聖地巡礼 #1 Jarrett Bay Boatworks ジャレットベイ
ノースカロライナ、カスタムビルダーの生まれる地へ
text:Yoshinari Furuya
photo:Kai Yukawa,JarrettBay Boatworks
specialthanks:JarrettBay Boatworks
http://www.jarrettbay.com
1986年、メンテナンスヤードからスタートしたJarrettBay
ジャレットベイをはじめ、多くのスポーツフィッシャーがバハマやカリブ海に隣接するマイアミではなく、ノースカロライナで建造される理由。それはメキシコ湾流、英名ガルフストリームと呼ばれる暖流がもたらす豊潤な海による。
ガルフストリームは幅100マイル以上、厚さは2,000mに達し、流量はおよそ毎秒9,000万トン、速さは5ノットにも及ぶ。世界最大の海の大河はハッテラス岬で寒流と出会い、ヨーロッパに向け流れを変える。同時に、その流れはアウターバンクスにぶつかることで海面を激しく波立たせる。魚影を求め集まるフィッシャー。それに応えるボートビルダー。ノースカロライナのボートビルダーにとって品質の基準は、荒れ狂うハッテラス岬を乗り越え、必ず戻ることができる走破性を持つこと。そこで鍛えられたボートは、当然のように強靭で高品質。その噂は東海岸全域にひろがりノースカロライナのボートはLivingLegend、生ける伝説となった。
ジャレットベイが生まれたのは、その名の通りジャレット湾(Bay)。ハッテラス岬の灯台が立つアウターバンクスに守られたパムリコ・サウンドに繋がるクリーク沿いにジャレット湾はある。後発でありながら、伝統のカロライナスタイルを継承し、今ではノースカロライナを代表するカスタムビルダーの一つとして広く認知されている。
ジャレットベイの特徴は巨大なカロライナフレア。浅瀬が続くサウンド内のチョッピーな波や大西洋の大きな波の壁に突進する時、デッドライズ45°の薄く鋭いバウステムが波を切る。浮力の少ないバウステムは潜り込むが、ノーズが刺さる寸前に巨大なフレアがブレーキとなる。水面を押さえ込み、左右に波をさばき、バウデッキをドライに保つ。カロライナフレアは、命を守る盾になる。そしてフレアは、機能美から芸術的な造形美へ。そしてジャレットベイのアイコンとなる。
メンテナンスヤードからスタートしたジャレットベイがスポーツフィッシャーを建造したのは1986年。クオリティの高いカスタムスポーツフィッシャーは評判となり、瞬く間にアメリカ全土に広まった。次々と建造を重ねボートサイズはアップし、造船所は手狭に。創業3年目と15年前の2度の引っ越しを経て、現在のコア・クリーク沿いで建造を続けている。
この場所は、ハッテラス岬の南西。ノースカロライナの州都ローリーから南東に240km、車で2時間半。陸のロケーションは、水路や川に囲まれた何も無い不便な場所。だが、大西洋への入口ビューフォートインレットに流れ込むハーロウクリークに繋がり、大西洋にもすぐに乗り出せるフィッシャーにとって理想の立地だ。クリークの奥にあるので、海面は静かで、安全な泊地でもある。また、ビューフォートインレットとは逆にアダムス・クリークを北上、グース・クリークの先には、カスタムビルダーの集積地ロアノーク島が浮かぶ。パムリコ湾やアルベマーレ湾とも海で繋がる便利なロケーションである。
ここジャレットベイは、ニューヨークやマイアミと水路で結ばれたインターコースタル・ウォーターウェイ(大西洋沿岸内水路)の中間点。便利な立地を活かし、175エーカー、東京ドーム15個分の広大な敷地にジャレットベイ・マリン・インダストリアル・パークが建設され、ジャレットベイ・ボートワークスのカスタムスポーツフィッシャー建造やジャレットベイ・ヨットセールスを中心にエンジンやマリンパーツの供給や整備、金属加工やペイントブースなど、マリン関連のファシリティを全て揃えている。
ハーバーには200トンのトラベリフトをはじめ、3基のリフトを有し、カスタムボート以外にもメガヨットやプロダクションボートなど、あらゆるボートのサービスやリフィットを受ける環境を整えている。さらに、釣り用品や氷、スナック、土産品やアパレルまで揃えるショップ、他にはシャワールーム、給油施設も整い、寄港地としての機能も充実。さらに、ハリケーン時にはおよそ200隻を受け入れることもできる設備を整える理想のマリンパークでもある。
カロライナボートで先駆けとなった独自のトンネルハル
ファクトリーで我々を迎えてくれたのは、新艇建造の責任者でありデザイナーでもあるGaryDavis。ジャレットベイのホームページや動画にも度々登場するジャレットベイを最もよく知る人物である。Garyは、ファクトリーに隣接したデザインルームでジャレットベイについて語ってくれた。
「ジャレットベイのコンセプトは、第一にSeaworthy。例えば、バウのシャープなエントリーがその典型だ。室内空間は犠牲になるが、走破性を優先させた結果だ」
シーワージィとは、耐航性、走破性のことで、シーワージネスやシーキーピングともいう。つまり、荒れた海でも走りきる性能のこと。波に対し有利となる抵抗の少ない薄く失ったバウステム。その浮力を支えるカロライナフレア。キャビンスペースは犠牲になるが、シーワージィを優先させた結果だという。Garyは続ける。
ライトウェイトのコンストラクション「。トラディショナルスタイルも我々が強く求めているものだ」
シーワージィにもつながる、強く軽いボート。カーポンやハニカム、コア材など、高い剛性でライトウェイトの船体を建造するため、ときには外部の技術者の強力を得て、最新の技術を投入する。反対にデザインは、カロライナフレアやタンブルフォームを取り入れたノースカロライナ伝統のスタイル。そして、落ち着きあるトラディショナルな内装デザイン。それがジャレットベイである。
さらに質問を続ける。「ノースカロライナの数あるカスタムボートビルダーの中でも、特にジャレットベイが支持される理由は何だと思いますか?」
「それはクオリティに対するプライド。また、建造したボートに対する職人達のプライド。そして、建造を完了したボート1艇毎に検討すること。ここをこうしたらもっと良くなるのでは?と。建造スタッフは、常に改善することを心がけている。それが、このポジションをキープしている理由だろう」と、彼は自信を込めて答えてくれた。
Garyがジャレットベイを建造しているファクトリーを案内してくれた。工場内で最も建造が進んでいるのはジャレットベイ64。インテリアが既に造られ、完成も近い。この64フィートで工期は約22ヶ月という。他には、ハルを建造中の84フィート。そして、90フィートの建造はスタートしたばかりだ。
完成間近の64のボトム。ジャレットベイは早くからトンネルハルを取り入れ、今では多くのカロライナボートがトンネルハルで建造されるようになった。なぜジャレットベイはトンネルハルなのか、その訳を聞くと、Garyは、拘りの数々を語ってくれた。
「一番の利点は喫水が浅くなること。バハマやカリブの島々はシャローが多いので有利。また、シャフトが水平に近づき、パワーロスが少なくなる。しかし、トンネルハルは振動やキャビテーションなどの問題がおきる。我々は水槽実験など1億円近い研究費をかけて、トンネルハルを研究し、問題点を解決した。また、トンネルハル用に変更したラダーを使い、スピード効率を約7パーセント上げることができた」という。
100%以上を目指すカスタムフィッティングJarrettBayの開発力が其処にある
そして、ファクトリーで見つけた一風変わったジャレットベイ46を見つけた。デッキレイアウトもボトムもスタンダードなコンバーチブルとは大きく異なる。その点を彼に尋ねてみた。
「あの46は、ライトタックルの世界的な記録を持つカスタマーの依頼で建造している。少人数で取り回しできるエクスプレスのデッキレイアウトだ。それに加え、デッキ全体を安全に素早く移動でき、スタンディングでファイトしやすいよう、ウォークアラウンドになったんだ」
ライトタックルを使うビッグゲーマーの間で注目され、いくつかのカスタムボートで建造されるようになった人気のレイアウト。実用性やフィッシャビリティが高いことは明らかだが、トラッドでクラシカルなスタイリングにはまとめにくい。その難しい条件をジャレットベイがデザインする。いかにもジャレットベイらしい、カロライナスタイルのハルデザイン。そしてジャレットベイに相応しいセンターキャビン。難しいオーダーも、バランスのとれた美しいスタイリングにまとめあげたところが見事だ。
そしてもう一つの疑問。なぜ、この46だけはトンネルハルではないのだろうか?
「この46は、直進性、スピード、高速後進時のハンドリングを優先させ、トンネルハルを使わずフラットなボトムを採用した。オーナーの望むものを、常に完璧以上に創り上げるのが我々の仕事なんだ」。その46カスタムから、ジャレットベイの開発力を垣間見ることができた。
ジャレットベイらしいトラディショナルなデザインやクオリティはそのまま、カスタマーの乗り方、釣り方に合わせ、高い次元で応える豊富な知識や経験。ジャレットベイが、数あるカスタムビルダーの中から選ばれる答えがそこにあった。P.B.
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