
聖地巡礼 #08 WhiticarBoatWorks (ウィティカーボートワークス)
ウッドゥンボートが集まるドック、ボートの域を超えた重厚で緻密なファニチャー94年にわたり建造を指揮してきたレジェンドSir.Curt Whiticarが手掛けた珠玉のカスタムボート

text: Yoshinari Furuya
photo: Kai Yukawa
special thanks: WHITICAR Boat Works
http://whiticar.com
ヒストリック・ダウンタウンと呼ばれるスチュアートの旧市街は、フロリダの強い日差しを受けて輝くペールカラーに彩られた可愛いらしい街。ロータリーには噴水に囲まれたセールフィッシュのモニュメント。街を歩けば、セールフィッシュのフラッグや壁掛けなど、いたるところでセールフィッシュを目にすることができる。「SailfishCapitaloftheWorld」と呼ばれたカジキの街、そのダウンタウンから南東へおよそ6km、プライベート機が多く発着するWithamField空港の南、オールド・セントルーシー・ブルーバード沿いの緑に覆われた静かな場所に「WHITICARBoatWorks(ウィティカーボートワークス)」のヤードがある。

真っ白にペイントされた白いオフィス棟。窓のルーバーや玄関の庇、ドアの縁取りにマリンブルーのアクセント。ドアの横には同じマリンブルーのサインボードにゴールドで描かれた「WHITICARBoatWorks,Inc.」。アメリカントラッドなボートを建造する「WHITICAR」らしいヘッドオフィスだ。



海上にはオールドのBARTRAMとEGG-HARBOR。正面を向くのは、RYBOVICH唯一のエンクローズドフライブリッジモデルRYBOVICH72。その横にはマホガニー製のランナバウト。そして、桟橋の先端には、WHITICAR史上2番目に大きいエンクローズドフライブリッジWHITICAR76、ハルナンバー#63の「BOOMER」。この美しいWHITICARは横揺れを抑えるシーキーパーを搭載するために里帰りをしていた。デッキを切り、燃料タンクを載せ換える大掛かりなリフィットだが、WHITICARを建造したスタッフが行うリフィットは完璧。新艇艤装同様の美しさで収められ、リフィットした形跡に気付くことはない。

海に向かって左側には創業当初からある木造のルーフ付きドック。建造時3艇分あったドックのうちハリケーンで2箇所は倒壊。1箇所だけ残されたドックは、過去のモノクロ写真で見ることができるWHITICARの貴重な歴史遺産だ。その横の桟橋には、SABRE42と、北米で人気のトローラーFLEMINGが2艇係留されている。他にも2艇のFLEMINGが係留され、上架中の2艇も合わせ6艇のFLEMINGがメンテナンスに寄港している。オーナーの評判によりメンテナンスに集まったFLEMINGフリート。アメリカ国内でデリバリーされるFLEMINGのうち、95%が艤装やメンテナンスのためにここを訪れるという。WHITICARの技術力が、ボートビルダーやオーナーに信頼されている証拠だ。
WHITICARは、この「WHITICARBoatyardinStuart」以外に、ボート建造のための工場を所有している。およそ2マイル離れた工場は、GarlingtonLandeweerやJimsmithなどカスタムボートビルダーが集まる工業団地にある。現在は、WillisCustomBoatworksに貸し出し、カスタムボートが建造されている。そして、およそ40km北にあるフォートピアース・インレットの近くでもメンテナンスヤード「WHITICARMarineNorthinFortPierce」を運営している。保管やメンテナンスが主な業務だ。

WHITICARのように古くからボートビジネスを開始したビルダーは、水際の立地の良い場所に土地を所有し、ファクトリーを構えている場合が多い。フロリダの発展とともに、桟橋付きの邸宅は広がり、地価は上昇。ロケーションの良い限られた海岸沿いは、上架設備を持つことができる貴重なメンテナンスヤードとなる。特に北米では、景観や騒音、汚れなどの問題からリゾート地のマリーナにヤードがないことが多い。大掛かりなリフィットは周辺環境を考慮し、郊外にあるメンテナンスヤードで行うことが多いのだ。1年以上2年近く、工場内から動くことのないカスタムボート建造を地価の高い水際で行うことは少なくなり、内陸の工場団地で建造されることが多くなったというわけだ。また、ボート造りの情熱を持つ創業者から次世代の経営者に移行し、安定した経営ができるリフィット事業にシフトする現代の傾向もある。リスクの高い新艇建造はメインのビジネスではなくなり、木工技術の継承の理由からかろうじて続けられている様だ。
スチュアートのあるマーティン群が創立された1925年から遡ること8年、1917年には、創業者のCurtWhiticarは、彼の両親と2人の兄弟とともにスチュアートに移り住み、フィッシングビジネスをスタートさせている。そして、1922年、11歳のCurtWhiticar少年は、自らの14フィート・フラットボトム・スキッフを建造した。それがCurtWhiticarが建造した最初のボート、ハルナンバー#1だ。その後も、ファミリーのためのフィッシングボートを建造。ハルナンバー#7は33フィートの外洋フィッシングボート「Shearwater」。1938年には、38フィート、ハルナンバー#8となる「Gannet」を建造。そして戦後1947年にCurtWhiticarはこのStuartBoatyardを手に入れ、メンテナンスやリフィット事業と同時に「WHITICARBoatWorks」として正式に創業した。


1954年に進水した創業後の1号艇は、弟JohnWhiticarのために建造した38フィートのフィッシャー、ハルナンバー#10の「Hobo」。そして同時期に建造されたハルナンバー#11は、Mr.Blackwoodコミュニティから依頼された28フッター「QuickStep」。これは、WHITICARフリート以外に建造された初めてのボートだった。ボート建造に手応えをつかんだCurtWhiticarはその後、自らのフィッシングチャーター用のボートを売却し、リフィットやボート建造など、ヤードの仕事に専念する。そして現在も、ファクトリー横の自宅で元気に暮らしている。
Sir.CurtWhiticarがボート建造を始めてから94年。WHITICAR創業前の建造も合わせても、その建造数は65艇に過ぎない。WHITICARBoatWorksとしては、創業から69年の歴史の中で、たった56艇だけとなる。しかも建造したボートはプロが使う業務用が多く、ビルダーとしては目立たない存在。だが、質の高いWHITICARは、その間ずっとプロに認められて続けているのだ。

CurtWhiticarは105歳を迎えた今でも、ヤードの横にある自宅で海やボートの絵を描き、元気に暮らしている。ボートビルダーのレジェンドに会えたことを、光栄に思う。P.B.
WHITICARBoatWorks
3636SEOldSt.LucieBlvd.Stuart,Florida34996
TEL:(+1)7722872883
FAX:(+1)7722872922
E-mail:info@whiticar.com
http://whiticar.com


