かせ速く走ることができる。手間=コストを惜しまない。これら小さなことの積み重ねが、速く効率の良いボートを生み出すのだ。しかもその発想やそれらのデザインは全て、「AmericanCustomYachts」のオリジナル。インデザインというところが他に真似のできないところだ。

こうした技術の結晶として建造されたのが、「 AmericanCustomYachts」最大のボート ACY90″C’estLaVie”。2012 年、 MTU16V4000s4600 馬力×2 基のパワーを持つ巨大なウッドゥンボートが進水。 57.5 マイル( 50 ノット)を達成し、「 AmericanCustomYachts」の技術力を証明した。

他には ACY72″DonTeo”、ACY72″Yellowbird”、ACY70″QueMas”、ACY68″SilverArrow”、ACY65″BluewaterCat”、ACY65″FreeEnterprise”、ACY65″SneakAttack”、ACY65″Bandit”、 ACY65″BlackGold”、ACY65″Freedom”、ACY63″Fearless”、ACY58″FlowControl”、ACY42″Independence”。どれも40ノット以上のトップスピード、35 ノット以上のクルージングスピードを誇る。

取材時にちょうど、メンテナンスのため寄港していた ACY68 はトップスピード44 ~ 45ノット。クルージングスピードでも36 ノットで航行する。そしてクルーズ時の燃料消費は時間あたり 85 ~ 90 ガロン。スピードと距離から計算すると燃費も相当に良い。また、ACY65 では時間あたり 65 ガロンというデータ。FRP のプロダクション艇に比べかなり低燃費であることがわかる。

その他には、船体が CATERPILLAR カラーに塗られたキャタピラのディーラーのオーナーが所有する ACY65 がメンテナンスのためブースに入っていた。エンジン載せ替えやメザニンシートへの改造など、3ミリオンダラーをかけてリフィット中だという。メンテナンス中のボートの中に興味深いボートがあった。それは、トーイング用の金具がついた 80 フッター。1989 年建造、 7,000 馬力、 48 ノットのスピードが出るウッドゥンボートは、当時、世界で最も速いスポーツフィッシャーだった。その 80 フッターを 170 フィートのマザーシップが牽引し、ニュージーランド、ボラボラ、トンガ南太平洋を 5 年間にわたって周り、やっと戻ってきたばかりだという。

そしてもう一つは、この 80 フッターと同じオーナーの所有する、やはりトーイング仕様の 65 フッター。こちらは 111 フィートに牽引されて、ハワイまで釣りに行っていたという。クレイジーな人がいるものだ。

Dominic が、「最後に面白いものを見せよう」と言ってきた。 1年前から始めたセンターコンソーラー「VenturebyAmerican」。まず 4 ~ 5 隻を購入したところ、気に入ったので会社ごと買ってしまったという。配線や配管などすべてにおいて「AmericanCustomYachts」と同じもの、技術を使ったハイクオリティなセンターコンソーラー。そして、「AmericanCustomYachts」と同じ、もっとも軽く強いファイバーグラスのセンターコンソーラーを目指している。また、さらに大型の、もっとも軽くもっとも強い FRP のボートも検討しているという。今後も、「AmericanCustomYachts」の躍進に目が離せない。 P.B.

American Custom Yachts
6800 SW Jack James Drive, Stuart, FL 34997
TEL: +1-772-221-9100
FAX: +1-772-288-4993
http://www.americancustomyachts.com