中央イタリア、マルケ、ウンブリア、ラツィオのワイナリーを訪ねて

新しい醸造技術の研鑽、そして品質の追求と伝統の継承イタリア中央部は、地域ごとのテロワールを反映した素晴らしい銘醸エリアだ
text & photo: Hidehiko Kuwata


フィレンツェから「TENUTA CASTEL BUONO(テヌータ・カステルブオーノ)」があるウンブリア州に向かった。まずは高速E35に乗って南下し、ペルージア方面を示したサインに従って東に車を走らせる。ペルージアを過ぎると内陸部に広がる丘陵地帯に入り、さらに進むと人気のない草原に褐色の円形ドームが姿を現す。この斬新なアーキテクチャーのワイナリー「テヌータ・カステルブオーノ」は、スプマンテの最高峰「FERRAR(Iフェッラーリ)」のオーナー、ルネッリ・ファミリーが所有している。イタリアの彫刻家、アルナルド・ポモドーロが設計を手掛けた建造物で、長寿と安定のシンボル「亀」にインスパイアされてデザインされており、亀の甲羅をイメージした巨大なドームは「空」と「大地」を融合する触媒というコンセプトだ。
「緑の心臓」と呼ばれる自然豊かなウンブリア州は、州内の70%が緑豊かな丘陵地帯で、川や湖が多く安定した水源を持ち、丘陵地隊は石灰質土壌を擁するという、まさにブドウ栽培に最適な場所だ。ペルージアの南方約20キロに位置するこのエリアでは、なんといってもサグランティーノ種が有名で、この品種はポリフェノールの含有量が多く、さらにタンニンが強いので、長期熟成によって濃厚で重量感のあるワインを造ることができるのだ。自社畑はすべてオーガニックの認証を受けており、ルネッリ・ファミリーはフェッラーリで培ったブドウ栽培ノウハウと醸造技術を駆使して、高品質なスティルワインの生産を行っている。



ルネッリ・ファミリーは2001年にこの地に30ヘクタールのエステートを購入した。そして要の干ばつにも新えうる強靭な土壌から生まれるサグランティーノを主体に、サンジョヴェーゼ、カベルネ、メルローを栽培して、2003年に「モンテファルコ・サグランティーノ」のファーストヴィンテージを生産した。ルネッリはこのワインを「世界でもっともバワフルなワイン」のひとつだと考えている。翌年には「モンテファルコ・ロッン」のファーストヴィンテージを迎え、現在ではともにカステルブオーノのフラッグシップとなっている。


カメの甲羅をイメージしたドームの内部は、1階は外部が360度見渡せるテイスティングルームとショップになっており、地下は間接照明を効果的に使ってモダンにデザインされたセラーになっている。半円形に整然と並ぶ醸造樽はうっすらと照明に照らされ、まるでインテリアの一部のようだ。幾何学的な装いの立体感のあるドーム天井、赤で統一されたバーカウンターなど、ユニークなレイアウトが施された広々とした空間の中で、サグランティーノの絶品がテイスティングできる。


ワイナリーのアーキテクチャーを手掛けたアルナルド・ポモドーロは、1926年の生まれで、建築学を学んだ後、26歳の時に立体構造学の分野に転じている。1950年代から60年代にかけてヴェネチア・ビエンナーレ展などの国際的なコンクールで受賞を重ね、30歳を超えた頃には国際的な名声を確立している。20世紀を代表する独創的な彫刻家であるブランクーシの作品に衝撃を受け、以後破壊への欲求が湧き上がり「破壊の内側に私の信号のすべてを注ぎ込みたい」と考え、創作活動を続けてきたアーティストである。1981年には箱根・彫刻の森美術館でのヘンリー・ムーア大賞展で大賞を受賞し、この時の受賞作『球体を持った球体』は、現在もこの美術館の芝生の斜面で輝いている。


アドリア海から20キロほど内陸部に入ったクプラモンターナは、のどかな風景に囲まれた小さな町だ。町の北端にある穏やかな傾斜の坂道を登っていくと、町の人たちがワインタワーと呼んでいるクリーム色の円筒形の建物が現れる。ここがマルケ州を代表するワイナリー「COLONNARA(コロンナーラ)」だ。1959年にこの土地を愛する19の農家が集まって設立された、共同体スタイルのワイナリーである。以後、豊富な農業経験とのべ190名に及ぶワイン醸造家との幅広いパートナーシップを支えに、創業以来成長が続いている。1963年にファーストヴィンテージを迎え、前述のワインタワーはこれを記念して建造されたワイナリー&セラーである。

1968年には伝統的なアンフォラ型のボトルでリリースされたフラッグシップ『ヴェルディッキオ・デイ・カステッリ・ディ・イエジ』がD.O.C.認定を受ける。これは新鮮な果実とエレガントなフローラルの香りを感じさせる温かみのある辛口の白ワインで、まさにシーフードには最適な味わいだ。スパークリングワインの生産にも注力し、1985年には『ヴィンテージ・ブリュット・クラッシコ・メソッド1982』が、イタリアン・ワイン・テイスティングにおいてゴールドメダルを受賞した。現在でも多くの農家、ワイン醸造家との共同作業が続いており、120ヘクタールのブドウ畑を稼働させて、ヴェルディッキオ種を中心としたワイン造りを続けている。

ラツィオ州の北端に位置するボルセーナ湖に臨むボルセーナの街は、お洒落なギャラリーやレストラン、バーなどが並ぶ素敵なリゾートエリアだ。街の中心から湖畔の道を5分ほど南に走ると左手に「MAZZIOTT(マツィオッティ)」の大きなゲートがあり、その先の私道を進むと広大な芝生に囲まれた白亜のヴィラとワイナリーが現れる。ここは1900年にジェラルド・マツィオッティが創業したワイナリーで、現在は孫娘のフラミニアと彼女のパートナーであるアレッサンドロが経営にあたっている。


『エスト!エスト!!エスト!!!ディ・モンテフィアスコーネ』は、この地域で生産される歴史ある白ワインの銘柄の一つで、D.O.C.認定を受けている。12世紀、ローマ皇帝の戴冠式のためにバチカンに向かっていたドイツ人の司教は、従者のひとりを先に出発させ、旅の経路にある村々で最高のワインを探しておくように命じた。従者はおいしいワインを見つけると「Est!」と記していったのだが、モンテフィアスコーネで飲んだワインはあまりにも美味しく、感激のあまり「Est! Est!! Est!!!」と記したという。このエピソードが名前の由来とされている。


創業者ジェラルドの後を継いだ息子のイタロは、所有する30ヘクタールのブドウ畑で、プロカニコ、マルヴァジーア・ビアンコなどを栽培して、自社畑で収穫したブドウだけでD.O.C『.エスト!エスト!!エスト!!!』を造り、
「マツィオッティ」の土台を築いた。辛口で酸味が少なく、エレガントな果実味が印象的なワインだ。フラミニアとアレッサンドロによってこの素晴らし味わいは現在も受け継がれ、二人の住居でもあるヴィラの中にあるテイスティングルームには、モンテフィアスコーネの歴史的な『Est! Est!! Est!!!』のボトルが多く飾られている。P.B.







