02_0514-Canne_LeBoreal-241cruise7_h1_03 初夏のフランス・コートダジュール、ニース港にスタイリッシュなフレンチシップが停泊していた。「ガストロノミック・シップ(食通の船)」の異名を持つ、高級客船「ル・ボレアル」。フランスの船会社「カンパニー・デュ・ポナン」が2010年5月に就航させた、全長142m、総トン数10,700トンのニューシップ。キャビン数132室、船客定員264名に対し、140名のクルーがサービスを提供する。この美食のフランス船で巡る「カンヌ映画祭&F1モナコグランプリ」のゴージャスな船旅を、2回に分けてお届けしよう。

Day1 ニース

01_0513-a_LeBoreal-108 コートダジュール。その意味する紺碧の海が一面に広がるニース。港に程近いホテルで朝を迎えた。朝食のため1階へ下りると、フロントデスクに「モナコグランプリ、スペシャルチケット手配します」との案内が置かれていた。フロントの女性に聞いてみると、一般の観覧席ではなく、グランプリの1コーナー、サンデボーテ正面に建つアパートメントのテラスから優雅にシャンパンブランチをいただきながら観戦できるとのこと、土曜日の予選、日曜日の決勝で1,000ユーロ。これは一般公示価格と比べて内容的にかなりの破格、すぐに飛びついた。しかし、このアパートメントまでどうやって行くのか、心配で聞いてみると、「大丈夫、大丈夫。すぐにわかるから。土曜日の10時、アパートメントに直接来てください」と、ただそれだけ。
 今日ここニースから乗船するのは、現在唯一のフランスのクルーズ会社、カンパニー・デュ・ポナン社の最新鋭客船「ル・ボレアル」。そしてこのクルーズは、カンヌ映画祭とF1モナコグランプリを巡る世界で最もゴージャスなコース。乗船は午後3時。待ちきれず、ル・ボレアルが停泊するニースのハーバーへ出かけてみた。
 ル・ボレアルは1万トン、船客定員260名。そのスタイリッシュなデザインは、フランス、ナント市にあるデザイン会社が手がけたものだ。近年のクルーズ船はひたすら大型化の一途。そして形はどんどん不細工になってきている。船を大きくするほどクルーズ会社は儲かるからだ。その商業主義一辺倒の産物が不細工な船である。船がかっこいいかどうかは、利益には関係ないという合理主義だ。しかし、フランス船社はそこは譲れない。美しくかっこよくなければならないプライドと美意識がある。
 ハーバーには、巨大なプライベートヨットが何艇も停泊している。どんな人が所有しているのか? 気になって、とあるヨットのセキュリティの人に訊いてみた。しかし、それは明かせないとのこと。とにかくそのヨットの大きさが半端ではない。その大きさは、ル・ボレアルと同じぐらいではないか、と思うほどだ。
 午後3時、ハーバーに隣接したクルーズ専用のピアからル・ボレアルに乗船、その内装のセンスのよさに改めて驚く。とかくクルーズ船はふかふかの絨毯を敷き詰めるのだが、ル・ボレアルはダークブラウンのフローリング。そしてソファなどに、ビビッドな赤を差し色に使う。ラウンジやダイニングのソファは真っ白な革張り。汚れるのではないか、とこっちが心配になるほどだ。しかし、時として機能性よりもデザイン性を重視するのがフランス人の真骨頂。お国は違うが、昔、マセラッティの内装が真っ白なレザーシートであることに驚いたことを思い出した。
 クルーズには通常、ドレスコードがある。標準的には1週間のクルーズ中に、フォーマルが2回(タキシードやスーツ)、インフォーマルが2回(ジャケット&タイ)、カジュアル(襟付きシャツとスラックス)が3回。
 しかしこの船のドレスコードは、スマートカジュアルのみ。つまりスーツやタキシードは持っていかなくていい。しかし、スマートカジュアルとはどういうものか? これがけっこう難しい。というのは、この船の大半を占めるフランス人船客は男も女もみな普段着が垢抜けているのだ。日本の男性も平日会社へ行くときはスーツにネクタイでそれなりに見えるが、週末の普段着がダサいという人がいる。かくいう私も普段着は無頓着、つまりオフの日のカジュアルな服装をセンスよく着こなすことがとても難しいと思うのだ。
 やがて陽は落ち、夜、ニースの空に花火が舞った。デッキで心地いい風に吹かれながら、それをぼーっと眺めていた。ほどなく舫が解かれ、ル・ボレアルはニースを出港した。

Day2 サントロペ – カンヌ

04_0514-Canne_LeBoreal-161 目覚めると、船はサントロペの沖合いに停泊していた。
 ほどなくキャビンのドアがたたかれ、ルームサービスの朝食が運ばれてきた。「どちらに置きましょうか?」と聞かれ、「あ、じゃぁベッドの上に」と返答。
 ベッドの上で、ヘッドボードにもたれ、船内新聞に目を通しながら、クロワッサンとフルーツに紅茶のシンプルな朝食をいただく。キャビンのバルコニーに出てみる。海が近いことに驚いた。最近の大型船は10階以上の高さがあり、部屋から眺める海が遠くなってしまった。数あるクルーズ船の中でもル・ボレアルのバルコニー付キャビンはもっとも海を感じれる部屋ではないだろうか。
 船尾のマリーナからテンダーボートに乗り移る。テンダーはどんなに穏やかな海でも多少は揺れる。キャプテン自らが船客一人一人の腕をしっかりとつかんで、テンダーへの乗船をアシストする。その光景が、タイトルは忘れたが、アランドロンが出ていた映画の1シーンを思い出させた。
 サントロペは昔から、著名な作家や映画俳優のお忍びのリゾート地として知られる極上のリゾート地。5月はまだ人も少なく、街を散策しても少しさびしい印象。しかしバカンスシーズンともなれば、人々が大挙して訪れる。その状況を知ってか、ル・ボレアルのサントロペ停泊はわずか4時間。昼前にはアンカーを引き上げ、カンヌへ向かう。
 気持ちいい陽射しに包まれたデッキで、ビュッフェスタイルのランチ。シーフードやラムチョップなどが炭火で焼かれる。新鮮なシーフードの前菜やサラダを自分で取り、冷えたロゼといっしょにいただく。屋外で食事をするワクワク感は、どこかピクニック気分のようなものがある。眼下のデッキ中央にはプール。いちおう水は張ってあるが、泳ぐにはまだちょっと早すぎる季節だ。
10_0513-Nice_LeBoreal-120 サントロペからカンヌは距離にして約30マイル。2時間半でカンヌに到着した。映画祭真っ只中のカンヌ、サントロペとは比べものにならないほどの華やかさ。豪華なヨットが無数に停泊し、大型クルーズ船も数隻訪れている。そんななか、世界に名だたる映画祭が行われるカンヌに到着したのに、それにまったく興味を示さない集団がいる。彼らは下船するわけでもなく、デッキで寝そべっている。彼らは、明日からのF1 モナコグランプリが目的なのだ。
 快晴の空に面白い形の雲が昇り立つ。個性的なデザインのヨット、クルーザーが、ル・ボレアルの周りに停泊している。少し風がきつい。やや揺れるテンダーボートに乗り、カンヌに上陸。この雰囲気、なんと表現すればいいのだろう。映画祭の各会場にはレッドカーペットが敷かれ、スターを一目見ようと群衆が取り囲む。そして映画祭のゲストが次々と黒塗りの高級車で到着。車から降りると全員タキシードとドレス姿だ。
 海沿いにたくさんのブースが設営されている。そこでは、映画の配給会社と世界中からやってきたバイヤーとの商談が繰り広げられる。
 船に戻る。今日のディナーはなんと午後9時から。船上で知り合ったアメリカの旅行会社代表のリチャード氏、イギリスのジェニー氏とテーブルを共にする。デザートにさしかかるころ、なんとカンパニー・デュ・ポナン社の副社長、エリック氏が加わる。彼が今宵のディナーに現れたのは、フランスのトップモデルとその取り巻き連中が、この船のスイートキャビンを占有しているためらしい。彼に、昼間からデッキでMUMMのシャンパンをポンポン空けていた人たちについて尋ねると、ロシアからの船客とか。しかもとてつもない富豪らしく、やはりF1を楽しみにやったきたとのことである。
 ディナーの後は、シアターでショーを観る。フレンチカンカンやシャンソンにあわせたショーなど、フランス色を強調している。ル・ボレアルはここカンヌの沖合いでオーバーナイトし、明日はモナコへ向かう。 (以下、次号に続く)

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東山真明
海と船の旅をこよなく愛する、海外クルーズエージェント。
大型客船よりも、プライベート感ある上質な「ヨットスタイル」のクルーズにこだわり、
国内で小型船クルーズを取り扱う4社による「スモールシップ アライアンス」に加盟、その啓蒙に励む。
マーキュリートラベル代表。
■マーキュリートラベル TEL: 045-664-4268 http://www.mercury-travel.com

■問い合わせ先
 マーキュリートラベル
 TEL: 045-664-4268
 http://ponant.jp

text: Masaaki Higashiyama
photo: Masaaki Higashiyama
special thanks: Compagnie du Ponant
[OceanStyle Perfect BOAT 2012年5月号掲載/※データは掲載時のものです]