聖地巡礼 #03 SpencerYachts スペンサー
text:Yoshinari Furuya
photo:KaiYukawa MakotoYamada
specialthanks:SpencerYachts
https://www.spenceryachtsinc.com
フィッシャビリティやシーワージネスは当然、ルックスも重要より軽く、強く、速いボートを追求するオレゴン・インレットのサクセサー
「No electric.No light.No door.No tmuchmoney.」電気も灯りもドアもない。もちろん金だってなかったさ。
Spencer58。HullNo.001。この記念すべき1号艇を建造した時の思い出を、茶目っ気たっぷりに優しい笑顔で語る男。彼こそ、ノースカロライナを代表するカスタムボートビルダー「SpencerYachts」を立ち上げたPaulSpencerだ。マイアミ取材以来、親交のある彼は、我々の取材に快く応じてくれ、自らファクトリーを案内してくれた。
1996年創業のSpencerYachts。SpencerYachtsの歴史は、認知度に比べ、意外なほど短い。しかし、Paul自身のスポーツフィッシング界での歴史は長く、半世紀に及ぶ。Paulは、ボートビルダーの仕事をする父親の影響もあり、12歳からオフショア・フィッシング・メイトとして働きはじめた。オフショアメイトを始めてから7年、19歳でキャプテンのライセンスを取得し、フィッシングチャーターやトーナメントの名キャプテンとして知られる存在になる。SpencerYachtsを立ち上げる1996年まで、PaulMannやJohnBaylissらと同時期にチャーターボートキャプテンとして活躍。その後、ボートキャプテンからカスタムボートビルダーに転身した。その3人のサクセスストーリーは、オレゴン・インレットで語り継がれている。
SpencerYachtsや、PaulMannCustomBoats、BaylissBoatworksをはじめ、BriggsBoatworksやBlackwellBoatworks、ScarboroughRickyBoatBilderら、ワンチス周辺には名だたるカスタムスポーツフィッシャービルダーが集結する。その一番の理由は海のロケーション。
全米屈指の激しい海況、そして世界有数のフィッシングポイントとして有名なケープ・ハッテラス。ハッテラス灯台の北に位置するオレゴン・インレットは、パムリコ湾内の安全地帯から荒れ狂う大西洋への出入口であるとともに、カジキやツナが集まるゲレンデに最も近い出入口でもある。
そのオレゴン・インレットから1マイル北。ケープ・ハッテラス国立海浜公園の西側にフィッシングチャーターボートの基地、オレゴン・インレット・フィッシングセンターが存在する。さらにそこから北へ。パムリコ湾を5マイル走れば、ロアノーク島南端のワンチス港に到着。ワンチスの港は、インレットに近い便利さから、漁業やボートフィッシングの基地として栄えてきた。ワンチス港周辺に造船所が建つのは自然なことなのだ。また、ロアノーク島の西海岸、クロアタンサウンドに面する運河沿いにあるスペンサーヨットのファクトリーからでもオレゴン・インレットまで、およそ7マイル。フィッシャーマンにとっても、ビルダーにとっても最高の場所にファクトリーを構えている。
ワンチス周辺のカスタムボートビルダーのクオリティが高い理由も、オレゴン・インレット・フィッシングセンターによるもの。優秀なチャーターボートキャプテンが新艇を建造するのは、一般のカスタマーとは違う。チャーターでの経験をもとに細かく指示をする。彼らプロの意見やアイデアがカスタムボートビルダーにフィードバックされ、ワンチス周辺のボートビルダーは磨かれてきたのだ。
そして最終的には、自身が満足いく理想のボートを造るため、キャプテン自らボート建造をはじめることになる。また、その仕上がりを見た他のキャプテンやカスタマーから建造の依頼が入る。それにより新しいカスタムボートビルダーが成長する。それがSpencerであり、Mannであり、Baylissというわけだ。
「Spencer のオーナーは、カスタマーではない。 オーナーになった瞬間から、全員が Spencer ファミリーなんだ」
SpencerYachtsの特徴をPaulが語る。「ルックスベリーグッド、
アンド、グッドライド」。そして、Paulはこう付け加える。「格好悪いボートは欲しくないだろう?」
機能や性能ばかりのビルダーも多いが、フィッシャビリティやシーワージネスは当然。ルックスも重要だと言う。そのストレートなPaulの考えに、飾らない人柄を感じる。Paulの言うグッドライドとは、チョッピーな海面でも速く走ることができる走破性のこと。鋭いエントリー、波を切るスリムなビームが特徴となる。
「居住性を犠牲にしてでも、ルックスやシーワージネスを優先するよ。もっと広いサロン、多くのキャビンが欲しいのなら、もっと大きなボートにすればいい」。笑顔で冗談のように話す。その言葉には、Paulの譲れない拘りが込められている。
Spencerのボート造り。マーケットの答えは、成果に表れた。創業からたった19年の間に89艇を進水させ、昨年の工場訪問時には10艇が建造中。59が2艇、60と62がそれぞれ1艇、69が3艇に、74が3艇の計10艇を建造しているというから驚きだ。乗り手の気持ちになりボートを建造するPaulの考えが正しいことが証明されたのだ。
Spencerは順調に建造を増やし、現在、2カ所の工場を持つまでになった。ロアノーク島の対岸、マンズハーバーでハルを建造し、ここワンチスのファクトリーに運び込む。5エーカーのファクトリーにはペイント工場や金属加工工場、木工工場など、6つの建屋が並び、それぞれの行程で同時に建造を進めることができる。そして、自社のトラベリフトで水面に降ろし、12あるスリップで最終の仕上げやタワーの設置をする。訪問時の工場はフル稼働の様子。Spencerの人気ぶりが伺えた。
軽量かつ強靭なスペンサーヨット
Spencerが、ノースカロライナの他のカスタムビルダーと違うところは、積極的に新しい素材や建造方法を取り入れるところだ。例えば、ハルやデッキの素材。コールドモールドの木造ハルを建造するだけでなく、カーボンファイバーなどの新素材や、バキュームインフュージョン、最新のスーパーストラクチャーなど、新しい素材や工法にも挑戦する。塗料も同じ。ボトムペイントにはテフロンを使い、ハルの塗装にはアレクシールを使う。「一つ一つの積み重ねにより、軽く強く速いボートを建造することができるんだ」とPaulは説明する。
今後のチャレンジについてPaulが教えてくれた。「やりたい事は沢山ある。例えば新しいパワートレイン。70~80フィート位のスポーツフィッシャーにウォータージェットを使ってみたい」。HullNo.100に手が届く現在でも、よりよいカスタムボート建造の意欲は衰えぬようだ。
Spencerが短期間で多くのカスタマーを魅了する理由。それは、
Spencerを所有する喜びを感じる美しいスタイリングに、圧倒的なスピードとシーワージネス、そしてアフターサービス。「Spencerのオーナーはカスタマーではない。Spencerのオーナーになった瞬間から、ファミリーだ。ファミリーとして親身にメンテナンスやフィッシングの相談に応じることで、Spencerを所有する喜びは強くなる。そして、数年後には、またSpencerをオーダーしてくれる」Paulの話を聞くうちに、Spencerが選ばれるもう一つの理由がわかったような気がした。それは、PaulSpencerの優しい人柄と、ボートに対する飽くなき情熱だということを。P.B.
SpencerYachts,Inc
31BeverlyDrive,Wanchese,NC27981
Phone:(+1)252-473-6567
Email:info@spenceryachtsinc.com
http://www.spenceryachtsinc.com