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北野天満宮 京都スポーツカー&スーパーカー・ヘリテージ・ギャザリング&パレード

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京都市上京区、学問の神様菅原道真公をご祭神とする「北野天満宮」。2015年にランボルギーニ・ミウラの50周年を祝すイベントから始まった「京都スポーツカー&スーパーカー・ヘリテージ・ギャザリング&パレード」。今年はフェラーリ・ベルリネッタボクサーとテスタロッサのメモリアルイヤーにあたり、「跳ね馬180度V12ミドの20年」をテーマに、33台のフェラーリ・ロードカーと、ほか総勢70台以上のヒストリックスポーツカー&スーパーカーが集結した。イベントを主催する京都在住の自動車ライター西川淳氏自らが、今年の「SCHG」を語る。

text:Jun Nishikawa 
photo:Hidehiro Tanaka

きっかけは引っ越しだった。京都へ本格的に根を下ろすに当たって唯一、条件に見合った物件が北野天満宮の近所だった。その昔、“スーパーカー西の聖地”と呼ばれたトミタオートも近く、浅からぬ因縁をすでに感じていた。

町内会にあえて飛び込んだ。それが良かった。珍しい仕事内容を説明し、イベントの話も出た。「天神さんでもカーイベントできるんちゃうやろか」。みんな氏子なのだ。

クルマ好きの権禰宜さんを紹介してもらった。境内には至る所に伏せ牛の像が鎮座する。神使だ。ランボルギーニにぴったりだなどと思っていると、「あちらをご覧ください。全国の天満宮でも唯一の“立ち牛”なんですよ」。

衝撃的な出会いだった。本殿の中央で伏せていない牛の木彫りが参拝者を見守っている。それはなんとランボルギーニのエンブレムの牛をちょうど反転したような構図で、今にも突進しそうなレイジングブルだった。

最初のイベントは2015年。ランボルギーニ・ミウラの50周年を記念し、クラシックモデルばかりを集めることに。全国からミウラはもちろん、400GTからハラマ、カウンタック、ウラッコ、ディアブロ、ムルシエラゴ、ガヤルド、ウラカン、アヴェンタドールまで歴代のランボルギーニが大挙してやってきた。あまり広報できなかったにも関わらず、多くの見物客も集まって、ちょっとしたニュースにもなった。

「また来年もやってね」。地元の人からもそんな声をかけてもらった。以来、コロナ禍で悔しい中止(2021年にはカウンタックの50周年を企画した)もあったけれど、例年、青もみじの美しい5月に「京都スポーツカー&スーパーカー・ヘリテージ・ギャザリング&パレード」(SCHG)と銘打って、古今東西の名車が集うイベントを開催している。

なかでも2018年は伝説の回だった。初めて70台規模(例年は場所の都合もあって50台未満)の募集をかけた。しかも1モデル1台のみ。重複なし。古今東西の名車が80モデル、エントリーしてくれた。

ところが当日はあいにくの雨。予報から厳しかったから、エントリーの半分も集まらないか、ほとんどが代車でやってくると思いきや、なんと1台のエントラントを除いて全てが予定通り集まってくれた。その1台にしても屋根のない356スピードスターからナナサンカレラRSに乗り換えての参加で、結果的に重複もしなかった。

土砂降りのなか、思いつく限り古今東西全てのスポーツカーが集まってくれた。ミウラSVにカウンタックLP400、ラ・フェラーリにエンツォフェラーリ、F50にF40。大切な愛車を雨に濡らしてしまい(中には水が溜まって後日錆びてしまったクルマもあった)申し訳ない気持ちでいっぱいになったけれど、濡れた名車たちの景色もまた感動的で、二度と見ることはできないと思った。「自分が欠席するとそのクルマを見てもらえない」。好きなクルマに対する思い入れの深さにも感動したものだ。

2024年のメインテーマは何にしようか。実は今年になってもまだ決めかねていた。正直言って、屋外の置き系イベントを主催することにちょっと後ろ向きになっていたのだ。雨が降っても晴れすぎても申し訳ない気持ちになる。事故が起きたらどうしよう?いや、そもそも今どきただの置きイベントに喜んで来てくれるものだろうか?心配は尽きない。

イベントはやるもんじゃない。出るもんだ。それでも今年の開催を決めたのは、やっぱり北野天満宮さんと地域の人たちからの期待が思っている以上に大きかったから。「今年はいつなの?楽しみにしてるから」。それに応えなければという気持ちが最後に勝った。

先に日程を決めてしまおうと思っていると、あることに気づく。例年、GW明け、つまり5月の第二週日曜日を第一候補に挙げて検討するのだけれど、今年は5月12日だ。5、1、2。512じゃないか!この三桁数字にピンときたらフェラーリファン。512といえば512BBだし512TRだ。しかも今年は512BBの始祖365BBの生産開始50年(厳密には73年12月スタート)、512TRの先代テスタロッサの登場40年、そしてBB~テスタロッサ時代の最後となったF512Mのデビューから30年でもあった。しかも、コロナ前から手がけてきたテスタロッサのレストアも終わりそう。お披露目のイベントとしても活用できる!

題して『BBからテスタロッサへ~180度V12の時代』。365GT4BBからF512Mまで、フェラーリ史のなかでも特異な180度V12リアミドシップをフラッグシップとした時代をメインテーマに据えることに。

早速、募集を始めるとあっという間にその時代の全てのロードカーが集まった。V12フラッグシップのみならず、ディーノや308GTBから続く非12気筒のミドシップも全モデルが出揃いそうだ。牛が神使の天満宮に名馬が揃う。面白いじゃないか。実は例年イベント会場にあてている場所が「右近の馬場(ばんば)」といって、その昔は馬を調教した場所。近所の町名も馬喰町だ。

というわけでSCHG2024のメインテーマ&ブランドはフェラーリとなり、当日は雨予報もあって心配はしたものの、クラシックな60年代の330GTCから最新のプロサングエまで33台が揃うことに。もちろんそれだけじゃない。ランボルギーニもミウラやカウンタック、最新のウラカンステラートもやってきた。日産スカイラインGT-R(ケンメリ)やBMW3.0CSL、ダラーラストラダーレといった普段は滅多に見ることのできないレアモデルも集まった。その数、再びの70台(以上)。

雨雲が奇跡的に会場上空だけを避けてくれた。まるでモーセの海割りのように。一瞬だけぱらついたものの、傘をさすほどじゃない。天満宮の太鼓隊が叩き始めると、あっという間に雨も上がった。北野天満宮のパワーとオーナーたちの日頃の行いに感謝するほかない。

参道脇の広場には跳ね馬だけが集まっていた。メインテーマである365BBから、512BB、512BBi、テスタロッサ、512TR、F512Mまでがきれいに揃うなんてなかなかないことだ。およそ20年間の異質な時代の眺めであると思うと、さらに感じ入る。

そしてその奥にはディーノから308GT、328GT、348、F355、360、F430、458、488、F8、さらにはF40まで揃い踏みの圧巻!スーパーカーブーマーたちにとっての憧れからリアリティあるモデルまで跳ね馬ロードカーがほとんど全て並んだのだから当然だろう。この光景も、雨の70台70モデルと同様、もう二度とは再現できそうにない。そして、イベントの締めくくりにはフェラーリ33台による京都最古の花街“上七軒”を白バイ先導でパレード。上七軒パレードの光景だけは年見ているにも関わらず感動もの。

コロナも明けて(否、新株も次々で感染症に終わりはないが)、カーイベントは以前よりも増えてきたような気がする。イベントの種類もギャザリング(置き)からツーリング、ラリー、タイムアタック、サーキットまで多様になってきた。オーナーの志向も変わりつつあって、よりアクティヴで刺激的な方向を向いているように見える。ギャザリングイベントは転換期を迎えているのかも知れず、来年以降の開催もまた悩ましい。

おそらく今年いっぱいは何も考えず、来年になってまた慌てて企画を練るんだろうな、と思いつつ、心のうちではもっとミニマムで交流の深いイベントをやってみたいとも思っている。台数や規模、場所を誇るのではなく、本当に好きな仲間と集まって、クルマを語りつくす。旨い料理があればなお嬉しい。

クルマが好きなだけじゃない。クルマ好きが好きで、クルマ好きの話を聞くのが好きなのだ。

いつの日かクルマ好きが気軽に集まって一日を楽しく過ごせるような、過去と未来の交差する場所を作ろうと思っている。P.B.

https://www.instagram.com/kitano_tenmangu?igsh=MW1xMzhiZTljNjB5NQ==