伝説的なカスタムスポーツフィッシャーの巨星、「MERRITT(メリット)」。その歴史は1947年に Franklin LeRoy Merritt がロングアイランドから南フロリダに10エーカーの土地を買い移住し、1948年に立ち上げたボートワークスに始まる。ポンパノビーチの Hillsboro インレットの内陸側インターコスタルウェイに面した地で、チャーターボートのキャプテンを務めながらチャーターボートのメンテナンスでその質の高い仕事ぶりや丁寧な顧客対応などで信頼を得、1955年に初めて自身のブランドのボートを建造。Buddy と Allen の二人の息子は、Buddy がボートビルディングのマネージメントを、Allen は経営を担い、”完璧なスポーツフィッシャー” と呼ばれる37フィート艇を世に送り出した。アメリカの生ける伝説「MERRITT」、その46フッターが初めて、日本の海にやってきた。



黄金比と称えられるクラシカルなフォルム、流れるようなストレートシアーライン
この Hull#39 コールドモールド ウッドゥンボートだけに特別に採用された ケブラーボトム
カスタムスポーツフィッシャーの最高峰、生ける伝説 MERRITT 46 が降臨する


 最新のスポーツフィッシャーにサロンクルーザーがずらりと居並ぶ横浜ベイサイドマリーナ。その中でクラシカルなフォルムを見せ、ひときわ異彩を放ちながら彼女はいた。毅然としてフルツナタワーを立ちあげ、白磁の気品を漂わせる純白のハルは水面から夏の光を受け煌めいている。
 無垢のチークのトランサムボードから伸びあがる、ヴァーニッシュされたチークトリムが形作る特徴的なストレートシアーライン。低いコクピットガンネルは緩やかなタンブルホームを形成する。ブラックアウトされた3分割のフロントウィンドウ、コーナーはラップアラウンドしサイドウィンドウに伸びていく。後退したフライブリッジとキャビンエリアの絶妙な形状バランス。パルピットを持たないバウデッキ、全体がロングノーズショートデッキの黄金分割の中に納められている。なおかつ、すべての曲面がゴールデンレシオに基づいている。


 フライブリッジのルーフエンドの切り込み、ルーフのチークトリムはサイドフォルムを工芸品の趣に引き上げる。惚れ惚れとするそのクラシックなシルエットの生み出す美学に、言葉を失うばかりだ。ブロークンシアーラインの RYBOVICH と、ストレートシアーラインの MERRITT、両雄ともにクラシカルエレガンスを際立たせ、ゆるぎないカスタムフィッシャーの世界を創造したのだ。パームビーチとポンパノビーチ、南フロリダのほど近いエリアで競い合い、現代のスポーツフィッシャー成熟の礎となった歴史が現代に煌めいている。
 1930年代、ナッソーやバハマでカジキやツナとのビッグファイトがブームになり、漁師との棲み分けの方策としてアーネスト・ヘミングウェイ等の努力でゲームフィッシングの概念が生まれ、1939年にIGFAが設立された。ゲームフィッシングがセレブリティたちの趣味となった時、スポーツフィッシャーの原型を作り上げていた RYBOVICH、その1号艇は1947年。そして遅れること8年、1955年にMERRITTは1号艇を発表した。


 創業者 Franklin Merritt はボートメンテナンスや自らキャプテンを務めるチャーターボートビジネスを拡大していた。その経験から実用的で戦闘的なスポーツフィッシャーの建造は自然な流れでもあった。伝説のビルダー「Merritt’s Boat and Engine Works」の誕生である。現在の MERRITT は基本的には「72」と「86」という大型艇のモールドを持ち、ラインナップはこの2種だが、いずれ「72」は「77」へ移行する予定という。ハル#98の「66」のように、古くからの顧客の要望でコールドモールドのワンオフ艇を建造することもあるが、基本は最新マテリアルを用いたコンポジットだ。Franklin Merritt から Buddy と Allen の兄弟、Allen の息子 Royと3代にわたりそのスピリットは継承され、現在までにハル#105を超える建造史を誇っている。創業時代から変わらないファミリー企業 Merritt’s Boat and Engine Works の伝統は、途切れることなく受け継がれているのだ。


 目の前の MERRITT はハル#39、1982年建造の46フィート艇。同型艇は11艇建造されているが、実はこの艇だけに施された特別な工法がある。それは、ウッドコールドモールドのボトムに採用されたアラミド繊維 ケブラー。巨大化学企業デュポンが1965年に発明したケブラーは、しなやかで強く軽量で、同重量のスチールワイヤーの5倍という強靭な特性を持つ。かつてない高剛性を実現するために Roy Merritt は、70年代にようやく商業利用が始まったばかりだったこのスーパー繊維を、ハル#39 MERRITT 46 に採用したのだ。その後 2007年にフルレストアとともにエンジンがMAN 900hp×2 に、ドライブは ZF に換装され、2015年にはフルペイントが施されている。
 無垢のチークのガンネルを越えコクピットに降りる。繊細なチークの貼り巡らされたフロア、最上級のチークヴァーニッシュの施されたウォールにサロンドア。MERRITT に始まるメザニンはリフィットの際に追加されたもので、最新の耐水シートが用意され、ポートサイドのシート下には冷蔵庫が隠されている。ファイティングチェアはカスタムフィッシャービルダーでもある Scopinich 製と、粋なこだわりが垣間見える。

 エアコンのしっかり効いたサロン内は落ち着きのある色調でトラディショナルなテイストに満たされている。左舷にオーストリッチ調のレザーのリラクゼーションソファと、対面して同仕様の2脚のバレルチェア、ビンテージ調のキャビネットの中はBARストレージが潜む。サロン内のウッドは全てクラシックMerrittチークフィニッシュで設えられ、良き時代のアメリカンリビングを演出している。ウィンドウサッシやウォールコーナーの三次曲面の合わせ仕上げの美しさ、微々細にわたり上質な設えが展開している。37インチのTVモニターはチークのストレージカバーの中に隠される。その下にメインのブレーカーパネルが位置している。

 一段前方に下がるとギャレーがある。コーリアン人工大理石のL字カウンターにシンク、2バーナーのストーブ、チークのキャビネットにはストレージに多くの引き出しがある。大型冷蔵庫、電子レンジ、十分なキッチンが展開する。フロアももちろんチーク、床のハッチからはポンプルーム、バッテリースペース、エンジンルームへのアクセスが可能だ。コンパニオンウェイを進むと右舷にマスターステートルームがある。ワードローブとパウダースペースは専用だ。ポートサイドにはオープンバンクのストレージがあり上部はベッドにもなる。バウにはラダーで上るVバースのステートルームがあり、専用のパウダースペースも用意されている。全てにおいて、華美とは無縁なストイックな美学が心地よく漂うのだ。
 コクピットからフライブリッジへ。ヘルムポッドのコクーンやコンソールはもちろんチークフィニッシュ。スロットルはパームビーチスタイルのシングルレベルコントロール、ステンレスのステアリングの背景にはクラシカルなアナログエンジン関連メーターがクロームのトリムの中に整然と並ぶ。もちろん MAN のECMモジュールのデジタルモニターはコンソールに用意される。ステアリングポッドのポートサイドには FURUNO のレーダーモニター、スターボードにはGPS&魚探モニターが用意され、共にポップアップ式で収納可能だ。ヘルムチェアは Release。前方にはセッテが用意されスターボードサイドはソフトパッドが敷かれている。ヘルムに立つとパルピットのない精悍なバウトップが見える。アウトリガーは RUPP の3スプレッダー、フルツナタワーは Bausch Towers が屹立する。(続きは雑誌で)




MERRITT 46
建造 1982 年
全長 14.02 m
全幅 4.88 m
喫水 1.22 m
重量 17.23 ton
エンジン 2× MAN V8-900 CRM
最高出力 2× 900 HP
燃料タンク 2,270 L
清水タンク 605 L
■問い合わせ先 ハウンツ  
TEL: 045-778-1532
www.haunts-bs.net

text: Kenji Yamazaki
photo: Makoto Yamada, Yoshiro Yamada
special thanks: HAUNTS BOAT & SERVICE  www.haunts-bs.net
[Perfect BOAT 2018年9月号掲載/]/※データは掲載時のものです]