聖地巡礼 #09Garlington Landeweer Yachts(ガーリントン・ランドウェアー・ヨット)
特徴的なベルシェイプ、最新素材を追い求めるコンポジット製法、そしてエクスプレススタイルRichardGarlingtonの思想は、今も確かにGarlingtonLandeweerに受け継がれている
text: Yoshinari Furuya
photo: Kai Yukawa,Garlington Landeweer Yachts
special thanks: Garlington Landeweer Yachts
http://www.garlingtonyachts.com
日本で唯一の「Garlington44Express」。1990年製、ハルナンバー#10。低めのトランサムから、アフトデッキのブルワーク。アフトからバウに向かい、のびやかに流れるようにせり上がるシアーライン。美しく弧を描く純白のバウデッキ。それは名車と呼ばれるスポーツカーと同じ、ロングノーズ&ショートデッキの黄金比。これほど均整のとれたエクスプレスはない。一流品は、見るだけで興奮し、所有するだけで喜びを感じることができる。
もちろん、Garlingtonはデザインだけではない。1990年製の44フィート・エクスプレスは、26年経った今でも十分に通用する33ノットのトップスピード。ハルは、最新の高級プロダクションスポーツフィッシャーのインフュージョンと比べても強く、そして軽い。2重にコア材がサンドイッチされたハルは、圧倒的な強度を誇り、激しい波の中でも歪みやたわみはほとんど感じない。波頭から海面に落とされた時の衝撃でも、きしみ音やビビリは皆無。また、低重心の設計は、激しく荒れる海での追い波や横波にも不安なく、安定して高速のまま走り続けることができる。荒れた海、波の中を乗り比べれば、素人でもわかるほど、安定性や剛性の違いを感じることができるはずだ。それが、一流と言われる所以だ。
日本にも輸入されていたGarlington
Garlingtonは現在、61コンバーチブル、58コンバーチブル、44エクスプレスの3艇が日本の海に浮かんでいる。バブル期には輸入元が存在し、3艇の44エクスプレスが販売された。バブル崩壊後、2艇の44エクスプレスはアメリカに買い戻された。同年代の44エクスプレスは、コレクターズアイテムとしてフルレストアされ、アメリカの中古市場ではミリオンダラー以上の高値でリストされることもある。その実力や名艇としてのバリューは、本場アメリカで認められている。
「GarlingtonYachts」を創業したのはRichardGarlington。その歴史は比較的新しく1986年の創業。今回訪れたスチュアートのファクトリーから、歴史は始まった。
そのファクトリーは、フロリダ州3370SESlaterSt,Stuartにある。セールフィッシュの像が立つ噴水で知られるスチュアートのヒストリックダウンタウンから、ルート1を南へおよそ8km。工場団地内のSESlaterSt.とSECommerceAve.の小さな道が交わるT字路を中心に、カスタムボートビルダーのファクトリーが集積する。
3棟並んだファクトリーの1番左は、創業当時のGarlingtonが使っていた場所。現在はJimSmithTournamentBoatsのファクトリー。
そして、中央の建が「GarlingtonLamdeweerYachts」。右側はL&hBoats。現在L&hBoats内の半分はGarlingtonに貸し出され、Garlington49を建造している。また、T字路を挟んだ向かいにはWillisMarine。カスタムボート2艇と、ボート建造用のジグを製作している。さらにWillisMarineの三軒隣りには、アウトボードのカスタムセンターコンソーラーを建造するBonadeoBoatworks。その他、パーツ製造会社など、マリン関連のファクトリーやオフィスが点在するボートビルダーの聖地だ。
GarlingtonYachts」の創業者RichardGarlingtonは80年代前半、入手可能なボートに気に入るものがなかった理由から、自ら建造を始めることにした。友人であり60~70年代アメリカ海軍の潜水艦の設計で有名なダン・マッカーシーに造船設計を相談。1986年、扱いやすく、安全性や快適性を持ち、荒海をソフトライドできるボートを目指し、自らの48フッターを建造。それがGarlingtonの始まりだ。
軽く強い複合材料を使った彼のボートは速く、低燃費を実現し、話題となった。その後、スチュアートのボートデザイナーSteveFrenchとともにデザインした58コンバーチブルと44エクスプレスは、シーワージネスやフィッシャビリティに加え、美しいスタイリングが注目を集める。カスタムボートのデザインに革命をもたらし、スポーツフィッシャーのベンチマークとなる。そして7年の間に13艇のカスタムボートが、RichardGarlingtonによって建造され、カスタムボートの新たなレジェンドとして知られる存在となった。
新しく生まれ変わったGarlington Yachts
1993年、Garlington YachtsはPeterand Everet Landeweerに売却され、「GarlingtonLandeweerYachts」として生まれ変わった。PeterLandeweerは、最新のマテリアルやコンポジットを積極的に取り入れてきたGarlingtonの意志を受け継ぎ、コンポジットのGarlington61を建造。58コンバーチブルをさらに洗練させた美しいフォルムに、高剛性の船体がもたらすシーワージネスや軽量化によるスピードと低燃費を発展させた61コンバーチブルを完成させた。
悲しいことに創業者のRichard Garlingtonは2003年に亡くなったが、その意志や高い思想は、Landeweerに受け継がれ、継承された。その結果、初期のGarlingtonを信望する顧客が離れることもなく、Garlingtonオーナーに受け入れられ、新しいファンも獲得した。61の他に54や67、72、78など、Landeweerとしてスタートしてから23年の間に44艇が新たに建造され、ハルナンバーは57を数える。そして今、Garlingtonを象徴するエクスプレスを再度建造し、原点に回帰する。現在も61エクスプレスを始め、49ウォークアラウンドや49エクスプレスの建造が続いている。
オフィスでインタビューをした後、陽気なPeterLandeweer自らがファクトリーを案内してくれた。ファクトリーの左側、オフィスの目の前には61エクスプレス。デッキが合わされ、今春の進水に向け、電装品やエクステリアの仕上げに入るところだ。周辺にはコックピットのソファやメザニンシートなどを建造するための雄型になるジグが組み立てられ、積層の準備が進められている。Peterは積層する予定のコアセルをジグに当て、雄型を使った積層のデモンストレーションを見せてくれた。
61エクスプレスの隣りには、49のモールド。これから建造に取り掛かる49エクスプレス、ハルの積層に入る準備が進んでいる。
ファクトリーから表に出て歩道を歩き、隣のファクトリーへと誘導された。その壁にはL&hBoatsの看板。Peterの後について中に入ると、ファクトリーの右手には、シーキーパーを搭載中のL&h33。左側には、デッキのないGarlington49のハル。ここはL&hBoatsのファクトリーの一角。隣人であるL&hBoatsの社長GlennMullerは以前Garlingtonで働いていたこともあり、PeterLandeweerと今も懇意にしているという。
L&h内にあるGarlington49は隔壁やロンジ等補強が処され、これからエンジンや駆動系、電装系に取り掛かる状態。ボトムを覗くとトランサム近くに楕円の穴。パワートレインはボルボペンタIPS950を搭載する予定だという。走りを尋ねると「49にIPSを搭載するのは初めてなのでわからない」という。これまでの800馬力インボード艇はMAX37ノット。クルーズスピードの30ノットで、時間あたり52ガロンの消費燃料。シャフトより効率の良いIPSならば、このスペックを上回るはずだ。
Garlingtonらしい人気のエクスプレスの建造が続く。コールドモールドを使うビルダーやコンバーチブルばかり建造する他のカスタムビルダーにはない独特な個性が輝いている。49ウォークアラウンドやPODドライブ、そして61エクスプレス。新しい試みにチャレンジしたニューボートのローンチが待ち遠しい。P.B.
Garlington Landeweer Yachts, Inc.
3370 SE Slater St, Stuart, FL 34997
TEL:(+1)772 283 7124
FAX:(+1)772 220 1049
http://www.garlingtonyachts.com