1974年創業の「AIRON MARINE(アイロンマリン)」。創業者は、コモ湖の英雄Eugenio MolinariとRenato Molinariの血統を受け継ぐPaolo Molinari。そして、Paoloから息子のCamillo MolinariとTommaso Molinariに引き継がれる「AIRON MARINE」は、新しい時代へ。アジア進出の第一歩として、日本初上陸の準備を進めている。

スピードボートの聖地 コモ湖に生まれた、レジェンドの血統を継ぐ「AIRON MARINE」
気高き貴族のセンスと卓越したクオリティを誇る、イタリアの小さな宝石

 1974年、Paolo MolinariはメカニカルパートナーのWalter Poscaと共に、ボート建造を始めた。それが、コモ湖周辺に生息する鳥〈Airon〉の名が付けられた「AIRON MARINE(アイロンマリン)」の始まり。記念すべき1号艇は11mのマホガニー艇。次に13mのマホガニー艇と建造が続き、1976年、ボートビルダーとして本格的に立ち上げる。1977年以降はFRP艇へと移行し、現在まで2,000艇以上を建造。北イタリアを中心に販売を拡大している。そして、父Paoloから息子のCamilloとTommasoに引き継がれるAIRON MARINE。新しいデザインを取り入れた新世代AIRON MARINEは世界進出へ。アジア進出の第一歩として、信頼できる日本のパートナーと手を組み、初上陸の準備を進めている。

 AIRON MARINEがあるのは、ミラノから車でおよそ1時間、イタリア北部、スイスとの国境に接するロンバルディア州の湖Como(コモ)。古くはローマ帝国時代から、避暑地や別荘地として、王族や貴族たちから愛されてきた。湖畔には、荘厳で華麗なヴィラ(別荘)が点在し、『スター・ウォーズ エピソード2』や『オーシャンズ12』をはじめ、映画の舞台としても登場する。また、コモ湖をはじめ、ルガーノ湖やマッジョーレ湖、イゼーオ湖など湖水地方の湖畔は、貴族たちのヴィラが建つ人気のリゾート地として、避暑に、観光に訪れる人も多い。そして、プレジャーボートの文化が花開いた場所としても知られている。RIVAやCRANCHIなど、今も拡大を続ける歴史あるビルダーの生誕の地でもある。

 中でもコモ湖は、イタリアボート史の舞台に幾度となく登場する重要なゲレンデ。全周をアルプス山脈に守られた湖は、横幅が1〜2マイル程度しかない。広すぎず狭すぎない適度な幅のおかげで波は穏やか。引き波の収束も早い。逆に、横幅に比べると縦は長く、最南端のコモから、最北端までおよそ30マイル。高速走行に十分な距離を取ることができる細長い地形はスピードボートのテストにうってつけとあって、カーレースと同じようにスピード好きの貴族や資産家などの庇護により、古くからボートレースが行われてきた。

 コモの伝統あるヨットクラブ主催のレースも開催され、スピードボートの開発と共に、優秀なドライバーの輩出にもつながっている。コモ湖は、イタリアのスピードボート界の中心的な役割を担ってきた場所。その結果、コモ湖から数々のスピード記録が生まれ、ヨーロッパだけでなくアメリカで開催される数々のスピードレースのワールドタイトルをもイタリアに持ち帰ることができたのだ。


 イタリアレース界の輝かしい歴史の中で、今でも語り継がれるコモ湖出身のレジェンドがいる。それがEugenio Molinari とRenato Molinari の2人のMolinariだ。

 Eugenioは、AIRON MARINEの創業者Paolo Molinariの兄弟。現在AIRON MARINEを受け継いだCamillo MolinariとTommaso Molinariからすれば、叔父さんとなる。伝説のナーバルアーキテクト兼ドライバーのEugenio Molinariは、Paolo Molinariと共に、レーシングボートをデザインし、4度のイタリアチャンピオンと4度のヨーロッパチャンピオンを獲得。そして、F1ワールドチャンピオンの栄冠を手に入れた。また、1988年の第14回ラリオレースでは平均188.412km/hを記録。未だ塗り替えられていない偉大な記録から、オープンウォーター最速の男と言われている。生涯で72のワールドレコードを塗り替える偉業を成し遂げ、また、ドライバーだけでなく、ビルダーや開発者として数多くの特許や賞を受賞し、海軍工学の名誉学位やロンドン応用科学大学によって機械工学の学位が授けられた。これら数々の功績を残し、州議会議員や州工芸評議会の議員も務め、大統領からナイトの称号も授けられている。

「アイロンマリン・ネットワーク・オブ・ジャパン」のメンバーと若きMolinari氏

 そして、もう一人のMolinari、Renato Molinariは、CamilloとTommasoの従兄弟に当たる。パリの6時間レースを4度優勝。パーカーエンデューロを2度優勝。ベルリンの6時間耐久を3度優勝。いろいろなカテゴリーで11度のヨーロッパチャンピオンを獲得。そして、1981年のジョンプレーヤースペシャルF1パワーボートワールドチャンピオンシップで、大会初の年間チャンピオンとなった。1982年は優勝を逃すが、1983年と1984年には再びタイトルを獲得。この3度のタイトル以外にも、さまざまなカテゴリーで15のワールドチャンピオンに輝いている。

 これら偉大な功績を残した2人のMolinariと、彼らのレースボート建造に携わってきたPaolo Molinari。プレーニングボートの黎明期からスピードボートの設計に取り組んだPaolo。その技術と情熱はいま、父Paoloから息子のCamillo MolinariとTommaso Molinariに引き継がれた。Molinariの血統を受け継ぐ二人の若い感覚が加えられ、AIRON MARINEは新しい世代へと生まれ変わる。そのモデルこそ、「AmX」シリーズなのだ。


 トライアルは、AIRON MARINE創業の地である小さなボートヤードで行われた。現在は艇庫となっている古いヤードから、湖に向かって伸びるクレーンで湖面にボートを下す。準備されたのは、最新の「AmX 28」と「AmX 34」の2モデル。その内28フィートの「AmX 28」は、インショアクルージングボートとして日本の海でもベストなサイズが魅力。日本のカスタマーに紹介したい一艇だ。

 海面に反射する太陽の光を受けて輝き、見る角度によりさまざまな表情を見せるメタリックシルバーのハル。濃淡のわかりやすいハルカラーを浅い角度で観察するが、フラットな面や緩やかにカーブをする面全てにおいて、波打つことのないオブジェのような美しい面を見せる。建造技術の高さ、仕上げの丁寧さは、プロダクションのレベルを超えた一流カスタムビルダーのレベル。それがセミカスタムにも対応するAIRON MARINEのクオリティ。走りにも期待が膨らむ。

 「AmX 28」のキャラクターは、シャープな直線と計算されたカーブが織りなすカッティングエッジなデザインに包まれたオープンボート。明るく輝くメタリックシルバーのハルに、鳥の横顔にも見えるブラックのサイドウィンドウ、クラシカルなデザインのフロントウインドシールドがアクセント。全体のスタイリングはショートのバウデッキにバウ寄りのドライビングポジション。そしてエンジンハッチ上部にサンパッドをのせたアフトデッキ。そのバランスは、マホガニー製ビンテージボートのランナバウトのバランスに近い。

 ハルと一体のトランサムステップに降り立つ。美しい色、光沢を見せる天然チークを敷き詰めたチークデッキ。伝統的な無垢のチークは、品格を漂わせる。ハルカラーに合わせられたサンタンベッドの一部、スターボード側のクッションを外したデッキを通り、コクピットに乗り込む。フロアにもチークが貼られ美しい。チークデッキは見た目の美しさだけでなく、濡れていても滑りにくく機能的。肌触りも良く、素足が気持ちいい。

 ヘルムステーションはスターボードサイド。シングルのドライバーズシートは体を包み込むバケットシート。ポート側には、L字の大型ソファ。前方の背もたれを後ろに倒せば、前を向いたナビゲーターシートに。前に倒せば、4人が座ることができるソファの一部となる。センターには、無垢のチークを使った天板のセンターテーブルを付けることもできる。

 ヘルムステーションは高め。計器類のポジションは車感覚のレイアウト。マットなブラックのメーターパネルは、光が反射しにくく視認性が良い。バケット型が体をホールドするヘルムシート。ステアリングホイールのポジションもカーライクでハンドリングがしやすい。

 コクピットは、思いのほか深く、キャビンドアも高さがある。ランナバウトのように低目に見えたバウデッキも実際には高さがあり、エクスプレスのボリューム。バウデッキには、3段のチーク製ステップを上り、フロントウィンドウの中央を開いてエントリーする。バウデッキの中央にも無垢のチークデッキが貼られているので、滑りにくく、バウでのアンカリング作業や、バウラインのセッティングを安全に行うことができる。スイミングステップやコクピット、バウデッキのチークが、「AmX 28」をクラシカルでリュクスなランナバウトに変えてくれる。

 アコモデーションもクラスを超える贅沢なもの。ヘルムステーションの横にあるスライドドアがバウキャビンの入口。スライドドアのすぐ下、ポート側には、イタリアンサロンクルーザーのようなイタリアンデザインのボウルやカランがモダンなシンク。スターボード側には、独立したヘッドルーム。Vバースは、センターテーブルを持つV字ソファ。テーブルを下げてクッションをセットすれば、ベッドになる定番のエクステリア。ボートステイも可能にする。

 ハルサイドにはデザインされた印象的な一体型ウィンドウ。それは、サロンクルーザーの世界的なデザイントレンド。だが、28フィートクラスのランナバウトスタイルには珍しく、デザイン的に新鮮だ。そして、デザインだけでなく機能的。キャビン内は、大型のサイドウィンドウの視界と光により、サイズを超える圧倒的な明るさを誇り、広く感じさせてくれる。決して広いとは言えないトイレからも視界が広がり、閉塞感は少なく快適だ。ファミリーのデイクルージングやシングルやペアでの簡易的なボートステイを楽しむことができる。

 モダンでありながら、どこかトラディショナル。伝統のバランスと品格を感じさせる気品のあるスタイリング。コモで建造された美しいランナバウトは、ゴージャスでクラシカルなコモ湖の風景や壮麗なヴィラの背景にも違和感なく溶け込んでいる。


 パワートレインは、VOLVO PENTAのスターンドライブAquamaticとデュオプロップの組み合わせ。エンジンは6.2L-380馬力を誇るV8直噴ガソリンエンジンをシングルで搭載。シングルのガソリンエンジンでは、5.3L-V8エンジンの350馬力や300馬力、4.3L-V6エンジンの280馬力。ツイン(2基)のガソリンエンジンでは、4.3L-V6エンジンの240馬力×2か、200馬力×2を選択することができる。他には、シングルのディーゼルエンジンの場合、3.7L-D4エンジンの300馬力、270馬力、230馬力。ツインディーゼルの場合、2.4L-D3エンジンの170馬力×2か、140馬力×2を選択することができる。

 AIRON MARINEのヤードを出港し、向かい側の湖畔に建つ最も有名なヴィラの一つ「バルビアネッロ邸」の前でトライアル。最先端の環境エンジンは、静かでスムーズ、色も匂いもないクリーンなエグゾースト。

 6.2L-V8ガソリンエンジンの回転を上げていく。トルクフルというよりは、軽快な加速。高剛性で軽量な船体を一気にプレーニングさせる。スロットルワークとスピードがリニアにアップダウン。スポーティなハンドリングにより、ファンなドライビングが楽しめる。ライトウェイトのオープンカーを駆り、ワインディングロードのコーナーを駆け抜けるような爽快感と高揚感を感じさせる。コモ湖の壮麗な風景の中、小気味良いターンの連続に時間を忘れドライビングを楽しむことができた。(続きは本誌で 2019年9月号

text: Yoshinari Furuya
photo: AIRON MARINE, Kai Yukawa
special thanks: AIRON MARINE www.aironmarine.it
AIRON MARINE NETWORK OF JAPAN

SPECIFICATION
AIRON MARINE  AmX 28
全長 8.34 m
全幅 2.50 m
重量 2.50 ton
エンジン VOLVO PENTA V8-380
最高出力 380 HP
燃料タンク 250 L
清水タンク 59 L

■問い合わせ先
アイロンマリン・ネットワーク・オブ・ジャパン
 関東:ハウンツ TEL: 045-778-1532
 中部:ラヴァンスマリン TEL: 090-1728-4728
 関西:グレートカンパニー TEL: 06-4701-8888
 沖縄:オーシャンズボートセールス TEL: 098-975-5038
www.aironmarine.it