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聖地巡礼

聖地巡礼 #2 Paul Mann Custom Boats ポールマン ボート

聖地巡礼

オレゴン・インレットの名キャプテンレジェンドを知る男が、自らレジェンドとなる

text:Yoshinari Furuya
photo:Kai Yukawa,PaulMannCustomBoats
http://www.paulmanncustomboats.com

Mr.PaulMannとのファーストコンタクトは意外な場所だった。それはノースカロライナ州のアウターバンクスにあるWancheseの港に面したカスタムビルダーBriggsBoatworksの前。インタビューを終え施設を撮影していると、そこに親子らしき2人の男性が乗るピックアップが停車した。ウィンドウを下げると運転する男が「今日はボートショーでもあるのか?」と茶目っ気たっぷりに見知らぬ我々に声を掛ける。その場を立ち去るピックアップ。リアウィンドウには「PaulMannCustomBoats」のステッカー。そう、その陽気な男こそPaulMann本人だと後で知ることになる。

Briggsで出会ったのは決して偶然ではない。Briggsはカスタムボートビルダーが集積するロアノーク島の南部、Wanchese(ワンチス)にある。このロアノーク島は、1585年と1587年にロアノーク植民地を伴うイングランド人開拓地を設立した、アメリカ史にとって重要な場所。また、そのはるか前の紀元前8000年にまで遡ることができる様々な文化の痕跡がワンチスにあるティレット遺跡から発掘されている。そして、ワンチス周辺はスポーツフィッシャーの世界でも有名なエリア。Briggsの他に、Spencer、Bayliss、Blackwell、B&D、Scarborough、Sculley……名だたるカスタムボートビルダーが集まる町。ノースカロライナのカスタムボートビルダーの聖地として、カスタムボート好きなら誰もが知る町。それがワンチスだ。

そのワンチスの中でもBriggsは伝統あるカスタムビルダーとしてリスペクトされている。PaulMannもビルダーを自ら立ち上げる前には、ボートキャプテンをしながら、SunnyBriggsのもと造船の仕事に携わったという。また、PaulMannCustomBoatsのファクトリーはロアノーク島のすぐ対岸MannsHarborにあり、Wancheseの港に向かうHarborRdに面したBriggsの工場まで車でたった15分。前を通ることは決して珍しいことではない。Paulと出逢った午後、MannsHarborにあるPaulMannCustomBoatのファクトリーに到着した。だが、連絡していたにもかかわらず、社長のPaulが不在ということで取材を断られる。そして、諦め帰りかけたとき、あのBriggsで見たピックアップが現れた。気さくなPaulは、我々を快く迎え入れてくれ、Paul本人がファクトリーを案内してくれた。

カスタムビルダーをはじめる創業者には主に2パターンある。一つはデザイナーやビルダー出身者。造船設計の学校や、造船所の現場で学んだノウハウを生かし、理想のボートを建造する、職人気質なボートビルダー。もう一つは、拘りの乗り手が造船をはじめるタイプ。チャーターボートキャプテンや無類のボート好きが、既製のボートに満足できず、理想のボート建造を始めてしまう。オレゴン・インレット・チャーターボートの名キャプテンとして知られるPaulMannは勿論、後者のカスタムビルダーといえる。

ノースカロライナのアウターバンクスで育ったPaulは幼少期からボートや釣りが生活の一部となっていたという。10代からオレゴン・インレット・チャーターボート・メイトを始め、20歳の時には、キャプテンのライセンスを取得。自身のオフショアフィッシングビジネスをはじめる。また、チャーターボート・メイトをしながら高校を卒業後に始めたボートビルディングの仕事では、幸運にも伝統的なカロライナボートを建造するレジェンドSunnyBriggsやOmieTillettのもとカスタムボートビルディングを経験する。この時期に、彼のカスタムボート建造のベースが出来あがった。

「100%サティスファクション」を実現するモックアップ建造法

1988年、オレゴン・インレットの名キャプテンとして活躍するPaulは、「MannBoatWorks」としてチャーターボート用スポーツフィッシングボートの建造をはじめる。1992年、「PaulMannCustomBoats」を設立。はじめに建造したのはチャーターボートキャプテンの仲間であったJohnBaylissのためのボートだった。そして、今まで27年間に136艇を建造。カスタマーからの信頼は非常に高く、現在もファクトリーではハルナンバー#137と#138の60フィート2隻を建造中。そしてハルナンバー#139も建造がスタートする。

現在スタッフは18名。何をすれば良いか理解している気心知れたベテランスタッフ達がPaulの自慢だ。「クオリティを保つため、スタッフはせいぜい20~25人まで、建造数も3隻までにおさえている。建造期間は60フィートクラスで約18ヶ月。4チームを作り、4セクションに分かれて同時に建造をすすめる。タワーについては、ファクトリーからトレーラーで港まで運び、約6日で組みあげる」とPaulは言う。

船体の特徴を聞くと、「シーワージネス」「フィッシャビリティ」そして「燃費の良さ」を挙げている。伝統的なコールドモールドに、Tricel,Honeycomb,decolite,foamなど、最新のハイテク素材やテクノロジー、プロセスを取り入れ、ストロングでタフ、しかも同サイズのボートに比べて非常に軽いボートを建造する。

そして、PaulMannの特徴や個性、他のカスタムビルダーと比較した優位性をについて訪ねると、Paulは「100%サティスファクション」と答える。この「100%満足」という言葉を、その後何度も口にした。

その一つが、オーナー毎のフィッシングスタイルに合わせたデザインの提案。船体デザインはナーバルアーキテクトが加わるが、レイアウトや艤装は、Paul自身のチャーターボートキャプテンの経験を活かし、自らデザインし提案する。

また、興味深いのはインテリアやエクステリアのデザイン。「100%満足」のため、クライアントの要望通りにモックアップ(発泡材で造った模型)を造る。テーブルやソファー、カウンターチェアはもちろん、キャビネットやカップボードのインテリアから、メザニンシートやフライブリッジのヘルムステーションやパイロットシートまで、時間や手間を惜しまず、全ての構造物のモックアップを造りクライアントに最終確認をとる。クライアントも職人も、モックアップを並べた状態を確認し、何度も打合せをする。全方向から確認しやすいように、「メザニン」と呼ばれる足場が、ブルワークの高さで全周に設置されている。Paul曰く「図面上のデザインだけではわからないことが多い。1インチの差でも大きな違いがでるから、必ずモックアップを置いてみるんだ」と。

顧客満足度100%を目指すPaulMann。その行程を隠すことなく全て見せてくれるビルダーのプライド。見るもの聞くもの全てが、カ
スタマーのための「100%満足」の重要なプロセス。ファクトリーを見れば、PaulMannが支持されている理由がわかる。

ワンチス周辺のカスタムボートビルダーの中でも特別の存在感を見せる「PaulMannCustomBoats」。いつの日か、日本の海で、その精悍な姿を見たいものだ。P.B.

PaulMannCustomBoats,Inc
6300USHwy64,MannsHarbor,NC27953
Phone.(+1)252-473-1716
Fax:(+1)252-475-1523
Email:robin@paulmanncustomboats.com
http://www.paulmanncustomboats.com