
聖地巡礼 #13 Merritt’sBoatsandEngineWorks[メリット・ボーツ・アンド・エンジン・ワークス]
Rybovichとともに、スポーツフィッシャーの双璧をなす「Merritt」コールドモールドからコンポジットに進化し、さらなる高みへと昇華する
text: Yoshinari Furuya
photo: Kai Yukawa, Merritt’s Boats and Engine Works
special thanks: Merritt’s Boats and Engine Works Merritt’s Boats and Engine Works
スポーツフィッシングというものが、IGFA の設立とともにアメリカ全土に広がりを見せた 1940 年代。カジキやツナなどビッグフィッシュを釣るための専用ボートが、プロのフィッシャーやチャーターボートのために開発された。一つは、スポーツフィッシングのアイデアを次々と開発し、スポーツフィッシャーの原型を生み出したと言われる Rybovich 。プロのボートキャプテンをはじめスポーツフィッシングを趣味とするセレブリティ達に愛されてきた。その Rybovich が 1 号艇を進水させた 1947 年から遅れること8年。1955 年、ついに「Merrit(t メリット)」の1号艇が建造された。

創業者であり、チャーターボートキャプテンでもあった FranklinMerritt は、スピードが速く、トローリングスピードでの安定感が良い、実用的で戦闘力の高いスポーツフィッシャーを建造し、チャーターボートのキャプテンから絶対的な信頼を得る。伝説のビルダー「Merritt’sBoatsandEngineWorks」の誕生だ。その後、Rybovich と「 Merritt 」の 2 つのスポーツフィッシングボートは、パームビーチとポンパノビーチという比較的近いエリアで、スポーツフィッシングの隆盛とともに常に競い、進化を遂げ、現代のスポーツフィッシャーの礎を築いてきた。
FranklinMerrittは、ボート建造こそ遅れてスタートしたが、1929 年からすでにフォートローダーデールでフィッシングビジネスを始め、ツナやマーリンなどビッグゲームの豊富な経験と信頼を得ていた。1947年、FranklinMerrittは、フォートローダーデールからおよそ 20 km北、ポンパノビーチに 10 エーカーの土地を取得(現在は 13エーカーまで広げている)。翌1948年より「Merritt’sBoatsandEngineWorks」の事業がスタートする。安全なインターコースタルウェイ沿いの、ヒルスボーロインレットにも至近のアクセスの良い海岸沿いに構えたヤードには、ファミリーやそれ以外のチャーターボートのための基地が整えられた。同時にフリートのためのメンテナンスヤードとしての利用も始める。腕の良いFranklinMerrittにより、メンテナンスヤードとしての「Merritt’sBoatsandEngineWorks」の技術はすぐに認められ、多くのフィッシングボートが補修や整備の為に持ち込まれるようになった。

そして 1955 年、2 人の息子 Buddy と Allen も加わり、理想のスポーツフィッシャーを求め、自らのヤードでボート建造を始める。この34フッターが「Merritt’sBoatsandEngineWorks」のハルナンバー#1となる。ハルナンバー#3は、研究熱心なフィッシャーマンであったBuddyMerritt自身のためのボートとして建造された37 フッター。後に伝説となる名艇「Merritt37“Caliban”」の誕生である。その後も、FranklinMerrittとBuddyMerrittは、ボートキャプテンの経験から、チャーターボートキャプテンにも認められるプロ仕様の実用的なフィッシングボートを建造。その完璧なまでの完成度を誇る「Merritt37」はボートキャプテンの間で評判となり、次々と受注が入る。1955年のハルナンバー#3から、1967年建造の#16まで(#13の40フッターを除く)、13艇が建造され、名艇として今も語り継がれている。「Merritt37」の成功により、チャーターボートのベンチマークとして「Merritt」の名はアメリカ全土に知れ渡った。
デザイン上の特徴は、Rybovich がハルナンバー# 8 以降の多くのボートに取り入れてきたブロークンシアーに対して、「Merritt」は現行モデルにも継承されているトレードマークのストレートシアー。シンプルで美しいコンバーチブルスタイル、フライブリッジから美しく聳え立つツナタワーのスタイルは「Merritt」が広めたものだ「Merritt37」が各地のチャーターボートで活躍する中、ハルナンバー#13“HOPALONG”が、FletchCreamerとCapt.BuddyLander のために特別にデザインされた。1965 年に建造されたこの「Merritt42」は、当時最も大きいサイズの「Merritt」。その進化はあまりにも有名な伝説だ。

その後、1968年に建造されたのは、この「Merritt42」をベースにブラッシュアップした「Merritt43」。AllenMerrittのために建造したハルナンバー#17“Caliban”。続けて#18はBuddyMerrittのための“CalibanII”、そして#19はFranklinMerrittのための“CalibanIII”。同じ「Merritt43」が、ファミリーのために3艇建造されたのだ。完璧なスポーツフィッシャー「Merritt43」は、この3艇を含むハルナンバー#17から#27までと、ハルナンバー#38の計12艇が建造され、チャーターボートキャプテンの憧れのボートとしてスポーツフィッシャーの歴史に刻まれる伝説のボートとなった。
「Merrittの特徴は、リレーションシップかな。建造しているのはほとんど、Merrittを乗り継いでいるオーナーや、そのファミリーのもの。契約書などはない。シェイクハンドだけさ」RoyMerritt CEO/Merritt’sBoat&EngineWorks

ポンパノビーチのファクトリーを訪れた私たちを待ち受けていたのは、東京ドームよりも広い13エーカーの敷地だった。その東側はインターコースタルウェイの運河、北側と南側にも運河が掘られ、半島のように独立した敷地。運河の入り組む周辺は、桟橋付きの豪邸が取り囲む高級住宅街に位置する。そのファクトリーを囲む3方の岸壁には、ポンツーンに係留された、「Merritt」やその他のボートが並び、多くのスタッフが行き来し、作業をしている。中には、完成したばかりで、引き渡し前のシートライアルをする「Merritt72」も係留され、多くのスタッフが忙しく最後の調整に入っている。北側には屋外のメンテナンスヤードと、ツナタワーを立てたまま入ることができる巨大な屋根のあるポンツーン。南東の角にも屋外のメンテナンスヤード。ファシリティも充実しており、それぞれに自走式のクレーンがあり、多くのモーターヨットが上架されていた。それ以外の大部分を占める敷地には、80フィートを超える大型艇も入る大きな建屋。その一つではカスタムボート「Merritt」の建造を目にすることができる。他には木工工場やヴァーニッシュ工場、金属加工工場、ファブリック工場など大きく5ブロックに分かれている。ツナタワー以外の全てを建造することができるワンストップのメンテナンスヤード。アフターメンテナンスやリフィットも完璧だ。


1955年からスタートしたカスタムボートビルド。木造のスポーツフィッシャーからスタートし今年で61年を迎えたが、ハルナンバーはまだ#105を数えるだけだ。だが、工場を訪れた時には、引き渡し間近のものを含め、「Merritt72」を2艇と「Merritt86」を4艇建造中。これらのオーダーは、何艇も「Merritt」を乗り継いできたカスタマーがほとんど。スペース的に、これ以上はオーダーを受けられないという活況ぶりだ。

工場内を覗くと72フィートと86フィートの巨大なモールドが見える。意外にも最新「Merritt」のハルやハウスは、木造ではなく最新のマテリアルを使ったコンポジット。70年代から80年代にウッドからファイバーグラスへの移行があったという。コンポジットのマテリアルや建造方法は最新。ファイバーグラスのマットの間にコア材を挟み、バキュームでレジンを送り込むインフュージョン方式。コア材は使う部位により適切な強度のものを使い分け、レジンはエボキシ系を使うことで、軽く強い船体を実現している。


つまり現在の「Merritt」は、基本的には72と86のモールドを使った2モデルだけのラインナッップ。レイアウトは幾つかのバージョンから選択。それ以外のエクステリアやインテリアは自由にカスタムできるセミカスタムビルド。スタイルは伝統的でクラシカル、ボトムデザインは高速航行を可能とする最新デザイン。ハルやデッキ、ハウスなど構造に関わるところはファイバーグラスのコンポジット、それ以外のエクステリアやインテリアは、ウッドゥンボート時代からの腕の良い職人が伝承する見事なウッドワーク。この巧みな使い分けは「Merritt」ならではのものだ。
ハルナンバー#98の66フッターは、最近では珍しいコールドモールドのウッドゥンボート。これは昔から何艇も「Merritt」を乗り継いできた上顧客のオーダーを受けたもの。基本的には、モールドのある2モデルの建造となる。そして、「Merritt72」についてはハルナンバー#104を最後にモールドは廃棄されることが決まっている。代わって、最新デザインの77フッターが最終デザイン過程に入っているそうだ。
「Merritt」は、Rybovichをはじめ多くのビルダーの資本が変わる中、創業当時から変わらないファミリー経営の続いている数少ないビルダーの一つ。「Merritt42“BlackBart”」をはじめ「、Merritt37「43」共に、今も世界各地で現役のチャーターボートとして活躍していることが「Merritt」の品質と信頼の証だ。スポーツフィッシャーの頂点として、現代に受け継がれる性能と品質、そして普遍のデザイン。伝説のビルダー「Merritt’sBoatsandEngineWorks」の魂は、Merrittファミリーの手により、今も途切れることなく受け継がれていた。P.B.
Merritt’s Boat and Engine Works
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